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袖振り合うも多生の縁

325.黒髪の戦乙女《ヴァルキリー》 其の七

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【324話あらすじ】


イリューンでは現在も、召喚が行われていた。召喚の為の贄を確保する為、妖精族、獣人族の元の王家の血を引く者が神殿に隔離されている。
クロルは王家の血筋で、此処で生活していた。

約20年前に召喚された『黒髪の巫女』である『スズコ』。縁があり、当時8歳だった『クロル』と言う名であったクロナと『スズコ』は仲良くなった。
看護師として働いていた彼女は、慕っていた医師が交通事故で亡くなり、絶望していた時に召喚されたと語った。
彼女の召喚後、『クロル』に次代の贄の証が出現。それに怒りを見せた『スズコ』は、召喚陣の解析を試みた。

そんな矢先、魔法を打ち出すことのできない『スズコ』に、治癒能力と他者の強化能力があることが判明。
能力の搾取は、本人の意図しない性行為によるもの。
国の軍部を司る者達による暴行に、彼女は疲弊していく。

『クロル』は『スズコ』助ける為、脱走を試みるも失敗。『隷属の首輪』をつけられ、彼女と引き離されてしまう。

そんな中『スズコ』は魔導具作成能力を発露。新月の嵐の夜、『クロル』の首輪を外した上、幻影で姿を変える事のできるピアスを渡し、脱走を試みる。
逃げる最中、召喚陣は全て書き換え、出現座標をモースバーグ国に変換したと話し、且つ『クロル』を逃す事で、次代の召喚もさせないようにすると説明。

しかし、脱走はすぐに見つかり、港で追い詰められるが、『スズコ』は、『クロル』を用意していた小船に乗せて、荒れる海原へと送り出す。
『クロル』が最後に見たのは、悪魔の様な騎士達に捕まりそうになる中、自分が作った魔導具で爆炎を起こし、騎士もろとも自決する彼女の姿だった・・・



・・・思ったより長くなった。



↓ 続きをどうぞ ↓




****************




その場に、沈黙が落ちる。
同情の言葉も、慰めの言葉も言えない。
強い憤りと、悲しさが胸をよぎった。

何度か息を吐き、強張らせた身体を緩めたクロナさんは、ゆっくりと、また話し始めた。


「次に目覚めた時には、モースバーグの商業都市の近くの海を漂っていた。・・・あの嵐の中、海を渡れたのは奇跡だと思うが、彼女が何か舟に細工をしていたのかもしれない・・・今となっては分からんが・・・兎も角、彼女の言った通り、俺は生き存えた。

人の良い漁師に拾われ、自分の身を守る為、俺は記憶をなくしたフリをして、人の姿のままで最初の街で漁師に紛れて静かに過ごした。そして、モースバーグ国の事、この世界の事、イリューンの立ち位置を学んだ。獣人が普通に生活しているのを見て、すごく驚いた。3年も経ったら身体もデカくなり、変声期も過ぎたから、街を移り、獣人の姿に戻って『クロナ』と名乗り、冒険者になった。

・・・冒険者稼業をしていた時に、急に絵を描きたい衝動に駆られた。それまで、絵なんか描いたことも無かったのに。目についたスケッチブックとパステルを買い、一心不乱に描き殴った。

描いていて分かったのは、誰かと『絵を描く約束』したこと。それなのに、誰なのかはわからなかった。『スズコ』とは絵の話なんてした事なかったのに、その『約束』だけが残っていた。」



その言葉に、息を呑む。
思わず、クロナさんの顔を見たけれど、彼は顔を上げず、自分の掌をじ、と見ていた。



「・・・しかも描いていて、あんなに一緒にいた『スズコ』の顔を描けないことに気がついた。俺の中の『スズコ』が消えていくのが怖くて描くのに、描けば描くほどに離れていく事だけが分かるんだ・・・
そのうちに、絵を描くことが主体になり、画材となる物を探し回るようになった。そして、俺の中では『黒髪の戦乙女ヴァルキリー』の真実を描きたい欲求が生まれた。あの、悲しい物語を、意図的に歪められた物語の真実を描きたくなった。・・・その所為で、イリューンが今もなお、召喚などという手段で、贄を、そして召喚者を喰いものにしている事を知らしめたかった。

