悪役令嬢は浪人生〜破滅フラグ以前に舞台の学園の入試に落ちました。ごめんヒロイン、卒業パーティーには行けません。私は今、予備校で勉強中です〜

凛海

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1.悪役令嬢は入学試験中に回想する

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『大問1-問1 属性融合型魔法強化陣現界理論の礎を築いた人物の名称を答えよ』

 ……誰よそれ

『大問1-問2 問1の理論において、その序文に書かれた属性融合の定義を答えよ』

 ………知らないわよ

『大問1-問3 複合型多重属性魔法理論の実証において必要不可欠である、4つの魔法触媒を全て答えよ』

 …………わかるわけないじゃないっ!

 ドンッッ!!

 万年筆が紙を引っ掻く音しかしていなかった講堂で、突然何かを殴ったような鈍い音が周囲に響いた。言うまでもなくその音を出したの私だ。
 
 やらかした。
 問題が何を言っているのか分からないあまり、苛立ちのままに拳を机に叩きつけてしまった。

 そして運悪く近くにいた女の試験官がその細く、神経質そうな目で私を睨みつけ、怒鳴り声をあげる。

「キュルケ・ル・フラン・アレイドル嬢!試験中ですよ、静粛になさい!」

 うっさいわね!
 試験監督のあんたが一番うるさいわよ!


 ――というかそもそも………


 どうして……どうして乙女ゲーの悪役ヒロインに転生したはずの私がっ!



 王立第一魔法学院の入学試験を受けているのよ!!





 事の発端は2日前。
 私は――清水今日子は、「君にフォレルスケット~魔法学院篇~」の登場人物であるキュルケ・ル・フラン・アレイドル公爵令嬢に転生した。

 「君にフォレルスケット」、略して君フォルはいわゆる乙女ゲーだ。フォレスルケットはフランス語のFORELSKETから来ているそうで、運命の恋人との出会いに有頂天になる、というような意味だった気がする。魔法学院篇はそんな君フォルのシリーズ3作目であり、シリーズを通してかつてないほどの売り上げを叩き出したまさに君フォルシリーズの完成形だった。

 そして私はそんな乙女ゲーに激しく入れ込んでいた32歳独身OL。親がそこそこの金持ちだった私は、幼少中高大とずーっと女子校で純情乙女培養され、果てにはOGのコネで就職したというぬるま湯イージーモードの人生を生きてきた。

 そこは都内ではまぁまぁ名が知れた会社で、給料もそこそこだった。
 そして入社当時22歳だった私は今まで蝶よ花よと箱入り娘の様な育てられ方をされた反動で、自立した女性というものに憧れた。だからたとえ結婚したとしても寿退社をして専業主婦にんろうなどとは一切思っていなかった。

 だが今思えば、寿退社云々以前の問題があった。

 ――相手がいないのだ。

 あぁ!あの頃に戻って自分を殴りたい!
 何が寿退社はしないだ!
 お前は30超えても旦那はおろか、彼氏すら作れていない!
 寿退社は独身女にはできないのよ!

 自分の容姿にそれなりの自信があった私は、20代後半には素敵な旦那様と結婚しているはずだと思っていた。寿退社云々はその確信から来た妄言だった。さすがに白馬の王子様的な展開を期待するほど頭がお花畑というわけでは無いけれども、それでもイケメンの1人や2人は引っ掛けられると思っていた。
 しかし現実は非情。

 年齢=彼氏いない歴の悲劇の女がそこにはいた。

 合コンにもいった。アプリも使った。結婚相談所は私はまだ若いという女のプライドが許さなかったけど、それ以外の全てを試した。
 でもダメだった。

 自分の何が悪いのかはよく分からなかったけど、いずれにせよ現実世界での恋愛に打ちひしがれた私は二次元に逃げ込んだ。
 女子校育ちなりに青春は楽しんだが、恋愛的なモノとはほとんど無縁だった。かと言って私はクラスメートの様に、共学や男子校の文化祭に乗り込む、と言った様なマネはできないタイプで、そんな状態をズルズルと引きずったまま、いつのまにか32歳になってしまったわけだ。

