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30、充実した休日

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 土曜日、晴楼高校陸上部は午前九時から、隣町の市営グラウンドで練習を行った。盛篭市にもいい市営体育館があるのだが、残念ながらテニスコートと野球グラウンドしか無く、学校から一〇キロほど西へ、バス路線も不便な為、生徒たちは自転車で遠征しなければならない。
 グラウンドは海沿いの松林の中にあり、林を抜けてくる潮風が多少、涼しく感じられた。
 晴楼高校の他にも、中学、高校が二校ずつ、近くの私立大学の陸上部が練習に来ていた。
 御堂はそれぞれの監督、コーチと、トラック、フィールドの使用スケジュールを調整した。
 御堂は基本的に走るのが専門で、走り幅跳びや走り高跳びは大学の専門のコーチがいたので、お願いしてしまった。他の中学、高校の部員も同様で、地域の競技者を育成する為に積極的に協力してくれているようだ。
 トラックの利用もそうで、学校ごとに使うと言うより、一〇〇メートルなら一〇〇メートルで、みんないっしょに並んで順々に走った。さながら交流練習会のようだった。
 監督、コーチ達は、御堂が晴楼高校のコーチと知ると、大菅コーチの死のおくやみを言った。彼らには大菅に対する悪い感情は窺えなかった。大菅も外面は良かったのだろうか。専門の仲間同士、こうした場では情報交換したり、指導法のディスカッションで盛り上がっていたのかも知れない。

 男子部員が顔見知りの他校の男子たちに、
「おまえんとこのコーチ、すげえ美人じゃん」
 と羨ましがられ、
「だろう?」
 と得意になった。
 御堂は相変わらずTシャツにジャージパンツ姿だ。
「胸もなかなかだよな」
「まあな」
「走ったら揺れるよな」
「揺れるだろうなあ」
 若いオスどもは意気投合した。

「御堂コーチ」
 一〇〇と二〇〇で地区大会出場を決めている三年男子が呼びかけた。
「コーチ、短距離も速いんでしょ? 俺と勝負してくれませんか?」
「俺たちもよろしくお願いします」
 と、他校の男子たちも名乗りを上げた。
 御堂は(フフン)と顎を逸らした。
「勝負ね。面白いじゃない。わたしに勝てる気あるの?」
「そりゃあまあ、俺たちだってそれなりに速いつもりですから、なあ?」
 おう、とライバルたちも応じた。
「いいわよお。じゃあ」
 御堂は一〇〇メートルトラックで走り込みをしている自校他校の部員たち男女みんなに呼びかけた。
「はいはーい、注目。みんな、わたしと勝負しましょう。わたしに勝ったら、祝福のキスをしてあげるわよお?」
 うおー!、と男子たちが吠えた。
「あ、女子限定ね」
 オー、ノー!、と落胆の悲鳴が上がり、女子たちからもクレームがついた。
「コーチのキスじゃやる気が出ませーん」「セクハラですー」
「えーーー」
 御堂はがっかりして、
「じゃあジュースのおごりでいいや」
 と投げやりに言った。女子たちは喜び、男子たちも「ま、いっか」と再びやる気を出した。

