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第4章 Last Day
4.再会
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天国では様々な煩わしさから解放される。生活していてお金を使うところといえば、洋服を買っておしゃれをするときくらいだ。基本的に食事を摂らなくても大丈夫だし、お風呂に入らなくても大丈夫。ただ、皆気分転換をするために食事を摂ったり、風呂に入ったりする。そのタイミングは各々で気まぐれだ。
そのため、お金を稼がなくてもやっていける世界だ。中には何も飲まず食わずで、一日中ボーッと過ごす者もいる。しかし、食事は一つの趣味のようなものとして捉えられており、光太のようにお客の心の拠り所としてレストランをやっているような所に、皆が集まってくる。そして、美味しい料理を食べてリフレッシュするのが天国での食事スタイルだ。
光太は一人で店を切り盛りするため、メニューは「ハンバーグ」に限定していた。あとは光太のハンドドリップコーヒーを目当てに訪れるお客さんも少なくない。
この日も一人、若い女性のお客さんが光太のドリップコーヒーを美味しそうに飲んでいる。カウンターの端の席で小説を読みながらコーヒーを楽しむその姿は、なかなか絵になる。
「マスター、この人探してるの?」
女性客は、壁の貼り紙を見ながら話しかけてきた。
「そうなんです。実は生前仲良くしていた人で、亡くなっているので何処かにいるはずなんですが…。」
「この人なら、ここから距離にして30キロくらいの所にあるアベスタって町で見かけましたよ!私、元々アベスタに住んでたんです。」
「ほ、本当ですか?!ここら辺では誰に聞いても皆知らなかったので、実際に見たって人は初めてです!ちなみにいつ頃の話ですか?」
「1年くらい前かな…。その人ね、その時路上でコーヒーを売ってたんです。私コーヒー好きなので、たまたま通りかかった時に買って飲んだら美味しくて。マスターの淹れるコーヒーと味が似ているんです。」
「それは絶対に零だと思います。僕はその人から料理とコーヒーを教わったんです。そのアベスタって町はどちらの方向の町なのか、詳しいことを教えていただけますか?」
「もちろん。」
女性客はそう言うと、メモ用紙に進む方角と、アベスタの町の雰囲気を絵に描いてくれた。
「ありがとうございます。早速明日の朝向かってみます。」
「お力になれてよかった。お気をつけて。」
翌朝、光太はやっと掴めた零の情報を元に、メモに記された北東の方角へと向かって歩き始めた。天国には乗り物がないため、移動手段は徒歩のみである。光太は30キロという長い道のりを歩きながら、零に会えるかもしれないという僅かな希望に胸を踊らせていた。
1時間ほど歩くと、木々が生い茂る森が目の前に現れた。どうやら森を抜けないとアベスタにたどり着くことはできないらしい。光太は迷うことなく森の中へと進んでいった。
北東の方角へと歩みを進めると、目の前に大きな泉が現れた。水は透明度が高く、木々の緑が鮮やかに写し出されている。光太はここで一休みすることにした。
光太は水辺の砂浜に仰向けに寝転ぶと、木々の間から差し込む太陽の光を眺めていた。
「きれいな光だ…。あぁ、落ち着く。」
そう呟くと、光太はいつの間にか眠りに落ちた。
「光太!ねぇ、光太!」
誰かに肩を揺さぶられている。せっかく気持ちよい眠りについていたところを邪魔されたため、光太は少し不機嫌そうに体を起こした。
「やっと起きたね。俺のこと覚えてるか?」
光太は眠い目をこすりながら徐々にその男性へとピントを合わせていった。そこには紛れもない、毎日探し続けた、零が目の前に立っているではないか。
「ど、どうしてこんなところに?!」
光太は動揺していた。まだアベスタとの距離はだいぶあるはずだった。
