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聞き覚えしかない声が鼓膜を振動させた。僕は手を膝につけたまま顔を上げる事はできない。いや、上げたらまずい気がする。
額から汗が流れ心臓の脈拍が上がる。
「君…聞くまででもないが『名前』は?」
また、声が聞こえる。正直、目の前の「何か」を振り払って逃げたいが、身体が言うことを聞かない。手と膝ががくがくと震えだし、呼吸が少し乱れ始める。
すると、声の主が手を伸ばし、手のひらを見せる。
「これは...」
僕のアパートの鍵だった。間違いなくアパートの鍵だった。全身の血液が凍るような気がした。
「そんなに怖がることはないだろう...これは数日前の『君』から盗った物だよ...」
(数日前の僕...?)
僕は言うことを聞いてくれない身体を無理やり動かし顔を上げた。瓜二つの「僕」がいる。後ろに倒れ尻もちを着いた。怖くて叫びたかったが喉に力が入らない。まるで餅を詰まらせたが呼吸はできるような感覚だ。「僕」は鍵を投げ、立つように促した。
「珈琲を飲みたいのだが あそこの自販機で買ってきてくれないか?」
「僕」はこう言った。
「財布を学校に忘れた...」
「それは残念...」
「僕」は悲しそうにしていたが表情は変わらず、いやらしい程口角が上がっている。すると突然「僕」が子供のように指を指した。表情が不気味すぎてなぜ指を指したのかわからなかったが、方向が例の「地区」の方向でとある家の窓を指さししている。
「地区」内には何件か家が建っており、家は洋風と和風の色々なデザインだが玄関の方を見ると「空き家」という看板が寂しそうに貼られていた。いつも「地区」内の家全部、カーテンが閉め切っており、昼でも朝でも開けているところをみたことがないがその時は二階のカーテンが開いていた。「誰か住んでたんだ」と思ったが、玄関を見ると「空き家」という看板が貼られている。
「誰もいないはずなのに...」
家の窓をじっと見つめていると、部屋に誰かが立っているが部屋の中は十五時を過ぎているというのに薄暗く部屋で顔や体の向きはわからないが、ただそこにいてじっと立っているというのが分かった。気味が悪いと思い「僕」に尋ねた。
「ところで...指さしてどうしたんだよ」
気が付くと、「僕」はいなかったが、次に感じたのは例のいやらしい視線だった。身体中が震える。(担任に言われたこの「地区」には踏み入れていないはずなのに)と思っていたが、先程「僕」が指さしした家の窓を見ると、さっきまでは二階のカーテンしか開いていなかったのに、今度は一階も開いていた。影が二つあった。一階と二階、両方じっと気を付けの姿勢で立っている。同じ体勢なのが逆に不気味なのを煽っている。
「あ...」
後ろに誰かが立っている。足音も気配とやらも何も感じなかった。多分「僕」だろうと思った。震えが止まらない。断言できるが「僕」だが、僕ではない。
「あ...あ...う」
僕は振り向いた。それがいけなかった先程の「僕」で免疫が付いたと思ったのだがそれがいけなかった。「僕」で間違いないがそこにいたのは...首が折れた「僕」だった。
僕の叫びなのか悲鳴なのかわからない声が響いた。誰もいないのが救いだった。僕はすぐその場から離れ数歩走って気づいた。
「あ...」
「ぎゃははは...入った 入った」
首が折れた「僕」は嬉しそうに笑った。いやらしいほど口角を吊り上げている。僕はまた全力で走った。僕は影が見えた家を横切るとき、影の正体を知ってしまった。
(部屋の中が薄暗いんじゃない...部屋の中に大量の「僕」がいる...みんな制服を着ていた...みんなこちらを見ていた...)
僕はその「地区」を走り抜けアパートに帰った。
その日からその通学路を通る度、「偽名」を使っているが、「僕」の目撃情報は絶えない。大量に遺体があったそうだが、それもどうなったのかは知らない。担任にも聞いたのだが「知らない」の一点張りだった。
「今日卒業か...」
退屈でしかなかった高校生活がやっと終わる。皆が体育館に向かって行く中、僕はこっそり高校から抜け出し(多分クラスのやつらと担任は気付かない)僕はその「地区」へと向かった。高校で唯一ともいえる思い出の場に向かうと、何人かの「僕」がそこにいた。
「偽名でも意味ないのか...」
僕はそこに立ち尽くし何もできなかった。いや動けなかった「僕」達はいやらしい程口角が吊り上がり眼は横に細長く不気味な表情でその場でじっと立っていた。何をするのでもなく、ただ手と首を変な風に動かしゆっくりと近づいて僕の首を絞めようとしてギリギリのところで身体が動き、その場から逃げた。あの場所にはもう近づいていない。
彼等が何だったのかはわからない。地元に関する書物やネットを使ったが何も出てこなかった。ただこれだけは言える。あの「地区」は「本名」に過剰反応して記録し、その記録を放映していた。だから「名前」に関する物はすべて禁止だったんだ。
推察だがそれしか言えない。
額から汗が流れ心臓の脈拍が上がる。
「君…聞くまででもないが『名前』は?」
また、声が聞こえる。正直、目の前の「何か」を振り払って逃げたいが、身体が言うことを聞かない。手と膝ががくがくと震えだし、呼吸が少し乱れ始める。
すると、声の主が手を伸ばし、手のひらを見せる。
「これは...」
僕のアパートの鍵だった。間違いなくアパートの鍵だった。全身の血液が凍るような気がした。
「そんなに怖がることはないだろう...これは数日前の『君』から盗った物だよ...」
(数日前の僕...?)
