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第3章
獣耳の少女と神聖騎士
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港町の通りで、神聖騎士ミレーラと少女ザニバル、ホーリーケルベロスとキトの勝負が繰り広げられている。
ミレーラが張った神聖結界は町中を覆い、眩しい光を放っている。神聖結界には闇属性の力を打ち消す働きがあり、ザニバルとキトの動きを阻害している。
ミレーラは邪魔な魔族少女を軽く始末しておこうとしたのに自慢の剣がまるで通用せず、すっかり戸惑っていた。
自慢の刺突も斬撃もかわされる。神聖結界で相手の動きを縛っているというのに。
ミレーラはもはや意地となって、全身全霊の力を込めた攻撃で少女を倒してやると決めた。
ザニバルは戦いながら怖がっていた。襲ってくるミレーラが怖いのではない。キトを単独でホーリーケルベロスと戦わせることが恐ろしいのだ。今のキトは力のない小さな虎猫姿。相手は家よりも大きなホーリーケルベロス。しかも闇属性のキトに対して相手は聖属性と最悪の相性だ。
でもザニバルはキトを信じると決めた。だから恐怖を受け入れる。
神聖結界から放たれる光の中、白銀の騎士団制服を輝かせてミレーラはまっすぐに剣を構える。
「とどめます! 玲華流、奥義。銀薔薇!」
ミレーラは叫び、超高速の剣撃を煌めかせる。刺突、薙ぎ払い、斬り下ろし、斬り上げ、それらを複合して一瞬で繰り出す。あまりの速さに剣がしなり震えて鈴のような音を鳴り響かせる。剣の軌跡がまるで薔薇のように花開く。
触れた者全てを微塵にする薔薇の空間。ミレーラは魔族少女をその中に捉えたはずだった。
だが信じがたいものをミレーラは見た。胸の前に小さな少女がいる。一瞬で密着された。少女が嫌悪の表情で見上げてくる。
剣では近すぎると判断したミレーラは少女に蹴りを見舞おうとする。少女はミレーラの蹴り脚に乗って跳び、カウンターの蹴りをミレーラの腕先に入れた。ミレーラのレイピアが空高く飛ばされる。
少女はミレーラの胸を蹴って距離をとり、着地。その姿はおどおどと怯えているようにしか見えない。ミレーラの奥義を打ち破るという恐るべき技を見せたのに、
ミレーラは確信した。この少女は百戦錬磨の達人だ。猫魔族は運動能力が高いというが、そんな域をはるかに超えている。結界で動きを阻害しているはずなのに剣よりも速く動く。見た目に騙されてはだめだ。少女がその気になれば自分はたやすく殺されてしまうだろう。到底かなう相手ではない。
まるで暗黒騎士ザニバルその人を相手にしているかのような恐ろしさにミレーラは感激する。
「あなた、何者です!?」
少女は顔をしかめつつ、
「……マリベル」
「マリベル、あなたからはザニバル様と同じものを感じます。もしやザニバル様の隠し子!? ああ、副官たる私にも黙って! いつの間に!」
ミレーラは興奮していく。
「……違うもん」
「いいえ、そのお言葉、その雰囲気、まさしくザニバル様! やはり隠し子としか思えません! うふふふ、近くにザニバル様がいらっしゃるのではないですか? 一人では来ないでしょう? ああ、偽者を暴れさせたかいがありました。うふふふふふ、ザニバル様の隠し子であれば私の子も同然ですよ、マリベルちゃん」
抱擁しようとミレーラが腕を広げて近づいてくる。気持ち悪くてザニバルは遠ざかる。
「マリベルちゃん、こっちにいらっしゃい。お父さんを呼びましょう」
「嫌だもん!」
ザニバルは鳥肌を立てながら逃げる。逃げながらキトとホーリーケルベロスの戦いを見やる。