 中学高校生たちのお遊びを「おうおう、いいなあ」とニヤニヤして眺めていた大学生たちが、スターターとゴール審判、記録係をしてくれる事になった。
 短距離の練習をしている部員は五校男女併せて五十名近くいた。トラックは八レーンあったが、全員と何度も走るのはきついだろうと、大学一年の長距離の選手たちとまず勝負して、勝った者たちが御堂との決勝を行うと言う事になった。
 結果、中学の男子が二人、女子が三人、高校の男子が八人、女子が十二人、勝ち抜いた。
 御堂は男子二組、女子三組と勝負する事になった。
 まず女子から、一組目、中学三人、高校二人との勝負。御堂は軽く流して楽勝した。
 二組目、高校五人との勝負も、楽勝だった。
 三組目は晴楼の副部長にしてエースの喜多川、他校のエースも入っていたが、審判から物言いがついた。女子相手とは言え御堂も続けて走ってはスタミナが落ちて、この後速い男子と勝負するのは不利だろう、と。
 そこで男子の二組と先に勝負する事になった。
 一組目、中学二人、高校二人との勝負。中学生も高校生、高校の女コーチ相手とは言え、それぞれ市の大会、県の大会で決勝を走るエースたちで、プライドがあった。最初から負ける気なんて無く、中学生相手と舐めているなら一泡吹かせてやろうとやる気満々だった。
 スタートはしっかりスターティングブロックを使ってクラウチングスタートを行っていた。御堂はブロックの調整が面倒なので常に第三レーンを走った。
「オン・ユア・マーク。セット」
 各選手が腰を上げ、グッとスタートラインに合わせた手に体重がかかる。
 スターターピストルはデジタル式を使用。スタートライン後方の地面に置いたスピーカーから、
「ピ!」
 とテレビの国際試合でもおなじみの電子音が鳴った。
 ダッと選手は一斉にスタートした。中学生二人も頑張って、五〇メートル過ぎまでほぼ横一線に並んでいたが、さすがに中学生たちは遅れ出し、高校生二人もついて行けず、御堂が勝利した。
「ビクトリー」
 御堂は一本指を突き上げて、勝利を誇示した。
 次のスタート準備に取りかかった男子第二組、成績上位が集まった六人は、
「なんかさあ、俺、マジで勝ちたくなっちまったぜ」
「奇遇だな。俺もだ」
「フン。最初にゴールラインを切るのは俺だぜ」
 と、本気の勝負魂に火に付けた。
 御堂が戻って来て、選手たちもブロックを自分の足位置に合わせ、準備を終えていた。
「コーチ。休憩入れなくて大丈夫ですか?」
 ばてた相手に勝っても自慢にならないと配慮を見せる高校男子に、
「まだまだ軽いウォーミングアップよ」
 と、御堂もまったく疲れを見せずに答えた。
 男子第二組、
「オン・ユア・マーク。セット」

 ピ!

 スタート。
 さすがに多く大会に出場している上位入賞者たちの反応はよく、御堂はわずかに出遅れた。
 いける!と思った六人はスタートダッシュのリードを生かすべく、最初から全力で走った。
 しかしじわじわと御堂が追い上げて来て、八〇メートル辺りでトップに並ぶと、加速を増し、一位でゴールした。
 膝を押さえてゼエゼエ荒い息をする高校生たちを、腰に左手を当て、右手の人差し指で勝利を誇りながら眺める御堂は、まったく息を見出していなかった。
「ちっくしょー!」
 男子たちは思いっきり悔しそうに吠えた。

 最終、女子第三組。
 スタートラインに並ぶと、御堂の隣り、第4レーンに立った喜多川は、真剣な顔で、
「コーチ。全力でお願いします」
 と言った。御堂は「うーん」と困った顔をして、
「それはどうかなあ」
 と言った。
「わたしの全力が見たかったら、わたしを追い越してみなさい」

 ピ!

 スタート。
 今度は一斉のスタート。
 喜多川は大会の決勝のつもりで全力で走った。御堂がリードした。
(追い越してやる)
 喜多川はまっすぐ前に、ひたすら速く走る事に集中した。御堂にはなかなか並べない。
(もっともっと、速く!)
 ゴールが近づいてくる。御堂には並べない。ヒイッ、と喉が鳴った。呼吸はしていない。一呼吸すれば、半歩足の運びが遅れる。
 追い越す、追い越す、追い越す・・・・加速装置!!!!
 ゴールして、五〇メートルくらい、止まれずに走った。
「ハアッハアッハアッ」
 心臓が破裂しそうに速く激しく打ち、全身が酸素を求めて大きく口を開けて呼吸した。
 結局追いつけないまま、ゴールしてしまった。
 丸めた背中をポンと叩かれた。
「大丈夫?」
 御堂が心配顔で覗き込んだ。額に汗はかいているが、まだ全然呼吸は乱れていない。
 喜多川はしばらくゼエゼエ続けて、ようやく、
「し…………死にます」
 とかすれ声を絞り出した。御堂は部員にカバンから水筒を持ってこさせ、スポーツ飲料を飲ませた。喜多川は全身から汗を噴き出させ、陽炎を立ち上らせていた。
 タイムを計っていた男子大学生がやって来て、
「すごいよ」
 とストップウォッチを見せた。
「これ、わたしの?」
 まだ大きく呼吸しながら、喜多川は驚いた顔で訊いた。自己ベストだった。大学生は、
「女子でこのタイムなら地区大会三位入賞は間違いないんじゃない?」
 三位入賞なら、全国大会出場はまず固いだろう。
 喜多川は悔しそうな表情が一遍、パアッと顔を輝かせて御堂を見た。御堂も微笑んで、
「伸び代を出し切ったわね。これでまた伸び代が追加されたから、大会では大会新も出せちゃうかもよ?」
 喜多川は、
(この人には絶対勝てそうもないな)
 と思ったが、
「ありがとうございます、コーチ」
 と嬉しさを抑え切れない笑顔で言った。

