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第1章
竜巻
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強大な斥力を発生している二つの神眼、その狭間で戦いが進む。
暗黒騎士ザニバルの操る魔装メロッピは、武装した蒼龍フレイアに追い詰められている。
メロッピの後ろには神眼、前には蒼龍。神眼からの斥力で押されて、メロッピはもう後退できない。
<覚悟しろ!>
蒼龍は魔力の波動によってザニバルにだけ聞こえるように声を発する。
二本の鍬を二刀流に構えてザニバルに突きつける。
<勝負だよ!>
ザニバルはメロッピの形状を変化させる。
メロッピの細腕から瘴気が噴き出し、瘴気は黒銀に変じる。メロッピの手にまとわりついた黒銀は膨らんでいってグローブになる。細腕はぐるぐると螺旋状に変形し、バネのようにぎゅっと縮まる。
蒼龍が二本の鍬を振り下ろす。
メロッピがバネの力でグローブを打ち出す。
<メロッピパンチ!>
メロッピの両グローブは二本の鍬をつかみ取った。
だが蒼龍はもう一対の前肢に蒼珠の盾を構えている。盾でメロッピを殴りつける。
左のジャブを受けてメロッピは鍬から手を放し、そして右ストレートで殴り飛ばされる。
宙を飛ぶメロッピの巨体は王国側の神眼に激突しようとする。神眼は輝き、強い斥力を発生。メロッピを弾き返す。
<うわわわ!>
薄っぺらくひしゃげたメロッピは蒼龍の前に戻ってくる。不気味に戯画的な姿だ。
<戻ってくるな!>
蒼龍は盾で殴り直す。
またメロッピは王国側の神眼に飛ばされていき、今度は足からぶつかっていく。いつの間にか足も螺旋状のバネになっている。
メロッピの巨体に対してまた神眼は斥力を発する。そこにぶつかってきたメロッピは足のバネで激しくキック。神眼は斥力に守られているが、神眼につながれた魔力伝導管が反動に耐えかねて千切れ飛ぶ。
<いくよ!>
神眼の斥力に加えて足のバネで加速したメロッピは勢いよく蒼龍へと飛ぶ。
<なんだと!?>
ぶつかってきたメロッピを受け止めかねて、蒼龍はメロッピもろとも帝国側の神眼にぶつかった。
神眼は激しく輝いて強い斥力を発生、両者を跳ね返す。
蒼龍とメロッピがもんどり打って倒れる。
地響きが轟く。
ただでさえ闇の瘴気が満ちている中にもうもうと土煙が舞い上がる。
大地が揺れ、砲撃を受けて破損だらけになっている要塞の各所が砕けて落ちる。
倒れて絡み合った蒼龍とメロッピは間近に向かい合う。
<跳ね回ってふざけているのか! 貴様はいったい何がしたいんだ!>
蒼龍フレイアは怒りの咆哮。
<要塞を壊してるよ?>
ザニバルはきょとんした様子で答える。
<壊している? 貴様は貿易できるように取り計らうとしか言わなかっただろうが!>
<そうだっけ?>
ザニバルのとぼけた対応にフレイアは怒りを募らせる。
<こんなことをしていたって、要塞は壊せても神眼は壊せないぞ!>
<でも貯蔵庫の結晶は食べてきてくれたんでしょ?>
<食べ尽くしたが?>
<このまま神眼にぶつかってれば、いつか魔力切れで止まって壊れるよ。ここで二人が暴れてれば要塞の修理もできないし>
ザニバルの返答にフレイアは愕然とした。
<あの司令官は魔力切れまで三か月かかると言ってただろうが! 貴様、三か月も戦い続ける気か!>
<フレイアならすごいから大丈夫! もっと早く壊せるもん>
心底信じきった声でザニバルが言う。
<貴様…… 敵である私を信じるというのか>
フレイアは少し感動しかける。
<フレイアって怒ってる方が強いでしょ。牢屋に入れたらめちゃくちゃ怒るかなと思って。すごく強くなって、大当たりだったよね>
<……貴様、やっぱり許さん!>
蒼龍は翼を広げて飛び起きる。
メロッピも跳ね起きる。
