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27、問題点

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 笹山カウンセラーには生徒指導室を自室として使ってもらっていた。
 ここで、六時三〇分、笹山カウンセラー、若槻有希養護教諭、御堂美久実習生の三人で会議を開いた。
 笹山カウンセラーが、一日学校を見て回り、途中までだがざっとアンケートに目を通した段階での分析を披露した。

「現在のところ生徒たちはおおむね思ったよりも平静であるようです。
 それは亡くなった大菅先生が生徒たちに著しく不人気であったのが原因と思われます。
 彼は生徒たちに対して常に高圧的で、少しでも反抗的な態度を取ると大声で叱責する事がしばしばあったようです。顧問を務める陸上部の部員に対しては体罰も日常的に行っていたようです。
 そんな教師でありましたから、その死に対しては「ざまあ見ろ」と言った処罰感情が強いようです。

 一方、ひどく怯えている生徒もいるようです。
 生徒たちは大菅先生の異常な死に方を、「エリーさん」と言う超自然的な存在の仕業と考えているようです。イジメなどで悩んでいる生徒がお願いすると、「エリーさん」がその相手に罰を与えてくれると言うのですね。
 怯えている生徒は、大菅先生同様、自分も「エリーさん」に罰を与えられる、イジメを行って恨みを買っていると言う自覚のある生徒なのでしょう。
 アンケートを全て精査した訳ではありませんが、その数は少ないように感じます。おそらくその周囲で、怯えている事を認めたくない、自分もイジメに荷担している事を隠そうとしている生徒が相当数いるように思います。

 さて、わたしは大菅先生の死を受けて、生徒たちの心のケアの為にスクールカウンセラーを依頼されて来た訳ですが、生徒たちの心はかえって今の方が平穏であるように思います。一部を除いてですね。
 今の平穏な状態を生徒たちがどう考えるのか?
 本来なら、大菅先生の暴力的な態度と言うのは、学校と言う場に置いて、民主的に解決されるべきものだったと考えます。
 しかし学校はそれをしてくれず、大菅先生の死によって解消された。
 生徒たちはそれをどう捉えるか?
 我々大人はそれに十分注意して見守っていく必要があると思います。

 気になるのは「エリーさん」の存在ですね。
「エリーさん」の仕業と思われる事故や傷病は、大菅先生の死以前からあり、昨日もまた、女子生徒が顔に切り傷を負うと言う事故がありましたね?
「エリーさん」と言うのが何者なのか? 具体的に実在する物なのか? 我々には正体を掴むのは難しいと思われますが、「現象」としては認めざるを得ず、これからも続くと見ておく必要があるでしょう。

「エリーさん」による制裁が続いた場合、生徒たちの心理はどう動くでしょう?

 昨日襲撃された酒田真衣さんはとても綺麗な女生徒で、男女を問わずファンが多いようですね?
「エリーさん」に襲われた事で、彼女にも黒い裏の顔があったのか、と考える生徒と、彼女に限ってそんな事は無い、「エリーさん」は頼まれれば誰でも一方的に罰を与えるのか?、と反発する生徒がいるでしょう。
 支持する者、反発する者、両者の対立が先鋭化して行くかも知れません。

 我々に出来る事、すべき事は何か?
「エリーさん」に制裁する理由を与えないようにする事です。
 大菅先生の横暴を止める事の出来なかった学校が、今度こそ、生徒たちの抱える問題を自力で解決する事です。
 学校と言うのは一つの社会と見ていいでしょう。
「エリーさん」と言う過激な自警団を活動させない為には、公的機関が職務をきちんと公平に行わなければなりません。
 それをこの学校に求めて行くのは、ちょっと骨が折れそうですがねえ」
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