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65.掛け持ち
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※※※双子視点です。
日本へ来て『キレイ』とは聞き飽きたけど、芸能界に入ってさらにうんざりした。
そのうえ『可愛い』なんて言われるとは。
「一応僕たちロックなので、こんな可愛い子とは合わない気がするんですけど」
家田雅弘と名乗ったその人物はおれたちの目の前で言い放ってくれた。
「てめえの好みじゃねえだけだろ」
「雅人、じゃあお前は賛成なのか」
夜穂ちゃんと似たような口調の人は、家田雅人というらしい。
「実力次第だな。クラシックの実力はすごいらしいけど、どこまでロックに合わせられるって言うんだよ」
ええと……俺は何のためにわざわざ休日だったはずの今日ここに来たんだろう……。
どうしても来てほしいって言うから、明日生が家に来るっていうのを断腸の思いで断ったって言うのに。
「えっと、ご兄弟ですか?」
「こんな奴と兄弟でたまるか」
「いとこなんですよ」
仲に問題のある二人組のようだ。
「そもそもロックのお二人とピアニストの僕がどうしてユニットを組むなんて案が出たんですか?」
渋る俺を説得するために赴いてきたミュージック課の課長に尋ねた。
「彼ら、次はピアノを使ったバラードを4連続でリリースする予定になりまして」
「へえ?」
バラードならピアノっていうのも結構ありなのかも。
「曲がすごく素晴らしいので、ぜひともきっちり売り上げて彼らの知名度を上げようと企画したんですよ」
でも本人たちが乗り気じゃなさすぎる。
「アイドルでもいいとは言いましたけど、おとなしそうな女の人をイメージしてたんです、僕。僕らビジュアルでも売りたいので、こんな綺麗な男の子と一緒っていうのはちょっと」
雅弘の方が俺を見て堂々と言った。
言葉遣いは丁寧なのかもしれないけど、雅人の方がましだ。
「……僕たち、帰りますね」
「ああああああ、待って、覚くん!!」
課長は立ちがりかけた俺の腕を勢いよく掴んだ。
「腕を掴まないでください!! ピアニストなんだから!」
片割れはすごい勢いで怒った。
「あ……申し訳ない。大丈夫ですか?」
おれは掴まれた部分を探り、腕を回しながら答えた。
「……大丈夫です」
「すみません。でも、覚くん、どうしてもやってほしいんです」
「向こうが反対してますが」
「覚くんはクラシックピアニストになるのでしょう? 何歳ごろからそちらに専念するんですか?」
「遅くても20歳くらいには、と思っていますが」
「あと5年でしょう? その間に私たちはあなたをできる限り売りたいんです。あなたは芸能界の至宝になれる人材なんです」
「はあ……」
「ピアノは天才、歌声も個性がありつつ最高、姿はまるで宝石だ。こんな人物は弊社始まって以来です」
そう言われても。
「では先にあちらを説得してから話を持ってきてください」
「若桜、初見で弾ける?」
雅人が突然話しかけてきた。
「よっぽど凝ったものじゃなければ」
バサッとスコアが目の前に出された。
「弾いて見せろよ。天才っていうピアノ、聴いてみてえな」
聴いてみたいと言われて、弾きたくないわけがない。
スコアに目を通した。
メロディアスなピアノだ。ギターも細やかだ。
でも、ヴォーカルはストレート。
きっと力強い声が似合う。
ああ、ロックらしいなあ。
レッスン室のピアノを借りて、スコアを読んだイメージ通りに弾いた。
俺たちが作ったラファエルの曲より、弾きごたえがあって面白い。
「この曲を作ったのはどなたですか?」
「俺だよ。いい曲だろ」
「ほんとに、そう思います」
「おい、俺はユニットならこいつがいい。これ以上のピアノなんてどこ探してもねえぞ」
雅人は雅弘に向かってそう言った。
「でもイメージが……」
たしかにこの曲に今の俺のビジュアルは合わない気がする。
「あの、僕ラファエルさえ大丈夫なら髪を多少切ってもいいですよ」
「え……そうか、髪型でイメージは変わりそうですね」
課長はそう言いながら相棒の方を見た。
相棒の髪はまだ俺より短めだ。
あっ、しまった。
俺、OKの方向に話を持っていってしまった気がする。
「どう、雅弘くん。諒くんより少し短いくらいでイメージつきませんか」
「……意外といけるかも」
「じゃあラファエルの方に打診してみます。この話が通れば、今年中に動いてもらいますから」
え、そんなに早く?
