太陽と月に抱かれて ~異世界で王子を産みなさい!?~

伊東悠香

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13話 パーティー(1)

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 その日の夜、またあの薄暗い地下への階段を歩く夢を見た。前回よりさらに辺りは暗く、寒さすら感じる。
(夢にしては、すごくリアルな感じ……やっぱり夢ではないのかな)
 それでも幼いアンリに会えるかと思うと、少し嬉しい気がした。目の前がうっすら明るくなり、そこに人影があるように見える。
「アンリ、いるの?」
 声をかけてみたけれど、この前見たような小さな男の子は現れない。代わりに、そこには黒い女性の影が見える。
(誰……王妃様?)
『ようこそジュリ。エリーゼには伝えてくれた?』
 開口一番、その女性はエリーゼのことを口にした。幼いアンリに会えると思っていた私は失望を隠せない。
「エリーゼという人の存在についてはエリオに聞きました。でも、まだその方には会えていません」
『エリオ?ああそう、エリーゼはエリオという名に変わったのね』
「え……っ」
 その言葉に、私は驚きを隠せない。エリオがエリーゼだった?どこからどう見ても男性なのに、女性だったってどういうことだろう。
 王妃らしき女性は哀れむような声で続ける。
『エリーゼは美しい召使いだった。なのに、国王の呪いで男性にされてしまって……可哀想な人』
 この人の可哀想という言葉には、どこか人を蔑むような嫌な響きを感じる。
(それにしても、どうしてエリオは国王に呪われるようなことになったんだろう)
 私からエリーゼと聞いて苦しんだ彼の姿を思い出すと、ただ事ではない過去がありそうだ。記憶を失うほど辛い過去が……。
「エリオは、王妃様とどんな関係があるのですか?」
 私の質問に、王妃は冷たく言い放つ。
『あなたに言う必要はないわ。とにかく、私はもう一度エリーゼに会いたいの』
 その声はイライラしていて、こちらの胸にも黒いものが流れ込んできそうだ。(この前の若い綺麗な女性のものじゃない)
「でしたら……王妃が直接エリオに伝えればいいのではないですか」
 緊張で声が震えるのを我慢しながら、ゆっくりと言い返す。すると王妃が、今度はすがるような声で訴えた。
『私とこうして接触できるのは、あなただけなのよ……ジュリ。だからお願い……エリオにここへ会いに来てと伝えて』
 エリオに会いたいと心から願っているのは伝わってくるけれど、私はどこか不自然なものを感じていた。
(アンリのお母さんなのに、彼のことを何も言わないのはどうして)
「あなたは本当に王妃様なのですか?アンリの……お母様なんですか?」
 少し間があって、王妃の声はさっきよりさらに優しいものになる。
『当然でしょう。アンリは私の子、あの子は可哀想な子だったけれどジュリが来て、満たされている。だから安心しているのよ』
「……そうですか」
 どこか釈然としない気持ちがありながらも、私は納得したふりをして頷いた。
(最初の印象と少し違う。単なる夢なのだったらいいんだけど、本当に声の主が王妃なら……アンリにも伝えたほうがいいのかな)
 そうしている間に、相手はまた焦ったように話題を締めようとする。
『もういいわ。とにかくジュリ、お願いだから私の言葉をエリーゼに伝えて。私はいつまでもこの暗い地下牢で待っていると』
 それだけ言うと、声は消え、この前と同じように私は闇の中に沈んでいく。
(あの人は本当に王妃なの?エリオと王妃はどんな関係があるの……本当のことが知りたい。でも、何が本当なのか……何も手がかりがない)
 闇の中で目を閉じ、私はこれ以上詮索するなと忠告したエリオの言葉を思い出していた。
 王妃の声に耳を傾けたら、何かよくないことが起きる。そんな予感が胸をよぎっていた。

 それから2日後、隣国の要人を招いてのパーティー当日がやってきた。
 私はエリオに言われた通り、精一杯のドレスアップをした。女性がいないため、化粧や髪のアレンジは自分でやるしかない。
(こんなお洒落したことがないから、どこまでやったらいいかわからないよ)
「失礼します」
(エリオだ)
「はい、どうぞ」
 エリオは部屋へ入るなり私の姿を見てがっかりした顔をする。
「気になって来てみれば……それでパーティーに出るつもりなんですか」
「仕方ないでしょ。こんな気合の入ったドレスアップしたことないもの」
「私が髪をやりますから、ジュリはもう少しメイクをしっかりしてください」
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