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第55話 さぁ、どっちの書を選ぶ?

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 陸人は硬い床の上で目を覚ました。心配そうに覗き込む祖父の顔が見える。

「おいっ、陸人。寝るならちゃんとベッドで寝なさい」

「ん…うん」

「まったく、いくら眠いからと言って廊下で寝るやつがあるか」

陸人はガバっと上体を起こし、前後左右を見回した。

紛れもなく祖父の家の廊下だった。

右手に触れる感触に、ハッとして視線を落とす。

巻物は握られたままだった。

「じいちゃん、今って、何月何日の何時何分?」

「はぁ?」

きょとんとしたように陸人を見つめ返す祖父。

「お前、まだ寝ぼけておるのか?」

「いいから、教えてよ」

「七月下旬の夜だ」

「は?!アバウトすぎるよ!」

「そんなに正確に知りたいのならスマフォとやらで確認せい」

「あ…そっか!」

陸人は立ち上がり、自分の寝室に向かって猛ダッシュした。

 ベッドの上に放置されたままのスマホを手に取り、電源ボタンを押して日時を確認してみる。

七月二十二日、午後七時三十五分。

陸人はホッと吐息をついた。

異世界に飛ばされたあの瞬間から時間はほとんど経過していない。

どうやら精霊王は陸人の細かい注文も聞き入れてくれたようだ。

陸人はベッドに寝そべり、巻物を広げてみた。

――――ジャン・ダッシュ、僕の声が聞こえる?

いくら呼べども、返事は返ってこなかった。

「そっか…。こっちの世界じゃ会話できないんだ…。こんなことならちゃんとお別れしておけばよかったな…」

陸人は肩を落とし、巻物を閉じて机の引き出しにしまった。

「あ…」

ふと思い立って、再度引き出しを開ける。

「“絶大な力を秘めし幻の巻物よ、我が前に汝の真の姿を現せ”」

陸人は別れの言葉の代わりにそう呟き、またそっと引き出しを閉めた。

 それから一週間が経った。

今日の分の宿題は午前中に済ませてしまったので、陸人は午後から昆虫採集をしに近所の公園へ行くことにした。

「自由研究はダンゴムシの標本じゃなかったのか?」

虫籠と虫取り網を持って出掛けようとする陸人を見て、祖父は大変驚いていた。

「うん。ちゃんと本格的に昆虫採集やろうと思ってさ。苦労して集めた方が、達成感味わえるじゃん?」

「陸人…どうした?熱でもあるのか?」

「ないよ!」

「そ…そうか。それならいい。だがあまり遅くなるなよ。夕方にはばあさんが旅行から帰ってくるからな」

「うん、わかってる。じゃ、行ってきまーす!」

 と、張り切って出掛けたはいいものの、やはり都会育ちの陸人に昆虫採集はハードルが高すぎた。

田舎なのでカブトムシやクワガタはわりと簡単に見つけられるのだが、彼らは意外とすばしっこく、網を持って近付いたとたんすぐに逃げられてしまうのだ。

夕方まで粘ったが収穫はゼロで、仕方なく今日は引き上げることにした。

「やっぱりダンゴムシにしようかな…」

とぼとぼと公園から出てくると、ちょうどバス停の方からキャリーバッグを引いて歩いてくる祖母と鉢合わせた。

「お帰り、ばあちゃん!」

「おや、陸人じゃないか!しばらく見ないうちに大きくなって!」

祖母は嬉しそうに破顔し、手に持つお土産袋の一つを陸人に渡した。

「これ何?」

「マンゴーとパッションフルーツだよ」

「パッションフルーツ?!やったぁ!一度食べてみたかったんだ!」

「うちに帰ったらじいさんと三人で食べようね」

陸人達は並んで歩き始めた。

「あのさ、ばあちゃん…」

祖母の土産話がいったん落ち着いたところで、陸人は思い切って尋ねてみた。

「ばあちゃんって、本当は異世界の人なんだよね…?」

笑って茶化されるかと思ったが、祖母は頷いて事実を認めた。

「陸人、巻物を見つけたんだね?」

そう言って陸人を見つめる瞳は、まるで全てを見透かしているかのようだった。

「うん…」

陸人は祖母にすべてを打ち明けた。

巻物を発見して異世界へ飛ばされてから、仲間との冒険を経て五つの石を全て集め、無事に元の世界へ戻って来るまでの一部始終を。

「そうかそうか…。それは大変だったねぇ」

「うん。それから、ばあちゃんのお姉さんだっていうアラクネにも会ったよ。ばあちゃんにすごく会いたがってた。最後なんて超ヤバそうな大技使おうとしてたしさ…」

陸人は言葉を切り、ずっと抱いていた疑問を口にした。

「ねぇ、ばあちゃんもアラクネばあちゃんみたいにすごい魔法を使えるの?」

祖母は苦笑いして首を振った。

「ここへ来たばかりの頃は使えたんだけどね…。年を重ねるごとに使えなくなってしまった。今はもう、普通のおばあさんだよ。それに比べてアラクネは立派な魔女になったんだねぇ」

