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誕生
しおりを挟む自然城塞国「アッサーバーン」
四方を聖獣が住まう山脈に囲まれ外界との繋がりは基本的にない。
唯一西南の商業都市「エントヘイブン」は山脈と山脈の間を通る林道に砦を築き外界との貿易を行っている。
この「エントヘイブン」でエンガー商会を営むエンガー家に3人目となる子供が今産まれようとしていた。
(くるしい。)
産道を長い時間をかけ通り今産まれようとする
(いたい。)
産婆さんにやや乱暴に扱われつつ誕生した。
(こわい。)
視界が悪く聴覚も鈍い。
(こわい。)
外の情報がまともに入らない恐怖から大声で泣き叫ぶ。
(こわい。)
思考の円滑化が出来ず短絡的な感情しか生めない。
(あたたかい。)
産湯に浸かり瞬間の安らぎを得る。
体を柔らかいタオルで拭かれ巻かれ母親の元へ運ばれる。
「あぁ…、愛しの我が子…無事に生まれてくれてありがとう。」
短く弱い抱擁の後、親子は一旦引き離されるのであった。
空腹と飢えに泣き、排泄物の不快さに泣き、満足したら寝る。昼夜問わず本能が赴くままに。
そんな生活が90日程過ぎた頃自我が戻るのであった。
(おっぱいだ!)
もうろうとする意識の中女性の声とほのかに香る甘い匂いに目が覚め、見つめる先には、女性の胸があった。
(で、でかい。本物か?VRか?でもなんで?ってかここどこだよ!わかった美人局だ!薬か何かで眠らせられたんだ!それじゃなきゃこの俺が生のおっぱいを拝むことなんて出来るわけがない!うっ…頭が…痛い。)
急に戻った意識と現状の不透明さ考えることの多さに新生児の頭は追い付かず一種のオーバーヒートを起こそうとしていた。
(駄目だ頭が痛い…ん?)
本能からかすでに女性の乳房に吸い付き母乳を飲んでいる俺がいた。
(駄目だ俺!大金を請求される!奥から怖いお兄さんが現れるに決まっている)
思考とは裏腹に冴える思考と霧散する頭痛。
空っぽだった胃に注がれる母乳で満腹となり訪れる幸福感。
体の欲求が収まったのか乳房を離す。
(女体すらまともに拝めない俺が一気に母乳プレイか…一体何が起きてんだ…おおっ?!)
軽々持ち上げられ抱き抱えられて背中をぽんぽんと軽く叩かれる。
(まるで赤ちゃんだなぁ…いや待てこの人どんだけでかいんだよ成人の俺を軽々持ち上げるなんて)
ふと手を見てみるとそこには可愛らしい赤ちゃんの手があった。
(思い出した。俺、転生したんだった)
くぷっとゲップが出た後に抱えられそこで初めて女性の顔を拝む。
(となるとこの人がこっちでのお母さんか)
美しいと言うよりかは可愛らしい印象で、まだ幼さが残っている。大きな目に小さい鼻と小さい口。肌はまるで雪のような白さでそれがまた絹のような銀色の髪に合っていて…まあ今まで会った誰よりも美少女である。
「ぷっぷがでまちたねぇ~」
おそらく「ゲップ」のことを指すだろう赤ちゃん言葉に宝石が霞むような笑顔でこちらも顔が緩む。幸せな時間が流れこんな時間がずーっと続けばいいなと思っていると、部屋のドアが爆発したかのように勢い良く開けられ大男がドアの縁に体をぶつけながら入ってきた。
びくん!っと驚きから体が硬直し本能のまま泣き叫びそうになるも芽生えたばかりの理性がなんとか止めてくれた。
そして恐る恐る爆発音のあった扉に目を向けると大男が肩で息を切らし、ドアの縁に手をかけ立っていた。
(な、なんだあいつ…)
「どうだ!!起きたか!!」
大男らしい大声に部屋の備品が揺れたのでないかと錯覚する。
「おぉ~!!起きてるじゃねぇ~か~!!」
これまた大きな声を発した後のしのしと近づいてきたが部屋の中間辺りで歩く姿勢のまま大男はピタッと静止した。額に脂汗を滲ませ。顔面を蒼白にして。
何故だろう。
後ろを見れば分かるかな?
振り向ける?振り向けないよ。
首が据わっていないから?首はもう据わってるよ。
何でだろう?
恐ろしいからに決まってんだろ!抱かさってる腕からひしひしと伝わる怒りのオーラは部屋の空気を鉛のように変え体感温度は氷点下。なのに腕には力が入っておらず全然本気ではないときた。直視されてるからこそ大男は微動だにしないのだろう。今振り向けばおそらく恐怖だけで逝けるだろう。
「おい、いつも言ってんだろ?泣いたらどうすんだ?なぁ?」
(あなたの言葉で泣きそうです。)
「す、すまない。反省する…。悪かった…。」
大男が気を付けの姿勢をとり、今にも消え入りそうな声で謝罪した。
すると幾分か空気が柔らぎ呼吸を忘れていることに気が付き「ふぅー」と大きく息をついた。すると大男も同時に大きく息をついた。文字通り息が合ったその時に父子なんだなと理解した。
「ははっ、やっぱ親子だね。で、何のよう?」
初めの赤ちゃん言葉を使っていた時とは違うフランクな口調で会話が始まった。おそらくこっちが素なのだろう。
「子の顔を見たいから急いで仕事を済ましてきたんだよ。それにそろそろいい頃合いと思ってな」
「まだ早いわ!今『鑑定』したところでどうせステータスはマアヒルの行進がいいとこよ。それにもしもう『目醒め』てるなんてことがあったらシステムデータのダウンロードが成長してない体に始まってたちまちパンクして廃人よ!」
(ん?『鑑定』に『目醒め』に『廃人』嫌な予感が)
「大丈夫大丈夫!こんな小さいうちに自我が『目醒め』てる訳がない!それにママだって少しは気になってるだろ?もしかしたらもう『英雄級』のステータスなんてことも…『ギフト』だってあるかも…」
(まてまてまて!自我ってこれだろ?えっ何『鑑定』されたら廃人なの?何勝手に死亡フラグ立たせてんだよ!やめろ!やめてくれー!!)
「ほら、この子だってこんなに元気に大丈夫だってアピールしてるし。な!一回だけ!」
(チクショウ!。元気に喜んでるとしか思われねえ!。頼むお母様ダメって言ってくれ~!)
「しょうがないわね。一回だけよ。まあ興味がないって言うと嘘になるし。」
(ああ…終わった。まさか自我を持ったその日が人生最後とは…最後におっぱいを拝めただけいいとするか…さあ一思いにやってくれ)
「さすがママ!よーし!いくかスキル『鑑定』発動!」
全身を悪寒が走り抜けると共に頭の中に音声が流れる
『ベズ・エンガーがあなたに『鑑定』を行使しました。』
『『鑑定』の対象のシステムデータが見つかりません。自我の有無を確認します。自我のない場合オフラインでデータの提供を行います。』
『自我の有無を確認中…自我が見つかりました。オンラインでシステムを行使します。不足データが有るためダウンロードを行います。しばらくお待ちください。』
次の瞬間全身を電気が駆け巡り声を発する間もなく気を失うのであった。
「「うそ…」」
夫婦は目の前の悲劇を見守るしかなかった。
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