グランピングランタン

あお

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第八章

階段

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冬休みが始まろうとしている12月の終わり。高校受験まであと2ヶ月を切っている。

「はぁ~。」

机に頭をつけ、深いため息を吐く龍。テストの点数が思っていたほど良くなく、受験する高校の平均点数には足りない。

「なんだ、ケアレスミスばっかりじゃねーかよ。」
「そーなんだよな…。見直ししたはずなんだけどなぁ。」
「見直しが雑なんだよ。急ぐのはわかるんだけど、一つ一つ確認するポイントがちゃんとしてないんだろ?テスト中、答え書いても気になったところに『レ点』でもつけとけば?」
「そーいうの、大事だよなー。はぁ…。」

龍に話しかけるのは、学級委員で勉強も出来る中山。県内トップクラスの進学高に進む予定だ。

「中山はさ、1日どれぐらい勉強してんの?」
「塾終わって帰って復習して…。…学校で授業受けてる時間も換算すると、だいたい15時間ぐらいかな。」
「15時間!?」
「うん。もう時間もないしね。」
「絶対受かるだろ。」
「絶対。はないね。頑張って勉強して落ちても、結局それは努力が足りなかった。ってことだからね。」
「言うことが違いますね中山君…」
「わからないことがあったら言ってくれ。じゃ塾があるから先帰るわ。また明日。」
「おう。また明日。」

この時期になると、放課後残って勉強をする。という人達がほぼ居なくなっていた。ほとんどの同級生は塾に通っていたので、塾に行かずに学校に残って勉強をする。というのは龍ぐらいだった。

〔なんか、寂しいなぁ…。田口達も塾行って友達できたって言ってたしな…。俺も行けばよかったかな。〕

そんなことを思いながらテストの間違い直し、これまでの復習を繰り返しノートに問題を解いていった。
夕陽が沈むのが早くなり、17時ぐらいには学校を出る。家に帰って夕食を食べ、その後は勉強。を繰り返す日々だった。時刻は21時30分を回ったあたり。少し勉強が落ち着き、外の空気を吸いたくて散歩に出た。

『チャリンチャリーン』

後ろから自転車のベルの音。振り向くと塾帰りの加奈子がいた。

「なにしてんのー?」
「ちょっと気分転換に散歩。」
「塾疲れたー。あ、この前のテストどうだったの?」
「良くはないね、東海ギリギリかも…。」
「えぇ!どこがわかんなかったの?」
「…ケアレスミスが多かったの。」

少し、勉強の話を外でする2人。

「ちょっとさ、俺に付き合えよ。」
「どこ行くの?」
「秘密基地だよ。はい、自転車交代。後ろに乗れ。」

言われるがままに自転車を龍に渡す。サドルに龍が乗り、後ろの荷台には加奈子が乗る。いわゆる、2人乗りだ。

「ちょ、ちょっと!ゆっくり進んでよ!」
「しっかり捕まっとけよー!いくぞー!」

ゆっくりペダルを踏み、ハンドルが少し左右にぐらつきながらも前に進んでいく。

「きゃー!!!」
「ばか!叫ぶな!夜なんだから静かにしろよ!!!」

怖がりながらもしっかりと龍の服を掴む加奈子。塾帰りで疲れていたはずが、一気に疲れを忘れさせる。
橋に差し掛かり、坂を登る。思いっきりペダルを踏み駆け上がる。橋の頂上に差し掛かる手前に、横に歩道がある。そこは河川敷だった。

「ふぅーついたー。」
「あー怖かった。ここって秘密基地でもなんでもないじゃん?」

自転車を停めて少し歩くと、河川敷には階段があり2人は階段に座る。

「ふぅー…」
「なんで河川敷が秘密基地なの?」
「ここさ、夜来ると橋のライトアップが綺麗なんだよ。」

至って普通の橋で特別な装飾がされた橋でもない。どこにでもあるような橋だ。

「ここの夜景が好きなんだ。」
「ふーん。ちょっとはロマンチックなこと言えるんだね。」
「なんかさ悩んだり思い込むようなことがあると、夜な夜なここに来たりしてるんだ。家からも遠くはないし、1人で来ることがほとんどだよ。俺にとっては秘密基地なもんだよ。」
「悩みでもあるの?」
「テストの点数見てちょっと不安になったんだよ。東海なんて俺にはちょっとレベル高かったかなーって。」
「そうかなー?」
「もともとは、自分の学力に見合ったとこ行こうとしてたからさ。」
「じゃ、なんで行こうと思ったの?私が誘ったから?」
「んー。」

