太陽と月に抱かれて ~異世界で王子を産みなさい!?~

伊東悠香

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12話 エリオの苦悩(4)

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 エリオは小柄ながら彼は全体にとてもバランスの良い体型をしている。おまけに顔は彫刻のように整っていて、その美しさは近づくほど際立つ。彼が王子だと言っても、誰も疑わないほどの優雅さや高貴なオーラさえ感じるくらいだ。
(一体彼は何者なの……)
 動けずにいる私を壁に張り付かせたまま、エリオは静かに話を続ける。
「男はいつだって、女を求めて飢えているんです……護衛が守っていなければ、あなたは今頃何十人もの男の餌食になってますよ」
「……」
 温度のない冷えた声色と、どこか獰猛さを見せる視線に、私はすくみあがる。
 エリオは王子のために私を女にしようとしていた。そう思っていたけれど、もっと違い気持ちもあったんだろうか。
「何が……言いたいの」
 精一杯の勇気を振り絞って尋ねると、エリオは難なく答える。
「私だって男ですから、あなたを抱きたいと思うことだってあるってことです」
「……嘘」
 エリオはそんな人じゃない、アンリやリュカのために私を女性にしようと教育してくれていた。今だって彼から異性からのそういう欲情めいたものは感じない。
(それに、私はもうアンリとだけにしか体を許さない……そう決めてる)
「やめて。エリオ」
 首を振ると、エリオは私の両肩に手を置いて痛いくらいの強さで壁に押し付けた。
「痛っ」
「力じゃどうにもならない。女って……悲しいですね」
 その挑戦的な眼差しは、決して私に触れたいとか、そういう気持ちで迫ってきているのではないのを感じる。
「止めて欲しければ、私を力じゃない方法で止めてみたらどうです?」
(試しているの?)
 呼吸を整え、もう相手の言葉や力に翻弄されぬよう意識をしっかりと持つ。
「エリオは私がこの国にふさわしい人間なのか確かめてるんだよね?」
「え…なんですって?」
「いつも国のことを第一に考えてる人だもの……今更私を力ずくでどうにかしようなんて思わないはずだよ」
(自分がここで働く意味を探していると、自分で言った。とても切実に……自分の存在する意味を探してる。そんな人が、気まぐれに私を抱こうなんて思うはずない)
「あなたは……馬鹿みたいに人を信じるんですね」
 エリオは私に触れていた手を下ろし、正気のない目を宙に彷徨わせた。
「国のため……そう、私はこの国を守るためにいる。でも、わからない。どうしてこんなことをしているのか、いつから私はここでこうして働いているのか」
 頭を抱えてそう呟くエリオは、とても苦しそうだ。
 私は冷えた自分の肩を撫でながら、エリオに近づいた。
「もしかして、あなたはアンリと同じように心に闇を抱えているのかな。失った、何かを探してるとか……」
「何を馬鹿なことを」
「誰だって知られたくない秘密はあると思う。でも、それがエリオの生きる道を塞いでいるなら、思い切って扉を開いてみてもいいんじゃないかな」
 異世界に来ることで、私の生き方は変わった。強制的に変えられたというか。
 理不尽なことばかりだけれど、それでもここに来る前より自分らしく生きているようにも思う。
 求められ、与え合うことで、何かが満たされたせいなんだろうか。
「女になりましたね、ジュリ……以前は感じられなかった包容力と愛の力が、とてつもなく大きくなっているのがわかりますよ」
(愛の力……あの人は愛の芽と言っていた)
 ふと夢で聞いたアンリのお母さんの声を思い出した。
 エリーゼへの伝言。誰にも言ってなかったけれど、これを言ったらエリオは何と答えるだろう。
「ねえ、エリオ。エリーゼっていう女性を知ってる?」
「…っ」
 エリオが今まで見せたこともないような表情で、私を見た。
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