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第26話 貴様らはそこで死に腐れ!
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エレミアの予想外の現れ方に陸人はしばし茫然としていたが、すぐに痛みを思い出し、彼女に泣き縋った。
「今度はどんな呪いをかけられたの?」
陸人はおずおずと指を見せた。エレミアがわずかに眉を寄せる。
「これは…ただの怪我ね」
「“ただの怪我”じゃないよ!切断寸前の重傷だよ!魔法でなんとか治せない?治療費もちゃんと払うからさぁ…」
「いくら払ってくださるの?」
陸人はシメオンに視線を送って相談した。
「仕方ないな…」
ため息をつき、シメオンが貴重品袋から何枚か硬貨を取り出す。
「これで治療してやってくれ」
彼女は無言で硬貨を受け取り、さっそく治療を始めるのかと思いきや、おもむろに懐から小さな缶を取り出し、それを陸人に差し出した。
「ん…?」
一瞬で傷が治る魔法のアイテムかと期待して蓋を開けてみる。
が、中を見て思わず目が点になった。
「なんだよ、コレ!ただの絆創膏じゃないか!」
「それじゃ、お大事にね」
「は?!そりゃないだろ!っていうか、シメオン、いくら渡したの?」
「食パン5斤買える分くらいは渡したぞ?」
陸人はシメオンから貴重品袋を引ったくり、適当に紙幣を掴んでエレミアに渡した。
「これでちゃんと治療してくれる?」
「そうね…。まぁ、いいでしょう」
エレミアは陸人の右手を掴み、二言三言短く呪文を唱えた。
焼けるように傷口が熱くなり、一瞬皮膚が溶けてなくなったのかと思ったが、すぐに熱は引き、彼女が手を離した時にはもう傷口は塞がっていた。
「うわ…すごい!もう治ってる!」
「喜んでる場合じゃないぞ」
即座にシメオンが戒める。
「俺達どうやってこの極寒地獄から抜け出すんだ?」
「それなら問題ないだろう」
と、オーガストはエレミアの鏡を顎でしゃくりながら、
「エレミアと一緒に俺達もあの鏡から帰ればいいんだ」
「そっか!これで万事解決だね!」
「いいえ、帰れないわ」
「え?」
「あの鏡は出口専用の一方通行ゲートなの。だから反対側からは入れないわ」
「は?!」
「この雪じゃ転移魔法も使えないし、困ったわね」
陸人達はショックのあまりしばらくフリーズしていた。
「と…とにかく歩こうよ。どこかに山小屋とかあるかもしれないし…」
どうにか気力を奮い立たせ、彼らは猛吹雪の中を進み始めた。
だいぶ歩いたが、建物らしきものは未だ見えてこない。
しかし吹雪はおさまり、雲間から朧月が顔を覗かせていた。
「どういうことだ?!」
羊化が始まったシメオンは怒りと動揺を隠せない。
「アウロスからここに来てまだ一時間も経ってないはずなのに、いくらなんでも夜になるのが早すぎるだろ!」
「アウロスとクラリネートじゃタイムゾーンが違うのよ」
「くそ…!一日の三分の一も人間でいられないのか…」
「でもさ、羊は毛皮があるんだし、温かくていいじゃん」
「そうだぞ、マトン君。今はその呪いに感謝すべきだ」
「けっ、誰が感謝なんてするかよ」
「ねぇ、向こうの方からなんか音が聞こえない?」
陸人が北東の方を指さす。
「音?何も聞こえねーぞ」
「いや…」
オーガストが目をつむり、片耳に手を当てる。
「微かだが聞こえるぞ。まるでゴボウの皮を包丁でそぐような音だ」
「なんだその例えは…」
それからほどなくして、雪に覆われた枯れ木の間から馬橇が近付いてくるのが見えた。
