序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。 え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし

水間ノボル

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2巻

2-2

「な……9‌9‌だ‌と‌!?」

 ファウスト将軍が他人のステータスを読み取るステータス表示を使って、俺のレベルを確認し、声を上げる。
 そう、ファウスト将軍が言うように、俺のレベルは9‌9。
 このゲームで言うならカンストしている状態だった。
 ちなみに、このゲームでキャラクターのレベルを9‌9まで上げるのはかなり骨が折れる作業で、やり込んでいる人間でなくてはそこまで育成しない。
 せいぜい6‌0前後まで上げるのが限界じゃないかと考えると、この差は破格だろう。

「どうやって……そこまで?」

 これまで強気だったファウスト将軍も俺のレベルを知って面食らったようで、おそるおそる尋ねてくる。
 仕方ない。レベルがバレてしまった以上は隠し通せるものでもないし話してもいいか。

「普通にレベリングしただけだ」
「レ、レベリングとは……?」

 ファウスト将軍が首を傾げる。

「簡単に言えば、レベルを上げるためにひたすらモンスターを倒しているんだ。ダンジョンで魔物の笛を吹いて、モンスターを呼び寄せる。それから全体攻撃魔法で、一掃する。それを繰り返して――」
「ちょっと待て。魔物の笛を持っているのか?」
「ああ。たまたまキングオークと戦った時にドロップして――」

「キングオークだと!?‌」‌
 先ほどからファウスト将軍が、いちいち俺の発言に驚いている。 
 まぁキングオークと戦闘するのも、ドロップ率がかなり低いとされるレアアイテムを持っているというのも想定していなかったのだろう。
 ちなみに、このゲームで、モンスターがアイテムをドロップする可能性は、一万八分の一だ。

「ファウスト将軍、ここは撤退して――」

 シャルロッテが慌ててファウスト将軍に提案する。
 だが、ファウスト将軍はその言葉に対して首を横に振った。

「いえ……私は負けるわけにはいかないのです」
「でも、アルくんのレベルは9‌9と言っていました。とても今のわたしたちでは勝ち目がありません」

 シャルロッテが必死に止めようとするが、それでもファウスト将軍はかたくなに拒んでいる。

「し、しかし……負ける気がしないのです。お前は勝つという声が聞こえるのです……っ!」

 まあ、原作だとファウスト将軍が勝つからな……
 シナリオが、キャラクターを拘束しているのだろうか……?

「俺も無用な争いは避けたいです。だから、シャルロッテ王女の言う通り、ここは撤退してもらって――」

 俺はシャルロッテに同意して、ファウスト将軍を追い返そうとする。

「ぐ、ぐ、ぐ……私が、こんなところで負ける……はずが……ないのだ。うわああああああっ!!」

 俺の説得も空しく、ファウスト将軍が斬りかかってきた。

「く……っ!」

 俺は剣で受け止める。
 ピキッ――
 だがそこで、嫌な音が響いた。
 ヤバい……っ!
 剣に視線を落とすと、ヒビが入ってしまっていた。
 俺が今使っているのは、実家に置いてあった鋼の剣だ。
 つまり、炎剣イフリートとの性能は天と地ほどの差がある。
 いくら俺がファウスト将軍よりレベルが高いとはいえ、ごく普通の剣で神装武具に太刀打たちうちできるはずもない。むしろ初撃を耐えられただけでもよかったというべきだ。
 仕方ない……こうするしかないか!
 バリン……!

