ランプの魔神を探して

穴澤空

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 於菟春は瓶の外側から、ヴェパルの掌に己の掌を合わせる。その二人の姿はまるでロミオとジュリエットのようだ。ヴェパルも美しい顔をしているので、まるで映画のワンシーンのように見える。
――ちょっと妬ける。

「これって瓶の蓋をひっこぬけば、君は出られるのかな?」

 その言葉に、ヴェパルの瞳はキラキラと輝く。

「開けてくれるの? 嬉しい。でも、栓をあけた者は、地獄へと行くことになる呪いがかかるのよ?」

 ヴェパルの言葉を聞いた私たちは、再度目を合わせる。そうして、於菟春は苦笑いを浮かべた。

「生憎俺は無神論者なんでね」

 於菟春は代々寺を営む家の住職のくせに、そんなことを言う。

「なんてこと! 魔神にはアッラーを信仰しない者はいるけど……神の存在自体を否定するなんて」

 封じられた魔神とは、案外良い奴なんだ、と思ってしまう。地獄に堕ちる呪いも、黙っていれば良いものを、伝えてしまう。通常の人間であれば、それを聞いても封をあけようなどとは思わないであろう。
 だが。

「生き物にはそれぞれ来歴がある。不可思議な力は、今その瞬間にその法則が判明していないだけで、なんらかの条理はあるはずなんだ。魚も猫も鳥も人間も──魔神も」

 言いながら於菟春は瓶の口にある栓をぐぐ、と引き上げた。
 それは、ぎちぎちと音を立てながら、ゆっくりと上にあがり、遂に──。

「あいたぁ!」

 ヴェパルは歓喜の声を上げる。於菟春はそのまま瓶を横へと倒す。ばちゃり、と海面に叩かれ、白い波を砕かせたかと思うと、中から一迅の光がこぼれ落ちる。それがヴェパルの髪の毛が生んだうねりだと気付くのに、そうかからなかった。
 瓶から泳ぎでた彼女は、その長い髪の毛を碧い海へと広げ、心地良さそうにすいすいと体を捻らせて泳いだ。

「ああ気持ち良い。二人ともありがとう」
「えっ! あっちょっと!」

 危ない。
 そのまま去りゆくところを、ゆっくりと目で追うところであった。

「ん? なに?」

 声をかけられたヴェパルは、再びその体を優雅に泳がせ、私たちの元へと戻ってきた。
 於菟春は彼女の協力を得ようと、説明を始める。

「俺たちは実はかくかくしかじかで、アスタロトの半身ってのを探しているんだが」

 かくかくしかじか。
 便利な言葉だ。

「なるほどね。アスタロトってば、まだ封印されてたんだ。間抜けねぇ」

 つい先頃迄同じ境遇であった筈なのに、もう忘れたのか。ケタケタと笑いながら、絨毯の方へと目を寄せる。

「それで、アスタロトの城にその絨毯で入り込み、頼まれたわけ」
「そうなんです。彼女は秘密主義なのか、あまり情報を貰えなくて」

 残念そうに言う於菟春は、ヴェパルの表情を見逃さないよう、注意深く見つめた。
 そんな彼に、ヴェパルは人差し指を唇にあて、いたずらっ子のように笑った。

「彼女?」
「ええ。背の高いスレンダーな……。なぁ」
「キレイ系の女性やったよ」
「ふぅん」
「あっ、あの、あなたもとてもおキレイですよ。その、波間に光る髪の毛とか、瞳の色も」

 そんなことを必死で言いながら、どこか吟遊詩人にでもなったような気になる。いや、吟遊詩人であれば、もっと言葉巧みに褒めそやすのだろうが。

「ふふ」

 彼女はさらに楽しそうに笑い、絨毯の周りを、すい、と泳いだ。海に軌跡が残る。まるで黄金の道のように、軌跡が。人魚に惑わされ、海で生命を失うのは、歌声だけではないのかもしれない、などとぼんやりと思った。
 絨毯の周りを一周したヴェパルは、ぴしゃん、と水面を尾びれで打ち立てる。そうして、その勢いで絨毯の端に腰をかけた。

「そうねぇ。知ってるけど教えてあげない」
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