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5.悪役令嬢は入学試験前日に圧を掛けられる
しおりを挟むどれだけ眠っただろうか、次に目覚めた頃には日も高くなっていた。
「うーん……」
ベッドの上で大きく伸びをしながら、十分に眠ったにもかかわらずまだどこか眠たげな目を擦る。
さすがにこれ以上寝る事はできない。そう思った私は体を起こしながら状況を整理する事にした。
「今って何時だ?12時にフィルマが昼食を持ってきてくれるって言ってたけど……」
いくら眠かったとはいえ、昼まで寝ていたなんて事は無いだろう。しかし油断はできない。人間どこまでも堕落できるものだから。休日の私は……いや、今はそんな事はどうでも良い。
とにかく、この部屋には時計の類がない。しかし扉の前に昼食のワゴンがあるか無いかで最低限今が12時より前なのか後なのかはわかる。
だから私は体を起こして扉のところまで行き、それをそっと開く。
「……あら、お嬢様?」
扉の前には運悪くフィルマがいた。
……ゲーム時代に散々デバフイベントを発生させた恨みを返すチャンスだったかも知れなかったが、残念ながらこの扉は私から見て内開き、つまり扉を開けるついでアッタクは不可能だった。
「あ、あぁフィルマじゃない」
「えぇ、そうです。……どうかいたしましたか?」
何か疑問に思うことがあるのだろう、フィルマは不思議そうな顔で私に尋ねた。
「いえ、ちょっと今が何時か聞きたいだけよ。……試験まであとどれくらいか気になっちゃってね」
「あぁ、そういうことでございましたか……先程私が広間で時計を見た時はまだ11時ぐらいでございましたわ。私ももう少しすれば昼食のご給仕がありますわね」
朝食が多分7時ぐらいだろうから、それを食べてから寝たという事は最低3時間は二度寝したというわけね。
……さすがにちょっと寝過ぎたかしら?
「そ、そうなの……分かったわありがとう」
「えぇ……あぁそうそう!」
フィルマが何か思い出したようだ。
「何かしら?」
「旦那様と奥様が夕食を一緒に取らないかと申しておいででしたわ。お嬢様は明日の試験がございますから、無理に一緒しなくても良いともおっしゃっておられましたが……どうされます?」
どっちでも良いわそんなモン……
いや、良くない。残念ながら私はテーブルマナーとは無縁なのだ。キュルケは公爵令嬢である以上、そういった事も完璧なのだろうが私は、清水今日子はその方面の教養は全く無い。
それなりのお嬢様校で育った私ではあるが、多少の身のこなしはともかく、本格派のテーブルマナーなどは全くもって専門外。
キュルケの記憶を引き継がなかった事がここでマイナスに働くとは、予想外ね……
「そ、そうね……私も試験に備えたいから、それは明日まで取っておきましょう。これから仕上げにかかりたいのよ」
嘘よ。
なーにが仕上げだ。あんな簡単な試験範囲を見て、今更何を勉強すると思っているのよ。
キュルケもキュルケよ。何を勘違いしたらあんな訳のわからない事が延々と書いてある本なんか開く事になるの?
と、い、う、か。
私は王立第一魔法学院に入る気なんかこれっぽっちも無いわよ。
学園の諸々のイベントのせいでどっちに転ぼうと破滅しか待っていないのなら、最初から入学しなければ良いだけのこと。ちゃっちゃと試験に落ちて、悠々自適の貴族の御令嬢ライフを楽しめば良いだけ。
あ~、こっちの世界だとモノホンの白馬の王子様が来てくれるのも夢じゃない!!