「俺も光太を探してたんだよ。コーヒーの移動販売しながら各地を転々としてね。まさかこんな森の中で再会するとは思ってなかったけど。」
「零…零なんだね!!」
「そうだよ光太!」
光太は立ち上がると、零に思い切り抱きついた。零は光太の勢いに少しのけ反りながらも、しっかりと光太を抱きしめた。
「やっと会えたね。本当に、本当によかった。」
「光太泣くなよ。」
零はしばらく泣き止まない光太の肩を両手で優しく持つと、光太に真っ直ぐな眼差しを向けた。
「またできるかな?レストラン。」
零はゆっくりと、光太の意思を確かめるような口調で話した。
「もちろん、当たり前だろ!そのために零を探し続けたんだから。やっぱり、零と一緒のほうが楽しいよ。」
「それは俺もだ。よーし、それなら決まりだね。洋食亭ゴースト、間もなく怪演!」
「いいね、楽しくなってきた。よっしゃやるぞー!!」
光太のかけ声と共に、二人は目映い光に向かって、右手の拳を突き上げた。これから始まる希望に満ち溢れた時間にワクワクした。二人の叫び声は広々とした森中に、鮮やかに響き渡った。
それからというもの、二人は元々光太が営んでいたレストランを使い、「洋食亭ゴースト」として再スタートをきった。洋食亭ゴーストには今までの光太のハンバーグに加え、零が得意なパスタ料理が追加され、連日多くのお客さんで賑わいを見せた。
「マスター、店の名前面白いねぇ。そういえば、前の店の名前って何だっけ?」
常連客の男性一人がクリームソーダを美味しそうにストローで吸いながら訊ねてきた。
「以前は店の名前、つけてなかったんですよ。」
「へぇ。これまたどうして?」
「まあ…。自分一人では付けられない、特別な名前を付けたかったんです。それが今の洋食亭ゴースト。僕らにとっては思い出が詰まった、大切な店の名前なんです。」
そう話す光太は洗い物をしながらも、零に目配せをした。零も光太を見て微笑んでいる。
「洋食亭ゴースト…。僕らの青春が詰まった生前の物語なんです。」
「へー、生前のね…。なんだかよく分からないけど、マスターたちすごく楽しそうだね。」
「そうですね…今が一番楽しいです!!」
そう言いきった光太の目には何一つとして迷いがない、満ち足りた日々に対する感謝が映し出されているのであった。
そのため、お金を稼がなくてもやっていける世界だ。中には何も飲まず食わずで、一日中ボーッと過ごす者もいる。しかし、食事は一つの趣味のようなものとして捉えられており、光太のようにお客の心の拠り所としてレストランをやっているような所に、皆が集まってくる。そして、美味しい料理を食べてリフレッシュするのが天国での食事スタイルだ。
光太は一人で店を切り盛りするため、メニューは「ハンバーグ」に限定していた。あとは光太のハンドドリップコーヒーを目当てに訪れるお客さんも少なくない。
この日も一人、若い女性のお客さんが光太のドリップコーヒーを美味しそうに飲んでいる。カウンターの端の席で小説を読みながらコーヒーを楽しむその姿は、なかなか絵になる。
「マスター、この人探してるの?」
女性客は、壁の貼り紙を見ながら話しかけてきた。
「そうなんです。実は生前仲良くしていた人で、亡くなっているので何処かにいるはずなんですが…。」
「この人なら、ここから距離にして30キロくらいの所にあるアベスタって町で見かけましたよ!私、元々アベスタに住んでたんです。」
「ほ、本当ですか?!ここら辺では誰に聞いても皆知らなかったので、実際に見たって人は初めてです!ちなみにいつ頃の話ですか?」
「1年くらい前かな…。その人ね、その時路上でコーヒーを売ってたんです。私コーヒー好きなので、たまたま通りかかった時に買って飲んだら美味しくて。マスターの淹れるコーヒーと味が似ているんです。」
「それは絶対に零だと思います。僕はその人から料理とコーヒーを教わったんです。そのアベスタって町はどちらの方向の町なのか、詳しいことを教えていただけますか?」
「もちろん。」