「な……っ!」

 俺は自分のこぶしで炎剣イフリートを叩き折った。
 普通なら神装武具は、そんな簡単に破壊できるはずがない。
 あくまでもレベルがカンストしている俺にしかできない最終手段だ。
 それに、もしこの動きが周りから見られていたら、また変な目立ち方をするかもしれないが、レベル差が大きいと、相手から何をされたかわからないことがある。
 これなら、俺が破壊したことはバレないはずだ。おそらくファウスト将軍たちの目には、イフリートが俺の鋼の剣に負けたように映っているだろう。
 ファウスト将軍はイフリートの柄を握ったまま動けなくなっていた。

「あ、あり得ない……神装武具が破壊されるなど……」

 目の前で何が起きたかわからないようで、呆然ぼうぜんとそう呟く。

「わたしたちの負けね……アルくん、強すぎよ」

 ファウスト将軍が、がくっと肩を落として地面にひざを突く横で、シャルロッテも同じように項垂うなだれた。

「アルフォンスがここまで強いなんて……」

 これまでは俺の勝利に喜んでいたオリヴィアも、神装武具を破壊できるとは思っていなかったようで、若干引いているようだった。
 何度も言う通り、原作のシナリオなら、この戦闘は負けイベントだ。
 それも、ただの負けならともかく、本来はファウスト将軍に全員まとめて蹂躙じゅうりんされてもおかしくない展開だった記憶がある。
 ファウスト将軍に対して、システムが発破をかけたように、他のキャラクターたちも無意識に、システムの力で負けを察していたのだろう。
 オリヴィアは自分たちの勝利が信じられない様子だったが、少し経ってから、シャルロッテたちに優位がとれたとようやく理解したようだ。
 気を取り直してシャルロッテに告げる。

「……シャルロッテお姉さま。あなたの負けです。降参してください」

 だが、シャルロッテとしてもまだ諦めていないようだ。
 シャルロッテがファウスト将軍を立ち上がらせてから、こちらを向いた。

「ふふ。アルトリアの英雄を倒すなんて……アルくんはすごいわ。でもまだ終わったわけじゃないわ……またね。アルくん――」
「う……っ!」

 まぶしい光が放たれ、一瞬、視界が白く染まった。

「お姉さま!」

 オリヴィアが声をかけるが、返答はなく、次の瞬間には、シャルロッテとファウスト将軍は、その場から消えていた。

「いなくなったのか……」

 先ほどまで騒がしかったダンジョン内が一気に静かになる。
 オリヴィアが俺に抱きついてきた。

「アルフォンス、すごいわ! 神剣デュランダルを守ったのよ!」

 うお……っ! 胸が当たってるって……!
 もちろん倒せたわけではないが、あのファウスト将軍を追い払えたのだから、オリヴィアとしてはかなり大きかったのだろう。
 だが、また原作のシナリオを破壊してしまった。
 そして、オリヴィアから抱きつかれたと同時に、背後から嫌な視線を向けられたのに気付く。
 ファウスト将軍たちはすでにいなくなったはずだが……誰だ?

「? アルフォンス? どうかしましたか?」

 オリヴィアが顔を上げて心配そうに尋ねてきた。

「いや……なんでもない」

 誰かの殺気を感じたけど、気のせいだよな……


   ◇S‌i‌d‌e‌:ジーク◇


「なんで負けイベントで勝つんだよ……!」

 バルト神殿跡ダンジョンを攻略した帰り道。
 アルフォンスがオリヴィアたちに囲まれながら前方を悠々ゆうゆうと歩く中、俺――ジークは一人愚痴ぐちをこぼし、他のやつらには聞こえないように舌打ちする。

「あのファウスト将軍を倒すなんて……! 流石アルフォンスッ! あの戦いぶり、まさしく勇者のようでしたよ!」

 オリヴィアがアルフォンスを絶賛する。
 何回同じことを繰り返してるんだよ!
 俺が覚えてるだけでも十回は、オリヴィアがアルフォンスに同じ褒め言葉を言っている。
 オリヴィアに続けて、ユリウスもアルフォンスに声をかける。

「うむ……今回のヴァリエ侯爵令息はよくやったな。いや、俺はヴァリエ侯爵令息を褒めているわけじゃないからなっ! か、勘違いするなよ……っ!」

 ツンデレか……お前はっ!
 ユリウスの言葉を聞いて、俺は思わず心の中で突っ込んでしまった。
 聞いていて恥ずかしくなるほどのツンデレぶりだ。
 しかも、原作のユリウスは唯我独尊ゆいがどくそんを絵に描いたようなキャラクターで、人を褒めるシーンなんてなかったはず。
 完全に原作のキャラ設定が崩壊している……

