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第124話「リンダールヘイス神聖国」
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魔導王との宴会の翌日、もうあまり時間もないので観光は後回しにして、さっさと神聖国へ行くことにした。そのことをみんなに告げると、魔導王やレイヴァルト侯爵。そしてミーティア様がわざわざ見送りに来てくれた。
ミスティリア王女様も来たがっていたらしいが、仕事があるからと泣く泣く諦めたらしい。まぁどうせ近いうちにまた来るんだからちょっと大げさな気もするけど、お見送りして貰えるってのは嬉しいもんだね。
「それじゃ細かい打ち合わせはまた後日ってことで。これからリンダールヘイス神聖国にも協力要請しに行かなきゃいけないので、一旦ここで失礼させていただきますね」
「あの国に協力要請ね…。それなら行く前に1つ忠告しておいてやる。神聖国の説得は容易じゃないだろう。特にあの女狐…じゃない。女教皇はかなりの曲者だから注意しとけよ」
「曲者って、具体的には?」
「陰湿だし、ねちっこいし、人の揚げ足を取ってくる。あと人が困ってる所を見るのが好きな厄介な性格をしている。よくあんなのが女教皇になれたなと感心するほどだ」
…随分と厄介な人みたいだな。そんな話聞かされたら行く気が無くなってきたんだが。
「それと、効果があるかはわからんが俺からも手紙を用意しておいた。会った時にでも女教皇に渡してくれ」
魔導王から国の正式な押印で封がされた赤い手紙を受け取る。これはありがたいね。
「魔導王陛下は手紙を書くようなキャラじゃないのに…わざわざありがとうございます。必ず女教皇に渡します!」
『そうしてくれ』と頭を軽く小突かれてしまった。地味に痛い。魔導王に貰った手紙を【無限収納】に仕舞っていると、レイヴァルト侯爵が俺の肩に手を置いてくる。
「クロード君……必ず生きて帰ってきてくれよ。ミーティアを幸せにする前に死んだら許さんからな!」
死んだら許さんって…そんなに物騒な国なんだろうか神聖国?
「勿論ですよ。簡単に殺されるつもりはありませんから安心してください。ミーティア様も声を出す練習頑張ってくださいね。次会うときは練習の成果を見せてもらいますよ?」
つ『いっぱい頑張ります。だからクロード様も気を付けて下さいね』
ミーティア様の頭を優しく撫でてから、懐から転翔の羽を取り出す。目的地はリンダールヘイス神聖国上空。ブラックハートで魔導国に来るときに通ったから、そこまでなら飛べるはずだ。
「それでは行ってきます。色々ありがとうございました!」
魔導国からの転移が完了すると、イメージ通りリンダールヘイス神聖国上空に出る事が出来た。そこからはスカイダイビングっぽく高速で下降して行き、地表が近づいてきたら【念動魔法】で体を浮かせてゆっくりと着地する。なんとか位置調整してリンダールヘイス神聖国の入場ゲート前に降りることに成功した。
入場ゲートでは入国待ちの人達による長い行列が出来ていて、白いローブを着た兵士達が入念に入場者チェックを行っていた。俺は一応貴族であり使者なのでその列を離れ、その横にある貴族用の入口から中に入ることにする。しかし、通ろうとすると速攻で白ローブに止められた。
「おい止まれ小僧! そっちの扉は貴族様専用の入場門だ。お前みたいなちっこいガキが通れる門じゃないんだよ! 入場したければ大人しく向こうの列に並べ!」
ちっこいガキ・・・またか。こいつらみんな不敬罪で訴えてやろうかな。
「貴族だから通ろうとしているのがわからないのか? 私はクリスティア王国からの使者、クロード=グレイナード子爵である。リンダールヘイス女教皇猊下に緊急の要件がある。大人しく道を開けよ!」
「「「!?」」」
使者の証と貴族証を掲げると、それを見た白ローブ達は一斉に地面に膝をつき頭を垂れた。予想以上の威力にちょっとびっくりだ。その中から1人の男が立ち上がり、こちらに近寄ってくる。
「クリスティア王国からの使者殿とは知らず、部下が大変失礼いたしました。私はここの警備を取り仕切らせて頂いている警備兵長のワルサーと申します。申し訳ありませんが、今リンダールヘイス神聖国は厳戒態勢を敷いており、使者殿であってもすぐに通すわけには参りません。こちらで検査を受けて頂きたく思います」
