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47.アイドル・ピアニスト
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※※※双子視点です。
何も考えてなかった。
普通に相棒にするような感覚で自然にキスしてしまった。
この前康成が食堂の前で待ち合わせてキスをしている俺たちに、日本では恋人同士くらいしかキスはしないと教えてくれた。
キスは恋人がするもの。
そう思うと、もしもう一度しろと言われたら、心臓が爆発してしまうだろう。
明日生にファーストキスかと訊いたら、違うと言われた。
インターナショナルスクール出身だから完全には日本の習慣じゃないのか、それとも既に誰かと付き合ってるのか。
気になって仕方なくなって落ち着かない。
「あの、ちょこっと気になっちゃったんだけどさ……」
「恋人とか、いるの?」
明日生と夜穂ちゃんが笑い出した。
「いるわけねえじゃん」
「いませんよ」
あれ、いないのか……。
じゃあ、いったい誰が明日生とキスをしたんだろう。
「そうだ。なんでこんなとこいるんだ、お前ら」
夜穂ちゃんが思い出して訊いてきた。
「明日生が大学部の寮に行ったって聞いたから、国都海はなんでもあるんだねって言ったらさ」
「甲斐が地図書いてくれたんだ。それ見て歩いてたんだ」
細かく書かれた手書きの地図を見せると、夜穂ちゃんが覗きこんで頷いた。
「お二人、今日はお仕事のミーティングがあるって言ってたじゃないですか。中止になったんですか?」
突然来ちゃったのは迷惑だったかな。
「ミーティングはすぐ終わっちゃってね」
「そのことでみんなに相談したかったから来たんだけど……」
「ああ、じゃあ、寮に戻りましょうか」
普通に相談に乗ってくれるみたいだ。
歩きながら、そのカッコで寒くないかと訊かれて、ドイツ東部の冬の話をした。
貴也は部活に出ていていなかった。
甲斐の部屋に、甲斐と良実ちゃんと夜穂ちゃんと明日生が集まってくれて、相棒は話を切り出した。
「ありがたいことに映画の評判がいいらしいんだ」
みんなが頷いた。
「『PIANO』ですね。いい映画ですよ」
「ありがとう。サウンドトラックアルバムも発売になっててさ」
「そうだったんですか!? お二人のピアノも入ってるんですよね?」
明日生がすごい勢いで訊いてきた。
「うん。挿入歌も入ってるよ。欲しいなら次持ってきてあげる」
明日生はあわてて首を横に振った。
「あ、いえ、いいです。僕買いますから」
「いや……今どこも品切れになってるらしいんだよね」
甲斐が腕を組んだ。
「……需要数の予測が甘かったんですか?」
「レコード会社の人は、予想外の注文数が殺到したって言ってるんだ」
「なるほど」
「それで、相談はそれなんだ。『若桜覚』の名前でピアノと歌のアルバムを新しく作らないかって提案が今日のミーティングだったんだけどね」
良実ちゃんがきょとんとした。
「なにか問題があるの?」
「事務所の方は、この先ずっとそういうのを俺に続けて欲しいって言うんだよ」
「なんか暗い顔してるけど、嫌なら断りゃいいじゃん」
「ピアノのアルバムを出すなら、ぜひやりたいんだ。たくさんの人に聴いてもらえるなら、嬉しい。作曲も好きだし」
「ふうん?」
「でも、歌も歌って、コマーシャルやいろんなテレビ番組に出たりして欲しいって事務所の話があってね」
良美ちゃんも夜穂ちゃんも揃って唸った。
「……まあ、ピアニストは歌わないし音楽番組以外のテレビにもあんまり出ないよね」
「担当者は『若桜覚なら、”アイドル・ピアニスト”という新ジャンルが作れる』って言ってるんだけど、アイドルってなに?」
みんなが呆然とした。
「……アイドル・ピアニスト……」
そんなにびっくりするような話なんだろうか。
「辞書で引いたら『グウゾウ』とか『あこがれの的』とか書いてあったんだけど」
意味がピンとこない。
