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強者の祭典

彼女と彼からみた彼女と彼

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「あらクラガ、お帰りなさい。貴方らしい良い勝負でしたわね」
「おう。俺らしい泥臭ぇ殴り合いだったよ。馬鹿にしてんなおい」

 観客席の一角。参加者専用のスペースに帰ってきたクラガをエリシアが出迎えていた。

「まさか途中で魔具の魔力が尽きるとはな。アリアに頼むのサボるんじゃなかったな」
「魔法が使えなければただの籠手ですものね。しかも無駄に大きい。軽量化した方が良いんじゃないでしょうか。鈍器としては優秀でしょうが、取り回しはきかないしょう」
「妙に嫌味ったらしい棘があるが、自覚があるからって事にしておいてやるよ。……にしてもあいつ、すげぇよな」

 籠手を床に置いて肘をつくと、クラガはジッと広場の端に立つ少女を見た。
 緑のローブに身を包んだ少女。フードを深く被っているため顔を伺うことは出来ないが、背丈はアリアよりやや高く、手に持った身の丈より大きい杖の先端の鉱石が常に淡く発光している。

「ずっと回復魔法発動してるんだもんな。観客席含めたコロシアム全体に。しかも傷を治すどころか切断されようが潰されようが一瞬で治っちまう」
「ええ。開会式での即死以外の攻撃はしてもいいという説明には耳を疑いましたが、納得ですわね」
「……にしてもお前容赦なさ過ぎただろ。相手多分トラウマものだぞ」
「え、だって認められているのならば問題ないでしょう?」
「だからって実際に実行に移す辺り、お前割とヤバいよな」

 きょとんとするエリシアにクラガは顔を引きつらせ溜息をついた。

「まあヤバいといえば、あいつもだな。迷子になったと思ったらなんか絶好調じゃねぇか?」
「やはりそう思います? 開始直後からああなんです」

 広場の中央に立つ魔術師の男。その周囲を縦横無尽に駆け回るアリアの姿を見て二人はそう感想を漏らした。
 男は魔法主体の戦法なのか殆ど移動せず火球を杖の先から連射している。その速度はかなりのものだが、しかしアリアはそれ以上の速度で躱し、斬り伏せ、更には自身の魔法の炎で呑み込んだ。

「なんかいつにも増してテンション高い戦い方だな。あいつのことだから訓練以外の対人は苦手だと思ってたが……」
「でも直接攻撃は一度もしていませんから、それ事態には変わりないかと」
「あ、やっぱりか。……なあ、お前どう思うよ。アリアの……」
「……貴方らしくない。はっきり言いなさい。ドラグニールの事でしょう?」

 言い淀むクラガを余所に、エリシアはさらりと言ってのけた。

「ちょ、おま! 周りに聞こえんだろ!」
「皆さんアリアの試合に夢中です。余程声を張らなければどうと言うことはありません。それにその反応ですと合っていたようですね」
「まあ、そうだけどよ。あいつの中にはあのドラグニールがいて、意識を保っているどころかあの洞窟の時みたいに表にすら出てくる」
「……言いたいことは分かりますし、正直私も同じ気持ちがあることは隠しません。かの邪竜はかつて人魔問わず幾つもの国を滅ぼし、奪い去った命は数えしれません。被害の甚大さ驚異度でいえば今の魔王を束ねたとしても上を行くとさえされる、伝承や伝説の存在ではなく実在の災害。ですが私は、アリア越しとはいえあの存在にそれほどの悪意を感じなかったのです」
「やっぱりお前もか? あの竜が悪い奴ってのはマジなんだけどよ、どうにも一致しねぇんだよな。実は違う存在って言われる方がまだ納得出来る」
「正直それには同意しますが名を騙る意味がありませんし、彼女のあの強さからしてドラグニール以外が憑依しているとは考えられないのですよね。――それで、貴方は何が聞きたいのです?」
「いや、もういいさ。お互いあいつの中に何がいるか分かってて、けど違和感は持っていて、あーだこーだ言おうがそんなこと関係なくあいつ自身を信頼してる。そんだけの再確認だよ」
「そうですか。それなら確認するまでもなかったですね」
「そうだな……なあ、あいつさっきから何やってるんだ?」

 二人の間で答えが出て意識をアリアの試合に戻すと、クラガが眉をひそめた。

「えっと……痺れを切らした相手の方の炎の波をキサラギで斬って……いえ受け止め?」
「……いや、何なら巻き取って……自分の炎も付け足して……」
「形を変えて……巨人にして……え?」
「更に巨人に炎の剣と斧を構えさせて……いやマジで何やってんだあいつ」
「あ、相手の方降参しましたね。流石に勝てないと認めましたか」
「……まあいくらドラグニールが悪い奴だろうと、こんなアホなことしてる手を組むような奴なら問題ねぇだろ」
「ええ、違いありませんわね」

 二人はそう言って笑みを浮かべると、今日一番会場を沸かせた仲間を迎えにその場を後にした。
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