「厳戒態勢…何かあったのか?」
「はっ。実は……」
この警備兵長の話によると、現在神聖国内では他国の人間による暴行傷害事件が多発していて、神聖国民に多くの被害者が出ているらしい。その加害者達は皆ここに来た時は前歴もない普通の旅行者だったのだが、入国した当日に突然街の中で暴れまわり現行犯逮捕されたそうだ。しかし、その加害者達は自分が神聖国の中で暴れたことを誰1人として覚えていなかったらしい。
…まるで誰かに操られていたとしか思えない状況だな。もしかしたら闇人形が関わっているのかもしれない。あいつらは他者を洗脳して自分の思い通りに操れるからね。なんでそんなことやらせてるのかは知らんけど注意が必要だろう。
「まぁ話は分かった。それで検査って何をすればいいんだ?」
「まずはこちらで荷物を調べさせて頂きます」
検査内容は荷物チェックに魔道具による身体検査と質疑応答。他には薬物チェックや十神教の信徒であるかの確認なんかも行われた。まぁ俺の場合実家が十神教だし薬物もやってない。軽い荷物以外は全部【無限収納】に入れてあるから荷物チェックも意味ないんだけどね。
「確認終了致しました。特に問題は見当たりませんでしたので入国を許可致します。長い時間お付き合い頂き、ありがとうございました」
「ご苦労様。それじゃ通らせてもらうね」
検査やらなんやらでかなりの時間が取られ、昼頃来たはずなのに終わった頃にはもう夜になっていた。予定が狂ってしまったが仕方ない。今日はもうどこかの宿屋に一泊して、明日女教皇に会いに行こう。
「ここがリンダールヘイス神聖国か…」
入場門から中に入ると、ずっと先まで続く白いレンガの道とその横に並ぶように建っている白い家。あとはその白くて長い道の真ん中に立つ街灯が神聖国の中心にある大聖堂までずっと続いているだけだった。もう夜だからかもしれないが、人通りが巡回中の白ローブの兵士以外殆ど見えない。酒場などの娯楽施設も少ないらしく、魔導国の街並みとはえらい違いだな。
宿屋がどこにあるかわからないので、ちょうど近くを巡回していた兵士に場所を聞くことにした。
「すいませーん。ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
「ん? なんだい坊や。道に迷ったのかな?」
「そうなんですよ。宿屋を探しているんですが、この辺にありませんか?」
「宿屋ね。それならここの道を暫く真っ直ぐ行った所に『ゴッドレスト』っていう宿屋があるよ。そこになら泊まれるはずだから行ってみるといい。あと最近物騒だからあまり外を出歩かないようにね」
「分かりました。ありがとうございます」
兵士と別れ、教えてもらった通り道を真っ直ぐに歩いていく。だがこの街はおかしい。夜なのになんで民家に光が点ってないんだ? もう寝てしまったのだろうか。
そんなことを考えながら歩いていると、どこかから微かにドスッ、ドスッと何かを刺しているような音が聞こえてきた。それと一緒に苦しそうに呻く男の声も。何故か無性に気になったので、俺は急いでその声が聞こえた方向へと向かう。しばらく走って現場に到着すると、そこには返り血で染まった赤いローブを着た兵士が、血で真っ赤に染まった剣で地面に倒れている男を何回もメッタ刺しにしている猟奇的な光景が広がっていた。
「グゥッ…ハァァァ…フンガアアアア!!」
ドスッ! ドスッ! ドスッ!
多分もう刺されている男は事切れていると思うが、兵士はそれを気にする様子もなく動かなくなった男にひたすら剣を刺し続けていた。その場には血溜りが出来ていて、血の鉄臭い匂いが辺りを充満している。これ以上死体蹴りする光景は見たくないので、さっさと兵士を捕縛することにした。
「いい加減にしろ! 『雷縛鎖』!」
「グウッ!? ウガアアアアアアアアアッ!!」
雷の鎖であっという間に雁字搦めにされた兵士は地面に倒れたあと叫び声を上げている。そんなに叫んだところで俺の魔法は解けねぇよ。とは言うものの、捕まえたはいいがコイツの処理ってどうすればいいんだろう? このまま街の中を引きずって歩くわけにもいかないし、俺がここから動くのも問題ありそうだ。なので、巡回中の兵士にこの場を知らせる為に信号弾を打ち上げてみることにした。早速『超閃光弾』を空高く打ち上げて、空中で破裂させる。
ひゅ~~……――――ドオオォォンッ!!
