二人姉妹の恋愛事情〜騎士とおくる恋の物語〜

みぃ

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第30話

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夏真っ盛りの昼間に彼は現れた。





ルイスは珍しく、昼間に【まんぷく亭】へと足を運んだ。もうラストオーダーの時間が過ぎており、客はルイス一人であった。



ソフィアの料理を味わいながら食していると、来客を告げるドアベルの音が鳴り響いた。

音と共に入ってきてのは、暑い夏に着るのには不自然なフード付きのロングローブを頭まですっぽりと被った人物だった。



ぱっと見不審者にしか見えない風貌に、ルイスは少し警戒する。



すると、そのローブの人間は厨房近くの席までスタスタと歩きフードを脱いだ。



「!?」



フードを外すとサラリと長い紫がかった黒髪が姿を現す、緩く三つ編みされた髪は横に1つに結ばれている。

そして黒曜石を思わせる様な瞳とこの世の者とは思えない程に整った顔の男性の姿がルイスの目に映った。

そのまま男はローブを脱ぐと足の長いスラリとした体格までもが露わになる。



ロベルトでイケメンは見慣れていると思っていたがそれ以上の容姿に目を見張った。



確かにローブ+フードを被っていないと、街を歩くだけで世の中の女性達が失神しまいそうだ。



「あ!ケンちゃんいらっしゃいませ!」



「あぁ、レティ久しぶり元気にしていたか」



来客に気がついたレティシアが厨房から出てくると、知り合いだったのだろう、とても親しげに男へ話しかけた。



男もとても優しい声色でレティシアに話しかける。

レティシアの事を愛称で読んでいるくらいだ、親しい間柄なのだろう。



そんな事を思っていると妹の声が聞こえたのだろう、姉のソフィアが厨房から顔をだした。



「あら!いらっしゃいませ、お久しぶりです」



「久しぶり、ソフィーも元気そうだな」



ソフィアの知り合いでもあったのだろう、満身の笑みで男性へと駆け寄った。



いつも以上に嬉しそうに喋る姿に少しモヤモヤとしてしまう。

いったいその男性とはどんな仲なのだ!

そして、何故!愛称で呼ばれているのだ!?俺もまだ呼んだことがないのに!とルイスは心の中で叫んだ。



「今日もいつもの召し上がりますか?」



「あぁ、いつものを頼む…それとレティの作ったケーキはないのか?久しぶりに食べたいのだが」



そんな男性の声にレティシアが反応する。



「あるよ~!さっき作ったレモーネのタルトと、ミルクアイスがあるけどどうする?」



「ミルクアイスは店で食べて、レモーネのタルトは持って帰る」



「分かったー!アイスは食後ね、タルトは包んどくね!」



メニューにないレティシアが作ったケーキを頼むあたりとても仲が良いと分かったが、いったいどんな仲なのだ。



「それでねー」



「あぁ…」



楽しそうにレティシアが話しかけ相槌をうち聞いているケンちゃんとやら、貴方はいったい何者なのだ。

ルイスは悶々としながら考えていると、とても良い香りが厨房の方から漂ってきた。



今日のメニューとは違う料理の良い匂いがしてルイスはソワソワした。



(ソフィアはいつものやつと言っていたが、いったいどんな料理なのだろうか…嗅いだ事のない良い香りが、食べ終わって満たされた筈の胃にダイレクトに響く!!)



「ケンちゃん、お待たせしました。ブラッディービーフとブラックジャイアントビーフのビーフシチューです。熱いので気をつけて召し上がって下さいね」



「あぁ、ありがとう。早速頂くよ」



そう言ってケンちゃんは、男ですら見惚れてしまう程の美しい所作で、尚且つ凄いスピードで食べだした。



あっという間にビーフシチューが皿の中から無くなった。



「レティ、おかわり頂戴」 



「はーい」



そのやり取りを5回程聞いた後、ケンちゃんはデザートのアイスを3回お代りした。



(ケンちゃんと言う人物はとても良い食べっぷりだな)

余りの食べる量の多さにルイスは驚いた。



「さて、そろそろ帰るとするかな」



そう言って席を立ったケンちゃんは、ソフィアのいる厨房へ入って行った。



(!!!?)