ホーリーケルベロスはキトに飛びかかった。小さなキトを巨躯で押しつぶそうとしているのだ。
キトは神聖結界のせいで動きが鈍い。これまでは間一髪のところでかわしていた。キトはなんとか家の隙間に逃げ込もうとする。
落ちてくるホーリーケルベロスの影がキトを覆う。キトは避けきれない。ホーリーケルベロスの巨大な図体が着地して、そこにあった家ごと潰す。地響きが通りを揺らし、土煙が上がって一帯を包む。
ホーリーケルベロスはのっそりと起き上がる。その下に潰れたキトは見当たらない。ホーリーケルベロスの三つ首がキトを探す。そして見つけた。
キトは偽ザニバルの前にいた。ホーリーケルベロスの首の上。
ホーリーケルベロスが作った影から、土煙によって生じた影へと飛んだのだ。影から影に移るヘルタイガーの能力、影跳びだ。最後の最後、このときのために力を溜めていた。
キトは偽ザニバルと対峙する。
偽ザニバルは意識がなく、ミレーラに付けられた首輪によって動かされている。
「町、壊す…… 奪う…… 俺、ザニバル……」
キトは爪を伸ばす。偽ザニバルをこの世から消し去らねばならない。そのためにやるべきことをやる。
爪が走る。
切り裂かれる。偽ザニバルの鎧が、服が、靴が、髪が、首輪が。
偽ザニバルは真っ裸になる。いや、もはや偽ザニバルではない。ただの裸のむさくるしい男だ。
男は首輪が外れたことでミレーラからの命令が解除された。意識がないままホーリーケルベロスの首からずり落ちて地面に倒れる。
かくて偽ザニバルは消え失せた。
満足したキトもまたホーリーケルベロスの上から力なく滑り落ちて地面に転がる。
ホーリーケルベロスは命令を失って停止した。
ザニバルを追いかけていたミレーラは遅れて気付く。しばし逡巡したが、ホーリーケルベロスへと向き直った。
「チビ虎猫ごときがやってくれましたね…… しかし偽者など飾り、私直々にこの町を完全破壊します。もうひと暴れすれば、きっとザニバル様ご本人がいらっしゃるはずです!」
ミレーラが張った神聖結界は町中を覆い、眩しい光を放っている。神聖結界には闇属性の力を打ち消す働きがあり、ザニバルとキトの動きを阻害している。
ミレーラは邪魔な魔族少女を軽く始末しておこうとしたのに自慢の剣がまるで通用せず、すっかり戸惑っていた。
自慢の刺突も斬撃もかわされる。神聖結界で相手の動きを縛っているというのに。
ミレーラはもはや意地となって、全身全霊の力を込めた攻撃で少女を倒してやると決めた。
ザニバルは戦いながら怖がっていた。襲ってくるミレーラが怖いのではない。キトを単独でホーリーケルベロスと戦わせることが恐ろしいのだ。今のキトは力のない小さな虎猫姿。相手は家よりも大きなホーリーケルベロス。しかも闇属性のキトに対して相手は聖属性と最悪の相性だ。
でもザニバルはキトを信じると決めた。だから恐怖を受け入れる。
神聖結界から放たれる光の中、白銀の騎士団制服を輝かせてミレーラはまっすぐに剣を構える。
「とどめます! 玲華流、奥義。銀薔薇!」
ミレーラは叫び、超高速の剣撃を煌めかせる。刺突、薙ぎ払い、斬り下ろし、斬り上げ、それらを複合して一瞬で繰り出す。あまりの速さに剣がしなり震えて鈴のような音を鳴り響かせる。剣の軌跡がまるで薔薇のように花開く。
触れた者全てを微塵にする薔薇の空間。ミレーラは魔族少女をその中に捉えたはずだった。
だが信じがたいものをミレーラは見た。胸の前に小さな少女がいる。一瞬で密着された。少女が嫌悪の表情で見上げてくる。
