最弱職な彼にも栄光あれ!

夜ヶ崎 雪

文字の大きさ
4 / 7
第1章 銀狼族の落ちこぼれ

最弱職

しおりを挟む

「――というわけで、基本的には魔法や戦闘における知識の勉強、魔法薬の作成、体術訓練、養殖によるレベル上げなんかを3年間やっていくことになる。そして、見事卒業試験に合格すれば卒業となる。ここまでは知ってるな?」

 俺の言葉に、生徒達はうんうんと頷いてくれる。何だかいい気分だ。

「知っての通り、魔法というものはスキルポイントを消費して覚える。しかし、スキルポイントというのは貯まりづらい。順当にやっても3年間だと、覚えられる魔法はせいぜい5つが限界だろう。そこでコイツだ」

 俺は手に持っていたフラスコを教壇に置く。中に入っている液体は透き通るような綺麗な水色をしている。
 一般にスキルポーションと呼ばれるものだ。

「スキルポーションは透明度が高ければ高いもの程、より高い効果を得られる。ーー今、ここに置いたものは市場なら、そうだな……数百万はするだろう高級品だ」

 途端、生徒の視線が一斉にこのフラスコへと向く。
 フラスコを右に左にと動かす度につられて、生徒達の視線がゆらゆらと動いていく。
 なんだか、面白い。

「これ、欲しいか?」

 生徒達は皆、何度も頷く。さっきはあんなに素っ気なかったレイナもだ。特にルミアは身を乗り出していて、今にもかっさらって行きそうだ。

「よし、じゃあ記念すべき今年度のポーション第一号は、今から出す問題に一番早く答えられた人にやろう。答える時は挙手しろよ。問題、俺の職業はなんでしょう?」

 懐から冒険者カードを取り出してヒラヒラさせているので、ここでいう“職業”というのが先生や商人といったものではなく、冒険者としての職業ということは生徒達も分かっているだろう。

 皆が、一斉に手を挙げた。一番早かったのは、アリスを除けばツインテのテミスだろうか。分かったという割には首を傾げている。

「じゃあテミス」
「ハイウィザードでしょう?」
「ぶっぶー、外れ」

 教室がざわつく。
 当然だ。銀狼族に同じ質問をしてハイウィザード以外の答えが返ってくるなんて、俺以外いないはずだ。おそらく、生徒達は最初ということでサービス問題か何かだと思ったのかもしれない。
 他の生徒達の手が下がる中、アリスだけは唯一挙がったままだ。
 しかし、妹であるアリスは当然答えを知っているので、無視だ。いくらなんでもそれは公平じゃないからな。今回は我慢してもらおう。

「しょうがない、ヒント出すか。俺は低級、中級、高級魔法、それにテレポートが使えるな」
「やっぱりハイウィザードじゃ……」
「他には回復魔法、隠蔽、索敵スキルなんかも使える」
「……え???」
「あとは裁縫スキルや料理スキルも使えるな。意外と便利なんだよ、これが」
「分かりました」

 生徒達が互いに顔を見合わせ困惑の色を浮かべている中、ルミアの手が静かに挙がる。(アリスは指して貰えないと分かったのか既に手を下げている)
 流石天才を自称するだけはある。
 しかし、当のルミアも自分の答えに納得がいっていないのか、少し戸惑っている様子だ。
 ルミアはおずおずといった感じで。

「冒険者……ですよね」
「いやいや、ルミア。私達もそのくらいは分かってるって。でも先生は冒険者の中でどんな職業なのかって…………え、もしかして」
「他に考えられないでしょう。隠蔽や索敵といったスキルは盗賊のものです。回復魔法は僧侶職のものですし、裁縫スキルや料理スキルは裁縫師、料理人それでいて、ハイウィザードのスキルも使えるとなると」


「大きな括りで言う“冒険者”ではなく、職業としての“冒険者”しかないでしょう」



 皆、口をポカンと開けたまま固まった。
 俺は予想通りの反応に満足して何度か頷くと、ポーションを持ってルミアの机の前まで行き、笑顔でそれを渡す。

「正解。流石は天才を自称するだけはあるな」
「あの、確認のために冒険者カード見せてもらってもいいですか?」
「いいよ、ほら。あ、スキルポイント貯めてるから、変なところ触って勝手にスキル習得させたりすんなよ」

 俺がルミアにカードを渡すと、他の生徒達も一斉に集まって覗き込んでくる。
 なんだこれ、メッチャいい匂いする。男が集まっても臭いだけなのに、何で女の子ってこんないい匂いするんだろう。