両者はまた神眼の狭間で向かい合う。
<腐っても私は王国軍だぞ! 自国の要塞を壊せるものか!>
<え、いくらでも壊せるよ?>
<貴様と一緒にするな!>
怒りのあまりに激しく魔力を噴き上げながら、蒼龍はこれまでと異なる構えをとる。二対の前肢を開き、四枚の翼を水平に広げる。
<あのときの戦いでは貴様から卑怯な奇襲を受けたがために見せられなかったが>
翼の後縁が蒼く輝き、高熱のプラズマ噴流が生じる。
<我が王から直々に伝授していただいた王技、その身に受けるがいい>
メロッピを前に、蒼龍の巨体が踊り上がる。
四枚の翼が右回りにプラズマ噴射、
その反動を受けて蒼龍は身体を空中旋回、
身体を捩じってより加速、
顎を開いて猛烈な焔をブレス、さらに加速、
盾を放り投げてなおも加速、
前肢の鍬から火球を放っていっそう加速。
極超音速の蒼い竜巻と化したフレイアが、触れるもの全てを破壊する
勢いでメロッピに突進する。
メロッピはバネ足を弾けさせて避けようとする。
<甘いぞ!>
蒼龍の長い尾が竜巻の中からしなやかな鞭のように飛び出し伸びる。これこそが真の狙いだった。
尾はメロッピの上から襲いかかり、黒い積層装甲をやすやすと破壊、メロッピの頭は爆散、そのまま胴体を粉砕していく。
<終わりだ!>
フレイアは全身の旋回力を全て尾の先に込める。
その尾がつかまれた。
メロッピの胴体に潜んでいたザニバルがつかんだのだ。
<いくよ!>
ザニバルから瘴気が爆発的に発生する。
ザニバルは凄まじい力を暗黒騎士の腕先に込める。あまりの力に積層装甲が何枚も弾け飛ぶ。
尾の動きを止めることなく、その力を受け流して振り回す。
蒼龍の尾に込められていた恐るべき勢いに、ザニバルの途轍もない力が重なる。
蒼龍はハンマーのように投げ飛ばされる。
その巨体は王国側の神眼へ。
神眼は膨大な斥力を自動発生して蒼龍を阻止しようとする。
しかし蒼龍は止まらない。
神眼と蒼龍は激突する。
一帯に閃光が走る。
地面に転がり叩きつけられた後、よろめきながら蒼龍は立ち上がる。<まさか、我が竜巻が破られるとは…… まだまだ未熟だったというのか…… ザニバル恐るべし……>
蒼龍が目にしたのは、王国側の神眼にひびが入り、あふれ出る魔力によってあちこちが砕けて自壊し始める光景だった。
王国側の神眼から声が流れてくる。
「神眼の機能を維持できません。防衛のために最終攻撃モードに入ります。前方周囲から退避してください。繰り返します。前方周囲から退避してください」
<やった! 壊れた! 二人の力だもん!>
崩壊したメロッピから地面に降り立ったザニバルは腕を上げ、ぴょんぴょん跳ねて喜ぶ。
<ああ、やってしまった。我が王国の設備を壊すとは>
蒼龍は前肢で頭を抱える。
そこへ今度は帝国側の神眼からも声が流れてくる。
「自爆砲撃の準備を探知しました。対抗のために最終攻撃モードに入ります。前方周囲から退避してください」
両方の神眼が不気味に赤く光り始める。
神眼の瞳に全魔力が集中していく。
膨大な斥力を発生していた魔力が、今は前方への砲撃に使われようとしている。互いの要塞など簡単に消し飛ぶだろう。
蒼龍はぞっとする。
王国の要塞には多くの兵士が駐屯しているはずだ。
<せめて少しでも盾に!>
神眼同士の間に蒼龍は立ちふさがる。
蒼龍の頭にザニバルがよじ登ってきた。
<そこにいちゃ攻撃の邪魔だよ>
<このままでは皆を巻き添えにしてしまう!>
<要塞に人はいないよ>
<なんだと!?>
蒼龍は要塞を見やる。
要塞の向こうに黒い塊の蠢く様が見える。瘴気によって作られたメロッピたちだ。その妙に重そうな動きは内部に人を捕まえているからだろう。
メロッピたちは渓谷に開いた穴へと入っていく。
<貴様の敵だろうに、どうして助ける……?>
蒼龍の問いに対して、ザニバルはさも当然のように答えた。
