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ニースの森防衛戦

156.邂逅

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とりあえずカン君と一緒に、師匠の元へと向かう。


ーーー 疲れてるから、悪い方へ考えるんだ、きっと。


でも。
ホントに。 

私の対人戦闘の未熟さは致命的だ。

さっきだって。
カン君達が間に合わなかったら・・・


ぞわり、と背筋が寒くなる。


ーーー 強く、ならなきゃ。
ーーー 強く、あらねば。


これまで、1人でやってきたんだから。

隙を突かれないように。
何があっても、反撃できるように。

1人で対処、できるように・・・


「大丈夫か?リン。」

「・・・はい、師匠。」


いつの間にか、師匠の側まで来ていた。そのまま近寄り、師匠の問いに応えた私の頭に、ぽす、と師匠の手が置かれる。


「よく、持ち堪えたな。お疲れさん。」

「いえ・・・」


ふる、と頭を振る。


ーーー 持ち堪えきれなかった。
ーーー 付け込まれた。
ーーー あんな、犯罪騎士達奴等 を、1人で片付けられなかった。


俯いて、ぎり、と唇を噛みしめる。


グリグリと頭を撫でていた師匠の手が、不意に止まる。
そして、軽く溜息をつかれた。

その溜息に、ビク、となる。


ーーー どうしよ。
ーーー 弱くて、呆れられた?


ぐるぐると、頭の中が掻き回されるようだ。ぎゅう、と胸が苦しくなる。
顔を上げられない。


「・・・1人で全部片を付けられなかったのが、悔しいのか?」


師匠の言葉に、また身体が、ビク、と反応する。


ーーー 見透かされてる。


「あのなぁ・・・40人もの騎士をイズマと2人で無力化したんだろ?しかも、山火事に対処しながら。よくやったよ、お前は。」


ふるふると、頭を振る。


結局は、森を燃やされることになった。

ーーー もっと早く、騎士達を無力化出来れば、こんな被害にならなかった。


結局は、捕まった。

ーーー 私が、弱かったから。


視界が、じんわりぼやけてくる。


泣くな。
泣いても変わらない。


ーーー 私が弱い事実は、変わらない。


「とりあえず、戻ってゆっくり寝ろ。今の状況が気に食わないなら、冷静になってから分析して、反省しろな。疲れた状態で考えても、泥沼にハマるだけだ。建設的じゃない。」


そう言って師匠は、ぽすぽす、と私の頭を軽く叩くと、その手を下ろした。



「ゔぅ・・・」


不意に、足元から呻き声が上がる。
ふ、と目を向けると、統括者コルトが此方を見上げる所だった。


「ヴァル・・・キリー・・・」


掠れ声をあげながら、ぐぐ、と手を伸ばしてくる。
拘束されてなお、『戦乙女ヴァリキリー』に執着する、異様なこの感じ。

精神干渉を受けている風でもなくて。
・・・これは、信仰、なのかな。
自分の思いが一番で。
他の考えは排除して。

なんだか哀れに見えてくる。

どうしたって、相容れないのに。
私は『戦乙女ヴァリキリー』なんかじゃない、のに。

統括者コルトの手が、私の足先に触れようとした所で、グイ、と後ろに引っ張られ、離された。


「わっ?」


ぽす、と背後から抱き抱えられるようにして、距離を取らされる。
ふわり、と周囲に風が巻いたような気がした。


「ぇ、リンさんっ!?」


カン君の、慌てたような、焦ったような、声が聞こえた。
その声に、背後にいるのはカン君じゃないと知る。

斜め前には師匠が居る。
こちらを見る師匠が、驚いたような顔をしている。


じゃぁ、背後うしろに居るのは、誰?


足元から、怨嗟のような呻き声が響く。


「・・・コウ、ラル!・・・キサマが、『戦乙女ヴァリキリー』にっ、気安く、触れるなっ!」

「・・・彼女は、違う。『戦乙女ヴァリキリー』なんかじゃないっ!」


背後の人は、私の気持ちを代弁する。
何処か懐かしい、と感じる声。


「だまれぇっ!彼女は、在るべき所に連れて行かねばならないんだ!」

「煩いっ!『黒髪の月の女神』に祭り上げる気か!お前等の思想なんかに、彼女を付き合わせるな!
これ以上っ・・・これ以上彼女を・・・『すず』を巻き込むな!」


ーーー え?


思わず、ガバッと振り返った。 
月明かりの中、そこに居るのは、ナチュラルショートの緑がかった白銀髪に、翡翠色の瞳が印象的な、細マッチョなイケメンさん。


ーーー やはり、見たことはない顔。


すると、イケメンさんが、私の方を向いた。
ぱちり、と目が合う。

その綺麗な目が見開かれ、射抜くように見つめられた。
視線をそらすこともできず、数秒の間見つめ合う。


ーーー うん、知らない人。


なのに。
目が離せなかった。

いつの間にか、イケメンさんの右手が、私の左頬に添えられている。

その行動の意味が分からず、すこし首を傾げた。
すると、痛みを堪えるような表情の彼の頬に、一筋の光が浮かぶ。


「・・・あ、あの?」


どうしていいかわからず。
居たたまれなくなり、声をかけた。

ぎゅ、と一文字に結ばれていた、彼の唇が動く・・・


「ーーー 『すず』」

「え・・・・・・な・・・んで?」


この世界では、名乗っていない私の『本名名前』。
その名を知るのは、カン君だけの筈。

混乱する頭で状況分析しようとする。


目の前の人は、A級ライセンス冒険者である、コウラル氏。
で、合ってるはず。
彼は、ミッドランドでカン君と組んでいた、と聞いている。
だから、今回の件で駆り出されたんだろう。


だけど。

私は一度も会ったことも、会話したことも、ない。

カン君が、本名を教えたとは思えない。
教えるなら、まず師匠にだろうし。

どう分析しても、彼が私の本名を知る要素が見当たらない。


ぐるぐると考えを巡らせていたため、イケメンコウラルさんの顔が近づいていた事に、気がつかなかった。



「コウさんっ!!?」

「コウ?!」



カン君と師匠が彼の名を呼ぶ、鋭い声が聞こえた。


ーーー あれ?


なんで、

目の前に彼の顔?




なんで、

私の唇が、

塞がってる、の?




予測不可能で意味不明な状況が展開され。


処理能力の限界を越えた私の意識が、
ブラックアウトした吹っ飛んだ。

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