3人とも厨房に消えていき、ルイスは驚きその場に立ち上がってしまった。







⸺⸺厨房の中⸺⸺







「はい、ケンちゃん。お持ち帰り用のビーフシチュー人参多めね」



そう言ってソフィアは抱えきれない程の大きな寸胴をケンちゃんに渡した。



「レモーネのケーキワンホールとおまけにクッキーとマフィンも包んでおいたよ」



レティシアがケーキの入った箱と、袋を渡すと、ケンちゃんは二人から貰った物をインベントリの中に閉まった。



「ありがとう、じゃあいつも通りお代はこれで」



ケンちゃんは厨房の端に、大小さまざまな壺をインベントリの中から出した。



「いつもの調味料な、足りなくなったら連絡石で連絡くれたら届けるから。まぁ俺も無くなる前にまた顔を出せる様に心がけるが…自宅にいると時間の経過を忘れてしまうからな」



「ありがとう、ケンちゃん!」



ケンちゃんは、この店で必要不可欠な味噌や醤油、冷酒などの調味料を作ってる唯一の人物である。

彼が居るからこそ、この店の料理が作れるので二人はいつも感謝している。

調味料が無くなる頃に定期的に来てくれては補充してくれるのだ。



そんな彼もソフィアが作る、父直伝のビーフシチュー目当てで来ているのでWin-Winな関係でもある。



ケンちゃんと、父と母は古くからの友人で、故郷が一緒だと聞いた事があるが、3人とも余り過去の事を話すのが好きではないみたいなので、どこで知り合ったのかはソフィアもレティシアも知らない。

小さい頃に、日本と言う地名を聞いた様な気がしたが…いったい日本とはどこなのだろうか、聞いたことのない地名なのでソフィアは西の大陸の何処かだろうと思っている。



「ケンちゃん、いつもありがとうございます。またお待ちしてますね」



「ケンちゃん、またね」



三人は厨房から出てきて、ケンちゃんはまたローブを頭まで被りドアの取手に手をかけた。



「あぁ、また来るよ。いつも美味しいシチューとお菓子をありがとう」



ケンちゃんはソフィアとレティシアの頭を撫で外へ出た。



「「ありがとうございました」」



そしてソフィアは貰った調味料をしまう為に厨房に戻ろうと振り返ると、ルイスが席を立ち固まっている姿を目にしてギョッとし驚いた。



「ル、ルイスさん!?」



微動だにしないルイスにソフィアは駆けつける。



「ルイスさん?どうしたの?」



「ソフィア…その、少し聞いても良いだろうか?」



「は、はい…かまいませんけど」



声をかけられて我に返ったルイスはソフィアの肩に手を乗せ、ケンちゃんと言う人物とどう言う関係なのか聞く事にした。



「その…先程の御仁とはいったいどんな関係なのだろうか…?いや、別に…う、疑っているとかではないのだが…その…余りにも親しい関係に見えて…」



顔を青くして、しどろもどろに言い訳を混ぜながら問うルイスにソフィアはクスリと笑った。



「ふふっ…もしかして心配になってしまったのですか?」



「うっ……そうだ」



小さな嫉妬と大きな心配が入り混じる自分の心境がソフィアにバレ、ルイスは罰が悪そうに頷き下を向いた。



そんなルイスの頬にソフィアはそっと手で触れた。



「ソフィア…」



「ルイスさんが心配する様な関係ではないですよ、あの方は父と母の古くからの友人なんです」



「そうなのか?」



「はい。あの方、とてもお若く見えますけど父と母が若い頃に会った時からずっとあの容姿なんです、実際の年齢を尋ねた事は無いのですが、私とレティにとっては祖父の様な存在ですね。