暗い夜空に明るい光が花咲いた。なんとなく花火っぽくしてみたんだが兵士連中は気が付いてくれるかな? それから暫くすると数人の足音がこちらに近づいてくる。姿を現したのは全員白ローブの兵士達だ。その中には先ほど宿屋の場所を教えてくれた兵士もいた。
「こ、これは!? 酷いな…」
「あれ? 君はさっきの迷子くんじゃないか。なんでこんなところにいるんだい?」
「どうも。さっきぶりですね兵士さん」
俺はその優しそうな兵士に俺の身元を告げたあと、先程発見したこの現場の状況をそのまま伝える。そして犯人である兵士を『雷縛鎖』で縛り上げたまま引き渡すことにした。
「ガウウゥゥゥ! フガアアアアッ!!」
「こいつはツヴェルク…ツヴェルクじゃないか! なんでこんなことを…」
「お知り合いですか?」
「えぇ。彼は私と同期の兵士で友人なんです。昨日も仕事終わりに一緒に飲んで馬鹿なことを笑いながら話していたのに……何でこんなことを……信じられない」
兵士はそう言って縛られている犯人に近寄り、肩を掴んで呼びかける。
「おいツヴェルク!! どうしてこんなことをしたんだ! お前は優しいくていい奴なのになんで……それに、お前には奥さんと小さい子供もいるってのに、俺は彼女達になんて伝えりゃいいんだぁ!!」
「グウウウ…ガアッ! ガアアアァァァァァァッ!!」
「ツヴェルク…」
その後も元に戻る様子がなかった犯人は、他の兵士の手でしっかり捕縛されてからどこかに連れられて行かれてしまった。もしあれも闇人形の仕業だとしたら、もう既にこの街の中に侵入しているのかもしれない。あとで調べておいた方が良さそうだな。
「あの…子爵様。私の友人を捕まえてくれて感謝致します。もし仮に元に戻らなかったとしても、あいつは俺がしっかり改心させますのでお任せ下さい!」
「えぇ、分かりました。頑張ってくださいね」
頭を下げながら礼を言う兵士と別れ、殺人現場から元いた場所に戻ってきた俺は再び宿屋を探すことにした。すると、道の先に一軒だけ光が点った宿屋らしき店を発見する。看板にはさっきの兵士に教えてもらったとおり『ゴッドレスト』と書かれていた。
早速店の中に入ると1階は酒場らしく、何人かの兵士が仕事終わりに酒を飲んでいるようだ。その奥に店員らしき影が見えたので声をかけてみる。
「すいませーん」
「はーい! ご注文ですかぁ?」
出てきたのは茶色い髪をお下げにした可愛い女の子だった。歳は多分16歳前後。貧乳だが人懐っこい笑顔が眩しい看板娘ってところか。
「いえ、食事じゃなくて泊まりたいんですけど、お部屋って空いてますか?」
「空いてますよぉ。お一人様一泊銀貨6枚になりますがよろしいですか?」
ちょっと高めだな。でもそのくらいなら問題ないので了承することにした。
「大丈夫です。それでお願いします」
「畏まりましたぁ! お母さーん、お泊りのお客さんが来たからお部屋に案内してくるねー!」
「分かったわ。これ、部屋の鍵ね」
母親らしき人から鍵を受け取った女の子に部屋に案内してもらう。部屋は2階にあるらしく、6畳間の部屋の中にはベッドとタンスが置かれただけの簡素な作りだった。まぁ泊まるだけならこれで十分だな。
「お風呂は1階で、24時まで入れます。あと朝食は7時から9時までに1階に食べに来てくださいね」
「分かりました。…ところでお姉さん。お名前を聞いてもいいですか?」
「へっ? エマですけど…」
「エマさんね。俺はクロードって言います。エマさんにちょっと聞きたいことがあるんですけど、聞いてもいいですか? 時間は取らせませんので」
ここに来るまで色々あったからな。せっかくだからこの神聖国のことを色々聞かせてもらおう。
ミスティリア王女様も来たがっていたらしいが、仕事があるからと泣く泣く諦めたらしい。まぁどうせ近いうちにまた来るんだからちょっと大げさな気もするけど、お見送りして貰えるってのは嬉しいもんだね。