女性客はそう言うと、メモ用紙に進む方角と、アベスタの町の雰囲気を絵に描いてくれた。
「ありがとうございます。早速明日の朝向かってみます。」
「お力になれてよかった。お気をつけて。」
翌朝、光太はやっと掴めた零の情報を元に、メモに記された北東の方角へと向かって歩き始めた。天国には乗り物がないため、移動手段は徒歩のみである。光太は30キロという長い道のりを歩きながら、零に会えるかもしれないという僅かな希望に胸を踊らせていた。
1時間ほど歩くと、木々が生い茂る森が目の前に現れた。どうやら森を抜けないとアベスタにたどり着くことはできないらしい。光太は迷うことなく森の中へと進んでいった。
北東の方角へと歩みを進めると、目の前に大きな泉が現れた。水は透明度が高く、木々の緑が鮮やかに写し出されている。光太はここで一休みすることにした。
光太は水辺の砂浜に仰向けに寝転ぶと、木々の間から差し込む太陽の光を眺めていた。
「きれいな光だ…。あぁ、落ち着く。」
そう呟くと、光太はいつの間にか眠りに落ちた。
「光太!ねぇ、光太!」
誰かに肩を揺さぶられている。せっかく気持ちよい眠りについていたところを邪魔されたため、光太は少し不機嫌そうに体を起こした。
「やっと起きたね。俺のこと覚えてるか?」
光太は眠い目をこすりながら徐々にその男性へとピントを合わせていった。そこには紛れもない、毎日探し続けた、零が目の前に立っているではないか。
「ど、どうしてこんなところに?!」
光太は動揺していた。まだアベスタとの距離はだいぶあるはずだった。
「俺も光太を探してたんだよ。コーヒーの移動販売しながら各地を転々としてね。まさかこんな森の中で再会するとは思ってなかったけど。」
「零…零なんだね!!」
「そうだよ光太!」
光太は立ち上がると、零に思い切り抱きついた。零は光太の勢いに少しのけ反りながらも、しっかりと光太を抱きしめた。
「やっと会えたね。本当に、本当によかった。」
「光太泣くなよ。」
零はしばらく泣き止まない光太の肩を両手で優しく持つと、光太に真っ直ぐな眼差しを向けた。
「またできるかな?レストラン。」
零はゆっくりと、光太の意思を確かめるような口調で話した。
「もちろん、当たり前だろ!そのために零を探し続けたんだから。やっぱり、零と一緒のほうが楽しいよ。」
「それは俺もだ。よーし、それなら決まりだね。洋食亭ゴースト、間もなく怪演!」
「いいね、楽しくなってきた。よっしゃやるぞー!!」
光太のかけ声と共に、二人は目映い光に向かって、右手の拳を突き上げた。これから始まる希望に満ち溢れた時間にワクワクした。二人の叫び声は広々とした森中に、鮮やかに響き渡った。
それからというもの、二人は元々光太が営んでいたレストランを使い、「洋食亭ゴースト」として再スタートをきった。洋食亭ゴーストには今までの光太のハンバーグに加え、零が得意なパスタ料理が追加され、連日多くのお客さんで賑わいを見せた。
「マスター、店の名前面白いねぇ。そういえば、前の店の名前って何だっけ?」
常連客の男性一人がクリームソーダを美味しそうにストローで吸いながら訊ねてきた。
「以前は店の名前、つけてなかったんですよ。」
「へぇ。これまたどうして?」
「まあ…。自分一人では付けられない、特別な名前を付けたかったんです。それが今の洋食亭ゴースト。僕らにとっては思い出が詰まった、大切な店の名前なんです。」
そう話す光太は洗い物をしながらも、零に目配せをした。零も光太を見て微笑んでいる。
「洋食亭ゴースト…。僕らの青春が詰まった生前の物語なんです。」
「へー、生前のね…。なんだかよく分からないけど、マスターたちすごく楽しそうだね。」
「そうですね…今が一番楽しいです!!」
そう言いきった光太の目には何一つとして迷いがない、満ち足りた日々に対する感謝が映し出されているのであった。
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