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旅馬車活動開始

196.解体現場にて

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※ 解体描写あります。


****************



「そこの、骨と肉の分離は、こっちから刃を入れた方が良いよ。討伐部位は牙なんだけど、こっちに有る毒腺が無傷で取れたら、素材として売りに出せる。入れる瓶持ってないならあげる。」

「ホントだぁ。刃の通りが違う。そっか、毒腺も素材なんだ。皮だけかと思ってました。」

「うん、牙は武器素材。皮は防具や、馬車の幌なんかにも使われてる。毒腺、目は錬金素材かな。骨は焼いて砕くと肥料になるから、商業ギルドで売れる。あと本当は血も。」

「血、ですか?」

「うん、魔獣避けなんかの錬金素材だね。但し、本当の死後直後の抜き取りじゃないとダメなんだ。だから、今の状態だとダメかな。」

「そっか。ありがとうございます~。こんなにでっかいバイパーは故郷には居なかったんで、勝手が違うから、助かります。」

「そうかい。君らみたいな凄腕の解体技術者に、僕なんかが教えてあげられる事なんてないと思っていたけど、役に立ったなら良かったよ。」

「いえいえ。住んでた所と植生だったり、生態系だったりが違うので、教えて頂けて有り難いです。それに、テルさんの教え方、分かりやすいので、助かります。」

「そ、そうかい?」


ぽり、とドレッドヘアの後頭部を掻きながらはにかむ様子に人柄の良さが滲み出て。何となくめんこい人だな、と思ってしまった。


今私は、ギルドの納品部署担当のテルさんから、イグバイパー大蛇モドキの解体方法を習っている。

まだクラスBパーティーが来ておらず、時間はあったので、イグバイパー大蛇モドキを解体しようと、家の影でもちゃもちゃ。
鑑定さんの指示通りにやっているつもりだが、どうも上手くいかずに四苦八苦していたら、テルさんが通りすがり、解体を教えてくれている。

結果、鑑定さんの指示は正しいが、私の読み解き方が違った模様。鑑定さん、アホの子でごめんなさい。
うん、実際に動いてみないとわからない事も多いもんだ。

ふむ、と汗を拭きふき、次の解体に取り掛かろうとしたら、背中にのしかかられた。


「うひゃぁっ!」

「・・・テールくーん、ウチのメンバーに、惚れたら駄目だぁよ?」

「うわっ、・・・コウ君か。何を一体・・・・・・分かった分かった。間違っても手は出さないから。」


私を背後から抱きしめ、肩に顎を乗せて、何事かをほざくこーくん。
真横に顔があるから、表情が読めない。
ただ、私の足元で、木枯らしのような風の流れが生まれている。
向かいにいる、テルさんは苦笑いだ。


「こーさん?」

「ん?」

「解体中なんで、よけていただけます?」

「や。」


寝ぼけてますか、って位に、即座にふざけた回答が。

あのさ。
今バイパー捌いてる最中でさ?めっちゃ右手に鉈を握ってる最中なのね?
危ないから離れてくんないかな。

す、と右手をあげる。
血濡れの鉈の刃が光った。


「解体中なんで、よけてもらえます?」


もう一度声をかける。
うぐ、と変な声を上げて、渋々といった様子で離れていく。


「さっき師匠に呼ばれてませんでした?」

「用事終わったから、こっち来たよ?バイパーは、何料理にすんの?」

「どうしようかねぇ。みんなどんな食べ方してるもの?」


ガス、と皮に刃を立て、骨に添い肉を断ちながら聞いてみる。


「ただ塩焼きか、煮込んだりとかかなぁ?テルくん、どう?」

「僕もそれぐらい、かな。」


ふむ、やはり、アレは無さそう。


「・・・蒲焼きが、できるかぁ。」

「え?」


私の呟きに、キョトンとこーくんは目を丸くし。
テルさんは首を捻る。


「ポン酒や味醂は無いけど、ソグの実醤油モドキサクル砂糖モドキと、焼酎っぽいお酒もあるから。照り焼きタレは出来るんだよね。前に鶏照りはして、それっぽくはなったからイケるかな。」

