太陽と月に抱かれて ~異世界で王子を産みなさい!?~

伊東悠香

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17話 いるべき場所(6)最終話

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 不思議に思っていると、アンリはそれを指でなぞりながら理解したように頷く。
「そうか、これがジュリと僕が結ばれてる印なんだ」
「え……」
「エリオに聞いたことがあるんだ。体だけ結ばれてもこの紋章は出ないって。心と体の両方が結ばれた時……胸に紋章が浮き上がるんだって」
 そういえば、懐妊の印は腕に出ると言っていた。
 アンリの言葉に納得しつつすごく嬉しい気持ちになる。
「アンリと私は……心も体も結ばれてるってことなの?」
「そうだと思うよ」
 言いながらアンリは髪を耳にかけて微笑んだ。その仕草にハッとなる。
(その仕草は、リュカの……)
 目の前にいる落ち着いた笑みを浮かべるアンリは、確かにリュカの要素もしっかり兼ね備えた人物になっているのを改めて感じた。
 二人で一人。彼らは最初から一人の王子だった。
「私はアンリの表の顔も裏もの顔も、全部含めて好きだからね」
「どういうこと?」
「“太陽の子”って呼ばれるのは素敵だしアンリに似合ってるよ。でも、だからと言って心にある闇の部分を否定しなくていいっていうことだよ」
(いい部分も、悪い部分も、全部がアンリを作る要素。リュカの持っていた要素含め、全てが愛おしい)
 私の言っている言葉をどれくらい理解したかわからないけど、アンリは嬉しそうにうなずき、私をさらに深く抱き入れた。
「ありがとう……やはり君は僕の大切な人だ。間違いない……生涯を共にする愛おしい女性だよ」
「アンリ、本当にそう思ってくれるの」
「うん。だからジュリも変わらず僕を愛していてくれる?」
「……もちろんだよ」
 ゆっくりと近づくアンリの綺麗な顔。何度も見たその光景に目を閉じ、優しく触れる唇の感触に震えた。
(アンリだ……私、またアンリと一緒にいられるんだ)
 幾度かキスを交わしながら、アンリが私の背にたどたどしく指を添わせてくる。そのぎこちない動きは、以前のアンリでは考えられないものだった。
「ジュリ、その……上手くできなかったらごめん」
 恥ずかしそうに私を見て、アンリが頬にキスをする。
「謝るなんて、おかしい」
(私を最初に抱いたのはあなたなのに)
 女性との交わりを全て忘れてしまったようで、アンリは体が覚えていることを忠実に実行していく。私をソファに寝かせると、着ているものをそっと脱がせていく。
「寒くない?」
「うん、平気」
 こんな気遣いをしてもらったのは初めてで、どこか新鮮な感じがする。まるで初めての人と肌を合わせるみたいな緊張感。
「あ……」
 胸に触れた手は、優しく揉みしだくように動いて私の甘い声を誘った。忘れないように首や鎖骨へのキスも気持ち良く、私は余裕を持ってそれらを受け入れる。
「……あまり良くない?」
 動きを止めたアンリが、困惑したように私を見つめた。驚いて首を振ると、アンリはそれでも困っている。
「どうして?」
「ん、ここが濡れてないから」
 すっとさすったショーツラインは、確かに濡れている感じはなかった。以前激しく交わった時は、触れていなくても太ももに垂れるほどだったのに。
(アンリが相手なのに……すごく望んでたことなのに。別の人といるような緊張感のせいなのかな)
 私も戸惑い、ソファから起き上がる。
「アンリが悪いんじゃないの。アンリと、リュカと……そして二人が統合されたアンリ。今、新しいアンリとの関係に少し戸惑ってるんだと思う」
「リュカ……か」
 アンリはふうと息を吐いて、一度椅子に座り直した。
 リュカという人格があったことは伝えてあるものの、あまり彼にはピンとこないみたいだ。私との記憶が曖昧なのと同じように。
(仕方ないよね、こんな事態になるなんて誰も想像つかなかったし。こうして一緒にいる間に戻れるかもしれないんだから、焦っちゃだめだ)
 私は気持ちを切り替えて、アンリの手を握った。
「ゆっくりでいいよ……ゆっくりしよう?」
 気持ちはお互いにあるのだ。きっと思いやりを持ってすれば、その距離は縮まっていくはず。
「うん。ゆっくり……だね」
 アンリは納得したように頷句と、私の両足をそっと広げて中に顔を埋めた。
「え……何?」
 恥ずかしさに足を閉じようとするが、アンリが腕でそれを阻む。
「自然に濡れるのが無理なら、こうした方がいいでしょ」
「やだ、ちょっと待って……やぁっ」
 今日は止めておこうと言いたかったのに、アンリはまだ諦めるつもりはなかったようだ。さすがに秘部を直接舐められたことで、私のそこは反射的にじんわりと濡れていく。
(体が覚えてる……ここに、アンリが入って激しく私を揺さぶった時を)
 記憶の中にあるアンリを呼び起こすと、驚くほどそこが濡れて柔らかくなっていくのがわかった。

「すごくいい感じになった」

 顔を上げると、アンリが嬉しそうに微笑む。その笑顔を見て、少しだけ胸が痛んだ。
(アンリのことを思い出しただけなのに、目の前のアンリを裏切ってるような……不思議な感じだよ)
 私の思いを知らないアンリは、自らの着ているものを脱ぎ去って私の中へと押し入ってくる。突然入ってきたその熱に、私の体は驚きで跳ねた。
「痛い?」
「う、ううん……そうじゃないよ」
(でも、ちょっと驚いた)
 中に入った途端、アンリは余裕を無くし、無言で私を貫いていく。何か声をかけてほしいけど、それもお願いできそうになり。
「……あ……っ」
 突き上げる激しさに、ふと寂しさも重なる。耳元で意地悪く囁く彼の声がない。あの声で、私は自分の意図に反して快感を募らせていたのを思い出す。
(アンリなのに、アンリじゃない……)
 言葉にならない寂しさの中、アンリは小さく体を震わせて私の中で果てた。
 私が達していないことはあまり気にならないようで、そのまま体を抱きしめて胸に顔を埋めた。
「女性の体って気持ちいいね……今度はもっと長くしたい」
「……うん」
 満足しているアンリを見て、それでもいいかと思える自分もいた。柔らかな金色の髪を撫で、私はゆっくり深呼吸する。
(また必要としてもらって、幸せじゃない。アンリだって精一杯私を思い出そうとしてくれてる……今はこれ以上望んじゃいけない)
 そうは言い聞かせるけれど、一度覚えたあの幸せな感覚は簡単に消えてくれない。今のアンリと、またあんなセックスが出来るところまで関係を戻せるだろうか……。
 そんな微かな不安もあった他のは事実だ。でも、ここに戻れなかった自分を想像すると、やはり今の方が百倍幸せなのだと思う。
(あの寂しさを抱えて生きるなんて……とても無理だった)
 それを再認識すると、私はアンリを抱きしめながら今の幸せをゆっくりと噛みしめた。


*** 終わり ***

最後までお読みいただきありがとうございました。
二人の今後も書いてありますが、それはいずれ番外編としてアップしたいと思います。

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