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第二章:プリンセス、岐路に立つ
(11)
しおりを挟むチュンチュン……チュチュチュン……。
「ん……」
重い……。
何? このフワフワな毛……。
あったかい……。
そっと私の上に乗っている何かを横に下ろした。
「子供!?」
フワフワな真っ白な髪の小さな……男の子? 股間にかわい……。
「………………」
ちょっと恥ずかしい。
「アン……いる? アン……?」
「ん……は、はい……ここに……」
いつもごめんなさい。弱々しいアンの声にホント申し訳なく思う。
「何がどうなってるのかわかる?」
「いえ……おそらく姫様と一緒に私も気を失ったのだと思います。あの白い魔物に繰り返し……その、されて……。途中から少し記憶があやふやで……」
「そうよね……。私も三回目までは意識を保っていたのだけれど……それ以降はダメね……。でも状況的にこの子が白帝よねきっと」
白い魔物ーー白帝が消えて小さな男の子が。それ以外の可能性は凄く薄いと思う。ひとまず、この子が起きたら話をしてみましょうか……。
「ふぅ……」
まずは着替えましょうか……。色々と……ひどい格好よね……。こんなになるまでやったのに平然と動く自分の体がちょっと信じられないわ……。お腹もすっかり元どおりだし……あ、耳!? しっぽ!?
どちらも消えていた。少しホッとする。
裸の男の子に毛布をかけて……。移動したほうがいいかしら? ちょっと……アレよね。そこら中の白いのって……。
浮遊の魔法で男の子を浮かべて少しだけ場所を移動した。夜が明けたばかりみたいで少し肌寒い。
木漏れ日が射す開けたところに男の子を寝かせて、私とアンは食事をすることにした。
以前の冒険の時に揃えた物がこんなところで役に立った。
「……どうしようかしら、この子……」
「姫様……この男の子があの白い魔物なのですよね?」
「多分ね。姿が変わるところを見たわけじゃないから絶対とは言えないけれど……」
「……こんなところに小さな子供が一人でいるわけがありません。姫様の推測通りかと思います」
「そうよね、そうとしか思えないものね……。でもだからと言ってこんなにも小さな男の子を討伐するわけにもいかないし、元の魔物の姿だと敵わないし……。あ、そうだ! どうしてこの子に魔法が通用しなかったのかしら?」
あの時、蔦の束縛は意味をなさず、大地の防壁はその役目を果たさなかった。いずれも普通ではない反応で……。
「姫様……おそらく、おそらくなのですが、その子には強力な加護が与えられているのではないかと思います」
「加護……か」
「はい」
私が授かったガルム様の加護は速さのステアップと特殊なスキル取得効果がある。この世界には他にも沢山の加護があって、その効果は多岐にわたる。
確かに魔法に対して特殊な影響を及ぼす物もあるかもしれない。
「アンは……何か心当たりはある?」
「いえ……ハッキリとは。ですが、妖精王の加護は魔法に多大な影響を及ぼすと聞いたことがあります。どのような影響かはわかりませんが……似た効果を発揮する加護があるのではないかと思います」
妖精王の加護は確かに強力な加護だったけれど、アレは四属性の魔法効果を増幅するモノだったはず。
今回の『干渉』とは異なるわね。
ゲームの話だけれど……。
「ありがとう。まだ特定はできないけれど、私も何らかの加護の可能性が高い気がするわ。それと、加護が一つとも限らないし、少し様子を見ましょう」
「かしこまり……」
「ーーアン、起きるわ!」
「はい」
アンの存在は公にできない。妖精が仕えていることが知れると私が魔族だと発覚してしまう。人の国にいる今それは致命的なこと。たとえ相手が魔物であっても、そして小さな子供であっても……明かすことはできない。
「うん……んーーーー」
ジタバタと毛布を蹴飛ばして男の子が目を覚ました。男の子ってこんな感じなの!? ちょっと驚いた。
「んーー???」
「えっと……」
綿毛のようなふわふわな髪の男の子。その金色のくりっとした瞳が私を見つめてくる。敵意は感じない。
「……お姉ちゃん……誰?」
まるで女の子のような高い声。これじゃ顔立ちや髪の長さでは見分けがつかないわね……それこそ股間のアレがなければ女の子そのもの……。きっと可愛らしいだろうな……。
ーーあぁ! いつまでも裸というわけにはいかないわよね! 偶然にも小さな女の子でも着れそうな服があるんだし、この際それでいいわよね? 以前アリーシャさんに無理やり着せられた物だけれどちゃんと洗濯もしてあるし大丈夫よね!
あの時のことを思い出すと少しドキドキしてしまうけれど、今はそんなことよりもこの子に服を着せなきゃね!
