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第1章 銀狼族の落ちこぼれ
最弱職
しおりを挟む「――というわけで、基本的には魔法や戦闘における知識の勉強、魔法薬の作成、体術訓練、養殖によるレベル上げなんかを3年間やっていくことになる。そして、見事卒業試験に合格すれば卒業となる。ここまでは知ってるな?」
俺の言葉に、生徒達はうんうんと頷いてくれる。何だかいい気分だ。
「知っての通り、魔法というものはスキルポイントを消費して覚える。しかし、スキルポイントというのは貯まりづらい。順当にやっても3年間だと、覚えられる魔法はせいぜい5つが限界だろう。そこでコイツだ」
俺は手に持っていたフラスコを教壇に置く。中に入っている液体は透き通るような綺麗な水色をしている。
一般にスキルポーションと呼ばれるものだ。
「スキルポーションは透明度が高ければ高いもの程、より高い効果を得られる。ーー今、ここに置いたものは市場なら、そうだな……数百万はするだろう高級品だ」
途端、生徒の視線が一斉にこのフラスコへと向く。
フラスコを右に左にと動かす度につられて、生徒達の視線がゆらゆらと動いていく。
なんだか、面白い。
「これ、欲しいか?」
生徒達は皆、何度も頷く。さっきはあんなに素っ気なかったレイナもだ。特にルミアは身を乗り出していて、今にもかっさらって行きそうだ。
「よし、じゃあ記念すべき今年度のポーション第一号は、今から出す問題に一番早く答えられた人にやろう。答える時は挙手しろよ。問題、俺の職業はなんでしょう?」
懐から冒険者カードを取り出してヒラヒラさせているので、ここでいう“職業”というのが先生や商人といったものではなく、冒険者としての職業ということは生徒達も分かっているだろう。
皆が、一斉に手を挙げた。一番早かったのは、アリスを除けばツインテのテミスだろうか。分かったという割には首を傾げている。
「じゃあテミス」
「ハイウィザードでしょう?」
「ぶっぶー、外れ」
教室がざわつく。
当然だ。銀狼族に同じ質問をしてハイウィザード以外の答えが返ってくるなんて、俺以外いないはずだ。おそらく、生徒達は最初ということでサービス問題か何かだと思ったのかもしれない。
他の生徒達の手が下がる中、アリスだけは唯一挙がったままだ。
しかし、妹であるアリスは当然答えを知っているので、無視だ。いくらなんでもそれは公平じゃないからな。今回は我慢してもらおう。
「しょうがない、ヒント出すか。俺は低級、中級、高級魔法、それにテレポートが使えるな」
「やっぱりハイウィザードじゃ……」
「他には回復魔法、隠蔽、索敵スキルなんかも使える」
「……え???」
「あとは裁縫スキルや料理スキルも使えるな。意外と便利なんだよ、これが」
「分かりました」
生徒達が互いに顔を見合わせ困惑の色を浮かべている中、ルミアの手が静かに挙がる。(アリスは指して貰えないと分かったのか既に手を下げている)
流石天才を自称するだけはある。
しかし、当のルミアも自分の答えに納得がいっていないのか、少し戸惑っている様子だ。
ルミアはおずおずといった感じで。
「冒険者……ですよね」
「いやいや、ルミア。私達もそのくらいは分かってるって。でも先生は冒険者の中でどんな職業なのかって…………え、もしかして」
「他に考えられないでしょう。隠蔽や索敵といったスキルは盗賊のものです。回復魔法は僧侶職のものですし、裁縫スキルや料理スキルは裁縫師、料理人それでいて、ハイウィザードのスキルも使えるとなると」
「大きな括りで言う“冒険者”ではなく、職業としての“冒険者”しかないでしょう」
皆、口をポカンと開けたまま固まった。
俺は予想通りの反応に満足して何度か頷くと、ポーションを持ってルミアの机の前まで行き、笑顔でそれを渡す。
「正解。流石は天才を自称するだけはあるな」
「あの、確認のために冒険者カード見せてもらってもいいですか?」
「いいよ、ほら。あ、スキルポイント貯めてるから、変なところ触って勝手にスキル習得させたりすんなよ」
俺がルミアにカードを渡すと、他の生徒達も一斉に集まって覗き込んでくる。
なんだこれ、メッチャいい匂いする。男が集まっても臭いだけなのに、何で女の子ってこんないい匂いするんだろう。
