ランプの魔神を探して

穴澤空

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 私のその言葉に、ルフはにんまりと笑う。

「じゃぁその半身ってのはイシュタルの旦那を考えれば良いのか」

 地面に落ちている黒曜石の欠片を手にし、於菟春は呟いた。うん、と返しながら、私はかつて読んだ本の記憶を辿る。
 女神イシュタル。メソポタミアの女神である。性愛と戦、正義と律法、金星を守護し豊穣の神としても崇められていた。

 多くの多神教の神の場合に違わず、一神教としてのユダヤ教が生まれると、その立場は悪魔、魔神へと落とし込まれていく。その過程で、多くの他の神を習合し、姿を変えていくことがあった。イシュタルはその一つで、ソロモン王が封じた悪魔、魔神の中では数少ない女神を元とするものだ。
 だが、ユダヤ教の神への賛美は、当時のイシュタルへの賛美を盗用したものが多く、それが故、悪魔、魔神へと身を落とされた後も、イシュタルとしての矜持と力を持ち続ける事が可能であった。

 その、女神イシュタルの配偶者である。
 正式な配偶者は存在していない──歴代の王が、その立場としてイシュタルの代わりの神殿神聖娼婦と結ばれるという儀式があった為とも言われている──が、多くの愛人を持っていた。中でも、母であり、かつ花嫁として、自身をその立場に置いた相手がいる。それが──。

「確か──タンムーズ」

 尖った黒曜石に先端で指をちり、と切ってしまった。慌ててその指先を舐めると、ふと思い出した、と名を挙げた。

「タンムーズか、初めて聞くな。ランプの精の名前だったりしたら笑えるが」
「そう言えば、謎解きに夢中になってたけど、私たちが無事に帰れるかどうかは、ランプの精にかかっとるんやった」

 ため息をつくと一つの哀しみが、私たちに近寄ってきた。

「ん? 今私が哀しみを生み出したんやろうか」
「いやエリカ。よく見ろ」

 於菟春の言葉に、その哀しみをじっと見る。彼は何かを伝えようと手を差し出してきた。

「……お代わりか?」
「物語を作るのは得意なのに、こういうのはダメだな、お前」
「失礼なやつやわ」
「俺はその姿を、小さいころ絵本で見たことがある」

「君も絵本を読んどったんか」
「それこそ失礼だな。可愛い可愛い於菟春ちゃんは、大好きな絵本がたくさんあったぜ」
「へぇ、例えば例えば?」

 思わずそちらに夢中になると、於菟春に笑われてしまった。

「今はそれじゃないだろう」
「そうやった。それで──あっ!」

 ようやく合点がいった。

「ランプの精や!」
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