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第3章
暴動
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◆神聖ウルスラ帝国 帝都 中央広場
神聖ウルスラ帝国の帝城は、帝都の大広場に面している。
帝城の中央バルコニーからは大広場を一望できる。
今、そのバルコニーには皇帝が立っていた。臣民に対して演説を行うためだ。
斜め後ろには大臣や将軍たちが控えている。
皇帝は中央広場の様子を眺め、眉間にしわを寄せる。民衆たちは雑然と集まって、どう見ても好意的ではない目で皇帝をにらんでいる。
騒がしく不穏な状況だ。
帝都ではこのところ暴動が頻発している。
事実上の敗戦によって帝国の国費は枯渇した。商人たちへの支払いは滞り、役人や軍人たちへの給金も支払えない。混ぜ物入りの金貨でしのごうとしたら物価が急激に上昇。
臣民はろくに食料や生活用品が買えなくなったうえにこれまでの貯金が大幅に目減して、生活苦に追いやられていた。
皇帝が演説をすると聞いてやってきたのは、そうした困窮に苦しまされている民衆や、給金不払いが続いて激怒している軍人たち。
彼らは皇帝の演説に期待しているというよりも、ただ不満をぶつけたがっている。
皇帝は拡声具を使って呼びかける。
「選良たる我が臣民よ、忠勇なる兵士諸君よ。今、帝国は辛苦の刻である。だがこの逆境を乗り越えたときに真の勝利が訪れるのである。諸君であれば必ずや耐えることができるのである」
そこまで話したところで民衆たちが、
「耐えられるかよ!」
「まず飯を食わせろ!」
「給金を払ってから言え!」
広場中から罵倒の嵐だ。
中央バルコニーには汚い言葉だけでなく石まで飛んでくる。
石は透明の防壁に阻まれるが、ぶつかるたびに不快な音を立てて皇帝を苛立たせる。
皇帝は声を張り上げて、
「諸君。本日は重大な発表を伝えねばならない。遺憾ながら、国庫から多額の金品が横領されていたと発覚した。現在、我が帝国の経済が重大な苦境に陥っているのはその者の犯罪行為によるものである」
民衆の注意を多少引いたようだ。投石がいったん収まる。
皇帝は続ける。
「犯人はかの暗黒騎士ザニバルである!」
皇帝はちらりと経済大臣を見る。この演説案を考えたのは経済大臣だ。現在の状況を改善する手がない以上、問題を押し付ける悪役が必要だった。既に軍から追放済みのザニバルであれば適役だと経済大臣が提案したのだった。
全くの濡れ衣ではないと皇帝は考えている。
なにせ、報告によるとあの貧乏辺境のナヴァリア州がこのところ急速な経済成長を遂げているというのだ。暗黒騎士が向かってからのこの変化、なにかしらの不正があったとしか思えない。あの暗黒騎士に経済を回せるわけがないのだから。
皇帝の宣言によって民衆たちが静かになる。劇的な効果だ。
皇帝は自信満々に続ける。
「皆を苦しめているのはデス・ザニバルだったのだ! 帝国は既にザニバルから軍籍をはく奪し、追放処分とした!」
民衆たちが静まり返った。
あまりの静けさをさすがに皇帝が訝しみ始めたときだった。
民衆たちが一斉に叫び声を上げた。
「さすが暗黒騎士だぜ!」
「俺たちもやろうじゃねえか!」
「国庫を破れ!」
「国はまだまだ貯め込んでやがるぞ!」
「追放なんざ怖くねえ!」
民衆は帝城へと押し寄せ始める。
全くの逆効果だったと気付いて皇帝は蒼ざめる。
帝城の壁に突然爆発が起きた。
爆音が耳を打ち、黒い煙と赤い炎が立ち昇る。
中央バルコニーが激しく揺れる。
「何事だ!」
手すりにつかまりながら皇帝が叫ぶ。
「神聖法による砲撃と思われます!」
警備担当の軍人が叫ぶ。神聖法とはいわゆる魔法のことだ。魔族を悪とする帝国では、魔法の呼称は禁じられている。
「まさか、神聖法部隊が反乱を?」
居並ぶ大臣たちが驚く。
帝国軍の中でも神聖法部隊は精鋭として知られている。
怒りを叩きつけるかの如く、赤い焔や水色の氷、白い光、色とりどりの魔法が帝城の壁に炸裂する。帝城が激しく揺れる。
対魔法防御の結界が張られているはずの帝城だが、猛烈な砲撃の連続には耐えきれず、壁にひびが入り、崩れ、遂には大穴が開いた。
「よし、破れたぞ!」
「奪っちまえ!」
「自分たちだけ贅沢しやがって!」
「ザニバルに続け!」
民衆がなだれ込み始める。
「暴動だ!」
「兵士を向かわせるんだ!」
「鎮圧せよ!」
「しかし、暴動の先頭にいるのは兵士たちですぞ!」
大臣たちは大混乱だ。
「ザニバルを出動させろ、そうすればこのような騒ぎなど」
経済大臣がそう言い、皆が頷きかけて、自分たちの手でザニバルを追放したことを思い出す。
「退避せねばここも危険です!」
警備担当の軍人に促されて、皇帝たちは慌ただしく中央バルコニーを出ていく。
彼らの胸中には全てザニバルが悪いのだという理不尽な思いが渦巻いていた。
民衆たちは叫ぶ。
「ザニバル! ザニバル! ザニバル!」
