太陽と月に抱かれて ~異世界で王子を産みなさい!?~

伊東悠香

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10話 月に抱かれる(2)

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 リュカは頰に触れていた指を離し、軽く自分の耳を触った。
(時々耳を触る仕草するけど、リュカの癖なのかな)
 耳を撫でるうちに落ち着いたのか、リュカは静かな瞳で語り出した。
「これもエリオから聞いた話だが。アンリがあっちの世界で探していたのは、『青い魂』。あんたは……アンリが理想とする魂の色をしていたようだ」
「青い……魂?」
「誰からも必要とされず、激しく寂しい感情を抱くと魂が青くなる。ジュリはアンリの理想の魂を持ち、彼の求める巨大な欲求を受け入れられる珍しい女性だったみたいだ」
(……激しく寂しい感情)
 どこも否定できるものはない。
 私は寂しかったし、誰かに必要とされたかった。だからアンリが私を求めてくる姿は愛おしいと感じたし、受け入れるのに十分なものがあった。
「そうだね、私は寂しくて虚しくて……誰かに求められたいって思っていたよ。きっとそれを認めたくなくて、一人で生きるとか決めつけてたような気もするし」
 リュカは私の言葉を聞いて、クスリと笑った。
「……そりゃ消えそうにもなるわけだ」
「え?」
 驚いて顔を上げると、額に手をかざされる。そこからはほんのりとした熱が感じられ、不思議な気分になった。
(この熱は……何?)
「今のあんたはしっかり生きていけるエネルギーを持った状態だ。ここに来た時は、消えそうなほど体が透けていたからな」
「消え……そうなほど?」
 自分がそんな状態だったなんてまったくわからなかった。エリオも何も言っていなかったし……。
「アンリを受け入れたことで、格段に高いエネルギーを得たってとこか。あいつの心の渇きはこの国の女ではとても受け入れきれないほど大きかったからな」
 それを聞いて、アンリが私を必要だと言っていた意味が少しだけ分かったような気がした。
(彼は受け入れられることに飢えていて、私は誰かを受け入れたいと望んでいた。その条件がぴったりだったからこそ、私は選ばれた)
 腑に落ちたような気がしていると、リュカはまた同じように耳に触れながら冷めた口調で言う。
「愛とか恋とか、そんな甘い話じゃないな。お互いに必要なものを与え合う……そうして自分を満たして自信を得る。ギブアンドテイクってやつか」
「……それが愛じゃないの?」
「何?」
 今まで冷静だったリュカの表情が一瞬こわばり、驚いたように目を見開く。
 私もどうしてリュカにこんなことを言ったのかわからない。でも、アンリとリュカに共通しているのは『愛が何たるかを知らない』というものだ。
 私が愛を知ってるかと言われると、異性愛は正直知らない。
 でも、今はこの世にいない両親から受けた愛情を思う時、愛っていうものは確実に存在するんだという確信がある。だからこそ私は誰かを愛したいと思っていたし、それを欲する人がいれば惜しみなく注ぎたいと思っていた。
(でもここまでそれを自覚するほど、私は誰かを愛したいって思ってただろうか……それを強く感じるのは、カリーナへ来たせいじゃないだろうか)
「そうなのか……俺もアンリと同じだったんだな」
 リュカは真面目に考えるそぶりを見せ、そして口元を緩めた。
「俺もあんたを欲している」
「リュカ?」
 リュカは私を見ると、体をこちらへぐっと寄せてくる。青い瞳の奥に今まで見えなかった熱が篭ってくるのがわかる。
「あんたと会話して楽しいと思う気持ちが何なのか考えていた。もちろん触れたい気持ちもあったが、それ以上にあんたが側にいればそれでいいと思う自分が不思議でしょうがなかったんだ」
「……でも」
 まさかと思った。
 リュカは私との関係をもっとあっさり捉えていると思ったし、どこか余裕を感じる部分もあった。
(なのに今のリュカは、アンリと変わらないくらい何かに飢えてる人に見える)
 リュカは私の顎を強くつかみ、ぐっと上向かせる。
「痛いよ……リュカ」
 リュカは、アンリとよく似たその目で私をじっと見つめた。
「泣きたいなら泣けばいい。感情を俺に全部見せたらいい。代わりに、俺はあんたがどう騒ごうと思う通りに抱く」
「……っ」
 唇が強引に塞がれ、軽い痛みすら覚える。その激しすぎるキスに、私は呼吸をするのを忘れた。
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