ラファエルが終わるのと入れ替えだと思ってたんだけど。
「あの……僕ラファエルと、このユニットと掛け持ちになるってことですか?」
「ああ、大丈夫ですよ。マネージャーが車も出しますから。掛け持ちになるのはほんの半年ほどの期間です」
雅人が言った。
「4連続ってのは、夏、秋、冬、春の季節をイメージした連作なんだよ。今から動かないと間に合わなくなる」
これ以上忙しくなるって、明日生に会うどころか俺たち眠れるんだろうか。
「あの……僕やっぱり……」
「おい、いまさら弾かねえなんて言いだす気かよ。この曲には若桜のピアノしかもうねえぞ。お前が降りるなら、この曲はお蔵入りだ」
「駄目ですよ、こんな素晴らしい曲出さないなんて!」
「髪、お兄さんより少し短めにして欲しいな」
なんて傍若無人な二人組なんだ。
ああ、でもこれで髪が切れる。
日替わりの生活に戻れるのか。
「どうせならショルダーキーボードにするか? かっこいいと思うぞ」
「肩に負担かかるから嫌です……」
明日生、忙しくなっても会いに来てくれるかな。
とりあえず今日あたり、慰めてほしいんだけど。
明日生に会うだけで、俺たち元気になれるから。
日本へ来て『キレイ』とは聞き飽きたけど、芸能界に入ってさらにうんざりした。
そのうえ『可愛い』なんて言われるとは。
「一応僕たちロックなので、こんな可愛い子とは合わない気がするんですけど」
家田雅弘と名乗ったその人物はおれたちの目の前で言い放ってくれた。
「てめえの好みじゃねえだけだろ」
「雅人、じゃあお前は賛成なのか」
夜穂ちゃんと似たような口調の人は、家田雅人というらしい。
「実力次第だな。クラシックの実力はすごいらしいけど、どこまでロックに合わせられるって言うんだよ」
ええと……俺は何のためにわざわざ休日だったはずの今日ここに来たんだろう……。
どうしても来てほしいって言うから、明日生が家に来るっていうのを断腸の思いで断ったって言うのに。
「えっと、ご兄弟ですか?」
「こんな奴と兄弟でたまるか」
「いとこなんですよ」
仲に問題のある二人組のようだ。
「そもそもロックのお二人とピアニストの僕がどうしてユニットを組むなんて案が出たんですか?」
渋る俺を説得するために赴いてきたミュージック課の課長に尋ねた。
「彼ら、次はピアノを使ったバラードを4連続でリリースする予定になりまして」
「へえ?」
バラードならピアノっていうのも結構ありなのかも。
「曲がすごく素晴らしいので、ぜひともきっちり売り上げて彼らの知名度を上げようと企画したんですよ」
でも本人たちが乗り気じゃなさすぎる。
「アイドルでもいいとは言いましたけど、おとなしそうな女の人をイメージしてたんです、僕。僕らビジュアルでも売りたいので、こんな綺麗な男の子と一緒っていうのはちょっと」
雅弘の方が俺を見て堂々と言った。
言葉遣いは丁寧なのかもしれないけど、雅人の方がましだ。
「……僕たち、帰りますね」
「ああああああ、待って、覚くん!!」
課長は立ちがりかけた俺の腕を勢いよく掴んだ。
「腕を掴まないでください!! ピアニストなんだから!」
片割れはすごい勢いで怒った。
「あ……申し訳ない。大丈夫ですか?」
おれは掴まれた部分を探り、腕を回しながら答えた。
「……大丈夫です」
「すみません。でも、覚くん、どうしてもやってほしいんです」
「向こうが反対してますが」
「覚くんはクラシックピアニストになるのでしょう? 何歳ごろからそちらに専念するんですか?」
「遅くても20歳くらいには、と思っていますが」
「あと5年でしょう? その間に私たちはあなたをできる限り売りたいんです。あなたは芸能界の至宝になれる人材なんです」
「はあ……」
「ピアノは天才、歌声も個性がありつつ最高、姿はまるで宝石だ。こんな人物は弊社始まって以来です」
そう言われても。
「では先にあちらを説得してから話を持ってきてください」
「若桜、初見で弾ける?」
雅人が突然話しかけてきた。
「よっぽど凝ったものじゃなければ」
バサッとスコアが目の前に出された。
「弾いて見せろよ。天才っていうピアノ、聴いてみてえな」
聴いてみたいと言われて、弾きたくないわけがない。
スコアに目を通した。
メロディアスなピアノだ。ギターも細やかだ。
でも、ヴォーカルはストレート。
きっと力強い声が似合う。
ああ、ロックらしいなあ。
レッスン室のピアノを借りて、スコアを読んだイメージ通りに弾いた。
俺たちが作ったラファエルの曲より、弾きごたえがあって面白い。
「この曲を作ったのはどなたですか?」
「俺だよ。いい曲だろ」
「ほんとに、そう思います」
「おい、俺はユニットならこいつがいい。これ以上のピアノなんてどこ探してもねえぞ」
雅人は雅弘に向かってそう言った。
「でもイメージが……」
たしかにこの曲に今の俺のビジュアルは合わない気がする。
「あの、僕ラファエルさえ大丈夫なら髪を多少切ってもいいですよ」
「え……そうか、髪型でイメージは変わりそうですね」
課長はそう言いながら相棒の方を見た。
相棒の髪はまだ俺より短めだ。
あっ、しまった。
俺、OKの方向に話を持っていってしまった気がする。
「どう、雅弘くん。諒くんより少し短いくらいでイメージつきませんか」
「……意外といけるかも」
「じゃあラファエルの方に打診してみます。この話が通れば、今年中に動いてもらいますから」
え、そんなに早く?
ラファエルが終わるのと入れ替えだと思ってたんだけど。
「あの……僕ラファエルと、このユニットと掛け持ちになるってことですか?」
「ああ、大丈夫ですよ。マネージャーが車も出しますから。掛け持ちになるのはほんの半年ほどの期間です」
雅人が言った。
「4連続ってのは、夏、秋、冬、春の季節をイメージした連作なんだよ。今から動かないと間に合わなくなる」
これ以上忙しくなるって、明日生に会うどころか俺たち眠れるんだろうか。
「あの……僕やっぱり……」
「おい、いまさら弾かねえなんて言いだす気かよ。この曲には若桜のピアノしかもうねえぞ。お前が降りるなら、この曲はお蔵入りだ」
「駄目ですよ、こんな素晴らしい曲出さないなんて!」
「髪、お兄さんより少し短めにして欲しいな」
なんて傍若無人な二人組なんだ。
ああ、でもこれで髪が切れる。
日替わりの生活に戻れるのか。
「どうせならショルダーキーボードにするか? かっこいいと思うぞ」
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明日生、忙しくなっても会いに来てくれるかな。
とりあえず今日あたり、慰めてほしいんだけど。
明日生に会うだけで、俺たち元気になれるから。
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