「それじゃ細かい打ち合わせはまた後日ってことで。これからリンダールヘイス神聖国にも協力要請しに行かなきゃいけないので、一旦ここで失礼させていただきますね」
「あの国に協力要請ね…。それなら行く前に1つ忠告しておいてやる。神聖国の説得は容易じゃないだろう。特にあの女狐…じゃない。女教皇はかなりの曲者だから注意しとけよ」
「曲者って、具体的には?」
「陰湿だし、ねちっこいし、人の揚げ足を取ってくる。あと人が困ってる所を見るのが好きな厄介な性格をしている。よくあんなのが女教皇になれたなと感心するほどだ」
…随分と厄介な人みたいだな。そんな話聞かされたら行く気が無くなってきたんだが。
「それと、効果があるかはわからんが俺からも手紙を用意しておいた。会った時にでも女教皇に渡してくれ」
魔導王から国の正式な押印で封がされた赤い手紙を受け取る。これはありがたいね。
「魔導王陛下は手紙を書くようなキャラじゃないのに…わざわざありがとうございます。必ず女教皇に渡します!」
『そうしてくれ』と頭を軽く小突かれてしまった。地味に痛い。魔導王に貰った手紙を【無限収納】に仕舞っていると、レイヴァルト侯爵が俺の肩に手を置いてくる。
「クロード君……必ず生きて帰ってきてくれよ。ミーティアを幸せにする前に死んだら許さんからな!」
死んだら許さんって…そんなに物騒な国なんだろうか神聖国?
「勿論ですよ。簡単に殺されるつもりはありませんから安心してください。ミーティア様も声を出す練習頑張ってくださいね。次会うときは練習の成果を見せてもらいますよ?」
つ『いっぱい頑張ります。だからクロード様も気を付けて下さいね』
ミーティア様の頭を優しく撫でてから、懐から転翔の羽を取り出す。目的地はリンダールヘイス神聖国上空。ブラックハートで魔導国に来るときに通ったから、そこまでなら飛べるはずだ。
「それでは行ってきます。色々ありがとうございました!」
魔導国からの転移が完了すると、イメージ通りリンダールヘイス神聖国上空に出る事が出来た。そこからはスカイダイビングっぽく高速で下降して行き、地表が近づいてきたら【念動魔法】で体を浮かせてゆっくりと着地する。なんとか位置調整してリンダールヘイス神聖国の入場ゲート前に降りることに成功した。
入場ゲートでは入国待ちの人達による長い行列が出来ていて、白いローブを着た兵士達が入念に入場者チェックを行っていた。俺は一応貴族であり使者なのでその列を離れ、その横にある貴族用の入口から中に入ることにする。しかし、通ろうとすると速攻で白ローブに止められた。
「おい止まれ小僧! そっちの扉は貴族様専用の入場門だ。お前みたいなちっこいガキが通れる門じゃないんだよ! 入場したければ大人しく向こうの列に並べ!」
ちっこいガキ・・・またか。こいつらみんな不敬罪で訴えてやろうかな。
「貴族だから通ろうとしているのがわからないのか? 私はクリスティア王国からの使者、クロード=グレイナード子爵である。リンダールヘイス女教皇猊下に緊急の要件がある。大人しく道を開けよ!」
「「「!?」」」
使者の証と貴族証を掲げると、それを見た白ローブ達は一斉に地面に膝をつき頭を垂れた。予想以上の威力にちょっとびっくりだ。その中から1人の男が立ち上がり、こちらに近寄ってくる。
「クリスティア王国からの使者殿とは知らず、部下が大変失礼いたしました。私はここの警備を取り仕切らせて頂いている警備兵長のワルサーと申します。申し訳ありませんが、今リンダールヘイス神聖国は厳戒態勢を敷いており、使者殿であってもすぐに通すわけには参りません。こちらで検査を受けて頂きたく思います」
「厳戒態勢…何かあったのか?」
「はっ。実は……」
この警備兵長の話によると、現在神聖国内では他国の人間による暴行傷害事件が多発していて、神聖国民に多くの被害者が出ているらしい。その加害者達は皆ここに来た時は前歴もない普通の旅行者だったのだが、入国した当日に突然街の中で暴れまわり現行犯逮捕されたそうだ。しかし、その加害者達は自分が神聖国の中で暴れたことを誰1人として覚えていなかったらしい。