「もしかして、まだ元の世界に戻りたい…?」

「いやいや、それはないよ」

朗らかに笑って祖母は続けた。

「私はもうすっかりこの世界に馴染んでしまっている。今更戻りたいなんて思わないよ。お前やお前の母さんや、じいさんもいるしね」

「そっか。それならよかった!」

 家に戻ると、なぜか祖父の姿がどこにも見当たらなかった。

「じいちゃん、どこに行ったんだろう?お風呂にもトイレにもいないよ」

「出掛けたんだろうかねぇ?」

「でも、じいちゃんの下駄は玄関にあったよ」

「それは変だねぇ」

「部屋を荒らされた様子はないから、誘拐とかじゃないと思うけど…」

「まさか――――」

ふいに祖母はハッと顔を上げ、陸人に尋ねた。

「陸人、お前あの巻物をどこへやったんだい?」

「え…?巻物?勉強机にしまったままだけど…」

「ちょっと見せておくれ」

「う…うん」

 陸人は祖母を連れて自室へ向かった。

机の一番上の引き出しを開け、中身を確認してみる。

ノートが一冊入っているだけで、他には何も入っていない。

「変だな…。確かにここに入れておいたのに…」

一応他の引き出しも開けてみたが、やはり巻物は見つからなかった。

腕を組みながら、難しい表情で祖母は唸った。

「もしかするとじいさんは、異世界に飛ばされてしまったのかもしれないねぇ」

「ええ?そんな馬鹿な!」

陸人は笑って受け流したが、祖母は至って真剣だ。

「陸人。お前、例の詐欺広告を表示させたまま巻物をしまっておいたんじゃないのかい?」

「え?それはないと思うけど…」

「本当かい?」

探るように祖母が目を細める。

「しまう前に、何か呪文を唱えなかったかい?」

そう問われた瞬間、陸人はハッと息を飲んだ。

確かに陸人は引き出しにしまう直前、あの仰々しい呪文を唱えたのだった。

祖母は陸人の表情を見て察し、小さく吐息をついた。

「あの詐欺広告はギッフェル一族の血を引く者がそれっぽい呪文を唱えるだけで表示されてしまうんだよ」

「ええっ!そうなの?!」

「ああ。ジャンは遊び心のある人だったみたいでね」

「遊び心にも限度があるよっ!ねぇ、どうするの?デルタストーンはもう精霊王に回収されちゃったし、もうじいちゃん異世界から戻ってこれないよ!?」

「まぁ、落ち着きなさい、陸人。ちょっと私についておいで」

祖母は廊下を渡り、家を出て物置小屋へと向かった。

「こんなこともあろうかと思って、ここに保管しておいたんだよ」

得意げにそう呟き、物置の奥から巨大な漬物樽を引っ張り出し、外蓋と押し蓋をのけて、中身を陸人に見せる。

樽の底に収められていたのは、二巻の巻物。題箋にはジャンのシンボルマークと思しき三日月の印が刻まれている。

祖母は二つの巻物を両手に持ち、にっこり笑って陸人に言った。

「実を言うと実家の庭から出てきた箱に入っていたのは、朔の書だけじゃなかったんだよ。他にも巻物が二つ入っていたんだ」

「それがその巻物ってこと?でもどうしてこっちの世界にあるの?」

「朔の書にこの世界へ飛ばされた時、ちょうどこの二つの巻物も持っていたからさ」

「ふーん…。で、その巻物は一体何なの?それを使えばじいちゃんをこっちの世界に呼び戻せるとか?」

「いいや、違う。実を言うと、ジャン・ギッフェルが遺した闇の魔導書は朔の書だけじゃないんだよ。他に二つ、魔導書を遺していたんだ。それがこの二つの巻物――――『上弦の書』と『下弦の書』だ」

「は…?」

「仕組みは朔の書と大体同じだよ。【今すぐココをクリック】の文字に触れれば“異世界転移”の魔法が発動し、一瞬で向こうの世界へ飛ばされる。同じなのはそれだけじゃないんだよ」

祖母は陸人に詰め寄り、急に声を弾ませて語り始めた。

「ななな、なんと!どちらの書も宝の地図付き!そう、ジャンは五つのデルタストーンだけではなく、他にも魔石を遺していたのだ!さぁ陸人、どっちの書を選ぶ?」

「ま、待ってよ、ばあちゃん。話がちょっと見えないんだけど?」

「おや、わからなかったかい?では簡潔に命じよう。陸人、お前は再び異世界へ行き、じいさんを連れて帰ってくるのだ」

「はぁぁ?!どうやって?!」

「さっきも言っただろう。この二つの巻物にも魔石の在処が記されていると」

「ん?まさかまた僕に宝探ししろって言ってる?」

「ああ、そうだ」

「“ああ、そうだ”じゃないよっ!やっと元の世界に戻って来たのに、なんでまた異世界に行かなきゃなんないんだよ?!」 

「すまんな、陸人。できれば代わってやりたいんだが、元々向こうの世界から来た私では、“異世界転移”の魔法が発動しなくてね。だからじいさんを救えるのはお前しかいないんだよ」

「そんなこと言われても困るよ!」

「それじゃ、上弦と下弦、どっちの書を使って宝探しをするか決めてくれるかい?ちなみに上弦の書はスフィアストーン、下弦の書はキューブストーンの宝の地図だ」

「あのう…僕、行くなんて一言も言ってないんですけど…?」

「大丈夫、種類は違えどどちらもデルタストーンと同じ魔石だから、五つ集めればちゃんと精霊王を呼び出せる」

「誰も聞いてないよ、そんなこと!」

「それじゃあ取り合えず上弦の書にしておこうかねぇ」

祖母は満面の笑みで上弦の書を陸人に手渡した。

「えっ?!ちょっ…マジで?!」

「さぁ、陸人。巻物を広げてそれっぽい呪文を!」

「そんなぁ…!なんでこうなるんだよぉぉぉぉぉ!」



【了】

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