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60.ニュートラル(ごく軽い性描写あり)
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※※※夜穂視点です。
頬を流れた汗が顎を伝って床に落ちた。
暑い。
今日は暑い日なのか、それとも行為のせいか。
もし今日が暑いなら、あいつは今頃どうしてるんだろう。
いや、心配しなくても談話室で甲斐と涼しく過ごしてるか。
「夜穂……こっち向けよ……」
「ん……」
夏休みに入ってから、誘われることが多くなった。
暇なのか知らないけど、暑いときにヤるってどうなんだ。
そこまで欲求不満なのかよ。
「夜穂、お前、可愛いよ……」
「……っ」
うるせえ。
最中にベラベラしゃべるんじゃねえ。
ただでさえあんま気乗りしねえのに余計気が散るだろ。
だいいちあんたに可愛いとか言われてもうれしくねえよ。
「……はぁ……っ……!」
頭がなんだか痛い。
やばい、暑すぎなのか。
やっぱ倉庫って場所悪いよな。
早く終わんねえかな。
「夜穂……」
腕を掴まれてつい顔をしかめた。
「え、まだやんの……?」
「だってよぉ」
「ナベセンパイ、どんだけたまってんだよ」
振りほどこうとしてもびくともしない。
「夜穂、お前なあ……」
「もういいじゃん」
「夜穂、お前が可愛いのが悪いんだろ」
壁に押し付けられる。
「好きでこんな顔してんじゃねえし……」
可愛いからヤりたいとか俺にはよくわかんねえし。
結局押さえ込まれてしまった。
「んっ……」
もううんざりなのに、敏感なところをしつこく舐められて身体は反応していく。
激しい動悸が頭痛や自己嫌悪を余計に煽る。
「……あっ……んっ!」
今のが終わってまだやるなら股間蹴ってやる。
もう、早く終わってくれ。
頭が痛すぎて、こんな暑いのに冷や汗出てる気がする。
ヤってるせいでふわふわしてんのかと思ってたけど、目眩なのか、これ。
ナベセンパイがイった途端に俺はさっさと服を着て挨拶もせず倉庫を出た。
「夜穂! おい夜穂!」
ヤホヤホうるせえ、頭に響く。
あんた、俺の本名もしかして知らねえだろ。
寮に戻って、冷たいシャワーを浴びた。
ああ、やっぱ談話室は涼しい。
「あれ、夜穂先輩、今日部活ないんですか?」
明日生が元気に声をかけてきた。
でも今はしゃべるのも嫌なくらいだ。
とりあえず椅子に座った。
「夜穂先輩、どうしたんです?」
「頭が痛えんだよなあ……」
甲斐がパソコンから顔をあげてこっちを見た。
「顔が真っ赤じゃないですか」
隣にいた良実がすかさず俺の額に手を当てた。
普段のんびりしてるくせに、こういうときばかり素早い。
いつまでも触らないでくれよ、ドキドキすると頭に響くんだから。
「かなり熱いね」
「良実が低体温なんだろ」
「口答えしない、救護室行くよ」
良実だけじゃなく明日生や甲斐までついてきた。
まだ昼だから看護師の神谷がいた。
「38.3℃か。熱中症っぽいね。大学病院行くよ」
「やだ!」
声でかすぎたな、頭に響いた。
「牧川くん?」
俺は病気も怪我もしないけど、良実によく付き添ってるからここの看護師たちとは仲がいい。
「それくらいの熱すぐ下がるし、このくそ暑い中また外に出たくねえ」
甲斐が腕を組んだ。
「まあ……たしかに熱中症ならまた暑いところに出るのは危険かも知れませんが……」
頭痛も少しましになってきたし。
「水分やミネラルたくさんとって冷やせばいいんだろ? 大人しくしてるからさあ」
「じゃあ、1時間後にもう一度熱測って下がってなかったら病院。必ず誰かについててもらうこと」
「いや、しばらくここで寝かせますから。な、休んでいくよな、やす」
良実は俺が自分の言うことは聞くことをよく知ってる。
「わかったよ」
お前らが出ていったらすぐ神谷の目を盗んで抜け出してやる。
「付き添っててやるから」
良実はニッコリと笑って言う。
お見通しだった。
俺にはあんま笑いかけてくんねえのに、こんなときばかり、くそ。
「さあ、ベッドに寝て」
べつの状況で聞きたいセリフだな。