 御堂が選手たちとスタート地点に戻ってくると、今度は大学の監督が話しかけてきた。
「晴楼さん。いや、あなた、どこかで見た事があると思ったら、御堂さん……だったかな?四〇〇メートルの」
 真っ黒の大きなサングラスで目もとを覆った年配の監督は感心しながらちょっと批判めいた感じで言った。
「国体、ユニバーシアードでの活躍を期待してたんだがなあ。ケガをした訳でもないみたいだね?」
「色々忙しくて、部活に当てる時間が無いんです。今はたまたま臨時のコーチを頼まれちゃって」
 と、御堂は困った笑顔で誤摩化した。監督は、フム、と残念そうにうなずいて、期待を裏切った仕返しと意地悪に笑って提案した。
「どうだ、うちの連中とも勝負してくれんか? あんたの得意な四〇〇ででも?」
 おお、と大学生たちは盛り上がった。御堂は、フウーン、と言う顔をして訊いた。
「男子ともですか?」
「出来たら、頼むよ。うちの女子じゃあかないそうも無いんでね」
 女子部員たちはプライドを傷つけられてムッとした顔をした。
「いいのかなあ、わたしが勝っちゃっても」
 挑戦されて、御堂も悪乗りした。
「じゃあ、女子は四掛ける一〇〇のリレーでどうぞ」
 はあ?と女子部員たちは呆れて、本気で気分を害した。
「ちょっとそれ、舐め過ぎじゃない? うちの大学、けっこう強いんだけど?」
 彼女たちが怒るのも無理は無く、タイムが圧倒的に違いすぎる。リレーならメンバー次第で、男子の四〇〇にだって勝てる。御堂もさすがに調子に乗り過ぎたかと反省して提案した。
「それじゃあ、タイムの計測は無し、と言う事で。お互いの為に、ね?」
 タイムの記録が無ければ、勝負の結果がどうあれ、お互い色々言い訳出来るだろうと言う事だ。監督も、
「それでどうだ?」
 と自分の教え子たちに訊いた。
「ま、いいんじゃないですか? 女子も最初から負ける勝負じゃつまらないだろうし」
 男子の挑発に、
「ありがとう。わたしたちに負けて泣かないでね?」
 と、女子も受けて立った。双方、中学高校生相手に圧勝しようとも、現役を退いた一般女子に負ける気はさらさら無かった。

 御堂が一番外側の第八レーン、第七、第六に女子四〇〇メートルの選手が入り、第五から第二まで男子が入り、第一に女子リレーチームが入った。
 大学生たちはノースリーブ、短パンのユニフォーム姿になっていた。御堂は普通のジャージパンツで、靴もランニングシューズだった。御堂はそれでいいと言ったが、それじゃ駄目だと、足のサイズの合う大学女子からスパイクを借りて履き替えた。
 トラックを一周走る四〇〇メートル競技は内と外の差でスタート位置が大きく違う。見た目、外側が五〇メートル先行し、追いかけられる形になる。精神的にはきついが、カーブが緩いので、走りやすい。歩幅の大きな男子は内側は走りづらいだろう。
 思いがけないイベントに、トラック競技の選手はもちろん、フィールド競技の選手も練習を休止して観客になった。
「オン・ユア・マーク」
 各選手が上体を揺らしながらスタートラインに手をつく。
「セット」
 ぐっと尻が上がり、前屈体勢になる。高校生たちとは明らかに体の大きさ、足の長さが違い、迫力がある。
 御堂も高く尻を上げながら、脚にはブロックを蹴る屈曲を残している。

 ピ!