…まるで誰かに操られていたとしか思えない状況だな。もしかしたら闇人形が関わっているのかもしれない。あいつらは他者を洗脳して自分の思い通りに操れるからね。なんでそんなことやらせてるのかは知らんけど注意が必要だろう。
「まぁ話は分かった。それで検査って何をすればいいんだ?」
「まずはこちらで荷物を調べさせて頂きます」
検査内容は荷物チェックに魔道具による身体検査と質疑応答。他には薬物チェックや十神教の信徒であるかの確認なんかも行われた。まぁ俺の場合実家が十神教だし薬物もやってない。軽い荷物以外は全部【無限収納】に入れてあるから荷物チェックも意味ないんだけどね。
「確認終了致しました。特に問題は見当たりませんでしたので入国を許可致します。長い時間お付き合い頂き、ありがとうございました」
「ご苦労様。それじゃ通らせてもらうね」
検査やらなんやらでかなりの時間が取られ、昼頃来たはずなのに終わった頃にはもう夜になっていた。予定が狂ってしまったが仕方ない。今日はもうどこかの宿屋に一泊して、明日女教皇に会いに行こう。
「ここがリンダールヘイス神聖国か…」
入場門から中に入ると、ずっと先まで続く白いレンガの道とその横に並ぶように建っている白い家。あとはその白くて長い道の真ん中に立つ街灯が神聖国の中心にある大聖堂までずっと続いているだけだった。もう夜だからかもしれないが、人通りが巡回中の白ローブの兵士以外殆ど見えない。酒場などの娯楽施設も少ないらしく、魔導国の街並みとはえらい違いだな。
宿屋がどこにあるかわからないので、ちょうど近くを巡回していた兵士に場所を聞くことにした。
「すいませーん。ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
「ん? なんだい坊や。道に迷ったのかな?」
「そうなんですよ。宿屋を探しているんですが、この辺にありませんか?」
「宿屋ね。それならここの道を暫く真っ直ぐ行った所に『ゴッドレスト』っていう宿屋があるよ。そこになら泊まれるはずだから行ってみるといい。あと最近物騒だからあまり外を出歩かないようにね」
「分かりました。ありがとうございます」
兵士と別れ、教えてもらった通り道を真っ直ぐに歩いていく。だがこの街はおかしい。夜なのになんで民家に光が点ってないんだ? もう寝てしまったのだろうか。
そんなことを考えながら歩いていると、どこかから微かにドスッ、ドスッと何かを刺しているような音が聞こえてきた。それと一緒に苦しそうに呻く男の声も。何故か無性に気になったので、俺は急いでその声が聞こえた方向へと向かう。しばらく走って現場に到着すると、そこには返り血で染まった赤いローブを着た兵士が、血で真っ赤に染まった剣で地面に倒れている男を何回もメッタ刺しにしている猟奇的な光景が広がっていた。
「グゥッ…ハァァァ…フンガアアアア!!」
ドスッ! ドスッ! ドスッ!
多分もう刺されている男は事切れていると思うが、兵士はそれを気にする様子もなく動かなくなった男にひたすら剣を刺し続けていた。その場には血溜りが出来ていて、血の鉄臭い匂いが辺りを充満している。これ以上死体蹴りする光景は見たくないので、さっさと兵士を捕縛することにした。
「いい加減にしろ! 『雷縛鎖』!」
「グウッ!? ウガアアアアアアアアアッ!!」
雷の鎖であっという間に雁字搦めにされた兵士は地面に倒れたあと叫び声を上げている。そんなに叫んだところで俺の魔法は解けねぇよ。とは言うものの、捕まえたはいいがコイツの処理ってどうすればいいんだろう? このまま街の中を引きずって歩くわけにもいかないし、俺がここから動くのも問題ありそうだ。なので、巡回中の兵士にこの場を知らせる為に信号弾を打ち上げてみることにした。早速『超閃光弾』を空高く打ち上げて、空中で破裂させる。
ひゅ~~……――――ドオオォォンッ!!