口ごもる龍。その答えを待っている加奈子。

「………。加奈子が行くって聞いたじゃん。……。俺も行きたいなーって…。」
「んじゃ、頑張ろうよ。一緒に行こうよ東海高校に!」
「うん頑張るよ。」

少しドキドキした龍。加奈子は龍を見ている。

「な、なんだよ…」
「…あのさ、ちょっと身長伸びた?」
「さぁ…わからん。」
「さっき喋ってた時、そう思ったの。」
「成長期だし、伸びるだろ?」
「そーだね!」

微妙な空気感が流れる。2人ともたどたどしく、何を話せばいいかわからない。

「な、なぁ。高校に行ったら何したい?」
「そうねぇ…バイトしたい!」
「バイト?」
「うん!遊びに行きたいし、服も欲しいし!」
「里美さんはバイトしてるの?」
「うん、お姉ちゃんも高校入ってすぐバイトし始めたんだ。しかもバイト先の人といい感じなんだって。」
「そっか。出会いもあるもんな。」
「龍は何したい?」
「俺もバイトはしてみたいなー。」
「可愛い女の子いるかもよぉ?」
「そんなんじゃねーし。」

2人は先の話をし盛り上がり始めた。が、加奈子の携帯にお母さんからの電話が入る。

『どこにいるの?』
「あ、ごめん!塾終わって今、龍と河川敷にいる!」
『もう遅いから帰ってきなさい!!』
「はーい。」

時刻はもうすぐ23時になりそうだ。やべ!って顔をして龍は自転車のサドルに乗り、後ろには加奈子。寒い風邪が気持ちよく、わいわいしながら帰路に着く。

それから数日後、終業式。冬休みに入る。

『また来年ー!』

そんな声が色々なところから聞こえてくる。

「なぁなぁ木村!クリスマス何してる?」

声をかけてきたのは甲斐田。

「クリスマス?いや特に何もないけど。」
「なぁ!ダブルデートしない?」
「ダブルデートって…彼女いないだろ俺は。」
「高梨、誘っちゃえよ!」
「はぁ!?!?」
「いいじゃん誘っちゃえよ!4人でカラオケ行こうぜ!夕方ぐらいに行ってさ、そこで飯食ったりさ!遅くなる前に帰ろうぜ!」
「お前ら2人で行けばいいだろ。」
「4人の方が楽しいだろ!連絡待ってるからメールしてくれ!じゃ、またな!!」

そう言って甲斐田は帰って行った。

〔クリスマスか…。まぁ断られてもいいし誘ってみるか。〕

家に帰り着く龍。さっそく加奈子にメールをしてみる。

『クリスマス空いてる?甲斐田がダブルデートしようって言ってきて、高梨誘えってさ。』

〔送信と……。〕

加奈子からの返事は、夜の21時ぐらいだった。

『ごめん今塾終わった!クリスマスの日は夕方まで塾だから、それからならいーよ。』

ドキッとする龍。行けるのか…。とちょっとウキウキし始めた龍。嬉しいのかベッドにダイブした。

一方加奈子は塾が終わり、龍にメールした後、外に出て誰かを待っている。少し待つと加奈子の目の前に大きなバイクが停まった。バイクから降りヘルメットを脱ぐと、身長が高くイケメンの男が加奈子に話しかける。

「ごめん加奈子ちゃん。待った?」
「ううん。今終わったとこ!」
「じゃ、行こうかー」

そういうと、シートの下からヘルメットを取り出しす。加奈子に渡しバイクに跨る。加奈子はしっかりとヘルメットを被り、後ろに乗ってバイクは闇に消えて行った。


続く。
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