ルミアは俺のカードを信じられないように見て。
「ほ、本当に冒険者ですね…………えっ!? な、何ですかこのレベル!?」
「あー、12歳の時にカード作ってから、知り合いに協力してもらって養殖ばっかやってたからな。元々冒険者はレベルが上がりやすいってのもあって、こんなことになった」
「こんなに高レベルなら、商人とかよりも危険なモンスター狩った方がいいんじゃないですか?」
「そんなことする訳ないだろ、面倒くさい」
「ええ……」
俺はカードを返してもらって教壇へと戻る。アリスを含め皆、驚きつつも呆れた表情をこちらに向けていたが、そんな中でくすくすという如何にも人を馬鹿にしたかのような笑い声が聞こえてきた。
「えー、でもー先生、本当にあたし達に魔法とか戦いを教えられるんですかー?」
「あはは、確かにー。私達、皆ハイウィザードですよ? いくらレベルが高いと言っても、最弱職の人に教わることなんてないんじゃないですかー?」
「そんなことはないぞ。ハイウィザードといっても、お前達はまだ12歳の子供。俺は確かにお前達と比べたら才能ない凡人だけど、それでもお前達よりは経験積んでるんだからな」
「えー、でも先生、本職は商人なんでしょ? 戦いだって、ちょっとあたし達が訓練すればすぐ追い抜いちゃうんじゃないー?」
「だよねー。私達って一応エリートってやつだし?」
などと、からかうように言ってきたのは、先程答えたテミスとその隣の席に座るポニテのサーシャだ。
まぁ、無理もないな。仮にも将来有望なハイウィザードが、最弱職に物を教わるということに抵抗を覚えるのは当然だ。しかし、だからと言ってここで大人しく引き下がるわけにもいかない。
はぁ……しょうがない。
こんなことは本当に……本当に不本意なんだが、やるしかない。あーあ、本当はやりたくないのになー、でもしょうがないよなー。やるしかないよなー。
「せ、先生? その、馬鹿にしたのは謝りますから……」
「な、なんでそんなニヤニヤしてるんですか? せ、折角のカッコいい顔が、台無しですよ?」
俺の表情に本能的に危険を感じたのか二人は先程の余裕ぶった様子はどこへやら、引きつった表情で言ってくる。だがもう遅い。
「いやさ、二人の気持ちは分かるよ。お前達はエリートだし、俺は銀狼族の中でも落ちこぼれだ。でもさ、ここでは一応俺が教師で、お前達が生徒なんだよ。悪いんだけど、卒業するまでは俺の言うことは聞いてほしいんだよ」
「分かりました聞きますから! だから、その気味の悪い笑顔は……なんで手をワキワキさせてるんですか!?」
「せ、先生!? 何するつもりなんですか!? なんか手から黒い靄が出てますよ!」
いよいよ泣きそうな顔になる、テミスとサーシャ。
まだまだ幼さが残る12歳の少女にそんな顔をさせるのは非常に良心が……うん、良心が非常に痛むのだが、これも仕方のないことだ。
教師というのは生徒達の成長の為に、時には子供の嫌がることをやって悪者にならなければいけない時があるのだ。それに、校長からある程度授業内容の自由は貰ってるからな。ならば、罰の如何も教師の自由だろう。
他の生徒もなんだか泣きそうになっているし、アリスに至っては俺がこれから何をするのか理解したのか、溜息をついて呆れている。
俺は手袋をはめている右手を前に突きつけ、二人に向ける。
「お前達には見せしめとなってもらおう。他の奴らは先生に歯向かった奴の末路がどうなるか見てろよ」
「それ完全に悪役のセリフですよ!? あの、ゆ、許してくださいお願いします!!!!!」
「や、やめ……謝りますから! 誠心誠意謝りますから!!」
「『ダークパスト』ッッ!!」
俺の声で教室は急に静かとなった。
周りで見ていた生徒達は何が起こったのか分かっていないようだ。
しかし、勿論当の本人達は顔を俯かせ、そのまだまだあどけなさの残る顔をどんどんお真っ赤にしていった。その赤さがピークに達した所で。
「「きょ、今日は早退します!!」
二人は勢いよく教室を飛び出していった。
何が起こったのか分からないといった顔をしている他の生徒達を置いて。
唯一、妹のアリスだけは溜息をついていた。
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