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新たな関係

159.情報交換(カン視点)

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俺も、師匠も、黙り込んでしまう。

何を聞いたら良いのか。
頭が働かなかった。

そんな中、くす、とコウさんの笑い声が漏れる。気を使ってくれたのか、彼から話を振ってくれた。



「・・・カン君、役場に入って何年?」

「え・・・あ、俺新卒で、入ったばっかでした。」

「したら、23?」

「いえ、1浪したんで、24っス。」

「そか。若いなぁ。配属は?」

「広報でした。」

「そっか。総務かー。まだ、原西課長?」

「いえ、坂下課長です。副町長が原西さんです。」

「マジで?・・・僕死んでから、そっちは何年経ってんだ?」

「確か、5年って。・・・今中さんが、言ってた気がします。」

「そっかー、5年かぁ。今中も元気?」

「はい、毒舌です。」


会話の内容がシュールだ。
死人と話している、と言うより、退職した人と昔話をしているような、不思議な感じ。


「鈴は?何処に移動してる?」

「4月から戸籍になったって、言ってました。」

「窓口かー。外出れなくて、フラストレーション溜まってそうだね。」


くすくすと、彼は楽しそうに笑う。


「そういや、何だか、田舎じゃ出くわさないような面倒な案件が重なってるって、今中さんに愚痴ってました。」

「・・・やっぱり、『呼ばれる』んだな。」


切なげに、ぽつり、と呟いたコウさんの様子が気になった。


「『呼ばれる』、ですか?」

「うん、鈴はね、案件に『呼ばれる』んだよ。」

「それは、『持ってる』って話、です、か?」


彼女が自分に課している枷。
俺が隣に行く事を拒まれる理由。

思わず、腕に力が入る。


「『持ってる』・・・、まだそんな事言ってるのか。」


コウさんは、ふぅ、と溜息をついた。


「『持ってる』と、『呼ばれる』、は違うよ。」

「どう、いうこと、ですか?」


思わず、首を傾げる。
コウさんは、俺を見て、ふ、と微笑んだ。


「『持ってる』は、ただ、その現象に振り回されるだけ、と僕は思ってる。」


そして、視線をリンさんに移し、そっと頬に手を添える。


「解決出来ない人間の所に、案件は来ないんだ。そもそも、案件に気づかないから。・・・解決できる力があるからこそ『呼ばれる』。」

「リンさんには、その力がある、と?」

「うん。そう。何だかんだ言いながら、面倒な案件を丸く収めることが出来るんだよ。だから益々『呼ばれる』事になる。本人は、意図しなくてもね。・・・少なくとも、僕はそう思ってる。」


彼の言いたい事を、必死に考える。
でも、ピンとくる表現が見当たらない。


「まぁ、これは僕の考え方だからね。でも、カン君もきっと其処に至ると思うよ。」


ぐるぐると考えていた事を見透かされるように、告げられる。


「カン君なりに、鈴の事を見て判断したらいいよ。それが、君の真実だし。」


そう言って、ニコ、と微笑むコウさんは、相変わらずの整った顔で。
イケメンって狡ぃなぁ、ってぼんやり思ってしまった。

すると、黙って聞いていた師匠が、口を開く。


「コウ、お前の話はわかった。だがなぁ、リン自身は、お前が死んだ事、自分の所為だと信じて疑ってないぞ?」

「は?」


師匠の言葉に、コウさんはキョトンとする。


「何ですか、それ。」

「何だと言われても、なあ。コイツが言ってたのは、確か・・・
『残された自分に付きまとうのは、『持っている』所為で、夫の死すら招いた妻、という称号』
・・・だったか。ずっとそれに縛られてるぞ?」

「はぁ?何でそんな事。」


コウさんの綺麗な顔の眉間に、皺が寄っていた。
師匠が、言葉を続ける。


「『今まで色々やらかして、行き着いたのが配偶者の死。付き合ってた間何でもなく、結婚した途端・・・だから自分は、誰とも繋がらない方が良い。繋がっちゃダメだ。想った人を失いたくない』」


とつとつと師匠が告げる話は、俺も聞いたことの無い話だった。


「・・・マジで?」

「あぁ、かなり拗らせてる。おかげで、カンが好意を前面に押し出してんのに、護衛に徹してる。この世界へ来るのに自分が巻きこんだから、どんな事をしても、カンだけは元の世界に返す。守るのは義務、と思い込む徹底ぶりだ。」

「マジかー・・・」


コウさんは、手で顔を覆い、唸った。


「俺も、言われました。先輩たちに。
『『持ってる』所為で旦那さんが死んだ』なんて。
リンさん自身からも・・・『君を、あの人のようには死なせない。』って。」


思わず腕に力が篭る。


「一緒に居ても絶対死なないって証明出来なきゃ、リンさんと一緒に居れないって、そう思って。だから俺・・・強くなりたかったんです。」


顔を上げたコウさんが、まじまじと俺の顔を見て、困った顔を見せる。


「あーうん、そりゃ、そーだよねー・・・何だろう。なんか、ごめん。」


とても困惑した様子で、コウさんは謝罪を口にした。
 


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