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第4話

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東の大陸であるガルシア王国には3つの騎士団が存在する。





第一騎士団は王族の警護と王宮の警備を担当している、主に身元が確かな高位貴族出身の人間で構成されている。



第二騎士団は貴族街の警備を担当している、仕事上貴族と対話する事も多いのでこちらも殆どの人間は貴族出身である。



そして最後に第三騎士団、こちらは主に王都の外にある広大な森の管理と定期的な魔物の討伐、後は警邏隊と連携し平民街の治安維持に努めている。こちらは貴族と平民が半々の人数で構成されている。



  









そしてここは第三騎士団の食堂

ガヤガヤと多くの騎士が空腹を満たすために集まり賑わっている。



「はぁ…」



そんな中に重苦しいため息をついている人物がいた



「団長どうしたんですか?全く食べれてないじゃないですか」



「あぁ…少し食欲がなくてな」



先程から全くと言っていいほど食が進んでいないのはこの第三騎士団の団長であるルイス・グラシアだった。

そんな団長を気にかけて話しかけてきたのは副団長であるロベルト・ディアスであった。



「何かあったんですか?目の下の隈が大変な事になってますよ」



「あぁ…まぁ、色々あってな」



「あ、そういえば先週またお見合いをしなければいけないとおっしゃってましたね。

どうだったんですか?…何となく想像は付きますが」



「想像がつく事をわざわざ聞くな…想像通りだから」



「なるほど…またですか」



この第三騎士団の団長であるルイス・グラシアは27歳にして伯爵家当主なのだが未だに婚約者がいない。

理由は明確で、貴族社会での男性は細身で爽やかな麗人が好まれ、騎士の様にガタイが良く無骨な男性は令嬢に怖がられてしまい中々嫁の来てが無いのだ。

特にこの第三騎士団長であるルイスは身長180cm超えのガッチリとした体格の持ち主であり燃えるような真紅の髪と瞳がより貴族女性に恐怖を植え付けてしまう。



「また気絶されてしまった…」



「そうですか…」



「これで30回目だ…もうこの国で適齢期の未婚で婚約者のいない貴族令嬢は一人も残っていない…

後は母より年上の未亡人か、まだ年端もいかない幼女だけ」



「つみましたね…」



「だが…叔父に早く結婚しろとせっつかれている…流石の俺も胃が痛い。」



両親は数年前に他界しており現在は父の弟である叔父がグラシア伯爵領で領主代行をしてくれている。叔父からは早く身を固めて跡継ぎを作れと言われている。

自分は兄弟が居らず、叔父夫婦にも子供がいない為グラシア伯爵の跡継ぎ問題は切実である為叔父の言い分は痛い程理解しておるが、いかせん相手が出来ない。



「そうですねぇ……それなら気分転換といきますか」



「はぁ?」



「丁度、団員達に人気の料理屋があると先程聞きましてね。何でも少し変わっているけどとても美味しいそうで何人もの団員が常連で通っているだとか。」



「ほう…そんな店があるのか初めて聞いたな」



「えぇ、私達は余り演習以外で外へは出ないですからね。何でも美人姉妹が営んでいるとかで彼女達目当てで通っている連中もいるとか。」



「え……美人姉妹が…お、俺はやっぱり遠慮しておく!お前一人で行ってこい!」



「そう言わずに!姉妹も騎士とよく会っているんですから団長の事もきっと大丈夫ですよ」




午後の訓練が終わりズルズルと引きずられるように連れて行かれた場所は第三騎士団の建物の目と鼻の先にあった。

いつも通る表の門ではなく、右脇の通用門を通って細い道に入り少し歩くとそのお店が見えた。

赤いオールドレンガの外壁に木製の扉、小さいが雰囲気の良い店の扉を意を決する気持ちで開けるとカランコロンと心地よいドアベルの音が鳴る、それと共に幼さの残る鈴の鳴らすような可愛い声の美しい少女が笑顔でこちらに駆け寄ってきた。



「いらっしゃいませー!2名様ですね、こちらの席へどうぞ!」



案内されて入った店の中も、外と同じように温かみのある雰囲気の良い小ぢんまりとした作りであった。

いくつかのテーブル席とカウンターの席があり、自分達はテーブル席へと案内される。

まだ夜の営業が始まったばかりなのか自分達以外の客の姿はなかった。



「お冷とお絞りです!どうぞ」



「ありがとう御座います」



「ありがとう」



お絞りを受け取り礼を言うと少女はニッコリと笑う、確かにまだ幼さは残るが団員達が言っていた通り美しい少女である。



「お客様は当店のご来店は初めてですよね?」



良く恐ろしいと言われる燃えるような真紅の髪と瞳、屈強な身体の持ち主である自分に臆する事なくにこにこと笑顔で話しかけてくる少女は確かにロベルトが言っていた通り騎士の風貌に慣れているのだろう。

その綺麗な金の瞳に恐れは一切なかった。



「あぁ…そうだ」 「はい」



「本日はご来店ありがとうございます!お店の説明をさせて頂きますね!

当店では日替わりのAセットとBセットのどちらかをお選びいただけます、スープも日替わりでついてきて、後はパンかライスをお選びいただけます!

騎士の方ですとパンとライスがお代わり自由なんですけど…お客様も騎士の方でお間違えないですか?」



「あ、あぁ…そうだ。確か身分証明書が、コレだ」



「はい、自分のはコレです」



「ありがとうございます!確認させていただきますね……ええっと第三騎士団の団長さんと副団長さんなんですね、いつも第三騎士団の方にはお世話になっております!ありがとうございますお返ししますね!

次回からはこちらのカードをご提示頂いたらパンとライスがお代わり自由なので無くさないようにお願いします。ご来店のたびにポイントが貯まって5 0回来店されると1食無料になります!本日の分はもう押してあります。



本日のAセットはロックバードの唐揚げです、唐揚げとはお肉に小麦粉をまぶして油であげたものです。Bセットはオーク肉の生姜焼きです、生姜の効いた甘辛いタレに漬け込んで焼いたものです。スープはお野菜たっぷりお味噌汁です!…お味噌汁はちょっと説明しずらいですけど、どちらもライスがよく合いますよ!」



ダメダメ…素材は何だか分かるがどんな料理なのかは丁寧に説明してもらっても味の想像が出来ない。

さて…どうしたものか。



「では、自分はオーク肉の生姜焼きでお願いします、後はオススメのライスで」



そんな俺を置いてササッと注文するロベルトをジロリと睨みつける。

悩んでる暇などなく、自分はどんな物か気になったもう一つのロックバードの唐揚げとやらを頼む事にした。

勿論オススメであるライスを頼んだ。





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