上 下
1 / 45
失恋

これが、恋なんだね。

しおりを挟む
気が付けばもう、遅かった。 
好きと同時に響くのは『ありがとう』の君の笑顔と、隣に優しく微笑む君の最愛の人の姿。
どうして、今更?

幸せそうに笑う君に、僕はどうして心から『おめでとう』そういえないのかな。


好きだ。君がいなくなってしまう。

好きだ。君が、もう…手の届かない所へ行ってしまう。

幸せそうに笑って歩いて行く2人。だけど、隣には僕じゃない。先週まで、昨日まで…さっきまで…隣にいたのは、僕なのに。

その幸せのきっかけは僕で、僕なのに…。
ねぇ、どうして…?
この幸せは、僕には壊せない。

言えない君への好きと一緒に流れ出した涙は、僕だけにしまうから。だから、だから、今日だけは…君の事を思っていいですか?
明日になったら、『おめでとう』そう言うから。
今日だけは、あなたを思って泣かせてください。

誰にも秘密の恋は芽生えと共に消えて行った。1日だけの恋の花。
その花が枯れたとしても、僕はきっと…前を向けない。

『おめでとう』
そう言った後に、刺さるように痛む胸。
赤い糸は確認する前に千切れてしまった。
受け取った招待状に目を合わせないようにして…
それでも、手帳には丸を付けて…

あぁ、これで本当に終わってしまう。

教会で2人は愛を誓う。

僕はそれを、近くの席で見ていた。
うっすらと聞こえる音楽と耳元で聞こえる心臓の音。

ドクリドクリ…

まるで、映画のワンシーンの様に2人はキスをした。

涙が、出そうになったのを必死にこらえた。
君に見られない様に視線をそっとずらす。

それでもドクリドクリと打つ音は絶えず耳に聞こえて、痛む胸は傷口がわからないほどぐちゃぐちゃになっていた。

『ありがとう』

2度めの君の言葉に堪らなくなって下を向いた。
僕は、君に感謝される様な人間ではない。僕は、そんな人間ではない。
君の幸せを喜べない様な酷い人間なんだ。

それでも、これは秘密だから、君を見て震えそうな声を隠して「よかったな」って、これが僕に言える精一杯だった。
しおりを挟む

処理中です...