 スタート。
 御堂のスタートも悪くなかったが、現役選手たちのロケットダッシュが勝った。
 第一から第二カーブの間に内側の男子たちが早くも外側の女子たちに迫る。
 第一レーン、女子リレーチームが第二走者にバトンをタッチする。バトンタッチはスムーズで、すぐにトップスピードになって四〇〇の選手たちを追いかける。
 直線に入って各選手の差が明らかになる。外の女子二人はやはり男子に追いつかれて来ている。徐々に差が縮まり、ちょうど半分辺りでついに追い越された。追いかける女子リレーチームも健闘している。
 第三カーブに入り、再び選手間の差が分かりづらくなる。しかし差は確実に詰まっている。第四カーブ、最終の直線に入るまでにどれだけ差が縮められるか?
 最後の直線、御堂と、男子二人、女子リレーアンカーの勝負になった。
 リレーアンカーのスピードは上がる一方、男子二人はスタミナの勝負だ。
 御堂は、歩幅が大きい。まるで機関車がピストンの前後運動で長いロッドを上下させ、大きな車輪を回転させるように、長い腕脚を力強く大きく振って、大きなストライドで、飛ぶように走っている。上半身が安定し、走りがぶれない。
 ゴール五〇メートルで限界と戦う走りをしている男子たちに対し、御堂は加速し、引き離した。
 ゴール。
 一着御堂、二着男子、三着女子リレーチーム、四着男子、五着女子、六着七着男子、八着女子。と言う結果だった。
 四〇〇の選手たちが全員、地面に尻を着いてゼエハア息をついている中、御堂は立ったまま腰に手を当て余裕の顔だった。さすがに口は軽く開けて、胸を大きく上下させてはいたが。
 御堂がVサインを作ると、わあっと観客から歓声と拍手が上がった。
 女子の中にはうっとり、
「キス……されたいかも……」
 と告白する者もいた。
 男子たちも当初のもくろみ通り成人女性の揺れる胸を堪能する事が出来たが、それより、
「御堂コーチ、カッケーー……」
 と、頬を染めて、憧れの眼差しを向けた。
 ゼエハア言っている選手たちは、
「バ、バケモンかよ……」
 と、呆れ返った目で御堂を見ていた。トップに立つ人間は体の元から違うのだと思い知らされた。タイムを計ってなかったのが惜しかったような、良かったような、負けて複雑な気持ちだった。
 大学の監督は、
「御堂君。今からでも再開しないか?」
 と、リタイア状態を本気で残念がった。

 遊びは終わりで、正午まで部員たちはしっかり練習させられた。トップ選手はともかく、日頃つい練習をさぼりたがる部員たちも、気分が高揚して、一生懸命積極的に練習した。
 練習が終わると、御堂は大きなタッパーウェアに作ってきたレモンのハチミツ漬けを配ってやった。
 マネージャーのいない晴楼高校陸上部、特に男子は、
「あ……、俺、マジで感動してる……」
 と、甘酸っぱいレモンを味わった。

 他校の監督コーチと話し合って、正午で練習の終わる中学高校の五校は全員整列して、
「ありがとうございました!」
 と挨拶して解散した。
 全員に楽しい練習会だった。
 いつもは自転車通勤の御堂も、今日は愛車の軽自動車で来ていた。
「じゃあみんな、気をつけて帰ってね? わたしはこれからバイトだから」
 と帰って行った。残された部員たちは、
「タフな人だなあ」
 と、改めて呆れた。