 そんな過去もあるが故に、私はあっという間に二次元のイケメン達にぞっこんになった。色々なゲームを手当たり次第に買い、多くのプリンス達を虜にした。
 そしてあらかた有名どころは全てクリアした後に、発売当時はまだマイナーだった君フォルの第1作目である「君にフォレルスケット~王宮篇~」に出会った。絵柄が非常に私好みで、ストーリーも完璧だった。続編の舞踏会篇も勿論プレイした。
 やがて君フォルはどんどんとその知名度を上げていき、ついに3部作目である魔法学院編が発売された。

 発表と同時に予約購入した私は溜め込んでいた有給を惜しむ事なくまる3日分も使って、届いた直後からずっとプレイしていた。

 さすがは君フォル。質の高いストーリーとあまりにも魅力的な登場人物たちは、過去作が霞んでしまうほどの完成度だった。なるほどこれは大成するだろう。

 熱中のあまり危うく3徹で出勤する所だった。いやぁ、恐ろしいゲームだ……
 
 しかしこの魔法学院篇……
 実はかなりクセのあるゲームだった。
 そしてそのクセを作り出した張本人が何を隠そうこの私……が転生?憑依?したキュルケである。

 魔法学院篇はとある貧乏男爵の1人娘であるクリスティー・レ・フィオールという少女が、グランドルク王国の王都にある王立第一魔法学院で様々な立場の殿方と繰り広げるシンデレラストーリー……なのだが、それだけでなく、攻略対象に平民がいたというのもこの魔法学院篇がウケた要因だろう。

 より身分が上の貴族や王子といった面々だけでなく、自分より下の平民との恋愛模様が楽しめる。シンデレラストーリーとはかけ離れた物語だが、その意外性は界隈を騒がせた。

 どっちにしろ、ヒロインであるクリスティーは様々な男性と色々なイベントを経ながら愛を深めていくのだが……それをとんでもない手段で妨害するのがキュルケというキャラクターだ。
 キュルケはいわゆる万年2位キャラであり、大した家の生まれではないクリスティーに常に遅れをとっていた。そしてゲームの進行上キュルケは必ずプレイヤーキャラであるクリスティーの攻略対象である男性に恋をしてしまい、あの手この手でプレイヤーを妨害する。

 いやぁ……ウザかった。
 確かに目の上のたんこぶであるクリスティーに思い人さえも奪われるのはなるほど苛立たしいものだっただろうが、それでも問答無用でゲームオーバーになる選択肢があるのは予想外だった。
 一番理不尽なのはプレイヤーがケーキを取り間違えただけでキュルケがクリスティーの実家に火を放ち、クリスティーの父親であるフィオール男爵家当主が焼死。結果としてフィオール家は取りつぶしとなってクリスティーは市中に放り出されて娼館落ち……で、ゲームオーバー。クリスティーだけが不幸になるかと思いきやキュルケはキュルケでそれがバレて殺人の罪で処刑。

 ちなみにプレイヤーがハッピーエンドになったらなったで、今度はキュルケが、プレイヤーの攻略対象の男に対する姦淫の罪で娼館落ち……

 悲しい話だ。

 でも悪いけど、同情はできない。
 私はキュルケのせいで30回はゲームオーバーしたのだから。その上「え?これなんの意味が?」というような選択肢が出るたびに私は冷や汗を流すようになってしまった。
 
 しかし私はそんなキュルケに憑依してしまった。
 このままゲームの通りに進めば私は間違いなくロクな運命を辿らない。
 どうにかしなければ――





 しかし……


 魔法学院篇の舞台は当然魔法学院である。



 そして学院であるならば、それも王立第一魔法学院などという大層な名前のついた教育機関であるのならば。




 超高難易度の入学試験が待っているのは自明だった。





 




 そして入学試験の存在を知った時から、私は予備校生活へと一歩一歩近づいていくことになる。

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