「何それ、神か。」

「いや、上手く行くかは分からんし。あんまし期待しないで。って、また抱きつかないのー!血で汚れるしょ?!」


背後からまた抱きつかれ、首元にスリスリと頭を押し付けられる。
むきゃー、と言いながら、それでも血がつかないようにしながら、彼を引き剥がそうとした。


「・・・何か、コウ君、イメージ変わったね。」

「ん?何が?僕は元々こうだよ?リンの前じゃ猫被らないだけ。」


テルさんが驚き半分、呆れ半分な声をかければ、事も無げにサラッと答えるこーくん。


「・・・あぁ、そう。」

「あーっ!コウさんっ、ここに居た!・・・ってか、まーたくっついてるし。」


半眼になったテルさんの背後から、聞き慣れた声が聞こえてきた。
見ると、カン君が息を切らせている。
カン君は、のしのしと音がしそうな勢いでやって来ると、べり、と私とこーくんを引き剥がした。


「隙あらばリンさんにくっつくの、やめてくんないっスかねぇ?!しかも、話の最中に居なくなんないで下さいっよっ!」

「村長さんの話でしょ?いーよー、別にぃ。ザイルさんとファーマスさんだけで。」

「現A級ライセンストップで、ウチのパーティーリーダーのアンタが居ないと、話が進まないんだっつってんべや!はい、行くっ!」

「えー、仕方なぃなぁ・・・リン、さっきの期待してるね~~」

「だから期待しない。あー、サッサと行ってこーい。」


血濡れの手で、しっしっ、と追いやるように手を振る。
何が可笑しいのか、彼はご機嫌な様子で、去っていった。


「・・・して、呼びに来た君は、その話に参加しなくて良いのかぇ?」

「え、俺こそあの場には必要無しです。だから、リンさんの解体手伝いに来たっス。」


にぱ、と笑顔になって、私を見下ろす。
・・・この場合は、ちゃっかりしてる、と思えば良いのだろうか?

ま、いいや。


「じゃ、そっちに行って、裏側から刃を入れて。はい、鉈。テルさん、カン君にも教えてもらっても良いです?」

「あ、うん。構わないけど。」

「・・・扱い、容赦ない。」


鉈を手に取り、すごすごとイグバイパーの背側に向かうカン君。
テルさんも、一緒について行ってくれた。

ーーー さて、先ずは三枚おろしと、皮剥だね。

私は黙々とイグバイパーの腹を割いていった。





イグバイパーの背側では、テルの指導の元、カンが鉈を振るっていた。
 

「・・・テルさん、さっきコウさんが言っていた『期待してる』って、何のことか分かります?」

「ん?あー、イグバイパーの調理法の事かな?リンさんが呟いた料理の名前?聞いたら、あんな風になった、から。」

「あー、それで、か。」


ふ、と、カンは思わず苦笑する。
きっとリンは、何か日本料理を口走ったのだろう。
そりゃ、喜ぶわな。


「しかし、『疾風』があんな表情で笑うなんて、初めて見たよ。よほど、気に入ってるんだね、君達のこと。」

「俺ら、ってか、リンさんば気に入ってる、んですけどね。」

「んー。・・・そうだね、溺愛しているようにも見えるねぇ。僕が話してただけで、やきもち妬いてる感じだったしねぇ。対する、リンさんの態度はつれないけど。」


そう言って、腕組みしながら苦笑いを見せるテル。


「・・・ウチのリーダーが、すんません。」


まぁ、実際溺愛してるんだから仕方ない。
ただ、イケメン補正なのか、外国人的ノリなのか、人前でのスキンシップが激しくなっているのは確かだ。
虫除けの意味もあるだろうが。
元日本人なのか疑わしくなる。
リンさん曰く『酔っ払った時の甘えモードで、ウザい』と一蹴していたが。


・・・羨ましい、な。


感情は伝えられても、あそこまで堂々と触れられはしない。
どさくさに紛れて【 清潔クリーン 】使ったり、戦闘後に回復と称して抱きしめる事が精一杯だ。

そんな事を悶々と考えていたら、不意にテルがくすくすと笑いだす。


「2人とも、本当にリンさんが大事なんだね。隙あらば甘やかそうとしてるのが見ていて面白いよ。それをスルーするリンさんも含めてね。」

「え゛・・・」


第三者からの冷静な指摘は、エラくこっぱずかしい。


「多分君達は、それでバランスが取れているんだろうねぇ。パーティーの仲が良いのは、いい事だよ?連携が取りやすい、ということは、パーティーとしての力が十二分に出し切れる訳だから。」

「そう、だと良いんですけど。」


カンは、恥ずかしさを隠すように、鉈を振るいバイパーの肉を剥がしていった。

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