 日曜日。
 御堂は午前中に車で、酒田真衣、坂井香澄を迎えに行って、温泉健康ランドに連れて行った。
 坂井香澄のタバコ臭デトックスの為で、訊くと、その後父親はタバコを吸うときは外に出るそうだ。御堂提案の喫煙室はまだ思案中のようだ。
 前日御堂から電話で誘われた真衣は、
「温泉健康ランドなんて年寄り臭いのは嫌です」
 と断ったのだが、「坂井さん一人じゃ緊張してかわいそうでしょ」と言われて渋々承諾した。
 果たして温泉健康ランドに着いてみると、年寄りよりも家族連れで混んでいた。
 館内には色々な施設があった。
 各種マシーンの揃ったトレーニングルームがあり、女子高生二人は用意させられたTシャツ、ジャージと言う御堂と同じ恰好に着替え、エアロバイクとランニングマシーンでたっぷり汗をかかされた。
「わたしたち、温泉に入りに来たんじゃなかったの?」
 真衣はお洒落なイメージ通りテニス部に入っていたが、成績は特に良くなく、県の地区大会にペアで出場したが、一回戦敗退して、実質引退していた。香澄は部活には入っていなかった。三年生の体育は週に一回だけで、二人とも運動不足で、ひーひー言っていた。
 御堂は普段使う機会の無いウェイトトレーニングマシーンで胸と背中の筋肉を鍛えていた。
「デトックスよ、デトックス。脂肪を燃やして、もろもろ老廃物を排出しなくちゃ」
 今日一日、お金は御堂のおごりなので、二人は仕方なく従った。
 三〇分ほど運動して、温泉風呂に入った。
 泡風呂で大量の泡に体を包まれ、運動の疲れが溶け出して行くようだった。
 エナジードリンクみたいな黄色い薬草風呂なんかもあって、ピリッとした香りがどうかと思ったが、入ってみるとこれはまた開いた毛穴にハーブが染み込んで体がリフレッシュされるようだった。
 サウナや露天風呂もあったが、二人は泡風呂と薬草風呂、ミストサウナが気に入って、三つをローテーションして楽しんだ。
 ところで御堂は、自分から誘っておいて、実は熱い風呂は苦手だった。せっかくの美少女二人を両手に花で楽しむつもりだったが、
「先生、見るからに体温高そうだもんねー」
 と二人に笑われ、一人、水風呂と打たせ湯を残念な思いで往復していた。
 一時間ほどたっぷりお風呂を楽しむと、レストランで食事した。和洋中、なかなかメニューが豊富で、ファミレスのようだった。味の方もなかなか美味しかった。
 食事を終えてしばらく休憩すると、本日のメインイベント、「タイ古式マッサージ」に向かった。
 二人には「アロマオイル全身コース」を予約していて、二人はその値段を見て、
「これをおごってもらうのはちょっと拙いんじゃあ……」
 と尻込みしたが、
「じゃあわたしが只でやってあげようか? 上手いのよ、マッサージ」
 と、御堂に妖しい指の動きを見せられ、既に予約してしまってるし、素直におごってもらう事にした。
 女子高生の二人はエステなんて初めての体験で、香り高いアロマオイルをたっぷり使って、髪の毛もひたひたに、全身くまなくプロの手と指で揉みほぐされ、それはもうめくるめく南国のパラダイス気分だった。
 九〇分間のコースを終了すると、二人ともすっかり体の水分が、頭の中まで、アロマオイルに入れ替わったようだった。
 帰りの車の中、真衣が二人の総意として訊いた。
「先生。わたしたち、ここまでしてもらっていいんでしょうか?」
「うーん、確かにちょっとやり過ぎだったかなあ?」
 おいおい、と不安そうな顔をする二人をバックミラーでチラッと見て、御堂は微笑んだ。
「実はたまたま知り合いからマッサージのチケットをもらっていたの。と言う事にしておいて」
「何かお礼をしなくていいんですか?」
「お礼ならもらったわよ」
「何を?」
「美少女のヌードをたっぷり見せてもらったわ」
「先生って、本当に女が好きなの?」
「好きよ。特に綺麗な女子高生は食べちゃいたいくらい」
 二人は(え~~)と言う風に顔を見合わせて、
「この匂い、明日、絶対噂になっちゃうよねえ?」
 と、クラスメートたちにどう言い訳しようか、楽しそうに相談した。
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