「あの、お母様には相談したんですか? その方がいいかと」
おろおろと明日生は相棒に声をかけたが、残念な答えしかできない。
「電話したよ。『やったら面白いわよ』ってすごい笑われたんだ」
「……若桜教授って、そういうキャラだったんだな」
「うん……」
「でさ、俺にそのアイドルって出来るもの? どう思う?」
「すっげえ売れそうだけど」
「覚なら普通にこなせそうな気がするけどな。やれそうならやるつもりなの?」
「うーん……あまりに忙しくなっちゃうなら困るよね」
「あの、学校の許可もいるんじゃないですか?」
甲斐が心配して言ってくれたのはわかるんだけど、相棒は逆に暗い顔になってしまった。
「別に……徒咲ならむしろ転校したい」
「あんなことがあったらね……」
「おう、国都海に来いよ。うちなら勤労学生OKだぞ」
「本気でそうしたい……」
ため息と共に俺に抱きついてくる。
受け止めて頭を撫でてやりながら、甲斐に目を向けた。
「甲斐たちは? こいつに出来ると思う?」
「似合うと思いますけど……」
甲斐の答えは微妙な言い方だ。
明日生を見ると、なんだか目を輝かせていて少し驚いた。
「覚さんなら十分できますよ! かっこいいと思う!」
『かっこいい』とはあまり言われたことがないし、しかも明日生に言われるとやりたくなってきてしまう。
「……そう?」
「でも、大人気になって忙しくなっちゃうんじゃないかなあ……それは駄目なんですよね?」
「うん、ピアノ弾けないのは嫌だから」
「そんなに人気になるとは思えないんだけど」
俺が言うと、みんなが首を横に振りながら笑った。
「諒は覚と全く一緒だから価値がわからないんだよ」
「まあ、売り方とかそういうのも関係してきますけどね」
とりあえずみんなの意見は聞けたからその話はそこで終わりにして、クリスマスにうちに遊びに来ないかって話題を切り出した。
嫡男の諒は芸能活動は親戚に禁止されているから、アイドルとかアルバムとかは覚だけの話だった。
入れ替わりながらどこまでできるかわからない。
でも、やれるところまではやってみようか。
何も考えてなかった。
普通に相棒にするような感覚で自然にキスしてしまった。
この前康成が食堂の前で待ち合わせてキスをしている俺たちに、日本では恋人同士くらいしかキスはしないと教えてくれた。
キスは恋人がするもの。
そう思うと、もしもう一度しろと言われたら、心臓が爆発してしまうだろう。
明日生にファーストキスかと訊いたら、違うと言われた。
インターナショナルスクール出身だから完全には日本の習慣じゃないのか、それとも既に誰かと付き合ってるのか。
気になって仕方なくなって落ち着かない。
「あの、ちょこっと気になっちゃったんだけどさ……」
「恋人とか、いるの?」
明日生と夜穂ちゃんが笑い出した。
「いるわけねえじゃん」
「いませんよ」
あれ、いないのか……。
じゃあ、いったい誰が明日生とキスをしたんだろう。
「そうだ。なんでこんなとこいるんだ、お前ら」
夜穂ちゃんが思い出して訊いてきた。
「明日生が大学部の寮に行ったって聞いたから、国都海はなんでもあるんだねって言ったらさ」
「甲斐が地図書いてくれたんだ。それ見て歩いてたんだ」
細かく書かれた手書きの地図を見せると、夜穂ちゃんが覗きこんで頷いた。
「お二人、今日はお仕事のミーティングがあるって言ってたじゃないですか。中止になったんですか?」
突然来ちゃったのは迷惑だったかな。
「ミーティングはすぐ終わっちゃってね」
「そのことでみんなに相談したかったから来たんだけど……」
「ああ、じゃあ、寮に戻りましょうか」
普通に相談に乗ってくれるみたいだ。
歩きながら、そのカッコで寒くないかと訊かれて、ドイツ東部の冬の話をした。
貴也は部活に出ていていなかった。
甲斐の部屋に、甲斐と良実ちゃんと夜穂ちゃんと明日生が集まってくれて、相棒は話を切り出した。
「ありがたいことに映画の評判がいいらしいんだ」
みんなが頷いた。
