太陽と月に抱かれて ~異世界で王子を産みなさい!?~

伊東悠香

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11話 嫉妬(1)

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 深い眠りの中にいる間、夢を見た。
 私は地下に通じる薄暗い階段を降りていて、次第に目の前に光が広がっていく。
(ここはどこだろう)
 そう思っていると、光の中に小さな男の子がしゃがんで泣いていた。金色の髪をして、遠目にもそれはアンリなのではないかと直感する。
「……アンリ?」
 呼びかけると、男の子はただ泣いたまま返事をしない。可哀想になって、側まで歩いて行ってしゃがんだ。
「どうしたの、何が悲しいの?」
「……僕のお友達だったのに。殺されちゃった」
「え…」
 見ると、男の子の足元に青い小鳥が倒れていた。目を閉じて、眠っているかのような顔をしている。
「殺されたって……誰に?」
「……お父さん。お父さんは、僕に友達なんていらないって言うんだ……だから僕はいつだってひとりぼっち」
 小さくそうと言うと、男の子は顔を上げて私を見る。その瞳は青く澄んでいて、私の胸は思いがけずどきりとさせられた。
(やっぱりアンリの子どもの頃なんじゃ……)
「あなたは、アンリ?」
「うん。お姉さんは誰?」
「私は……ジュリ」
「ジュリ、僕の友達になってよ。お話し相手になって?」
 小さな手で私の手を握り、アンリは必死な目で訴える。
 夢の中だというのにその感触はリアルで、戸惑った。
(アンリは一人ぼっちだった……リュカとはこの頃から別々に暮らしてたのかな)
「お友達……本当に誰もいないの?兄弟も?」
「うん。僕はいつも一人なの。お母さんとも会ったことがない」
「え、そうなの」
 アンリは寂しそうに小鳥を手に取ると、すくっと立ち上がった。涙を拭って、凛々しく前を向く。
「でも僕はこの国の王子だから。お父さんの期待に応えて、きちんとした王様にならなくちゃ……魔法も覚えなきゃいけないし」
 その姿が今のアンリと重なり、胸が痛くなる。
 これが夢でなく本当の過去だとしたら、アンリはとてつもない寂しさを抱えて生きてきたことになる。
(これは夢?それとも実際にあった過去のこと?)
 その時、ふっと目の前が薄暗くなり、アンリが消えた。
「アンリ?アンリ!」
 呼んでもアンリの声は返ってこず、その代わり女性の優しい声が響いた。
『アンリは可哀想な子』
「あなたは?」
 辺りを見回すけれど、どこもかしこも薄暗く、心に不安が広がる。
『私はアンリの母……この城の王妃でした。でも今は実態を持たぬ魂だけの身』
(地下牢に閉じ込められてるっていうのは、嘘だったの?)
「それは本当ですか……これは、私の夢じゃないんですか」
 必死に尋ねても、それに対する答えは返ってこなかった。
『アンリは、あなたを必要としている。そしてあなたもアンリを必要としているのよ』
(私の名前を知ってるんだ……)
 夢のようでもあり、そうではないようでもあり。
 私はただ立ちすくんで、暗がりから聞こえる声に耳を傾ける。
『あなたがアンリに与えた愛の芽。必ず大事に育てて……そうすればきっとこの国は救われる』
「愛の芽……国が救われるってどういう意味ですか?」
『もう時間がないわ、ごめんなさい。また会えたらいいのだけど』
 彼女は少し慌てた雰囲気の声になり、最後に全く別の話をした。
『一方的でごめんなさいね、ジュリ。最後に一つだけお願いをしていいかしら』
 女性の声は、透明でとても若い。私は諦めてその声に頷いた。
「何でしょうか」
『エリーゼに伝えて。姿はなくとも、私はあなたの心にずっと生きてるから……と』
「エリーゼって誰ですか?お城にいる方ですか?」
 声はそれっきり聞こえず、私は深い闇の中に包まれていく。
(あ……)
 幼いアンリも、アンリの母だという女性も、もう私に話しかけることはない。
 寂しく暗い場所に取り残され、私は得体の知れない恐怖に襲われた。

「アンリ、アンリ……一人は寂しいね。私もこんな世界に一人なんて嫌だよ……」

 そう呟いたところで、ふっと目が覚める。
 そこはベッドの上で、隣にいたはずのリュカは姿を消していた。日が昇ってくるのが窓の光を見るとわかる。

(今のは、全部夢?)

 そうとも思えず、私は髪をくしゃっと握りながら記憶していることを反芻させた。
 アンリの子ども時代に一時的に接触していたのかもしれないし、アンリの母だという女性が私にあの夢を見させたのかもしれない。

(エリーゼって誰なんだろう。伝えてって言われても誰だかわからないのに……。それにリュカがいなかったけど……どうしてだろう)

 不思議な気持ちでぼんやりしていると、体がぶるりと震え、肌が出たままなのに気がつく。
「いけない、シャワーを浴びないと」
(私、昨日の夜、リュカに体を許しちゃったんだよね)
 ベッドから降りながら、アンリへの罪悪感で胸が痛む。
 夢であんな悲しい子ども時代を見たのも影響して、私は思わず涙が出そうになった。

「もっとお話ししてあげたかったな……小さい頃のアンリと」

(彼の孤独は、簡単に埋められるものじゃないのかもしれないな)

 そんなことを思いながら、私は椅子にかけてあったバスローブを羽織ると、ひんやりとしたシャワー室へ入った。
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