「流石アルフォンス様だ。アルフォンス様の騎士として、誇りに思う」
「うむうむ。この力量なら、ぜひS級冒険者として我がギルドに迎えたいくらいだ!」

 クレハとガイウスも、アルフォンスを褒めまくっている。

「流石アルフォンス」
「流石アルフォンス」
「流石アルフォンス」

 その後も、アルフォンスを賞賛する声がしばらく続いた。
 ふざけんじゃねえ……っ!
 こんな展開許せるかよ!
 原作のシナリオ通りなら、ジークたちは、バルト神殿跡のダンジョンでファウスト将軍とシャルロッテに襲われる。
 そして、ファウスト将軍の圧倒的な強さを前に、ジークたちは敗北し、神剣デュランダルを奪われることになる。
 そうなるはずが――アルフォンスは「負けイベント」に勝った。
 いや、勝ってしまった。
 俺からすれば、原作のシナリオを破壊した、大悪党だ。
 だが、そんな事情を俺以外のこの世界の人間が知るはずもなく……

「神剣デュランダルがあれば、魔王ゾロアークを倒せますね……っ! 全部アルフォンスのおかげです!」

 オリヴィアの褒めモードが、さっきから続きっぱなしだ。
 それどころか、

「……アルフォンス。寒いから手を繋ぎましょう」

 アルフォンスと手を繋いだり、

「アルフォンス……あたし、足をくじいてしまったようです。おんぶしてくれませんか?」

 アルフォンスにおぶってもらったりしている。
 完全にアルフォンスにデレデレだ。
 おいおいおいおい!
 スキンシップが過剰かじょうすぎないか……っ!?
 アルフォンスの背中に、オリヴィアの大きな胸が当たっているのが目に入った。
 俺は悔しさのあまり、唇をんだ。
 クソクソクソ……っ!
 あの胸だって、本当なら俺のモノのはずなのに!
 そう、この世界は戦闘ばかりの殺伐さつばつとしたものとは違う。
 エロゲが原作の世界なんだ。
 ヒロインたちは、そのほとんどがえっちだし、好感度が上がれば、いろいろ積極的になるわけで――
 その恩恵は、本来ならこのゲームの主人公に転生した俺、ジーク・マインドにだけもたらされるはず。
 そう思っていたのに……

「ふふ……アルフォンスの背中、大きくて広くてあったかい……」

 オリヴィアがアルフォンスの背中に顔をうずめて、幸せそうに言った。
 完全に、アルフォンスが美味おいしいところを全部持っていっている。
 このおんぶイベントだって、主人公がオリヴィアルートに入った時に発生するもので、その場合はジークがオリヴィアをおんぶする。
 だから本当なら、オリヴィアのおっぱいの感触も俺の背中で受けられたのに……
 でもここまで、あらゆるヒロインとのルートを横取りされてきたが、そんな俺にも譲れないものはある。
 アルフォンスの幼馴染のレギーネちゃんだ。
 本当ならヒロインをすべて手中に収めたかったところだが、まあいい……
 オリヴィアは、アルフォンスにくれてやろう。
 ビッチのリーセリアもくれてやる。
 だが、レギーネちゃんだけは渡せない……!
 何があっても、俺はレギーネちゃんを守る。
 あのクソ野郎からな。
 ユリウスが上機嫌な様子で声を上げる。

「今夜は祝宴しゅくえんを開こう。我々の勝利にな! ははは……っ!」

 その言葉をさえぎるように、オリヴィアが指摘する。

「お兄さま。それは間違っています。我々の勝利ではなく、アルフォンスの勝利です。戦ったのは、アルフォンスです。お兄さまはただ見ていただけでしょう?」
「ぐ……っ! そうだが……」