 ルミアは俺のカードを信じられないように見て。

「ほ、本当に冒険者ですね…………えっ!? な、何ですかこのレベル!?」
「あー、12歳の時にカード作ってから、知り合いに協力してもらって養殖ばっかやってたからな。元々冒険者はレベルが上がりやすいってのもあって、こんなことになった」
「こんなに高レベルなら、商人とかよりも危険なモンスター狩った方がいいんじゃないですか?」
「そんなことする訳ないだろ、面倒くさい」
「ええ……」

 俺はカードを返してもらって教壇へと戻る。アリスを含め皆、驚きつつも呆れた表情をこちらに向けていたが、そんな中でくすくすという如何にも人を馬鹿にしたかのような笑い声が聞こえてきた。

「えー、でもー先生、本当にあたし達に魔法とか戦いを教えられるんですかー?」
「あはは、確かにー。私達、皆ハイウィザードですよ? いくらレベルが高いと言っても、最弱職の人に教わることなんてないんじゃないですかー?」
「そんなことはないぞ。ハイウィザードといっても、お前達はまだ12歳の子供。俺は確かにお前達と比べたら才能ない凡人だけど、それでもお前達よりは経験積んでるんだからな」
「えー、でも先生、本職は商人なんでしょ? 戦いだって、ちょっとあたし達が訓練すればすぐ追い抜いちゃうんじゃないー?」
「だよねー。私達って一応エリートってやつだし?」

 などと、からかうように言ってきたのは、先程答えたテミスとその隣の席に座るポニテのサーシャだ。
 まぁ、無理もないな。仮にも将来有望なハイウィザードが、最弱職に物を教わるということに抵抗を覚えるのは当然だ。しかし、だからと言ってここで大人しく引き下がるわけにもいかない。

 はぁ……しょうがない。
 こんなことは本当に……本当に不本意なんだが、やるしかない。あーあ、本当はやりたくないのになー、でもしょうがないよなー。やるしかないよなー。

「せ、先生? その、馬鹿にしたのは謝りますから……」
「な、なんでそんなニヤニヤしてるんですか? せ、折角のカッコいい顔が、台無しですよ?」

 俺の表情に本能的に危険を感じたのか二人は先程の余裕ぶった様子はどこへやら、引きつった表情で言ってくる。だがもう遅い。

「いやさ、二人の気持ちは分かるよ。お前達はエリートだし、俺は銀狼族の中でも落ちこぼれだ。でもさ、ここでは一応俺が教師で、お前達が生徒なんだよ。悪いんだけど、卒業するまでは俺の言うことは聞いてほしいんだよ」
「分かりました聞きますから! だから、その気味の悪い笑顔は……なんで手をワキワキさせてるんですか!?」
「せ、先生!? 何するつもりなんですか!? なんか手から黒い靄が出てますよ!」

 いよいよ泣きそうな顔になる、テミスとサーシャ。
 まだまだ幼さが残る12歳の少女にそんな顔をさせるのは非常に良心が……うん、良心が非常に痛むのだが、これも仕方のないことだ。
 教師というのは生徒達の成長の為に、時には子供の嫌がることをやって悪者にならなければいけない時があるのだ。それに、校長からある程度授業内容の自由は貰ってるからな。ならば、罰の如何も教師の自由だろう。
 他の生徒もなんだか泣きそうになっているし、アリスに至っては俺がこれから何をするのか理解したのか、溜息をついて呆れている。

 俺は手袋をはめている右手を前に突きつけ、二人に向ける。

「お前達には見せしめとなってもらおう。他の奴らは先生に歯向かった奴の末路がどうなるか見てろよ」
「それ完全に悪役のセリフですよ!? あの、ゆ、許してくださいお願いします!!!!!」
「や、やめ……謝りますから! 誠心誠意謝りますから!!」

「『ダークパスト』ッッ!!」

 俺の声で教室は急に静かとなった。
 周りで見ていた生徒達は何が起こったのか分かっていないようだ。
 しかし、勿論当の本人達は顔を俯かせ、そのまだまだあどけなさの残る顔をどんどんお真っ赤にしていった。その赤さがピークに達した所で。

「「きょ、今日は早退します!!」

 二人は勢いよく教室を飛び出していった。
 何が起こったのか分からないといった顔をしている他の生徒達を置いて。

 唯一、妹のアリスだけは溜息をついていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...