魔法の国のプリンセス

中山さつき

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第二章:プリンセス、岐路に立つ

(12)

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 シーラくんが落ち着いてくれたので、服を着て話をすることが出来た。
 服を着たシーラくんが可愛い。凄い怒ったような表情だけど、それも可愛い。薄い紺色の膝丈のワンピース。襟や袖、裾にも同じ白のレースが使われていてとっても可愛いデザインなの。本当は揃いのホワイトブリムもあるけれど、それは拒否された。可愛いのに……。

「お姉ちゃん……ホントに他の服はないの?」
「私サイズのものしかないわ。偶々それ一枚だけ持っていたのよ。ごめんね、街まで我慢してくれる?」

 流石に裸でいいとは思っていないみたいで、服を着ることには納得してくれている。最初は嫌がって白虎の姿になるって訊かなかったけれど、討伐依頼が出てることを説明して渋々納得してもらった。
 それで、色々話を聞いて分かったのだけれど、まずこのシーラくんは天空城に住んでいるみたい。お家はどこ? という問いに対して答えが雲の上だもの。そんなところ天空城しか知らない。丁度あの天山の頂には天空城へのゲートがある……はず。
 なのでお家まで送ることになったのだけど、あのまま直行というわけにはいかない。というのも白帝討伐依頼をどうにかしなくてはいけないからだ。
 普通の依頼と違って緊急依頼は解決するまで戦力の投入が続く。既に第二、第三の冒険者が派遣されているはず。女の子を連れた彼らがバードさんと合流してから街へ報告に戻ったとすると、夜明けと共に捜索を開始するのではないだろうか。まだ陽は昇り始めたばかりだけれどそれほど猶予はない。
 早く上手い言い訳……というかシナリオを考えなくちゃ。

 まずは要点を整理ね。

 ポイントその一。白帝を天空城に追い返した。
 問題点その一。どうやって?

 ポイントその二。シーラくんを天空城に送る。
 問題点その二。なぜ天空城に? そしてこの子は何者?

 ポイントその三。人任せにしたくない。
 問題点その三。私が送る事の必然性。

 その辺を上手くクリアしたシナリオを作らなきゃ……。
 うーん。どうしたらいいのかしら……。出来れば緊急クエストの報酬も欲しい。討伐は出来なかったけれど現状は被害もなく対応できている。半分でもいいからもらえないかなぁ……。
 うーん……。頑張れ私! やればできるぞ私!
 
 中々上手くまとまらない内にタイムリミットが来てしまった。

「どうしたのお姉ちゃん?」
 マップを監視してくれているアンからの合図。肩を軽く三回。続いて十回。
 冒険者が森に侵入。人数は十人。
「……冒険者が森の端に到着したわ。いい? シーラくん。私が上手いことやるから、君は余計なことは言わずに私にくっついてて。普通の子供の振りをしててね?」
「……わかってる」
「ありがとう。心配しないで、絶対にお家に送ってあげるから!」
「うん……ありがとうお姉ちゃん……」
「任せなさい!」

 うきゅーーー可愛いよぉーーー!!!
 とにかく、まずは冒険者たちと合流……というか接触ね。いくつか言い訳のアイディアを思いついたから、上手く組み合わせてやってみよう。

「じゃあいくよシーラくん。お姉ちゃんにしっかりつかまってて!」

 浮遊の魔法を自分達にかけて、また空を飛ぶ。
 シーラくんを背負って森の上を飛んでいく。着た時よりも安定している。浮遊で浮いているので突風で揚力を得る必要がない……ということに気がついたから。だからそんなに速くなくてもいい。そうするとこれがまた凄く快適な空の旅の完成。来る時の私完全にアホだわ。
 あの凄まじい乗り心地……というか飛び心地は一体なんだったのかしら……。凄く無駄な体験をしちゃったわ。

「見えてきた……」

 森の入り口に冒険者らしき集団。多分彼らのうちの誰か一人は案内及び仲介役として同行しているはず。私を知っている人が彼らかギルドの職員しかいないから。

「おーーい!」

 向こうも気がついたみたいね。先頭の一人が手を振ってきた。予想通り知っている人。バードさんだった。それにしても彼一体何往復したのかしらね……。馬で三十分くらいとはいえ結構大変よね。主にお尻が……。馬って意外としんどいものだったのね……お疲れ様。
 さて、女優キラリのデビュー戦よ! いくわよ!!

