願望

夏炉 冬扇

文字の大きさ
2 / 3

しおりを挟む
 小学校の頃は絵を描くのが好きだった。あの時はずっと絵が好きで、授業中も絵を描いていた。いや落書きの方が正しいかもしれない。

 男は道中、小学生の頃を思い出していた。頭の中に薄暗い白色の正方形の部屋の中でプロジェクターを置き、ソファに深々と座りポップコーンを頬張りながら。

 だが、小学生の俺には願望があった。漫画家になりたい。だから絵の練習をたくさんした。ペンダコのようなものもできたけど、それでも描き続けた。クラスメートにも馬鹿にされたけどそれでも描いた。

 男は「懐かしいな」と思いながら歩く。

「ン…?」

 男は異変に気付く、最初は影なのかと思っていたのだが描いた絵が全て真っ黒なのだ。

「お先真っ暗…か」

 男は虚しさを感じて昔の事を思い出すのをやめて外灯のない道を歩き続けた。


 居酒屋に着き、見慣れた車が駐車場にあった。

「兄貴…車変えてないのか…」

 日産 ラシーン 助手席にはベビーシート、後部座席には子供用のスコップ、バケツがあった。

「夢が叶ったんだな…」

 と男は呟き、居酒屋の看板の電球の寿命が一つ消えるの見て居酒屋に入った。

「久しぶり…!」

 昔ながらの居酒屋のカウンター席に兄がいた。コーラのジョッキ片手に少し目の下にクマができて、ニット帽を被り、それでも白髪が増えていることが分かる。

「久しぶり…!子供産まれたんだね!ってか連絡しろよ」

 男が席につくと兄は嬉しそうにコーラを飲み干し

「元気な男の子だったよ…!やっとだよ…!七周目で…!」

 と聞き覚えのある事を兄は言った。
「…周目」どこかで聞いたことがある。理由はないが、体が冷える。どこで聞いたっけと思っていると。兄の表情が消え深刻そうな顔をする。

「そういえば お前…癌だろ?」

 誰にも言っていないのに…。

「あとお前車気を付けろよ!特に今日!」

 なんで知っているのだろう。
 男はビールを頼み、口にするが医者から余命宣告される低い声が身体全体を重低音のように響き振動させていた。鳩尾辺りがモヤモヤして、味がしない。
 次にハイボールを頼み一気に飲んだ。お酒は弱いはずなのに、酔えない。
 兄はその様子をみて、心配してくれた。

「癌なのは知っていたさ…何故か子供のときから知っている…」

「は?」

「夢みたいなもんだよ…ずっと同じような悪夢をずっと…」

 兄はそう言い、コーラを飲んだ。



 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...