良実が相手でそんな状況になんてなるわけがないけど。
氷水に浸したタオルを、良実が絞る。
甲斐は談話室へ帰ったが明日生もいるのになぜか良実がやり始めた。
「そんなん自分でやるからいい」
「自分は散々人の世話焼くくせに、世話になる方は拒否? 勝手過ぎるだろ」
一瞬言ってる意味がわかんなかった。
「変な理屈」
そう返したけど、こいつのこういうところがたまらない。
起き上がって抱き締めてやろうかって考えてしまうくらい、好きで仕方ない。
いつまでも我慢できるわけがない。
「良実」
「ん?」
「俺、良実が好きだ」
明日生が良実の後ろで飛び上がりそうなのを堪えましたって顔をしてる。
良実はふわっと微笑んでひとこと言った。
「ありがと、やす」
すんげえスルーだけど、この良実の表情はすごく気にいってる。
すごく裏でいろいろ思ってるけど、それらを全部柔らかく優しさでくるんだような笑み。
この顔が見られるなら、良実がどれだけ困っても俺は何度でも好きって言ってしまう。
「僕、談話室に戻りますね。お大事に」
明日生がすっかりしゅんとして救護室を出ていった。
「……やす」
「ん?」
「屋外にいたのか? あまり暑いところうろつくなよ」
「……ああ」
せっかくいい気分だったのに、思い出した。
ナベセンパイは悪いやつじゃねえけどしつこいから嫌なんだ。
初めての相手だから無下にもしにくいけど、なんとかなんねえかな。
しかもあいつはヤった後何かおごってくれるか小遣いをくれるのに、今日はもらうの忘れてた。
とりあえず、倉庫は今後なし。
他に場所なんか無さそうだけど知ったことか。
俺は気晴らしができれば、別にセックスじゃなくてもいい。
困るのは俺の顔につられて女と勘違いしてるバカな奴らだけだ。
「やす、寝てるの?」
「寝てねえよ」
良実は俺を『やす』と呼ぶ。
いつだったか何故なのか訊いた。
『ヤホって女の子みたいなアダ名じゃないか。やすはちゃんと男なんだから』
何て言うのか、良実が俺を『やす』と呼ぶ度に、俺の存在の根っ子の部分がニュートラルになる気がするんだよ。
こいつは俺も知らない俺の正体を知ってるんだ。
それはすごく心地がいい。
俺、良実にはほんとにもうお手上げだ。
こいつが俺のものになるなら他にはなにもいらない。
頬を流れた汗が顎を伝って床に落ちた。
暑い。
今日は暑い日なのか、それとも行為のせいか。
もし今日が暑いなら、あいつは今頃どうしてるんだろう。
いや、心配しなくても談話室で甲斐と涼しく過ごしてるか。
「夜穂……こっち向けよ……」
「ん……」
夏休みに入ってから、誘われることが多くなった。
暇なのか知らないけど、暑いときにヤるってどうなんだ。
そこまで欲求不満なのかよ。
「夜穂、お前、可愛いよ……」
「……っ」
うるせえ。
最中にベラベラしゃべるんじゃねえ。
ただでさえあんま気乗りしねえのに余計気が散るだろ。
だいいちあんたに可愛いとか言われてもうれしくねえよ。
「……はぁ……っ……!」
頭がなんだか痛い。
やばい、暑すぎなのか。
やっぱ倉庫って場所悪いよな。
早く終わんねえかな。
「夜穂……」
腕を掴まれてつい顔をしかめた。
「え、まだやんの……?」
「だってよぉ」
「ナベセンパイ、どんだけたまってんだよ」
振りほどこうとしてもびくともしない。
「夜穂、お前なあ……」
「もういいじゃん」
「夜穂、お前が可愛いのが悪いんだろ」
壁に押し付けられる。
「好きでこんな顔してんじゃねえし……」
可愛いからヤりたいとか俺にはよくわかんねえし。
結局押さえ込まれてしまった。
「んっ……」
もううんざりなのに、敏感なところをしつこく舐められて身体は反応していく。
激しい動悸が頭痛や自己嫌悪を余計に煽る。
「……あっ……んっ!」
今のが終わってまだやるなら股間蹴ってやる。
もう、早く終わってくれ。
頭が痛すぎて、こんな暑いのに冷や汗出てる気がする。
ヤってるせいでふわふわしてんのかと思ってたけど、目眩なのか、これ。
ナベセンパイがイった途端に俺はさっさと服を着て挨拶もせず倉庫を出た。
「夜穂! おい夜穂!」
ヤホヤホうるせえ、頭に響く。
あんた、俺の本名もしかして知らねえだろ。