さあて大人しく着てくれるかしら?
「えっと、お姉ちゃんの名前はキラリっていうの。あなたは?」
「僕は……う……シーラ。えっと白虎の子だよ」
あら、謎その一早くも解決ね。
「シーラ……くん? 君があの大きな白いま……虎さんなのよね?」
アブナイあぶない。ストレートに魔物って言いそうになったわ。白虎族なら魔物というよりは神獣の血族だし、人の姿になれるのなら獣人とも言える。下手に魔物と呼んで刺激するのは危険だわ。
「うん! すごいでしょ!! 僕もやっとあの姿になれるようになったんだ……?」
「ん? どうしたの?」
にこにこ自慢げだったのに急に落ち込んだような……?
「ねぇ……ここどこ? お姉ちゃん誰? 白虎族じゃないよね?」
「えっと、私はキラリ、旅の冒険者よ。冒険者ってわかるかな?」
「えっ!? お姉ちゃん冒険者なの?」
「そうよ。これでも強いのよ?」
胸の前で拳を握ってみせる。
冗談ぽく言ったのだけどシーラくんは表情を強張らせて私から離れてしまった。
あ、あれ? 怖がらせちゃったのかしら? 自分で言うのも何だけれど、「全然強そうに見えない!」とか言わせる鉄板ネタだったのよ……。
「ーー僕らを魔物とか言って襲ってくる悪い奴ら! 僕を捕まえてどうする気!!」
あ……私の馬鹿! 彼らからすればそう言うことになるじゃない! 私だって同じ、魔族と知れたら冒険者に討伐される側なのに……考えが至らなかった。
「待って! 違うから! 私はそういうのじゃないから!」
「嘘だ! そう言ってた冒険者に殺された仲間がいるんだぞ! 僕は騙されない!!」
マズイわね。虎の姿になられたら今度こそ命がないわ。何とかしなくちゃ……でもどうすればいい? 魔族だと言ってみる? でもそれをどうやって証明すればいい? 人族と魔族は見た目では見分けがつかない。シーラくんの言う冒険者は多分人族のことだ。魔族は、魔王国には冒険者はいない。そして殆どの魔族は魔王国から出ない。私達のような一部の王族が修練の為に出るくらい。
「シーラくんお願い、私の話を聞いて。私は君の言うような悪い冒険者じゃないの。ほら?」
身につけていた短剣を鞘ごと地面に。革の胸当ても外す。外套は森に入る前にストレージに収納していたから、装備らしいものはそれだけしかない。
置いた装備品から数歩離れて腰を下ろしてもう一度呼びかける。
「武器や防具は外したわ。だからお願い話だけでいいの、聞いてシーラくん」
シーラくんは戸惑ったような表情をしている。何とか話を聞いてほしい。
もう一押し……。
「これでもダメ?」
何も隠していない事を伝えるために衣服に手をかける。濃緑のワンピースの下はもう下着だけど、恥ずかしがっている場合じゃない……。
「……わかったよ、話を聞くよ……」
恥ずかしそうに横を向いて、でもちゃんと話を聞いてくれるって。
「ありがとうシーラくん」
「いいから、先に服を着て!」
「うふふ……照れなくてもいいのに……」
「こんなところで平気で裸になるなんて馬鹿じゃないの!?」
いやいや、素っ裸の君が言う!? ああーっ、突っ込みたいけど、ダメよね流石に。まずは私の立場を分かってもらわなきゃ。
「そうね……でもどうしても話を聞いて欲しかったから。ほら、うまくいったでしょ? シーラくんが話を聞いてくれるって言ってくれたもの」
「何でそこまでするのお姉ちゃん?」
「だって……私も人族じゃないもの……」
魔狼招来……。体が柔らかな光に包まれて、また頭とお尻がムズムズとしてくる。
「えっ……!?」
「訳あって旅をしているの。その為に冒険者なの」
ケモ耳と尻尾。よくよく考えると魔狼招来だから多分ネコミミじゃないと思うの。でもこの尻尾どう見ても……ネコ科の動物の尻尾よね? 何で? やっぱり耳もネコミミでいいのかしら?
……違うわね、そもそもそんなことはどちらでもいいことだわ。犬でも猫でも狼でも。
「ーー仲間!」
「きゃっ!?」
勢いよく抱きつかれて危うく押し倒されそうになった。まだ服を着てなかったから裸同士で抱き合ってる……やだ、凄く恥ずかしい。
「お姉ちゃん……」
「………………」
嘘はついていないけれど、勘違いするように仕向けている。こんなに小さな子を騙すようなことをしている自分が……凄く嫌だ……。
ごめんね、シーラくん……。
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