皇帝は退避しながら将軍に命じた。
「ナヴァリア州に潜入中のミレーラに命じて、ザニバルを逮捕連行させよ! このままではザニバルが反乱の象徴に祭り上げられる!」
神聖ウルスラ帝国の帝城は、帝都の大広場に面している。
帝城の中央バルコニーからは大広場を一望できる。
今、そのバルコニーには皇帝が立っていた。臣民に対して演説を行うためだ。
斜め後ろには大臣や将軍たちが控えている。
皇帝は中央広場の様子を眺め、眉間にしわを寄せる。民衆たちは雑然と集まって、どう見ても好意的ではない目で皇帝をにらんでいる。
騒がしく不穏な状況だ。
帝都ではこのところ暴動が頻発している。
事実上の敗戦によって帝国の国費は枯渇した。商人たちへの支払いは滞り、役人や軍人たちへの給金も支払えない。混ぜ物入りの金貨でしのごうとしたら物価が急激に上昇。
臣民はろくに食料や生活用品が買えなくなったうえにこれまでの貯金が大幅に目減して、生活苦に追いやられていた。
皇帝が演説をすると聞いてやってきたのは、そうした困窮に苦しまされている民衆や、給金不払いが続いて激怒している軍人たち。
彼らは皇帝の演説に期待しているというよりも、ただ不満をぶつけたがっている。
皇帝は拡声具を使って呼びかける。
「選良たる我が臣民よ、忠勇なる兵士諸君よ。今、帝国は辛苦の刻である。だがこの逆境を乗り越えたときに真の勝利が訪れるのである。諸君であれば必ずや耐えることができるのである」
そこまで話したところで民衆たちが、
「耐えられるかよ!」
「まず飯を食わせろ!」
「給金を払ってから言え!」
広場中から罵倒の嵐だ。
中央バルコニーには汚い言葉だけでなく石まで飛んでくる。
石は透明の防壁に阻まれるが、ぶつかるたびに不快な音を立てて皇帝を苛立たせる。
皇帝は声を張り上げて、
「諸君。本日は重大な発表を伝えねばならない。遺憾ながら、国庫から多額の金品が横領されていたと発覚した。現在、我が帝国の経済が重大な苦境に陥っているのはその者の犯罪行為によるものである」
民衆の注意を多少引いたようだ。投石がいったん収まる。
皇帝は続ける。
「犯人はかの暗黒騎士ザニバルである!」
皇帝はちらりと経済大臣を見る。この演説案を考えたのは経済大臣だ。現在の状況を改善する手がない以上、問題を押し付ける悪役が必要だった。既に軍から追放済みのザニバルであれば適役だと経済大臣が提案したのだった。
全くの濡れ衣ではないと皇帝は考えている。
なにせ、報告によるとあの貧乏辺境のナヴァリア州がこのところ急速な経済成長を遂げているというのだ。暗黒騎士が向かってからのこの変化、なにかしらの不正があったとしか思えない。あの暗黒騎士に経済を回せるわけがないのだから。
皇帝の宣言によって民衆たちが静かになる。劇的な効果だ。
皇帝は自信満々に続ける。
「皆を苦しめているのはデス・ザニバルだったのだ! 帝国は既にザニバルから軍籍をはく奪し、追放処分とした!」
民衆たちが静まり返った。
あまりの静けさをさすがに皇帝が訝しみ始めたときだった。
民衆たちが一斉に叫び声を上げた。
「さすが暗黒騎士だぜ!」
「俺たちもやろうじゃねえか!」
「国庫を破れ!」
「国はまだまだ貯め込んでやがるぞ!」
「追放なんざ怖くねえ!」
民衆は帝城へと押し寄せ始める。
全くの逆効果だったと気付いて皇帝は蒼ざめる。
帝城の壁に突然爆発が起きた。
爆音が耳を打ち、黒い煙と赤い炎が立ち昇る。
中央バルコニーが激しく揺れる。
「何事だ!」
手すりにつかまりながら皇帝が叫ぶ。
「神聖法による砲撃と思われます!」
警備担当の軍人が叫ぶ。神聖法とはいわゆる魔法のことだ。魔族を悪とする帝国では、魔法の呼称は禁じられている。
「まさか、神聖法部隊が反乱を?」
居並ぶ大臣たちが驚く。
帝国軍の中でも神聖法部隊は精鋭として知られている。
怒りを叩きつけるかの如く、赤い焔や水色の氷、白い光、色とりどりの魔法が帝城の壁に炸裂する。帝城が激しく揺れる。
対魔法防御の結界が張られているはずの帝城だが、猛烈な砲撃の連続には耐えきれず、壁にひびが入り、崩れ、遂には大穴が開いた。
「よし、破れたぞ!」
「奪っちまえ!」
「自分たちだけ贅沢しやがって!」
「ザニバルに続け!」
民衆がなだれ込み始める。
「暴動だ!」
「兵士を向かわせるんだ!」
「鎮圧せよ!」
「しかし、暴動の先頭にいるのは兵士たちですぞ!」
大臣たちは大混乱だ。
「ザニバルを出動させろ、そうすればこのような騒ぎなど」
経済大臣がそう言い、皆が頷きかけて、自分たちの手でザニバルを追放したことを思い出す。
「退避せねばここも危険です!」
警備担当の軍人に促されて、皇帝たちは慌ただしく中央バルコニーを出ていく。
彼らの胸中には全てザニバルが悪いのだという理不尽な思いが渦巻いていた。
民衆たちは叫ぶ。
「ザニバル! ザニバル! ザニバル!」
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