・・・そんな時に出来たのが、あの『蛍火』だ。」



彼はまた、大きく息を吐き、今度は、椅子の背もたれに寄りかかり、ゆっくりと天井を見上げた。



「何故か分からないが、あの絵の女性を描きあげた時に、妙にストン何かがハマるような感覚が起きた。・・・『スズコ』ではないのは分かるのに。描けば描くほどに収まりが良いんだ。
もしかしたら、この胸に残る『約束』と関わりがあるのかもしれない・・・なんて、夢物語も考えた。

・・・そのうちに、知り合いの雑貨屋が、あの絵を勝手に王国芸術祭に出品しやがって、な。
その後は、あの女に絡まれた。まぁ、キヨに会って、そこら辺の対応は任せっぱなしか・・・

でも最近になって、キヨの所に、やたらと『黒髪の戦乙女ヴァルキリー』について問い合わせてくる者が増えて来たらしい。
それがどうも、イリューンと繋がりのある貴族なんだそうだ。

人前に出る時には人族の姿には変えてはいるから・・・絵描きの『クロル=グレン』は人族だと思われているし、獣人クロナでいる時に気づかれる事はない。
一応、サビが護衛役で付いているけどな。」

「護衛?」



首を傾げると、クロナさんの隣のサビさんが、苦笑いをする。



「うん、一応こんなんでも、立ち位置は護衛ね?家名も使うことできるしねぇ。」

「サビ・・・そうか、貴方は、“サヴィラム=アルデバラン”、だったか。」



はた、と気づいた様に、こーくんは声を上げる。 
アルデバラン・・・確か、近衛騎士団の副団長が居る侯爵家だったっけ?



「ご名答。コウラルさん、流石ですね。こんなナリですが、オレは、アルデバラン侯爵家の直系四男です。クロナの話は、キヨさんトコのストラディック家と、俺んトコ、後は一応王家もか・・・が、知っている所です。だから、クロナの保護に回ってるんですよ。オレみたいにアホっぽいと護衛に見えないから、適任でしょ?」

「実際阿保だけどな。」

「ちょっ、クロナ、ヒドイっ!」



そのやり取りに、急激に場の空気が緩んだ。
きっとサビさんは、ムードメーカー的な役割で、クロナさんを支えてきたんだろう。
そして、キヨサネさんは、下界との窓口役。必要以上に、貴族達と接触させない為の防波堤。

キヨサネさんはストラディック、サビさんはアルデバラン・・・侯爵家が二家も、彼を守る為に動いている、という事は。
国としても、彼の存在は看過できない、という事なのだろう。



「・・・すまん。話が脱線したな。だから・・・その・・・、なんだ・・・あの時は、俺の空想上の人物だった筈の『黒髪の戦乙女ヴァルキリー』そっくりの女性が現れて、ビックリしたんだ。」



クロナさんは顔を上げ、私と目を合わせると、申し訳なさそうに苦笑いを浮かべる。



「直接関わりなんて、今日までなかったのに・・・あまりにも絵の『戦乙女ヴァルキリー』そっくりで、しかも手に持つ武器まで似てるとあっては・・・」



少し、しゅん、とした雰囲気。
頭のお耳が元気ない様に見えるのは、やはり犬科だからか。

バツが悪い時の落ち込み方、その雰囲気が懐かしい。
大きな身体を少し丸めて、少し俯き気味に視線を彷徨わせる。
もう暫くすると、左手で顎を押さえて、親指でカリカリし出す・・・と思ったら、やっぱりやった。

懐かしさと、申し訳なさ。
それが私の胸の奥を、ぎゅぅと締め付けた。




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