ランプの魔神を探して

穴澤空

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「ところで」

 城から離れ、砂漠の隊商を眼下に捉え、海が幽かに見えた頃。不意に於菟春が口を開いた。

「その、半身? ってやつがどんなのか、聞き忘れたな」
「あっ」

 於菟春の言葉に、私もすっかりと忘れていたことに気が付く。

「どないしよう」
「まぁその海だか山だかにいる、物知りの魔神を訪ねてみれば解決するんじゃないかな」
「そうやねぇ」
「というわけで、せめて今わかっていることを整理しよう」

 推理というのはゼロから生まれるものではない。お互いの知識を棚卸し、少しでも事態を前に進めなければならない。

「先ず不思議なことは」
「ふむ」
「あの魔神、アスタロトって名乗っておったことや」

「それの何が不思議なんだ?」
「アスタロトは男やと言われとる。それに伴侶もおらんはずなんや」
「そんな通説なのか」

 そもそもアスタロトは数々の悪魔学の著作や、中世後期から近世にかけてヨーロッパで民間に流布していた魔術書などにもしばしばその名が見られるほどの著名な悪魔である。四十の悪魔の軍団を率いる強壮な大侯爵で、多大な教養を持っているとされた。
 ううん、と二人で頭を傾げる。

「それにしても、どこかで体が拭けたりせえへんかな」

 じんわりとした暑さに、汗が溢れてきていて気持ちが悪いのだ。

「宿屋でもあれば……。とりあえず高度を下げるか」
「うん」

 しかし見渡すかぎり砂漠。隊商の張るテントがいくつか見えるが、無論そんなところではどうにもならない。

「ないな……」
「まぁ仕方ないか。日本が便利すぎるんやねぇ」

 苦笑いを浮かべながらあたりを伺えば、湖とわずかな緑が目に入る。オアシスだろう。

「あそこにしよ」

 水の貴重な場所なのだろう。本当はざばりと水を浴びたいが、流石に遠慮をしておく。周囲に人がいないことを確認し、固く絞ったハンカチで体を清めた。

「人心地、や」

 同じように体を拭く於菟春も頷く。

「せっかくだし、この辺に魔神がいないか探してみよう」
「そうやね。それにしても、私ら特別な力があるわけやないから、どうにか穏やかな魔神とだけ会話したいわ」

 於菟春も想像したのか、軽く頭を傾けたあと、苦笑いを浮かべる。そうして「心の底から同意するね」などと言いながら、私を抱きしめた。

「抱きしめる必要はあるんか?」
「いや、特にないけどちょっとドラマチックな感じにしようかと」
「ドラマチック」
「悪くないだろう? 背景はオアシスだ」
「いまいちわからんが、受け止めておくわ」
「それはありがたい」

 ふくふくと笑いあいながらも、危険そうな魔神には近付くのはやめよう、そうお互い決意を新たにして、空へと再び昇っていった。
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