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第四章:プリンセス、聖都に舞う
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街に戻れたのは日が暮れて夜になってからだった。
ギルドは夕方までなのでクエストの報告は明日にするしかない。もしかしたらワードさんが心配しているかもしれないけれど、この時間ではどうしようもない。
明日出来るだけ早く行って安心させてあげよう。
でも今はとにかく体を休めたい。いくら回復魔法で癒しても心の疲れまでは癒せない。体だって数値では表せない何かがある。ような気がするし……。
「アン……お腹は空いている?」
「はい、少しですが姫様も夕食を召し上がってください。それからお風呂をいただいて今日は早くお休みくださいませ」
アンにはお見通しだったようで空いていると言われてしまった。仕方がない、夕食を頂いてから休みましょう。
翌朝、早めにギルドを訪れたのだけれど……何だろう? いつもよりも慌ただしい気がする……。
いつも通り気配遮断をかけた状態でワードさんの元へ。気のせいではなくてやはり少し慌ただしい。
黙々と本から何かを書き写すワードさんにそっと声をかける。
「……おはようございます、ワードさん」
「うわっ!? キ、キラリさん!? よかった! 無事だったんですね!! 昨日はクエストの報告にいらっしゃらなかったので心配していましたよ!! でも……無事そうで良かった……もしかしたらキラリさんも……なんて思ってしまいましたから……」
「えっと……ごめんなさい、ご心配をおかけして……それで、ギルドが慌ただしいようなんですが何かあったのですか?」
私のクエスト報告よりもギルドが慌ただしい理由の方が気になる。私も……なんて言われると余計に。
「実は昨日バイブツリーの異常種が報告されまして……しかも既に犠牲者が……」
「えっ!?」
バイブツリーってアレのことよね? ブルブルの実を付ける木のことよね……?
「あの、ただの木ですよね? 犠牲者って一体?」
そう、ただの木なのだ。魔物ではなく木。それがどうやって犠牲者を? それも多分冒険者よね犠牲者って。あんなのが街中に生えてるわけないし、生えてたら生えてたで子供の教育上よろしくない。
実がなる季節には甘い匂いでメスを誘って蔦で絡め取って実を咥えさせるといういかにもな習性があるのだけれど……。それでも普通の冒険者が犠牲になるような類のものではないはず。
「そうなんですが、異常種のようで匂いによる誘引だけでなく幻覚を起こすようなんです。被害にあった冒険者によると男性には恐怖を女性には願望を見せてくるようです。そのあとは……」
ワードさんは言葉を濁したけれど、まぁお察しの通りである。エ□デスネ。
「今慌ただしいのはこれまでに確認されたことのないピンク色のバイブツリーの緊急討伐対応のせいですね」
「ーー!?」
何ですって……? 今なんと言いました!?
「あ、あのワードさん……今ピンク色のと仰いましたか?」
待て待て待て待て。落ち着いて私。ピンク色に反応し過ぎよ。何でもかんでも関連付けちゃダメ。
「はい。初めて聞きますね、そんな葉の色のバイブツリーは。これまでに亜種や異常種、希少種などと数種類確認されていますがーー」
所謂色違いモンスターというやつでグラフィックの色だけ変えて使い回しするというゲームでは定番のアレなんだけれど、当然まほプリの世界でもそれは踏襲されている。他と違うのはいちいち名前をつけるのは面倒だったのかワードさんの言うように〇〇異常種とか〇〇希少種という風に表記されていた点だろうか。基本的に攻撃パターンが増えたり変更されたりしている。あと登場順……というか生息エリアに合わせて強さが調整されている。
「異常種であれほど厄介なのは珍しいです。先程被害にあったパーティーなんですが、実はCランクの上位なんです」
「バイブツリーがCランクの方、それも上位の実力者を簡単に?」
「はい。簡単に捕まり実を植え付けられて放逐されました。木としての習性は変わっていないようです。その点は不幸中の幸いでした。ただ……今植え付けられた実を取り除いているのですが……大きさが大きさだけに難航しています。その……普通の実の倍くらいの大きさなんです」
ワードさんが手で示したサイズは確かに倍くらいの大きさだった。普通の実は細長い親ゆびくらいのサイズで奥を刺激しようと思うと少し物足りなくて、いつも切ない思いをしているーー!?
「あーーーー!!」
違うでしょ! 何を考えてるのよ私!?
「ど、どうしましたキラリさん?」
「ーーはっ!? ご、ごめんなさい。ちょっと変な事を考えてしまって……」
ハシタナイ声をあげてしまったわね、まったく……。何なのよこのピンク色の思考は!? 少しは自重しなさいよね!!
でも……いいなぁ欲しいなぁ……なんて事はさすがに言えないわよね……。こっそり取りに行ってはダメかしら?
……じゃなくて、ピンクツリーの件ね。実は私……気になる事というか心当たりというか……嫌な予感というか……あの時使ったブルブルの実……無くしちゃってるのよね……。まさかまさかだとは思うのだけれど、ここまで条件というか……ピンクってだけなのだけれど、嫌な予感がすると……ね。
「それでワードさん、その木はどの辺りに?」
「あ、そうですね。えっとーー地図を見せますね。彼らを保護してくれた冒険者の話ですと、恐らくこの辺りだと思われています。ですから当面はそちらの方向へは向かわないでください。今上ではBランク規制が検討されていますから」
「そ、そうですか。私も気をつけますねーー」
いやぁーーーーー!!?? 絶対私だよ。これ私のせいよ! だってあの時オーナル草を採取した場所の側よ!? これは……なんとかしなくちゃいけない……わよね?
討伐隊が向かう前に……やるしかない……わよね? いやね、大きな実が欲しいとかそういうことじゃ無いわよ?