それとケンちゃんの作る調味料がまんぷく亭に欠かせない重要なものなので、無くなりそうになる頃毎回届けに来てくださるのです」



「そうだったのか。俺より若く見えるが、エルフの血でも混ざっているのだろうか」



「ふふっ…どうなんでしょうね。あの方は人付き合いするのが苦手らしくて、どこかの森の奥に独り暮らしでのんびり畑をやって暮らしているそうです」



ルイスはそれを聞いて思った。確かにあれだけ美丈夫だと、人間関係で色々苦労したのだろうなと。



「そうなのだな。話してくれてありがとう。

あと…ソフィア、もう1つ聞きたいのだが」



「なんですか?」



「あの御仁が食べていた、ビーフシチューとやらはどんな食べ物なのだろうか?」



すでに1人前の定食を食べ終えたルイスだが、先程からする美味しそうな匂いが気になって仕方がなく、呆れられるかもと思いながらも聞けずにはいられなかったのだ。



「あれはブラッディービーフとブラックジャイアントビーフを使ったシチューなんです。ケンちゃんの大好物なので、いつも来る時に用意しているんです。

調味料と交換で寸胴1つを持って帰るんですよ」



「そうなのか…」



寸胴ごと持って帰ったという事は、もう店にはないのだなとルイスは少し落ち込んだ。



「ふふっ…もし良かったからルイスさんも召し上がってみますか?」



「いいのか!?」



「はい。持ってくるので少々お待ち下さいね」



「あぁ、ありがとう」



まるで尻尾を振って喜んでいる子犬の様に見えたルイスにソフィアはクスクスと笑った。



そしてソフィアは厨房に行き、トレーにビーフシチューとスライスしたバケットを2枚乗せてルイスの元へ運んだ。



「お待たせしました、ビーフシチューにバケットをつけて食べると美味しいですよ」



目の前に置かれたビーフシチューを目にしたルイスは嬉しそうに目を輝かせた。



「ありがとう。では、頂きます」



「はい、熱いので気をつけて召し上がって下さいね」



ルイスはソフィアに言われた通り気をつけながら、大きめの一口サイズの塊肉をスプーンで掬って口に入れた。



「!!」



とろみのついたスープが絡みついた柔らかな肉が口の中でホロホロとほぐれていく。

まるで歯がいらない程に柔らかく煮込まれた肉の旨味が口いっぱいに広がって、口の中が幸せになる。



「美味い…」



一口また一口と口の中へ運ぶ。

もう既に定食を1人前食べた後のルイスを気遣ってソフィアはビーフシチューを少しの量にしたのだが、ルイスはもっと食べたいと心の中で思った。



あっという間になくなってしまったビーフシチューを見てルイスは少し寂しい気持ちになる。

これ程までに美味しいビーフシチューを食せた幸せと、この料理はケンちゃんしか食す事が出来ないという現実にルイスは悲観した。

また食べたい、だがこの料理が定食で提供された事は一度もない。

という事は、この料理はケンちゃんが来る時以外は作らないのだろう。



そんな事を考えていると、ソフィアは微笑んでルイスに告げた。



「お口にあって良かったです。今回は少ししかお出し出来なかったですけど、今度はルイスさんが沢山食べられる様にいっぱい作りますね」



ルイスの考えている事を悟ったソフィアがそう言うと、ルイスの顔がパーッと明るくなった。



「あぁ!楽しみにしている、とても美味しかった。ごちそうさま」



「ふふっ…お粗末さまでした」





ビーフシチューがルイスの中で一番の好物になった瞬間であった。





満足して、【まんぷく亭】を後にしたルイスをソフィアは見送りながら心の中で謝った。



(すみません、ルイスさん。ケンちゃんの事で言えない事が沢山あるんです。

ケンちゃんの名は実は賢者様の略で、見た目が変わらないのはエルフの血が混ざっているのでは無くて、精霊の血が混ざっているとか)



まだまだ、言えない秘密が沢山あるケンちゃんが実際何者なのかソフィアも全ては知らないので口をつぐんだのであった。



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