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閑話「悪役令嬢のお願い事」
しおりを挟むアルティミシアは先日のクロードとの一件があってから、心と体はずっとクロードの冷酷な瞳に蔑まれることを求め続けていた。そのせいで日々悶々としていて、いくら自分で慰めても全く刺激が足りていない状態が続いていた。
もうそろそろ色々な意味で耐えられそうにないので、何とかしてもう一度クロードに会えないかと彼の婚約者であるアリアに相談してみることにしたのだった。
「アリアさん、ちょっとよろしいかしら」
「ア、アルティミシアさん!? …えっと…なんの用なのですか?」
教室に一人でいたアリアに話しかけると、まるで小さい子犬が大型犬に睨まれた時のように物凄く警戒している。しかしアルティミシアはここで引下がる訳には行かなかった。これ以上我慢していたら欲望が暴走してどんな行動に走ってしまうか彼女自身分からないからだ。
「アリアさん、貴女に大切な話があるのです。どうか聞いて頂けませんか? この通り、お願い致しますわ!」
公爵令嬢であるアルティミシアは頭を下げられることはあっても、自分から人に頭を下げることなど滅多にしない。周囲の生徒達はそんな光景に何事かと様子を伺っているが、本人はもう形振り構っていられない状態なのでそんなことを気にしてはいられなかった。
アルティミシアがアリアに誠心誠意お願いしていると、そこに割り込むように誰かが間に割って入ってきた。
「アルティミシアさん、アリアちゃんに何をしているのですか?」
「アリアちゃんに近づかないで」
ララティアとティアリスがアリアを後ろに庇いつつアルティミシアから遠ざけている。アルティミシアは一体何の権利があってそんなことをするのか疑問に思ったが、今までアリアを虐めてきたことを考えると仕方ない、というか当然の防衛行動だろう。だがアリアを虐めてきたことなど気にも止めていないアルティミシアはまったく理解できていない。
「2人してなんの真似ですの? 私はアリアさんと大切なお話ししているのだから邪魔しないで下さるかしら?」
「大切な話ってなんですか? よろしければ私が代わりに聞きますわ」
「…貴女なんかに話せるようなことじゃありませんわ。私はアリアさんに聞いていただきたいのです。なぜ邪魔をするのかは知りませんがそこを退いて頂けるかしら」
「それは無理ですわね。クロード様からアリアちゃんを守ってくれと頼まれている以上、あなたの好き勝手にはさせませんわ!」
「断固阻止」
クロードからそんなことを頼まれていたのかと驚愕する。しかし今日のアルティミシアは別にアリアに話を聞いて欲しいだけで危害を加える気はない。だがこうなってはアリアと二人きりになれないと理解したアルティミシアはララティア達にも自分の気持ちを聞いてもらおうと決意した。
「分かりましたわ。それでは今日の放課後、第3校舎裏でお待ちしていますから貴女達2人も一緒にいらしてください。そこでお話致しますわ。必ず来てください。必ずですわ。いいですわね!!」
お願いしているにも関わらずいつも通り態度がでかいアルティミシアだった。
~ララティア視点~
そして放課後。向こうが一方的にしてきた約束通り、アリアちゃん達を連れてアルティミシアさんが指定した第3校舎裏へとやって来た。そこにはいつもの取り巻きの姿はなく、アルティミシアさんが1人で待ち受けていた。
「あら、来ましたわね。お待ちしておりましたわ」
「…それで、話ってなんですの? 碌でもないことならすぐにアリアちゃんを連れて帰らせて頂きますからね。話を聞いて欲しいと言ってきたのは貴女なのですから言葉は選んでくださいませ」
「わ、わかりましたわ。話というのは…クロード様のことなのです!」
「クロードのこと?」
アルティミシアさんがなんかごちゃごちゃ言っていたのでそれを要約すると、どうやらクロード様にもう一度会わせて欲しいとのことだった。アリアちゃんの婚約者に会わせて欲しいとそのアリアちゃん本人に頼むとか…この人は一体何を考えているのでしょうか。
「そ、そんなこと出来るわけないでしょう。クロード様はアリアちゃんの婚約者なんですのよ!!」
「横取りしようとしても無駄。クロード様はアリアちゃんに夢中」
「よ、横取りしようだなんて考えていませんわ! 私はただ、もう一度お会いして…」
「…会ってどうする気なんですの?」
言い淀んでいるところを見ると碌なことは考えていないのでしょう。そんな人をクロード様に会わせるわけにはいきませんわ! これは絶対阻止しないと。
「もう帰りましょうアリアちゃん。これ以上は彼女の話を聞いても無駄ですわ」
「待ってララちゃん! あの、アルティミシアさん。クロードのことをどう思っているのですか?」
放っておけばいいのにそんな事を聞くアリアちゃん。ホントに優しい子ですわね。
「私は…クロード様のあの私を蔑んだ瞳に魅了されてしまったのです。だからもう一度、もう一度だけ私をあの冷たい瞳で蔑んで欲しい。あの声で罵倒して欲しい。あの拳で痛めつけて欲しいのですわ!!」
へ、変態だ…。アルティミシアさんは痛めつけられ、蔑まれて喜ぶ変態さんだったのですわ!!
「そんな変態行為にアリアちゃんを巻き込まないで頂きたいですわ!」
「それは流石にレベル高すぎ。私でもついて行けない領域」
「?? どういうことなのですか?」
純真なアリアちゃんはなんのことか分かっていないらしい。ぜひそのままの貴女でいて欲しいですわ。
「もう話は終わりですわ。帰りますわよアリアちゃん!」
これ以上話していたらアリアちゃんが汚れてしまいます。
「んー…あの、アルティミシアさん。何のことか分からないですけど、クロードにお願いしたいことがあるなら直接お願いしてみたらいいのですよ。クロードは優しいですから、女の子からのお願いならきっと叶えてくれるですよ?」
「アリアさん…よろしいのですか!?」
「ちょ、いいのですかアリアちゃん! アルティミシアさんはクロード様に惚れていて、そんなことを許したらクロード様を盗られる可能性だってあるんですのよ!?」
「…そうなのですか!?」
「そ、そんな訳ありませんわ! 私はただあの凍えるような瞳で蔑まれたいだけなのです!」
正直それもどうかと思うのですが。この人の性癖が測りしれませんわ。
「それならいいのですよ。クロードは次の土の日に来るから、私からもアルティミシアさんのお願いを聞いてあげて欲しいって言っておくのです」
「アリアさん…ありがとうございます。この恩は必ずお返し致しますわ!」
そんな事お願いしてクロード様はどう思われるのでしょう…。まぁ嫌われるのはアルティミシアさんだから別にいいのですけどね。次の土の日がちょっと楽しみですわ。
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