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森へ帰ろう

89.休息と策略

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怪我の治ったクロフは、ゆっくりと立ちあがると、カンに頭をすり寄せた。
カンは再度クロフの身体をチェックし、怪我が治っていることを確認した。
子猫ヴェルは、嬉しそうにクロフの脚に擦り寄って行く。


「よしよし、大丈夫そうだな。・・・イーベさん、コイツ休ませてやってもらっても良いですか?」

「あ、あぁ、構わねえよ。連れてこい。・・・とりあえず、リンもそんなんだし、話も聞きてえから、2人とも俺んちに来い。」

「あぁ、分かった。」


ファーマスは、イーベの後に付いて、集落に入っていく。


『みゃぁ』


カンも付いて行こうとしたが、子猫ヴェルが、もう一体の馬の死体の側で鳴く。


「その馬が、どうした?」


大事そうに鳴く子猫ヴェルの様子から、死体に鑑定をかける。


「北門の馬、か。回収しとけってことかな?」


足に擦り寄る子猫ヴェルの様子から、判断が正しいのだろうと思い、カンは馬を空間収納へしまった。


『みゃぁう』

「どういたしまして。」


カンが手を出すと、子猫ヴェルはピョンと飛び乗り肩に登る。


「ヴェルも、お疲れ様。」


そっと撫でると、子猫ヴェルはゴロゴロと喉を鳴らした。
彼女が大事にしている相棒が、少し気を許してくれている気がして、カンの口角が緩む。


「じゃ、行こう。」


肩に子猫ヴェルを乗せたまま、カンは久しぶりに戻ってきた集落に入って行った。






イーベの自宅に行くと、ファーマスは客間のベッドにリンを寝かせた。

後から入ってきたカンは、すぐに【洗浄クリーン】をかけたのち、【診察スキャン】をし、リンの容態を探る。
外傷自体は擦り傷程度。疲労及び腕輪による常時魔力放出での魔力枯渇傾向を確認する。


「腕輪を外さないと、【回復ヒール】かけても治癒力は上がってかないなぁ。まぁでも擦り傷程度なので、とりあえずピオッティさん、ポーションで手当てをお願いします。腕の2か所と、お腹のここら辺。あと、ふくらはぎです。」


恥ずかしさなどおくびにも出さず、的確に指示を出す様子に、イーベとピオッティは目を見張る。


「おやまぁ、レザリック先生みたいだねぇ。分かったよ、任せておきな。
男達は話し合いだろ?さっさとやっといで。」


ピオッティが処置を請け負ってくれたため、3人は居間に移動する。
他の集落の面子も集まったため、早速ファーマスが、今回の騒ぎの概要を説明した。


「・・・つまりは、嬢ちゃんのあの武器狙いの馬鹿が騎士団に居て、魔力制御の腕輪付ける暴挙に出、迷惑被ってると。」

「そういう事だ。『ケルベロス』掃討のこともあり、リンは目立ちすぎた。ほとぼりが冷めるまで、しばらく、ここの守護を任せる事にするので、みんなよろしく頼む。」

「あぁ、分かったよ~。今の話聞いてただけで働きすぎ。ちょっと休んだら良いわぁ。」

「魔力使えなくても、私たちの手伝いは出来るし。問題ないって。」


口々に女性陣が話し、男性陣も、うんうんと頷く。
大概この集落の者たちは、《迷い人》の2人に甘い。

だから、安心して任せられる。
ファーマスはそんな事を思い、一息ついた。
イーベが腕組みしたまま尋ねる。


「腕輪は、いつ取れるんだ?」

「騎士団の出方によるが。団長の都合がつき次第だろうな。まぁ、アイツなら、すぐ来そうな気もするがな。
ま、そういうことで。」

「分かった。それまでは無理させないように、だな。」


話の内容を理解した住民たちは、自分の仕事に戻るべく、それぞれ散っていった。

居間に残ったのは、ファーマスとカンのみ。
ファーマスは、カンに尋ねる。


「・・・ところで、カン。」

「はい。」

「腕輪について何か、考えがあったようだが?」

「上手くいくかは分かンないっスけど、まぁ。・・・師匠、あの腕輪の基本構造を教えてもらってもイイっスか?」

「基本構造?」


首を傾げるファーマスに、カンは言葉を続けた。


「はい。あの腕輪を付けると、何故魔力が使えないのか、その仕組み、っスね。」

「そういうことか。確か、常時魔力を吸い上げ、外に放散してしまうんだ。」

「腕輪の中に溜め込む、とかではなく、放散、っスか。」

「あぁ。だから、魔力を練り上げようとしても、その前に出続けてしまうから、結果魔法が発動されない。」


顎に手を当て、カンは考える。

ーーー つまりは、穴の空いた風船みたいな状態か。


「・・・あの腕輪、本来なら、外す際はどのような手順を踏むんスか?」

「キーとなる魔力を登録しておく事になる。基本、各部隊の副隊長以上だな。この領の部隊は現在8部隊があっから、隊長、副隊長の16人に団長の17人分が登録されている。その内の誰かが魔力を流せば外れる、ってこったな。」


ーーー 指紋認証とかみたいな感じか。


「リンさんに嵌められたのは、改造されてるから、認証が第4部隊の副隊長だけ、って事なんスね?」

「そうなるな。」


ーーー じゃぁ、考えられる方法は。


「何か、方法があるのか?」

「何個か。ま、とりあえず、リンさんが起きてからにします。」

「そうか、ならお前も軽く仮眠を取っておけ。俺も夜通しはキツイわ。一旦家に行く。」


大きく伸びをしたファーマスは、イーベの家から出ていった。

カンは、ピオッティにリンの看病を任せることを伝え、ヴェルをリンの枕元に置く。
そして、左手首に鈍く光る銀の腕輪に手を添える。
しばらく何か考えた後、集落で借りていた家に向かった。


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