僕は言うことを聞いてくれない身体を無理やり動かし顔を上げた。瓜二つの「僕」がいる。後ろに倒れ尻もちを着いた。怖くて叫びたかったが喉に力が入らない。まるで餅を詰まらせたが呼吸はできるような感覚だ。「僕」は鍵を投げ、立つように促した。
「珈琲を飲みたいのだが あそこの自販機で買ってきてくれないか?」
「僕」はこう言った。
「財布を学校に忘れた...」
「それは残念...」
「僕」は悲しそうにしていたが表情は変わらず、いやらしい程口角が上がっている。すると突然「僕」が子供のように指を指した。表情が不気味すぎてなぜ指を指したのかわからなかったが、方向が例の「地区」の方向でとある家の窓を指さししている。
「地区」内には何件か家が建っており、家は洋風と和風の色々なデザインだが玄関の方を見ると「空き家」という看板が寂しそうに貼られていた。いつも「地区」内の家全部、カーテンが閉め切っており、昼でも朝でも開けているところをみたことがないがその時は二階のカーテンが開いていた。「誰か住んでたんだ」と思ったが、玄関を見ると「空き家」という看板が貼られている。
「誰もいないはずなのに...」
家の窓をじっと見つめていると、部屋に誰かが立っているが部屋の中は十五時を過ぎているというのに薄暗く部屋で顔や体の向きはわからないが、ただそこにいてじっと立っているというのが分かった。気味が悪いと思い「僕」に尋ねた。
「ところで...指さしてどうしたんだよ」
気が付くと、「僕」はいなかったが、次に感じたのは例のいやらしい視線だった。身体中が震える。(担任に言われたこの「地区」には踏み入れていないはずなのに)と思っていたが、先程「僕」が指さしした家の窓を見ると、さっきまでは二階のカーテンしか開いていなかったのに、今度は一階も開いていた。影が二つあった。一階と二階、両方じっと気を付けの姿勢で立っている。同じ体勢なのが逆に不気味なのを煽っている。
「あ...」
後ろに誰かが立っている。足音も気配とやらも何も感じなかった。多分「僕」だろうと思った。震えが止まらない。断言できるが「僕」だが、僕ではない。
「あ...あ...う」
僕は振り向いた。それがいけなかった先程の「僕」で免疫が付いたと思ったのだがそれがいけなかった。「僕」で間違いないがそこにいたのは...首が折れた「僕」だった。
僕の叫びなのか悲鳴なのかわからない声が響いた。誰もいないのが救いだった。僕はすぐその場から離れ数歩走って気づいた。
「あ...」
「ぎゃははは...入った 入った」
首が折れた「僕」は嬉しそうに笑った。いやらしいほど口角を吊り上げている。僕はまた全力で走った。僕は影が見えた家を横切るとき、影の正体を知ってしまった。
(部屋の中が薄暗いんじゃない...部屋の中に大量の「僕」がいる...みんな制服を着ていた...みんなこちらを見ていた...)
僕はその「地区」を走り抜けアパートに帰った。
その日からその通学路を通る度、「偽名」を使っているが、「僕」の目撃情報は絶えない。大量に遺体があったそうだが、それもどうなったのかは知らない。担任にも聞いたのだが「知らない」の一点張りだった。
「今日卒業か...」
退屈でしかなかった高校生活がやっと終わる。皆が体育館に向かって行く中、僕はこっそり高校から抜け出し(多分クラスのやつらと担任は気付かない)僕はその「地区」へと向かった。高校で唯一ともいえる思い出の場に向かうと、何人かの「僕」がそこにいた。
「偽名でも意味ないのか...」
僕はそこに立ち尽くし何もできなかった。いや動けなかった「僕」達はいやらしい程口角が吊り上がり眼は横に細長く不気味な表情でその場でじっと立っていた。何をするのでもなく、ただ手と首を変な風に動かしゆっくりと近づいて僕の首を絞めようとしてギリギリのところで身体が動き、その場から逃げた。あの場所にはもう近づいていない。
彼等が何だったのかはわからない。地元に関する書物やネットを使ったが何も出てこなかった。ただこれだけは言える。あの「地区」は「本名」に過剰反応して記録し、その記録を放映していた。だから「名前」に関する物はすべて禁止だったんだ。
推察だがそれしか言えない。
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