島流しの姫と雷さま

絵馬堂双子

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31、許し

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 秋も深まり、姫が島に来てちょうど一年が経とうかという頃。
 姫は国司に呼ばれて港の役所を訪れました。
 国司は穏やかな笑みを浮かべて、天子さまより父上の罪が許され、姫も流罪を解かれ、都へ帰る許しが下されたと告げました。
「ばあやどののお手紙が天子さまの元に届き、天子さまじきじきにご沙汰を下されたとのこと。どうぞばあやどのに感謝してあげてくだされ」
 姫は、十日ほど後に都からの船が着くから、折り返しその船に乗り、都へ帰るよう言われました。
 姫はお礼を述べて国司の館を出ました。


 都へ帰ることが決まってしまったので、姫は館で荷物の整理をし、まずは村へ、挨拶に行きました。
 村では姫が金を見つけ、都へ報告したご褒美に、都へ帰ることが出来ることになったのだ、と話が伝わっていて、多くの村人たちにとって雷山に大量の金があったというのは寝耳に水で、それで自分たちの暮らしがどうなるのか?、里長のところに詰めかけ、長老のところに押し掛け、話を聞きました。
 その結果、若者たちにはおおむね、島が開発されてにぎやかになる、と期待する声が多くありましたが、年寄りたちはやはり、自分たちの暮らしが壊されてしまう、と心配する声が多くありました。
 そんなところへ姫が降りてきたので、年寄りたちからは白い目で見られ、若者たちからも、どうせ都に帰ってまた贅沢な暮らしをするのだろう、と、感謝よりもやっかみの陰口を言われました。
 姫が去ってしまうのを心から寂しがったのは、やはり子どもたちと、楽団の者たちでした。
 ずっと島にいてほしいと願う彼らに、姫も寂しそうに、
「これもわらわが余計なことをしてしもうた罰じゃ。許せよ」
 と詫びました。


 森へ行って団佐分郎狸を呼びましたが、いつもの広場に行っても、狸たちは姿を現しませんでした。
 今日に限らず、ひと月ほど前に、都から陰陽師の式神が飛んできて、金の鉱脈の在処を知られてしまった、と館にこっそり知らせに来て以来、団佐分郎たちには会っていません。
 既に自分たちはお役御免と別の森に移ったか、姫に腹を立ててもう出てきてくれないのかも知れません。

 夜、満十郎に森に連れて行ってもらい、呼ぶと、ようやく羽黒彦が現れてくれました。
 都に帰ることになったことを告げると、羽黒彦は既に知っていて、姫が詫びると、首をくるくる回して、
「前にも言った通り、ここに金がある以上、いつかは仕方のないことじゃ。おまえさまのせいだと言うのなら、おまえさまと友になって楽しく過ごしたわしらのせいでもある。時の流れには抗えんということじゃ。気に病むことはない」
 となぐさめてくれました。団佐分郎たちの行方を聞くと、
「あいつは都の陰陽師に負けてすねておるのじゃ」
 と笑い、
「いつか、あいつの方からおまえさまを訪ねていくかもしれんよ?」
 と言いました。
 姫は、末永く健やかにお過ごしくだされ、と羽黒彦に別れを告げました。


 皆に別れが済んでしまって、館の道具は村で使ってもらおうとそのまま残していくことに決めましたので、約束の日までまだ日はありましたが、姫も何となく気が抜けてしまって、先に寺泊の港に渡ってしまおうかと思いました。
 一日交代で人と荷を運ぶ船が往復していましたので、国司に向こうで宿がとれないだろうかと聞きに、朱丸に走ってもらいました。
 すると、国司ももう寺泊に渡っていて、向こうで国司に頼めば宿は手配してくれるだろう、とのことでした。
 姫は朱丸とアキに礼を言い、朱丸には小刀を、アキには布を形見に与えました。
 ばあやは庭の端に墓を建ててやりましたので、遺髪いはつだけ大事に持って、
 満十郎と小春と共に、姫は館を、里を離れ、朝の内に寺泊への船に乗って、約束の日を三日残して、サドの島を離れました。
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