<死んだらもう怖がってくれないもん>
二つの神眼は魔力の充填を完了する。そして破壊的エネルギーを前方へと放出した。その中央には蒼龍とザニバルがいる。
暗黒騎士ザニバルの操る魔装メロッピは、武装した蒼龍フレイアに追い詰められている。
メロッピの後ろには神眼、前には蒼龍。神眼からの斥力で押されて、メロッピはもう後退できない。
<覚悟しろ!>
蒼龍は魔力の波動によってザニバルにだけ聞こえるように声を発する。
二本の鍬を二刀流に構えてザニバルに突きつける。
<勝負だよ!>
ザニバルはメロッピの形状を変化させる。
メロッピの細腕から瘴気が噴き出し、瘴気は黒銀に変じる。メロッピの手にまとわりついた黒銀は膨らんでいってグローブになる。細腕はぐるぐると螺旋状に変形し、バネのようにぎゅっと縮まる。
蒼龍が二本の鍬を振り下ろす。
メロッピがバネの力でグローブを打ち出す。
<メロッピパンチ!>
メロッピの両グローブは二本の鍬をつかみ取った。
だが蒼龍はもう一対の前肢に蒼珠の盾を構えている。盾でメロッピを殴りつける。
左のジャブを受けてメロッピは鍬から手を放し、そして右ストレートで殴り飛ばされる。
宙を飛ぶメロッピの巨体は王国側の神眼に激突しようとする。神眼は輝き、強い斥力を発生。メロッピを弾き返す。
<うわわわ!>
薄っぺらくひしゃげたメロッピは蒼龍の前に戻ってくる。不気味に戯画的な姿だ。
<戻ってくるな!>
蒼龍は盾で殴り直す。
またメロッピは王国側の神眼に飛ばされていき、今度は足からぶつかっていく。いつの間にか足も螺旋状のバネになっている。
メロッピの巨体に対してまた神眼は斥力を発する。そこにぶつかってきたメロッピは足のバネで激しくキック。神眼は斥力に守られているが、神眼につながれた魔力伝導管が反動に耐えかねて千切れ飛ぶ。
<いくよ!>
神眼の斥力に加えて足のバネで加速したメロッピは勢いよく蒼龍へと飛ぶ。
<なんだと!?>
ぶつかってきたメロッピを受け止めかねて、蒼龍はメロッピもろとも帝国側の神眼にぶつかった。
神眼は激しく輝いて強い斥力を発生、両者を跳ね返す。
蒼龍とメロッピがもんどり打って倒れる。
地響きが轟く。
ただでさえ闇の瘴気が満ちている中にもうもうと土煙が舞い上がる。
大地が揺れ、砲撃を受けて破損だらけになっている要塞の各所が砕けて落ちる。
倒れて絡み合った蒼龍とメロッピは間近に向かい合う。
<跳ね回ってふざけているのか! 貴様はいったい何がしたいんだ!>
蒼龍フレイアは怒りの咆哮。
<要塞を壊してるよ?>
ザニバルはきょとんした様子で答える。
<壊している? 貴様は貿易できるように取り計らうとしか言わなかっただろうが!>
<そうだっけ?>
ザニバルのとぼけた対応にフレイアは怒りを募らせる。
<こんなことをしていたって、要塞は壊せても神眼は壊せないぞ!>
<でも貯蔵庫の結晶は食べてきてくれたんでしょ?>
<食べ尽くしたが?>
<このまま神眼にぶつかってれば、いつか魔力切れで止まって壊れるよ。ここで二人が暴れてれば要塞の修理もできないし>
ザニバルの返答にフレイアは愕然とした。
<あの司令官は魔力切れまで三か月かかると言ってただろうが! 貴様、三か月も戦い続ける気か!>
<フレイアならすごいから大丈夫! もっと早く壊せるもん>
心底信じきった声でザニバルが言う。
<貴様…… 敵である私を信じるというのか>
フレイアは少し感動しかける。
<フレイアって怒ってる方が強いでしょ。牢屋に入れたらめちゃくちゃ怒るかなと思って。すごく強くなって、大当たりだったよね>
<……貴様、やっぱり許さん!>
蒼龍は翼を広げて飛び起きる。
メロッピも跳ね起きる。
両者はまた神眼の狭間で向かい合う。
<腐っても私は王国軍だぞ! 自国の要塞を壊せるものか!>
<え、いくらでも壊せるよ?>
<貴様と一緒にするな!>