「『PIANO』ですね。いい映画ですよ」
「ありがとう。サウンドトラックアルバムも発売になっててさ」
「そうだったんですか!? お二人のピアノも入ってるんですよね?」
明日生がすごい勢いで訊いてきた。
「うん。挿入歌も入ってるよ。欲しいなら次持ってきてあげる」
明日生はあわてて首を横に振った。
「あ、いえ、いいです。僕買いますから」
「いや……今どこも品切れになってるらしいんだよね」
甲斐が腕を組んだ。
「……需要数の予測が甘かったんですか?」
「レコード会社の人は、予想外の注文数が殺到したって言ってるんだ」
「なるほど」
「それで、相談はそれなんだ。『若桜覚』の名前でピアノと歌のアルバムを新しく作らないかって提案が今日のミーティングだったんだけどね」
良実ちゃんがきょとんとした。
「なにか問題があるの?」
「事務所の方は、この先ずっとそういうのを俺に続けて欲しいって言うんだよ」
「なんか暗い顔してるけど、嫌なら断りゃいいじゃん」
「ピアノのアルバムを出すなら、ぜひやりたいんだ。たくさんの人に聴いてもらえるなら、嬉しい。作曲も好きだし」
「ふうん?」
「でも、歌も歌って、コマーシャルやいろんなテレビ番組に出たりして欲しいって事務所の話があってね」
良美ちゃんも夜穂ちゃんも揃って唸った。
「……まあ、ピアニストは歌わないし音楽番組以外のテレビにもあんまり出ないよね」
「担当者は『若桜覚なら、”アイドル・ピアニスト”という新ジャンルが作れる』って言ってるんだけど、アイドルってなに?」
みんなが呆然とした。
「……アイドル・ピアニスト……」
そんなにびっくりするような話なんだろうか。
「辞書で引いたら『グウゾウ』とか『あこがれの的』とか書いてあったんだけど」
意味がピンとこない。
「あの、お母様には相談したんですか? その方がいいかと」
おろおろと明日生は相棒に声をかけたが、残念な答えしかできない。
「電話したよ。『やったら面白いわよ』ってすごい笑われたんだ」
「……若桜教授って、そういうキャラだったんだな」
「うん……」
「でさ、俺にそのアイドルって出来るもの? どう思う?」
「すっげえ売れそうだけど」
「覚なら普通にこなせそうな気がするけどな。やれそうならやるつもりなの?」
「うーん……あまりに忙しくなっちゃうなら困るよね」
「あの、学校の許可もいるんじゃないですか?」
甲斐が心配して言ってくれたのはわかるんだけど、相棒は逆に暗い顔になってしまった。
「別に……徒咲ならむしろ転校したい」
「あんなことがあったらね……」
「おう、国都海に来いよ。うちなら勤労学生OKだぞ」
「本気でそうしたい……」
ため息と共に俺に抱きついてくる。
受け止めて頭を撫でてやりながら、甲斐に目を向けた。
「甲斐たちは? こいつに出来ると思う?」
「似合うと思いますけど……」
甲斐の答えは微妙な言い方だ。
明日生を見ると、なんだか目を輝かせていて少し驚いた。
「覚さんなら十分できますよ! かっこいいと思う!」
『かっこいい』とはあまり言われたことがないし、しかも明日生に言われるとやりたくなってきてしまう。
「……そう?」
「でも、大人気になって忙しくなっちゃうんじゃないかなあ……それは駄目なんですよね?」
「うん、ピアノ弾けないのは嫌だから」
「そんなに人気になるとは思えないんだけど」
俺が言うと、みんなが首を横に振りながら笑った。
「諒は覚と全く一緒だから価値がわからないんだよ」
「まあ、売り方とかそういうのも関係してきますけどね」
とりあえずみんなの意見は聞けたからその話はそこで終わりにして、クリスマスにうちに遊びに来ないかって話題を切り出した。
嫡男の諒は芸能活動は親戚に禁止されているから、アイドルとかアルバムとかは覚だけの話だった。
入れ替わりながらどこまでできるかわからない。
でも、やれるところまではやってみようか。
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