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一話完結 王女様が、逃げ出しました
しおりを挟む「婚約なんて、破棄しますわ」
銀髪の王女が、また、わがままを言い出しました。
ここは王女の私室で、私は王女の侍女ギンチヨです。
「王女様、明日は王弟陛下の長男様と、婚約の顔合わせの日になります」
本日と明日のスケジュールを再度説明します。
「王女様は、国王陛下の一人娘であり、養子をとることが定められております」
そうなんです、一人娘で、わがまま放題に育ってきた王女なんです。
「ふん、お腹がすいたわ。ケーキを持ってきなさい」
先ほど、朝食を頂いたばかりです。ケーキばかり食べるので、最近はスタイルが崩れ、肌にも吹き出物が出ています。
「シェフが開発したケーキを、昼食に付けるよう伝えておきます」
「だめよ、あんなの。野菜のケーキはダメ、バターと卵をたっぷり使い、クリームとジャムもたっぷり載せたケーキじゃなければ、ケーキとは認めないわ」
ちっ、ばれたか。シェフと苦労して開発したのに。
「午後は、お昼寝よ」
「15分程度のお昼寝を組んでおります」
食後の休憩は体に良いことなので、スケジュールに無理やり入れています。
「足りないわ、最低3時間、寝るわよ」
「午後は、明日の顔合わせの衣装合わせがあります」
今朝も、さっきも、本日と明日のスケジュールを説明しましたよね。
扉がノックされました。
「王女様、ケーキをお持ちいたしました」
彼は、王女の従者です。
「貴方は、いつも気が利きますわね」
カロリーと脂質がモリモリのケーキを口へと運び、王女の機嫌が直りました。
でも、彼が退室すると……
「ギンチヨ、私の彼に色目を使ったでしょ、絶対に許さないわ」
あんな腰ぎんちゃくに、私が色目なんて使うはずがありません。
いや、その前に、王女には、明日、顔合わせする婚約者がいるでしょ!
「明日、森林浴に行くわ」
「え? 森は魔物が出たので、立ち入り禁止になっています。いや、それ以前に、明日は顔合わせです」
この王女は、わざと私を困らせようとしています。
「言うことが聞けないの、なら、降格よ」
「どうぞ」
私は、降格が重なり、すでに最低クラスまで落ちています。さらに、侯爵家から勘当され、家名まで失っており、貴族として、これ以上は下がる場所が無いほど落ちています。
「それに比べて、従者たちは素晴らしいわ」
王女の周りには、イエスマンしかいません。侍女たちは全て辞めて、腰ぎんちゃくな従者たちだけが残り、そして昇格しています。
私は、困り果てた国王から直接お願いされ、良縁を紹介するとの条件に流されて、唯一の侍女として、耐え忍んでいます。
「ギンチヨは、毎晩、従者たちと遊び歩いていると、噂を広めておいたから」
このクソ王女が! 私は良縁が来ることを楽しみに、この苦行に耐えているのに。悪い噂で、良縁が来なくなったら、どうしてくれるの。
「貴女は、私と同じ銀髪だから、私が遊び歩いても、全て貴女がやったと言えるので、便利な侍女だわ」
私と、王女は、同じ銀髪であり、声質も似ているので、よく間違えられます。いや、スタイルは、私の方が断然良いのですけど。
こんな仕事が続いており、昔のことを、なにか大事なことを、私は忘れているような気がします。
◇
「王女様、朝です」
翌朝、王女の寝室に行き、カーテンを開けると、王女の姿が見えません。早起きするタイプではないし、ベッドも乱れているので、心配になります。
「従者様、どちらです?」
従者たちの姿も見えません。
「まさか……」
部屋の中を確認します。
「ない!」
宝石類、お金になる物が全て無くなっています。
馬車を確認するため、王宮内を走ります。
「ない!」
王女たちは、逃げたのですか?
◇
すぐに、国王へ面会を求めます。同時に、国王の方から、呼び出しがありました。
執務室に入ると、国王は寝間着のままでしたが、かまわずに報告します。
「大変でございます、王女様が、逃げ出しました」
「ギンチヨ、こっちには王女の置手紙があった、駆け落ちすると書いてある」
一瞬、時間が凍り付いた気がしました。
◇
宰相を務めているお父様が、緊急に登城してきました。現状を報告します。
「王弟陛下に全てを話すべきか……」
「弟に王位を渡すのは嫌だ。弟の嫡男に渡すのは、仕方ないが……」
策略に長けたお二人ですが、困った顔も素敵ですね。
「宰相、いや侯爵、ここは代役を立ててはどうか?」
「国王陛下、王女と似た女性など……ここにいますね」
二人が、私を見ました。
「ギンチヨは、少し遠いですが、王家の血を引いております。王女と同様に、おばあさまの若いころの絵姿にそっくりです」
お父様は、国王のイトコです。
◇
婚約の顔合わせが始まりました。国王陛下、王弟陛下、留学帰りの黒髪の嫡男、宰相と……立場を考えれば私だけ浮いているのは気のせいでしょうか。
朝の騒動から、緊急で、衣装のサイズを手直しし、王族らしく化粧をしました。
日ごろから仲良くしているメイドさんたちが、私のために、腕を振るってくれましたので、完璧に王女へと化けました。
「王弟陛下の第一子クロガネと申します。王女様の噂は、留学先にまで聞こえてきていました」
嫡男が、王女は噂とはずいぶん違うと、遠回しに言ってきました。
「留学先でも私のことを気にかけていただき、うれしく思います」
さらっと、受け流します。でも、この黒髪のクロガネ様と、私はどこかで会っているような気がします。
突然、扉がノックされ、国王の従者が、あわてて入ってきました。
「大変でございます、王女様が森で魔物に襲われました。従者を含め、全員が食べられたとの報告がありました」
「王女はここにいる。魔物の討伐隊をすぐに出せ」
国王陛下の一言で、従者は下がりました。
「兄上、いまの報告は、どういうことですかな?」
王弟陛下が、国王陛下をにらんでいます。
「問題ない、追放した元王女のことだ。現在の王女は、養女にしたこのギンチヨただ一人だ。宰相の娘であり、王族の血も引いている。不足はないだろ」
国王陛下が、すました顔で答えました。
「王弟陛下、僕は、元の王女様なら婚約を断る気持ちでいましたが、このギンチヨ嬢ならば、初等部で机を並べた仲であり、喜んで婚約したいと思います」
あ~、思い出しました。
この黒髪の嫡男は、初等部で、仲が良かったというか、私にプロポーズしてきた男の子です。
ずいぶんとイケメンになっていて、気が付きませんでした。
「ギンチヨ嬢、初等部の時、私からの申し入れを覚えておりましたなら、そろそろお返事をいただけませんか」
「遅くなりました。私はクロガネ様のことを……まずは、お友達からお願いします」
もう何年も会っていないのだから、結婚相手を決めるのは、慎重にいかないとね。
━━ FIN ━━
【後書き】
お読みいただきありがとうございました。
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