……ホントよ?
ギルドは夕方までなのでクエストの報告は明日にするしかない。もしかしたらワードさんが心配しているかもしれないけれど、この時間ではどうしようもない。
明日出来るだけ早く行って安心させてあげよう。
でも今はとにかく体を休めたい。いくら回復魔法で癒しても心の疲れまでは癒せない。体だって数値では表せない何かがある。ような気がするし……。
「アン……お腹は空いている?」
「はい、少しですが姫様も夕食を召し上がってください。それからお風呂をいただいて今日は早くお休みくださいませ」
アンにはお見通しだったようで空いていると言われてしまった。仕方がない、夕食を頂いてから休みましょう。
翌朝、早めにギルドを訪れたのだけれど……何だろう? いつもよりも慌ただしい気がする……。
いつも通り気配遮断をかけた状態でワードさんの元へ。気のせいではなくてやはり少し慌ただしい。
黙々と本から何かを書き写すワードさんにそっと声をかける。
「……おはようございます、ワードさん」
「うわっ!? キ、キラリさん!? よかった! 無事だったんですね!! 昨日はクエストの報告にいらっしゃらなかったので心配していましたよ!! でも……無事そうで良かった……もしかしたらキラリさんも……なんて思ってしまいましたから……」
「えっと……ごめんなさい、ご心配をおかけして……それで、ギルドが慌ただしいようなんですが何かあったのですか?」
私のクエスト報告よりもギルドが慌ただしい理由の方が気になる。私も……なんて言われると余計に。
「実は昨日バイブツリーの異常種が報告されまして……しかも既に犠牲者が……」
「えっ!?」
バイブツリーってアレのことよね? ブルブルの実を付ける木のことよね……?
「あの、ただの木ですよね? 犠牲者って一体?」
そう、ただの木なのだ。魔物ではなく木。それがどうやって犠牲者を? それも多分冒険者よね犠牲者って。あんなのが街中に生えてるわけないし、生えてたら生えてたで子供の教育上よろしくない。
実がなる季節には甘い匂いでメスを誘って蔦で絡め取って実を咥えさせるといういかにもな習性があるのだけれど……。それでも普通の冒険者が犠牲になるような類のものではないはず。
「そうなんですが、異常種のようで匂いによる誘引だけでなく幻覚を起こすようなんです。被害にあった冒険者によると男性には恐怖を女性には願望を見せてくるようです。そのあとは……」
ワードさんは言葉を濁したけれど、まぁお察しの通りである。エ□デスネ。
「今慌ただしいのはこれまでに確認されたことのないピンク色のバイブツリーの緊急討伐対応のせいですね」
「ーー!?」
何ですって……? 今なんと言いました!?
「あ、あのワードさん……今ピンク色のと仰いましたか?」
待て待て待て待て。落ち着いて私。ピンク色に反応し過ぎよ。何でもかんでも関連付けちゃダメ。
「はい。初めて聞きますね、そんな葉の色のバイブツリーは。これまでに亜種や異常種、希少種などと数種類確認されていますがーー」
所謂色違いモンスターというやつでグラフィックの色だけ変えて使い回しするというゲームでは定番のアレなんだけれど、当然まほプリの世界でもそれは踏襲されている。他と違うのはいちいち名前をつけるのは面倒だったのかワードさんの言うように〇〇異常種とか〇〇希少種という風に表記されていた点だろうか。基本的に攻撃パターンが増えたり変更されたりしている。あと登場順……というか生息エリアに合わせて強さが調整されている。
「異常種であれほど厄介なのは珍しいです。先程被害にあったパーティーなんですが、実はCランクの上位なんです」
「バイブツリーがCランクの方、それも上位の実力者を簡単に?」
「はい。簡単に捕まり実を植え付けられて放逐されました。木としての習性は変わっていないようです。その点は不幸中の幸いでした。ただ……今植え付けられた実を取り除いているのですが……大きさが大きさだけに難航しています。その……普通の実の倍くらいの大きさなんです」
ワードさんが手で示したサイズは確かに倍くらいの大きさだった。普通の実は細長い親ゆびくらいのサイズで奥を刺激しようと思うと少し物足りなくて、いつも切ない思いをしているーー!?
「あーーーー!!」
違うでしょ! 何を考えてるのよ私!?
「ど、どうしましたキラリさん?」
「ーーはっ!? ご、ごめんなさい。ちょっと変な事を考えてしまって……」
ハシタナイ声をあげてしまったわね、まったく……。何なのよこのピンク色の思考は!? 少しは自重しなさいよね!!
でも……いいなぁ欲しいなぁ……なんて事はさすがに言えないわよね……。こっそり取りに行ってはダメかしら?
……じゃなくて、ピンクツリーの件ね。実は私……気になる事というか心当たりというか……嫌な予感というか……あの時使ったブルブルの実……無くしちゃってるのよね……。まさかまさかだとは思うのだけれど、ここまで条件というか……ピンクってだけなのだけれど、嫌な予感がすると……ね。
「それでワードさん、その木はどの辺りに?」
「あ、そうですね。えっとーー地図を見せますね。彼らを保護してくれた冒険者の話ですと、恐らくこの辺りだと思われています。ですから当面はそちらの方向へは向かわないでください。今上ではBランク規制が検討されていますから」
「そ、そうですか。私も気をつけますねーー」
いやぁーーーーー!!?? 絶対私だよ。これ私のせいよ! だってあの時オーナル草を採取した場所の側よ!? これは……なんとかしなくちゃいけない……わよね?
討伐隊が向かう前に……やるしかない……わよね? いやね、大きな実が欲しいとかそういうことじゃ無いわよ?
……ホントよ?
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