寮に戻って、冷たいシャワーを浴びた。
ああ、やっぱ談話室は涼しい。
「あれ、夜穂先輩、今日部活ないんですか?」
明日生が元気に声をかけてきた。
でも今はしゃべるのも嫌なくらいだ。
とりあえず椅子に座った。
「夜穂先輩、どうしたんです?」
「頭が痛えんだよなあ……」
甲斐がパソコンから顔をあげてこっちを見た。
「顔が真っ赤じゃないですか」
隣にいた良実がすかさず俺の額に手を当てた。
普段のんびりしてるくせに、こういうときばかり素早い。
いつまでも触らないでくれよ、ドキドキすると頭に響くんだから。
「かなり熱いね」
「良実が低体温なんだろ」
「口答えしない、救護室行くよ」
良実だけじゃなく明日生や甲斐までついてきた。
まだ昼だから看護師の神谷がいた。
「38.3℃か。熱中症っぽいね。大学病院行くよ」
「やだ!」
声でかすぎたな、頭に響いた。
「牧川くん?」
俺は病気も怪我もしないけど、良実によく付き添ってるからここの看護師たちとは仲がいい。
「それくらいの熱すぐ下がるし、このくそ暑い中また外に出たくねえ」
甲斐が腕を組んだ。
「まあ……たしかに熱中症ならまた暑いところに出るのは危険かも知れませんが……」
頭痛も少しましになってきたし。
「水分やミネラルたくさんとって冷やせばいいんだろ? 大人しくしてるからさあ」
「じゃあ、1時間後にもう一度熱測って下がってなかったら病院。必ず誰かについててもらうこと」
「いや、しばらくここで寝かせますから。な、休んでいくよな、やす」
良実は俺が自分の言うことは聞くことをよく知ってる。
「わかったよ」
お前らが出ていったらすぐ神谷の目を盗んで抜け出してやる。
「付き添っててやるから」
良実はニッコリと笑って言う。
お見通しだった。
俺にはあんま笑いかけてくんねえのに、こんなときばかり、くそ。
「さあ、ベッドに寝て」
べつの状況で聞きたいセリフだな。
良実が相手でそんな状況になんてなるわけがないけど。
氷水に浸したタオルを、良実が絞る。
甲斐は談話室へ帰ったが明日生もいるのになぜか良実がやり始めた。
「そんなん自分でやるからいい」
「自分は散々人の世話焼くくせに、世話になる方は拒否? 勝手過ぎるだろ」
一瞬言ってる意味がわかんなかった。
「変な理屈」
そう返したけど、こいつのこういうところがたまらない。
起き上がって抱き締めてやろうかって考えてしまうくらい、好きで仕方ない。
いつまでも我慢できるわけがない。
「良実」
「ん?」
「俺、良実が好きだ」
明日生が良実の後ろで飛び上がりそうなのを堪えましたって顔をしてる。
良実はふわっと微笑んでひとこと言った。
「ありがと、やす」
すんげえスルーだけど、この良実の表情はすごく気にいってる。
すごく裏でいろいろ思ってるけど、それらを全部柔らかく優しさでくるんだような笑み。
この顔が見られるなら、良実がどれだけ困っても俺は何度でも好きって言ってしまう。
「僕、談話室に戻りますね。お大事に」
明日生がすっかりしゅんとして救護室を出ていった。
「……やす」
「ん?」
「屋外にいたのか? あまり暑いところうろつくなよ」
「……ああ」
せっかくいい気分だったのに、思い出した。
ナベセンパイは悪いやつじゃねえけどしつこいから嫌なんだ。
初めての相手だから無下にもしにくいけど、なんとかなんねえかな。
しかもあいつはヤった後何かおごってくれるか小遣いをくれるのに、今日はもらうの忘れてた。
とりあえず、倉庫は今後なし。
他に場所なんか無さそうだけど知ったことか。
俺は気晴らしができれば、別にセックスじゃなくてもいい。
困るのは俺の顔につられて女と勘違いしてるバカな奴らだけだ。
「やす、寝てるの?」
「寝てねえよ」
良実は俺を『やす』と呼ぶ。
いつだったか何故なのか訊いた。
『ヤホって女の子みたいなアダ名じゃないか。やすはちゃんと男なんだから』
何て言うのか、良実が俺を『やす』と呼ぶ度に、俺の存在の根っ子の部分がニュートラルになる気がするんだよ。
こいつは俺も知らない俺の正体を知ってるんだ。
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