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第2ラウンド開始前
53.治療と考察(ファーマス視点)
しおりを挟む※ 主人公も後輩君もまだ起きませんので、師匠視点。
次で、そろそろ誰か起きるかな?
**************
馬車は街の中を急ぎ進む。
平日の昼下がりは、そこまで人も多くなく、流れはスムーズだ。
ガタン、と馬車が止まる。
外の団員から、声がかかる。
「ケネック副団長、着きました。」
「わかった。では、3名を中へ搬入する。」
ロイドは先に降りて、治療院の中へ向かったようだ。
治療院の前が急に騎士団に取り囲まれ、物々しい雰囲気に変わった事で、街の視線はコチラに集中している。
馬車から担架で降ろされる際に、ムカつく視線も感じ取るが、とりあえずは大人しく運ばれる。
寝たふりのまま、担架で治療院の中に運ばれると、バタバタと、奥からレザリックが出てくる。
「ファーマスっ?!・・・カン!リン!」
ロイドの説明を聞いたであろうレザリックは、俺の事はさて置き、坊主と嬢を見て顔色を変える。
ざっと見渡すと、入れる部屋の指示出しをする。
「ファーマスとリンは、奥の治療部屋があるので、そちらに。
カンは、ロイドの回復で大丈夫そうだ。そっちの回復部屋に運んでくれ。」
団員達は言われた通りに部屋へ運び入れる。
ガタガタバタバタと配置が終わり、団員達は、外に出て行く。
「そしたら俺はケネックと一緒に、冒険者ギルドに戻る。魔獣寄せの調査が纏まるまで、大人しくしとけよ。」
「おー。任せたぞー。」
ワザとらしく手を振ると、チッ、と舌打ちをして部屋を出て行った。
俺はベッドの上で起き上がると、脚に巻いていた包帯を取る。
「・・・で、ファーマス。コレはどういうことだ?」
ガチャガチャと各種器具を揃えたレザリックは、嬢の装備をはずし、巻かれた包帯と服を切り開きながら、問いかけてきた。
「何をどうしたら、こんなに身体がボロボロになる?
分かりやすい魔獣の噛み跡や腕や脚の骨折だけでなく、全身の筋繊維の細かな断絶に骨のヒビだ。
・・・何でこんな限界以上に身体を酷使させた?」
包帯と汚れた服をを取り除かれ、下着姿で横たわる嬢に【洗浄】をかける。
白い肌と対照的な、赤く筋肉の抉れた箇所に肉の再生を活性化するという薬剤をぬり、手早く回復魔法をかけていく。
流れるように処置を行いながら、話す声に怒気が混ざる。
「・・・狂戦士化だ。」
「あぁ゛?!」
レザリックは、睨みをきかせて、顔を上げる。
その状況でも、処置は続けるあたりがすげぇ。
「・・・何でそんな事になった。」
レザリックは、ぐ、と息を呑むと、視線を落とし、嬢の顔を痛ましそうに見る。
回復魔法をかけられている嬢の顔が、一瞬歪む。
「理由は分からんが。坊主が、ビグベルーに一撃食らって気絶した時に、な。」
「何があった。」
訝しがりながら、先を促すレザリック。
俺はあの場所で起こった事を時系列で伝えていく。
ビグベルー2体のうち、1体討伐後、巨大なビグベルーの出現。
セオリー無視の坊主の行動。
援護が間に合わず、坊主が頭に一撃を食らい倒れた後に、嬢が豹変したこと。
そして。
狂戦士から戻った時の、異様と思える取り乱し方・・・
「嬢の魔力を押さえた時に感じたのは、“絶望と恐怖”・・・そして“怒り”。」
「怒り?」
「あぁ。なんつーか。従者の感覚に似てると言うか・・・」
「“主人を守れなかった自分”に対しての“怒り”か?」
「あぁ。そんな感じだ。」
曖昧な俺の言葉を的確な表現に変えていく。
ふむ、と、考えるレザリック。
「あからさまな、カンの好意に対して目を向けようとしない割に、行く末は心配している。『自分の所為』と思う・・・か。
・・・なぁ、ファーマス?」
「何だ?」
「・・・この子達、《迷い人》だろ?」
ーーーやっぱり、コイツは自力でたどり着きやがったか。
どんなに隠し事しようとも、必ず真相に近い所に行き着く。観察眼が鋭すぎる。
降参、という具合に両手を広げ、首を竦める。
「その通りだ。お前にゃ敵わんわ。・・・でも、何でだ?」
「知らない料理、見たことのない武器、それに・・・何年か前に、コウがそんな話をしていたのを思い出した。そもそも『黒持ち』は、《迷い人》の特性だったようだ、とな。」
「コウが?」
《迷い人》の心残りの話なんかを聞いたのも確か、アイツだった気がする。
「何でまた、アイツ、そんなに《迷い人》に詳しいんだ?・・・調べたい事って、ソレだったのか?」
「・・・かもしれんな。
まぁ、《迷い人》だとすれば、リンはカンを転移に巻き込んだ、と思っている。そんな所かもな。」
コウのことを誤魔化しながら、話を本筋に戻したような気もするが。
とりあえず、話はそのままにしておく。
レザリックは、黙って何か考える様子で、嬢の傷口に再度薬を塗り、包帯を巻いていく。
回復魔法やポーションは、傷口を治すというより自己治癒能力を高め、傷の治りを早くするもの、だとレザリックは言っていた。
そのため外部からの魔力だけでは不十分で、本人の魔力、体力に依存すると。
そこを補うため、コイツは各種薬剤を開発し、回復魔法と掛け合わせた使い方をする。
王宮の治療院から、ずっと呼び出しを受けているが、年に1度くらい顔出すだけで、ここに居るんだよな。
『現場主義だからな。』とは言っていたが。
そんな事を思い出しながらレザリックの処置の様子を眺めていた。
奴はふう、と息を吐き、額の汗を拭うと、夜着がわりの大きめのシャツを着せ、寝具をかけた。
嬢は規則的な寝息をたてている。
「さて、処置は終わりだ。自己治癒力を最大まで高めているから、明日には治っていると思うが。」
「そうか。」
「お前は何でもないのか?膝は罠として。右肩の傷は?」
あぁ、と、俺は包帯で巻かれている肩に手をかけた。
「嬢に噛まれた痕だ。」
「まぁ、その程度なら、少し回復かけとくだけで大丈夫か。」
そっと肩に触れ、無詠唱で回復魔法をかける。
ちく、とした痛みの後、暖かい魔力が残る。
「じゃ、俺はカンの様子を見てくるから、リンの面倒は任せる。
熱や痛みが出るようなら、そのポーションを飲ませてやってくれ。」
「了解。
・・・あ、坊主が目覚めても、嬢の狂戦士化については言わないでくれるか?」
ちら、とリンを見て、ん、と頷くと、奴は器具類をもって部屋を出て行った。
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