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それぞれの成長(カンside)

109.師弟

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昼3の刻ギリギリに『陽だまり亭』に戻った俺は、そのまま食堂に向かう。

まだ、師匠は来ていなかった。

ミーナさんに声をかけ、食堂の片隅に腰掛ける。


『チ?』


アルはテーブルの上に降り立ち、俺の顔を見て首を傾げた。
頬杖をつき、人差し指でアルをくすぐると、目を細めて、気持ち良さそうに丸くなった。

しばらく遊んでいると、ふ、と影が落ちた。


「待たせたな。」


低音で、リンさんが言うところのイケボイスが降ってくる。
俺は立ち上がると、頭を下げた。


「お時間とらせて、すみません。」

「・・・ん、用は何だ?」

「色々、確認させていただきたい事がありまして。」


師匠は威圧もなく、穏やかな様子で俺の顔を見て、席に腰掛けると、言葉の先を促した。
俺は、深呼吸をして、意を決すると、師匠の顔を見据える。


「・・・師匠は、俺が前衛向きじゃないと分かっていたんですか?」


少しの間。
師匠は真剣な顔で、じぃ、と俺を見つめ返す。
そして、ふ、と表情を崩した。


「吹っ切れたか?」

「・・・分かりません。でも、俺のやり方がある気がします。」


くく、と笑った彼は、種明かし、とばかりに話し始めた。


「お前が前衛向きじゃないことは、バトルスタイルを決めた時から分かっていたことだ。何度も後衛を勧めたが、お前は聞く耳持たなかっただろう?」


俺は、う、と言葉に詰まる。


「センスねーのに、勝手に張り合って、“前衛やめねぇ”ってムキになってただろ?」


だらだらと、背中に汗が流れる。
心当たりが、ありすぎる。
センス、無かったのか・・・


「その様子なら、履き違えた『守り』にも気がついたな?」

「・・・はい。コウさんに指摘されて、ですけど。」

「まぁ、気づいたンならいいさ。」


師匠は、目線を外に向け。ふ、と口の端を歪めて、息をついた。
そして、真剣な表情になり、俺に向き直る。



「・・・『守る』ってのは、背中に庇うことじゃねぇ。
お前のちっちぇー男としての矜持で、『姫を護る勇者』がしたかったんだろーが、リンはそんな大人しいタマか?

一緒に戦ってんだ。信頼して、背中預けて戦うのが相棒パートナーだろう?

前衛は、敵を引きつける『役目』だ。引きつけて、自分で『倒す』じゃねぇ。引きつけてリンに倒させるのがパーティーの戦術だ。

後衛なら、リンをこれでもかってくらい付与して強化して、死なねーように回復させて。余裕がありゃ、ど派手な攻撃を撃てばいい。

お前の長所を生かして、リンを守る為に、果たせる『役目』は何なのよ。」


髪と同じ赤茶の瞳が、じ、と、俺を見据えていた。


「『役目』・・・ですか。」

「そうだ。・・・『“持っている”が為に、繋がる人間を不幸にする』と思い込んでいるアイツに、お前は一体、何をしてやれる。」

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