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妄想乙女ゲームに終止符を

266.茶番劇 其の四

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「さて、と。どーすんの?」


一定の距離をとったまま、再度私は問いかける。
残る護衛がすらりと長剣を抜き、片手に構えた。左手を広げ、ヒルデ嬢を庇う姿勢だ。

ヒルデ嬢は、守られるように、その背後に隠れる。


「いっ・・・いやぁぁ!!」


突如として叫び声が上がり、ガタン、とドアが勢いよく開いた。
どうやら、護衛の意識がこちらに向いた隙をついて、女性冒険者達が逃げて行ったようだ。


「ちょっと!貴女達っ!」

「お嬢様もお逃げ下さいっ!」



女性冒険者達の後ろ姿にヒステリックに叫んだヒルデ嬢に被せるように、護衛騎士が叫んだ。

はっ、としたヒルデ嬢が、スカートを持ち上げ、走り出そうとした。


ーーー させるかよ。


私は、銃剣相棒に魔力を込め、引鉄を引く。
低い銃声を上げて飛び出した銃弾は、開け放たれたドアにヒルデ嬢がたどり着くより先に、着弾した。


パキン。


放った弾は、氷属性弾。
部屋の入り口が、分厚い氷によって塞がれ、この地下室が隔離された状態になる。


「何よ、これぇっ!!」

「・・・逃がす訳ねぇじゃん。」


分厚い氷の壁を叩くヒルデ嬢の背に向けて、自分でもビックリするほどの不機嫌声が出た。


「好き勝手にやりやがってる癖に、いざとなったら、責任取らずに逃げんのか。この卑怯者。」

「何ですって!」

「お嬢様っお下がりください!」


美人令嬢を庇う、それなりのイケメン護衛。
それに対して、威圧バリバリで銃口を向けているモブ顔の自分。

わぁ。
側から見たら、麗しの姫を守る勇者V.S.魔王、みたいな構図だねぇー。

・・・って。

ふ・ざ・け・ん・な


あー、イライラしてきたぞー?
元はと言えば、オマエらが吹っかけてきた喧嘩じゃねぇか。
何で私が悪者扱いよ。


「ねぇ、護衛さん。その氷、物理的に砕くか、術者を倒さないと、こっから出れねぇよ?さっさとかかってくれば?」

「きっ・・・貴様っ、アンジェリンだけに飽き足らず、ヒルデお嬢様までっ・・・!」

「・・・は?何でアンジェリン?」


突如として出てきた名前に、私はかなり呆けた顔をしてしまった。


「あんなにも苦労していたアンジェリンの努力を踏みにじり、騎士団から追いやるだけに飽き足らず、領主様の愛娘であるヒルデお嬢様に逆らい、手を煩わせるなどっ!」

「ぁあ゛ん?」


・・・何言ってんだ、コイツ。


まじまじと護衛の顔を見たら、あの処罰の場面で後ろに立っていた騎士だということに気づく。


「アンジェも、ヒルデお嬢様も、あの様な情も通わぬ男に誑かされた。貴様の様な下賤の輩に貶められるなどっ!」

「・・・頭沸いてんの?この場は私の方が被害者だべや。それにアンタの言い分は、コウへ群がるお嬢様達が、コウに相手にされてないにも関わらず、アンタに見向きもしないことへの僻み、やっかみ、八つ当たりにしか聞こえないンだけど?」

「何だと!」

「アンジェリンとかっつーあの人がやったこたぁ、騎士団内でも無視できない悪行だったンだべや。だから、アイザック団長やら、お偉方が出張ってきて処理した。最終的にあの人は、自分がやったこと理解して、処罰を受け入れてんじゃん。なのに何で、アンタにとやかく言われんとならんのよ。」

「煩い!私からアンジェを奪っておいて!何事もなかったかの様に、のさばらせてたまるかぁ!!」


・・・はい。逆恨みでした。

つか。奪ったって、アンジェリンさんは、こーくんにお熱だった訳だから、コイツと付き合っていたとか、婚約してたとかじゃないよね??
一方通行的な見守りって感じか?
・・・ストーカーじゃねぇよな?


「知らねぇよ。そンなに大事だったんなら、あんな馬鹿な事する前に、横っ面引っ叩たいてでも目ぇ覚まさせろや。大体にしてよ、惚れた女がこれから禊に行くってンだから、堂々と待って迎えてやりゃ男振りも上がるってンのに。こんな阿保な騒動に乗せられて、犯罪者になってりゃ、世話ねぇなぁ?」

「黙れぇっ!!!!」


怒りで目の色が変わった護衛騎士は、身体強化をして私に突撃をかます。
さっきの男性冒険者や、護衛の片割れよりは動きが良い。

それでも。
師匠や、こーくん、イズマさんに比べたら、全然だ。
二、三繰り出された斬撃を躱し、銃剣相棒の銃身で、強めに小手を打ち弾く。
よろけた護衛騎士の頭目掛け、上段回し蹴りで脚を振り抜いた。

護衛騎士はその場に崩れ落ちる。


「きゃぁぁ!サーフェス!!」


アニメのヒロインばりの悲鳴をあげるヒルデ嬢。

私はそれを無視して、崩れ落ちた護衛騎士の首元を掴んで持ち上げる。
そして、すこぶる目を細めて、ヒルデ嬢を見下ろした。


「いやぁぁっ!やめてぇ!!」


やめるも何も、邪魔だから、あっちに転がる破落戸ゴロツキの方にぶん投げようとしただけだけど?
何?
人をヒトゴロシみたいな顔で見やがって。


「【魔法霧散ディスペル】」


氷漬けした入り口の向こうに、ふわりと感じた暖かい魔法の気配に振り向くと、分厚い氷の壁が霧散するのが見えた。


「突入!」


見る間に、部屋の中に白鎧を着込んだ屈強な男達がなだれ込み。
私と、ヒルデ嬢の周りを取り囲んだ。

そして、溶かされた部屋の入り口には。

冷たい目をして、こちらを見ている、見知った顔の男達が、いた。
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