怒りのあまりに激しく魔力を噴き上げながら、蒼龍はこれまでと異なる構えをとる。二対の前肢を開き、四枚の翼を水平に広げる。
<あのときの戦いでは貴様から卑怯な奇襲を受けたがために見せられなかったが>
翼の後縁が蒼く輝き、高熱のプラズマ噴流が生じる。
<我が王から直々に伝授していただいた王技、その身に受けるがいい>
メロッピを前に、蒼龍の巨体が踊り上がる。
四枚の翼が右回りにプラズマ噴射、
その反動を受けて蒼龍は身体を空中旋回、
身体を捩じってより加速、
顎を開いて猛烈な焔をブレス、さらに加速、
盾を放り投げてなおも加速、
前肢の鍬から火球を放っていっそう加速。
極超音速の蒼い竜巻と化したフレイアが、触れるもの全てを破壊する
勢いでメロッピに突進する。
メロッピはバネ足を弾けさせて避けようとする。
<甘いぞ!>
蒼龍の長い尾が竜巻の中からしなやかな鞭のように飛び出し伸びる。これこそが真の狙いだった。
尾はメロッピの上から襲いかかり、黒い積層装甲をやすやすと破壊、メロッピの頭は爆散、そのまま胴体を粉砕していく。
<終わりだ!>
フレイアは全身の旋回力を全て尾の先に込める。
その尾がつかまれた。
メロッピの胴体に潜んでいたザニバルがつかんだのだ。
<いくよ!>
ザニバルから瘴気が爆発的に発生する。
ザニバルは凄まじい力を暗黒騎士の腕先に込める。あまりの力に積層装甲が何枚も弾け飛ぶ。
尾の動きを止めることなく、その力を受け流して振り回す。
蒼龍の尾に込められていた恐るべき勢いに、ザニバルの途轍もない力が重なる。
蒼龍はハンマーのように投げ飛ばされる。
その巨体は王国側の神眼へ。
神眼は膨大な斥力を自動発生して蒼龍を阻止しようとする。
しかし蒼龍は止まらない。
神眼と蒼龍は激突する。
一帯に閃光が走る。
地面に転がり叩きつけられた後、よろめきながら蒼龍は立ち上がる。<まさか、我が竜巻が破られるとは…… まだまだ未熟だったというのか…… ザニバル恐るべし……>
蒼龍が目にしたのは、王国側の神眼にひびが入り、あふれ出る魔力によってあちこちが砕けて自壊し始める光景だった。
王国側の神眼から声が流れてくる。
「神眼の機能を維持できません。防衛のために最終攻撃モードに入ります。前方周囲から退避してください。繰り返します。前方周囲から退避してください」
<やった! 壊れた! 二人の力だもん!>
崩壊したメロッピから地面に降り立ったザニバルは腕を上げ、ぴょんぴょん跳ねて喜ぶ。
<ああ、やってしまった。我が王国の設備を壊すとは>
蒼龍は前肢で頭を抱える。
そこへ今度は帝国側の神眼からも声が流れてくる。
「自爆砲撃の準備を探知しました。対抗のために最終攻撃モードに入ります。前方周囲から退避してください」
両方の神眼が不気味に赤く光り始める。
神眼の瞳に全魔力が集中していく。
膨大な斥力を発生していた魔力が、今は前方への砲撃に使われようとしている。互いの要塞など簡単に消し飛ぶだろう。
蒼龍はぞっとする。
王国の要塞には多くの兵士が駐屯しているはずだ。
<せめて少しでも盾に!>
神眼同士の間に蒼龍は立ちふさがる。
蒼龍の頭にザニバルがよじ登ってきた。
<そこにいちゃ攻撃の邪魔だよ>
<このままでは皆を巻き添えにしてしまう!>
<要塞に人はいないよ>
<なんだと!?>
蒼龍は要塞を見やる。
要塞の向こうに黒い塊の蠢く様が見える。瘴気によって作られたメロッピたちだ。その妙に重そうな動きは内部に人を捕まえているからだろう。
メロッピたちは渓谷に開いた穴へと入っていく。
<貴様の敵だろうに、どうして助ける……?>
蒼龍の問いに対して、ザニバルはさも当然のように答えた。
<死んだらもう怖がってくれないもん>
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