巨大なそりに乗っているのは、氷を擬人化したかのような白い女。その膝の上には見覚えのある小さなウサギがちょこんと乗っている。
「あいつ…僕の指に噛みついた化けウサギだ!」
女は陸人達の目の前で馬を止め、そりから降りてこちらに近付いてきた。
身長およそ3メートル。無数の氷柱のついたドレスに、種々様々な宝石で飾り立てた、ゴージャスな盛り髪。
顔はお世辞にも美しいとは言えず、それはまるで陸人が小4の図画工作の授業で作った、だいぶ顔面崩壊した木版画の自画像みたいだった。
その人間離れした容姿に茫然とする陸人達をよそに、女は凛とした立ち居振舞いで名を名乗る。
「わらわは吹き溜まりの女王、マシュマロウ!」
「マ…マシュ――――マーシュ…?!」
陸人とオーガストの視線が、同時にシメオンに注がれる。
「シメオンの…元カノ?!」
「なわけあるか!」
「じゃあ、今カノ?」
「ちげーよ!」
「ぎゃあぎゃあ騒ぐでない」
女王がさらに数歩歩み寄ってくる。
その鋭い瞳が捉えたのは熱愛疑惑のあがっているシメオンではなく、その隣りに立つオーガストだった。
「そなた、気に入ったぞ。わらわと共に来い」
「えぇ~…。いやぁ、それはちょっと――――」
「喜べ。わらわの城に招待してやろう」
女王はオーガストの首根っこを引っ掴み、問答無用でそりに乗せた。
「ええ?!ずるいよ、おじさんだけ!僕らだって凍えそうなのに!」
陸人は女王に抗議した。
「僕たちも連れてってよ、おばさん!」
「お…おばさんじゃと…」
「あ…しまった」
女王のこめかみに、いくつもの青筋が浮かび上がる。
「この無礼者めが!貴様らはそこで死に腐れ!」
女王が右手を高く掲げると共に、頭上から氷の檻が落下してきた。
「うわぁぁっ」
陸人達はまとめて檻の中に閉じ込められた。
「実によい眺めじゃ」
女王は高笑いしながらオーガストと共に去っていった。
「今度はどんな呪いをかけられたの?」
陸人はおずおずと指を見せた。エレミアがわずかに眉を寄せる。
「これは…ただの怪我ね」
「“ただの怪我”じゃないよ!切断寸前の重傷だよ!魔法でなんとか治せない?治療費もちゃんと払うからさぁ…」
「いくら払ってくださるの?」
陸人はシメオンに視線を送って相談した。
「仕方ないな…」
ため息をつき、シメオンが貴重品袋から何枚か硬貨を取り出す。
「これで治療してやってくれ」
彼女は無言で硬貨を受け取り、さっそく治療を始めるのかと思いきや、おもむろに懐から小さな缶を取り出し、それを陸人に差し出した。
「ん…?」
一瞬で傷が治る魔法のアイテムかと期待して蓋を開けてみる。
が、中を見て思わず目が点になった。
「なんだよ、コレ!ただの絆創膏じゃないか!」
「それじゃ、お大事にね」
「は?!そりゃないだろ!っていうか、シメオン、いくら渡したの?」
「食パン5斤買える分くらいは渡したぞ?」
陸人はシメオンから貴重品袋を引ったくり、適当に紙幣を掴んでエレミアに渡した。
「これでちゃんと治療してくれる?」
「そうね…。まぁ、いいでしょう」
エレミアは陸人の右手を掴み、二言三言短く呪文を唱えた。
焼けるように傷口が熱くなり、一瞬皮膚が溶けてなくなったのかと思ったが、すぐに熱は引き、彼女が手を離した時にはもう傷口は塞がっていた。
「うわ…すごい!もう治ってる!」
「喜んでる場合じゃないぞ」
即座にシメオンが戒める。
「俺達どうやってこの極寒地獄から抜け出すんだ?」
「それなら問題ないだろう」
と、オーガストはエレミアの鏡を顎でしゃくりながら、