暗い夜空に明るい光が花咲いた。なんとなく花火っぽくしてみたんだが兵士連中は気が付いてくれるかな? それから暫くすると数人の足音がこちらに近づいてくる。姿を現したのは全員白ローブの兵士達だ。その中には先ほど宿屋の場所を教えてくれた兵士もいた。
「こ、これは!? 酷いな…」
「あれ? 君はさっきの迷子くんじゃないか。なんでこんなところにいるんだい?」
「どうも。さっきぶりですね兵士さん」
俺はその優しそうな兵士に俺の身元を告げたあと、先程発見したこの現場の状況をそのまま伝える。そして犯人である兵士を『雷縛鎖』で縛り上げたまま引き渡すことにした。
「ガウウゥゥゥ! フガアアアアッ!!」
「こいつはツヴェルク…ツヴェルクじゃないか! なんでこんなことを…」
「お知り合いですか?」
「えぇ。彼は私と同期の兵士で友人なんです。昨日も仕事終わりに一緒に飲んで馬鹿なことを笑いながら話していたのに……何でこんなことを……信じられない」
兵士はそう言って縛られている犯人に近寄り、肩を掴んで呼びかける。
「おいツヴェルク!! どうしてこんなことをしたんだ! お前は優しいくていい奴なのになんで……それに、お前には奥さんと小さい子供もいるってのに、俺は彼女達になんて伝えりゃいいんだぁ!!」
「グウウウ…ガアッ! ガアアアァァァァァァッ!!」
「ツヴェルク…」
その後も元に戻る様子がなかった犯人は、他の兵士の手でしっかり捕縛されてからどこかに連れられて行かれてしまった。もしあれも闇人形の仕業だとしたら、もう既にこの街の中に侵入しているのかもしれない。あとで調べておいた方が良さそうだな。
「あの…子爵様。私の友人を捕まえてくれて感謝致します。もし仮に元に戻らなかったとしても、あいつは俺がしっかり改心させますのでお任せ下さい!」
「えぇ、分かりました。頑張ってくださいね」
頭を下げながら礼を言う兵士と別れ、殺人現場から元いた場所に戻ってきた俺は再び宿屋を探すことにした。すると、道の先に一軒だけ光が点った宿屋らしき店を発見する。看板にはさっきの兵士に教えてもらったとおり『ゴッドレスト』と書かれていた。
早速店の中に入ると1階は酒場らしく、何人かの兵士が仕事終わりに酒を飲んでいるようだ。その奥に店員らしき影が見えたので声をかけてみる。
「すいませーん」
「はーい! ご注文ですかぁ?」
出てきたのは茶色い髪をお下げにした可愛い女の子だった。歳は多分16歳前後。貧乳だが人懐っこい笑顔が眩しい看板娘ってところか。
「いえ、食事じゃなくて泊まりたいんですけど、お部屋って空いてますか?」
「空いてますよぉ。お一人様一泊銀貨6枚になりますがよろしいですか?」
ちょっと高めだな。でもそのくらいなら問題ないので了承することにした。
「大丈夫です。それでお願いします」
「畏まりましたぁ! お母さーん、お泊りのお客さんが来たからお部屋に案内してくるねー!」
「分かったわ。これ、部屋の鍵ね」
母親らしき人から鍵を受け取った女の子に部屋に案内してもらう。部屋は2階にあるらしく、6畳間の部屋の中にはベッドとタンスが置かれただけの簡素な作りだった。まぁ泊まるだけならこれで十分だな。
「お風呂は1階で、24時まで入れます。あと朝食は7時から9時までに1階に食べに来てくださいね」
「分かりました。…ところでお姉さん。お名前を聞いてもいいですか?」
「へっ? エマですけど…」
「エマさんね。俺はクロードって言います。エマさんにちょっと聞きたいことがあるんですけど、聞いてもいいですか? 時間は取らせませんので」
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