「そうですか。わかりました。旦那様と奥様にはそのようにお伝え申し上げますわ。お嬢様もあと少しですから、頑張ってくださいませ」
「えぇ、ありがとう」
「では私はこれで」
そう言って頭を下げたフィルマは、私の部屋から離れていった。多分さっき言っていた昼食の給仕の仕事があるのだろう。
そしてそれを見送った私は自室に戻り、暇潰しも兼ねて本棚に置いてあった面白そうな本を読む事にした。
□
「キュルケ。部屋におるか?」
ノックとともに男の声が聞こえた。これは……昨日のハゲ親父、つまり私/キュルケの父親の声だ。
「お、お父様!?」
「そうだ。ちょっと話がしたいのだが」
いや困る。今の私は夕食後のリラックスタイムも兼ねてベッドに寝転んでいる。きっと彼が考えているような、必死に勉強している娘の姿では当然無い。
「す、少しお待ちくださいませ!」
そう言いながら私は咄嗟に跳ね起きてベッドを綺麗にする。
「あぁ、待つとも」
良かった、どうやら娘の部屋に突撃してくるタイプのデリカシーの無い人間では無いようだ。
……できればその頭も世間体の良い状態にして欲しいのだが、無理な話か。
ヨーロッパの男性はハゲやすいというのをテレビか何かで見た気もする。多分。
それはそうと、この時間をチャンスに私は出しっぱなしだった本を戻し、勉強机の上を偽装する。
昨日のまま放っておいていた為、もしかしたら勉強していないのがバレるかもしれない。それを危惧して机の上にあった紙の順番を入れ替え、今開いてる本を閉じて別の本を開いてその上に重ねる。
ある程度偽装工作が済んだと判断した私は口を開いた。
「どうぞ、お父様」
「あぁ、入るぞ」
ハゲ親父はそう言って私の部屋に入ってくる。昨日ぶりだ。
「ふむ……対策はバッチリと言ったところかね」
偽装工作はどうやら効果を発揮したようだ。少なくとも私が1ミリも勉強していないのはバレていないみたい。
「えぇ、勿論ですわ」
「うむ。良いことじゃ。……お前を家から放逐するとなればワシも胸が痛む。だがどうやらその心配は無さそうじゃな」
……ん?
「はい……?」
今このハゲはなんて言った?
「うむ?どうした?」
何かとんでもなく不穏なワードが聞こえた気が……
「ほ、ほうちく……?」
恐る恐る口にした私だったけれど、ハゲ親父はそれが当然かのような顔をしている。
「当然じゃ。前にも話したろう?」
知らない。
どういう事よ。
そう思った私をみて、何を勘違いしたのかハゲ親父はそれみろとでも言いたげな顔をした。
「そうじゃ。我が誇り高きアレイドル公爵家から、王立第一魔法学院の入学試験に不合格になる者が出て良い訳がない。私も、私の父もそう言われて育ってきた」
……なんだ。
目の前のハゲ親父はどうやら学院の卒業生、つまりOBのようだ。こんな人間でも合格できるのならば、いくら私が魔法についてはほぼ素人のようなものでも落ちる心配はなさそうだ。
実際、今日の午後はそれなりに魔法について知った事もある。
そもそも私は破滅フラグ回避のために学院への入学そのものをナシにしようと思ったのだけど――
「だからキュルケよ。お前も必ず合格するのだ。さもなければワシはお前を……」
――合格しないと家から追い出されそうだ。
間違い無くこの世界は現代日本よりは治安が悪い。そんな世界で、15歳の生娘の私がホームレスになるとかたまったもんじゃない。
「その心配は必要ありませんわ。私は間違いなく彼の学園に合格して見せますわ。お父様のご心配なさるような事にはなりませんわ」
当然よ。
既にある程度の魔法についての知識はさっき読んだ本のおかげで頭に入っている。このぐらいの知識があれば、試験範囲が「魔法について」とかいう舐め腐った試験は容易に突破できるはず。
もう一つの「基礎数学」とかいうのも、前世の私の数学力で十分にカバーできるはず。いくら私が文系だからって、「基礎」って言うぐらいの数学ならば解けるはずよ。
あぁ~前世の知識サイコー!!
「うむ。信じておるぞキュルケよ」
それを最後にハゲ親父は部屋を出ていき、私は明日の事を考える。
「はぁ……結局入学しないといけなくなったんだから、どうにかこの破滅フラグを回避しないといけないわね……。クリスティーとの接触を避ける……は無理そうね」
フィルマの反応を見る限り、どうやら私とフィルマはクリスティーと少なからぬ因縁がありそうだ。クリスティーと関わらなければ私が地獄を見る事は無いと思ったのだけれど、それはどうやら叶わないみたい。
とにかく、予定が狂って学院への入学が必須となった私は、入学試験を突破できる前提で、どうやって目の前の破滅フラグを回避するのかを1人自室で模索するハメになった。
その前提が大いに間違えていたとも知らずに。
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