「エレミアと一緒に俺達もあの鏡から帰ればいいんだ」
「そっか!これで万事解決だね!」
「いいえ、帰れないわ」
「え?」
「あの鏡は出口専用の一方通行ゲートなの。だから反対側からは入れないわ」
「は?!」
「この雪じゃ転移魔法も使えないし、困ったわね」
陸人達はショックのあまりしばらくフリーズしていた。
「と…とにかく歩こうよ。どこかに山小屋とかあるかもしれないし…」
どうにか気力を奮い立たせ、彼らは猛吹雪の中を進み始めた。
だいぶ歩いたが、建物らしきものは未だ見えてこない。
しかし吹雪はおさまり、雲間から朧月が顔を覗かせていた。
「どういうことだ?!」
羊化が始まったシメオンは怒りと動揺を隠せない。
「アウロスからここに来てまだ一時間も経ってないはずなのに、いくらなんでも夜になるのが早すぎるだろ!」
「アウロスとクラリネートじゃタイムゾーンが違うのよ」
「くそ…!一日の三分の一も人間でいられないのか…」
「でもさ、羊は毛皮があるんだし、温かくていいじゃん」
「そうだぞ、マトン君。今はその呪いに感謝すべきだ」
「けっ、誰が感謝なんてするかよ」
「ねぇ、向こうの方からなんか音が聞こえない?」
陸人が北東の方を指さす。
「音?何も聞こえねーぞ」
「いや…」
オーガストが目をつむり、片耳に手を当てる。
「微かだが聞こえるぞ。まるでゴボウの皮を包丁でそぐような音だ」
「なんだその例えは…」
それからほどなくして、雪に覆われた枯れ木の間から馬橇が近付いてくるのが見えた。
巨大なそりに乗っているのは、氷を擬人化したかのような白い女。その膝の上には見覚えのある小さなウサギがちょこんと乗っている。
「あいつ…僕の指に噛みついた化けウサギだ!」
女は陸人達の目の前で馬を止め、そりから降りてこちらに近付いてきた。
身長およそ3メートル。無数の氷柱のついたドレスに、種々様々な宝石で飾り立てた、ゴージャスな盛り髪。
顔はお世辞にも美しいとは言えず、それはまるで陸人が小4の図画工作の授業で作った、だいぶ顔面崩壊した木版画の自画像みたいだった。
その人間離れした容姿に茫然とする陸人達をよそに、女は凛とした立ち居振舞いで名を名乗る。
「わらわは吹き溜まりの女王、マシュマロウ!」
「マ…マシュ――――マーシュ…?!」
陸人とオーガストの視線が、同時にシメオンに注がれる。
「シメオンの…元カノ?!」
「なわけあるか!」
「じゃあ、今カノ?」
「ちげーよ!」
「ぎゃあぎゃあ騒ぐでない」
女王がさらに数歩歩み寄ってくる。
その鋭い瞳が捉えたのは熱愛疑惑のあがっているシメオンではなく、その隣りに立つオーガストだった。
「そなた、気に入ったぞ。わらわと共に来い」
「えぇ~…。いやぁ、それはちょっと――――」
「喜べ。わらわの城に招待してやろう」
女王はオーガストの首根っこを引っ掴み、問答無用でそりに乗せた。
「ええ?!ずるいよ、おじさんだけ!僕らだって凍えそうなのに!」
陸人は女王に抗議した。
「僕たちも連れてってよ、おばさん!」
「お…おばさんじゃと…」
「あ…しまった」
女王のこめかみに、いくつもの青筋が浮かび上がる。
「この無礼者めが!貴様らはそこで死に腐れ!」
女王が右手を高く掲げると共に、頭上から氷の檻が落下してきた。
「うわぁぁっ」
陸人達はまとめて檻の中に閉じ込められた。
「実によい眺めじゃ」
女王は高笑いしながらオーガストと共に去っていった。
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