 たしかにユリウスは、ファウスト将軍にビビって陰に隠れていた。
 第一王子のくせに、情けないやつだ……原作で見たようなオラオラした雰囲気はどこへ行ったんだ!
 ただ、他人の功績をさも自分のことのように言うあたりは原作そのものだ。
 見た目の高貴さに対して、いやしいクズ野郎――これがユリウスのキャラだ。
 原作でもユリウスは、主人公の能力に嫉妬しっとして、ことあるごとに絡んでくる。
 嫉妬深い設定は変わらないんだな。
 オリヴィアの指摘に、ユリウスが負けじと言い返す。

「我が妹よ。俺も戦おうとしていたのだ。だがな、俺が出る前にヴァリエ侯爵令息がファウスト将軍を倒してしまった。だから、功績を横取りしたのはヴァリエ侯爵令息で――」

 おいおい。ユリウスは何を言ってるんだ……?
 オリヴィアも今の言葉には少しあきれたようだ。

「はあ? お兄さまは、岩陰でブルブル子犬みたいに震えてましたよね? 都合が良すぎる妄想もうそうはおやめください」

 そこで、二人のやりとりを聞いていたアルフォンスが仲裁ちゅうさいに入る。

「オリヴィア、ちょっと言いすぎだぞ? ダンジョンに入る前の低層にいた雑魚ざこモンスターたちはユリウス殿下でんかが倒してくれたじゃないか。いてくれて助かったよ」

 アルフォンスは、ユリウスを立てようとしているようだ。
 クソ……! モブのくせに、いい格好しやがって!

「ヴァリエ侯爵令息……! キミはなんていい人なんだっ! 王都に帰ったら俺の近衛このえ騎士きしに推薦しよう」

 ユリウスがアルフォンスの言葉に、さらに気を良くした。

「ありがとうございます。光栄です……」
「もおっ! アルフォンスはお兄さまを甘やかしすぎです!」

 オリヴィアたちの会話を聞きながら、俺は原作でのこの先の展開を思い出していた。
 たしか、ファウスト将軍から神剣デュランダルを取り返したあとに、ジークはオリヴィアから推薦を受けて爵位を得る。
 もしかしたら、今回はデュランダルを奪われずに済んだから、その分爵位を授かるのも早くなるんじゃないか?
 ちなみに、この世界の爵位は、地位が高いほうから公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、準男爵、騎士爵の七種類存在している。
 そして、それぞれの爵位には、対応する位階が設けられている。
   公爵: 上一位、下一位
   侯爵: 上二位、下二位
   伯爵: 上三位、下三位
   子爵: 上四位、下四位
   男爵: 上五位、下五位
   準男爵:上六位、下六位
   騎士爵:上七位、下七位
 今回で言えばもらえるのは、一番下の騎士爵の下七位だ。
 原作のジークは騎士爵になったその後も功績を重ね、最後に魔王ゾロアークを倒して、一気に伯爵にまで成り上がる。
 さらに、オリヴィアルートに入っていたら、オリヴィアと結婚して公爵の上一位という一番上まで上り詰めるのだ。
 よし。俺もひとまず爵位をゲットだ……っ!
 原作のシナリオからはズレたけど、神剣デュランダルを取り返したと言えるから、俺は爵位をもらえるはず……だよな?
 まさかアルフォンスだけ位階が上がる……
 なんてことないよな?

「今回の功績は、アルフォンスのおかげです。あたしがお父さまに、位階を上げてもらうよう掛け合いますっ!」

 俺の考えを読んだように、オリヴィアが爵位の話を切り出す。

「いいよ……位階なんて。俺も一応、侯爵家の子どもだし」
「ダメですよ! ちゃんと功績を上げた人にはそれ相応の身分がないと! 絶対にアルフォンスの位階を上げてみせます! 王都に帰ったら叙爵じょしゃく式をしますから」

 叙爵式――爵位を授かる式典のことだ。
 俺は原作主人公のジーク・マインドだ。
 だから叙爵式でも、俺は騎士爵をもらえるだろう……
 うん。絶対にそうだ!
 騎士爵になったら、レギーネちゃんに求婚しよう!
 俺は一人心の中で、爵位をもらえたあとの自分を夢想していた。
 ……待っていてくれ。レギーネちゃん!!
  
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