上 下
1 / 1

特撮に興味ない彼女と、シン・ウルトラマンを見に行った話

しおりを挟む
「シン・ウルトラマン?」

 いつも待ち合わせに使うカフェで、コーヒーカップから口を離し、彼女は眉を顰めた。

「そんな子供向けの映画を私に見せる気?」
「バカにしたもんじゃないぜ」

 平静を装い僕は答えた。

「大ヒットしてる。もうすぐ興収30億だ」
「そんなの名探偵コナンだって、クレヨンしんちゃんだって大ヒットしてるじゃない」

 コナンもしんちゃんも、大人が見ても楽しめるよ、と言いかけて僕は言葉を飲み込んだ。
 オタクでない彼女と付き合うには、幾つもの言葉を飲み込む事が必要だ。

「スタッフがシン・ゴジラを作った人たち。エヴァンゲリヲンも作ってるんだ。知ってるだろ? エヴァ」
「会社の男の子達が話してた。ガンダムのお友達でしょ?」

 結局彼女は「ギブ&テイクね。貴方こないだ私が観たいオペラに付き合ってくれたし」と、シン・ウルトラマンに同行してくれた。

 僕は二回目の鑑賞である事は黙っていた。
 「なんで同じ映画を二回観るの?」と本気で驚かれるからだ。
 僕自身がネットでのネタバレを避けたかったのと、彼女に見せて大丈夫な映画かどうか確かめる為に、初日に観ていた。

 エンドテロップが終わり館内が明るくなる。
 互いに無言で出口に向かうが、彼女の反応が気になり仕方がない。「

 居眠りはしてなかったし、数カ所では笑っていた様だ。

 「今度『極主夫道』やるんだね」そんな映画の感想には触れない会話をしつつ、夕暮れの街を僕らはお気に入りのエスニック料理の店へ向かった。

「うん、よかった」

 ピニャコラーダを飲みながら彼女は言った。

「特撮が凄くて、本物の怪獣かと思った。でも長澤まさみが大きくなるから、やっぱ特撮か」
「あれは元のウルトラマンに同じシーンがあって、同じ場所で撮影してんだぜ」

 つい癖で、オタク知識を自慢げにひけらかしてしまい、僕はしまった、と思ったが、彼女は「そうなの」と普通に感心したのでホッとした。

「でも切ない話だね」

 彼女の意外な一言に、僕は思わず問い返した。
 
「切ない?」
「だって長澤まさみは、ウルトラマンが中に入った斎藤工しか知らないでしょ。彼女は一体、誰を見ていたのかな」

 予想もしなかった彼女の言葉に「偽ウルトラマンを殴った後、手を痛がるの最高だよな」とか思っていた僕は気まずくなり、ブルー・ハワイを飲み干した。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...