「ーーバードさん! パーティーの皆さんは!?」
「大丈夫! みんな無事だ! ありがとう!!」
「よかったーー」

 空から舞い降りながら、簡単なやり取りを済ませる。出来るだけここから先も簡単に済ませてしまいたい。そして街まで、ギルドまで飛んでいきたい。

「それで白帝はどうなった? まさか一人で討伐したわけじゃないだろう?」
「はい。流石に私一人では無理でした。上手く彼らを逃れさせることが出来て幸いでした。でも、白帝ーー白虎族の方には天山へと戻ってもらいました」
「やはり白帝は白虎族だったか……それで一体どういう話になったんだ?」
「今回山を降りてきたのはこの子を探してのことみたいなのです」
「この子は!?」
「白虎族の子供です。どうやら集落から迷い出てしまったようでして、それで彼が探しに……」
「そうか……。わかった、あとは彼らに引き継ごう」

 バードさんが後ろに控える冒険者たちを振り返った。その様相を見るだけでも高ランク冒険者だとわかる。装備もかなりいいものを揃えている。

「いえ、それがそういう訳にもいかなくてですね……。私が連れて行くと約束しました」
「しかし、天山連峰といえば魔物の強さもかなりのモノだ。一人でどうこう出来るものではないぞ!?」
「それは大丈夫です。見ての通り空を飛べますから」
「しかし……」

 やっぱりそう簡単には納得してもらえないわよね。まぁ当然よね。やっぱりあの手を使うしかないか……。

「ありがとうございます。バードさんは優しい方なのですね」
「え、あ、いや、その……なんだ、当然のことだろう! な、なぁ?」

 うわぁ……。手を握って目を潤ませて上目遣いに見つめる……。それで女性慣れしていなさそうな男の人たちを手玉にとって……まるで悪女だわ。

「お、おう……」
「皆さんも私の為に大急ぎで駆けつけてくださって、本当にありがとうございます。それなのに……やっぱりちゃんと説明しないと……ですよね……」

 少し大袈裟だったかしら……? シンとしすぎて不安になってきたわ。上手くやれてる私?

「何がーー何があったんだキラリさん!?」

 震える私の肩に触れてバードさんが好演……じゃなかった、いい感じで反応してくれた。ナイスです。助演男優賞あげちゃう!

「実は……」
「ちょ!? 待ってーーなっ! それは……!?」

 胸元を少し露出させて、そこに刻まれた刻印を見せた。もちろん胸まで見せた訳じゃない。襟を少し引っ張って鎖骨の下が見えるくらい。それでも乙女の柔肌は目に毒だったのか耳まで真っ赤にしている。
 でも白い肌に刻まれた毒々しくも美しい血色の紋様。宣告の魔法によって私の体に刻まれたもの。

「それは……」
「まさか、『宣告ギアス』か!?」

 知っている人がいたみたいで何より。

「はい。白帝様が森はまだしも街へとなると相当な騒ぎになります。ですから私が代わりにこの子の捜索を引き受けようとしたのですが……彼らの人族への不信感は相当なものです。仕方がないことですが、とても悲しいことですね……」

 潤ませた瞳から涙を流す。本当に私って女優の才能があるのではないかしら?

「ですから信じていただく為に宣告の魔法を使っていただきました。猶予は三十日間。この子を彼の、白帝様の元に無事に送り届けなければ私の命はありません」
「「なっーー!?」」
「ーーですから私が行かなくてはならないのです」
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