剣では近すぎると判断したミレーラは少女に蹴りを見舞おうとする。少女はミレーラの蹴り脚に乗って跳び、カウンターの蹴りをミレーラの腕先に入れた。ミレーラのレイピアが空高く飛ばされる。
少女はミレーラの胸を蹴って距離をとり、着地。その姿はおどおどと怯えているようにしか見えない。ミレーラの奥義を打ち破るという恐るべき技を見せたのに、
ミレーラは確信した。この少女は百戦錬磨の達人だ。猫魔族は運動能力が高いというが、そんな域をはるかに超えている。結界で動きを阻害しているはずなのに剣よりも速く動く。見た目に騙されてはだめだ。少女がその気になれば自分はたやすく殺されてしまうだろう。到底かなう相手ではない。
まるで暗黒騎士ザニバルその人を相手にしているかのような恐ろしさにミレーラは感激する。
「あなた、何者です!?」
少女は顔をしかめつつ、
「……マリベル」
「マリベル、あなたからはザニバル様と同じものを感じます。もしやザニバル様の隠し子!? ああ、副官たる私にも黙って! いつの間に!」
ミレーラは興奮していく。
「……違うもん」
「いいえ、そのお言葉、その雰囲気、まさしくザニバル様! やはり隠し子としか思えません! うふふふ、近くにザニバル様がいらっしゃるのではないですか? 一人では来ないでしょう? ああ、偽者を暴れさせたかいがありました。うふふふふふ、ザニバル様の隠し子であれば私の子も同然ですよ、マリベルちゃん」
抱擁しようとミレーラが腕を広げて近づいてくる。気持ち悪くてザニバルは遠ざかる。
「マリベルちゃん、こっちにいらっしゃい。お父さんを呼びましょう」
「嫌だもん!」
ザニバルは鳥肌を立てながら逃げる。逃げながらキトとホーリーケルベロスの戦いを見やる。
ホーリーケルベロスはキトに飛びかかった。小さなキトを巨躯で押しつぶそうとしているのだ。
キトは神聖結界のせいで動きが鈍い。これまでは間一髪のところでかわしていた。キトはなんとか家の隙間に逃げ込もうとする。
落ちてくるホーリーケルベロスの影がキトを覆う。キトは避けきれない。ホーリーケルベロスの巨大な図体が着地して、そこにあった家ごと潰す。地響きが通りを揺らし、土煙が上がって一帯を包む。
ホーリーケルベロスはのっそりと起き上がる。その下に潰れたキトは見当たらない。ホーリーケルベロスの三つ首がキトを探す。そして見つけた。
キトは偽ザニバルの前にいた。ホーリーケルベロスの首の上。
ホーリーケルベロスが作った影から、土煙によって生じた影へと飛んだのだ。影から影に移るヘルタイガーの能力、影跳びだ。最後の最後、このときのために力を溜めていた。
キトは偽ザニバルと対峙する。
偽ザニバルは意識がなく、ミレーラに付けられた首輪によって動かされている。
「町、壊す…… 奪う…… 俺、ザニバル……」
キトは爪を伸ばす。偽ザニバルをこの世から消し去らねばならない。そのためにやるべきことをやる。
爪が走る。
切り裂かれる。偽ザニバルの鎧が、服が、靴が、髪が、首輪が。
偽ザニバルは真っ裸になる。いや、もはや偽ザニバルではない。ただの裸のむさくるしい男だ。
男は首輪が外れたことでミレーラからの命令が解除された。意識がないままホーリーケルベロスの首からずり落ちて地面に倒れる。
かくて偽ザニバルは消え失せた。
満足したキトもまたホーリーケルベロスの上から力なく滑り落ちて地面に転がる。
ホーリーケルベロスは命令を失って停止した。
ザニバルを追いかけていたミレーラは遅れて気付く。しばし逡巡したが、ホーリーケルベロスへと向き直った。
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