鍛冶師ですが何か!

泣き虫黒鬼

文字の大きさ
上 下
182 / 229
鍛冶武者修行に出ますが何か!(海竜街編)

第弐百拾四話 海竜街の領主様と対面しましたが何か!

しおりを挟む
「改めまして、ようこそレヴィアタン街へ。レヴィアタン街ギルドは津田様御一行の来訪を歓迎いたします♪」

羅漢獣王国商人組合の商館での一幕はギルドから来た保安員らしき海竜人族の職員たちが『ティブロン商会』と名乗る暴漢達を連行する事で終息を迎え、改めて出されて翠茶を飲みつつ休憩を取り俺達がポリティスが待つレヴィアタン街ギルドへと向かうと、ギルドの受付窓口が並ぶ前で出迎えてくれたポリティスは満面の笑みを浮かべて開口一番歓迎の言葉を口にした。
 俺は、商館に乗り込んできた暴漢達の件について街を取り仕切るギルド総支配人として真安への一言が先に出て来るのかと思ったのだが、ポリティスからはそんな素振りは一切見えず少し意外に思いを持ちながらも、

「リンドブルグ街に鍛冶場を構える、鍛冶師・津田驍廣と鍛冶師見習い・紫慧紗、リンドブルグ街ギルドから派遣されている専属職員アルディリア・アシュトレト、それと武具の拵えを一手に引き受けるアプロ・ケットシーの四名、それから護衛役として豊樹の郷の民ルークス・フォルモートンとリリス・フォルモートンの合わせて六名。レヴィアタン街ギルドからの招聘に応じ只今到着いたしました。」

と招聘に応じレヴィアタン街に来たことを告げると、一瞬浮かべていた笑顔を引き攣らせたポリティスだったが直ぐに居住まいを正して、

「遠路ご苦労。我らレヴィアタン街からの招聘に快く応じていただき感謝する。」

とギルド総支配人としての威厳を保ちつつ、返答を済ませるとまたすぐに柔和な表情に戻り、

「堅苦しい挨拶はこれまでとして、どうか肩の力を抜いていただき詳しい話は奥の方で・・・」

とギルドの奥の部屋へと俺達を案内した。
向った先はギルドの一番奥にある重厚な扉が印象的な部屋で、促されるままに中に入るとそこはポリティスが執務を行う総支配人室のようで、立派なソファーや椅子に豪奢なテーブルが部屋の中央に置かれていて、ポリティスの執務机らしき一際目を引く立派な机があったが、そんな調度品よりも俺の目を引いたのは、執務机の背後に設けられた窓の近くに佇む海竜人族らしき一人の美女だった。

「ふぁ、ファレナ様!!」

その美女の姿に驚きの声を上げたのは、俺達と共に支配人室まで同道してきた真安だった。
そんな真安に対して美女は悪戯が成功したような嬉しそうな笑顔を浮かべて、

「波奴真安殿、リンドブルムとレヴィアタンとの橋渡しご苦労様でした。
そして、初めまして噂の鍛冶師殿。私はここレヴィアタン街を治めるレヴィアタン街領主、ファレナ・アミール・レヴィアタンと申す者です。
 此度は私の娘が貴男に対して大変な無礼を働き、申し訳ありませんでした。本来ならば私が謝罪にリンドブルム街まで行かなければならないところなのですが、『領主』などという肩書が邪魔をして自由に動く事もままならず、アルバート様の元へ書面で謝罪を送る事しか出来ませんでした。
にも拘らず、レヴィアタン街ギルドの招聘に対してこのように早く我が街を訪れて下さり、『感謝』の言葉しか見出せませんでした。
 先程、ポリティスから鍛冶師殿の御一行がレヴィアタン街に着いたと一歩を受け、座している事が出来ずお顔を拝見して謝罪をせねばとまかり越した次第です。」

そう告げると、ファレナは優雅な物腰で人の上に立つ領主ではありえない程に深々と頭を下げ、そんなファレナに従いそれまで俺達を先導してきたポリティスもその大きな体を二つ折りにするようにして拱手してきた。
そのあまりに美麗な謝罪の態度に俺は一瞬見とれてしまい、

「ファレナ様! レヴィアタン街の領主がその様に安易に頭など下げられては、もし事情が知らぬ者が見たら大変な誤解を生み事になり、驍廣さんにご迷惑が・・・ポリティス殿も何をされているのだ、この様な時にファレナ様をお諫めするのが貴殿の務めではないか!!」

焦りを含んだ言葉が隣にいた真安の口から告げられたおかげで、今自分に対して頭を下げている者がレヴィアタン街の領主とギルド総支配人だという事を思い出し慌てて、

「お二人とも、頭を上げて下さい!
確かに、フィーンの行動には腹を立てました。ですがそれは飽く迄個人に対してでありレヴィアタン街に対して悪感情を抱く程の事ではありません。
今回の件について例え母親であろうともファレナ様が頭を下げての謝罪をする必要などありません。ましてやポリティス殿がその様に頭を下げる事など真安の言葉ではありませんが、要らぬ誤解を生むだけです。
それに、招聘に応じたのはリンドブルム街のアルバート殿の勧めがあっただけでなく、この所俺の身の回りで様々な出来事が起こった中で、自身の修行が足りないと感じたからです。
リンドブルム街で鍛冶場に籠っているだけでは鍛冶師の腕は上がったとしても俺自身に本当の意味での『力』が身につかないと感じたからです。
そんな矢先に、レヴィアタン街への招聘をしていただきリンドブルム街から旅立つ切欠をいただいた訳ですから。寧ろ、感謝しなければいけないのは俺の方なのではと思っているくらいなんですから。」

と、謝罪などは不要だから頭を上げて欲しいと訴えると、ファレナとポリティスはホッとした表情を浮かべて、

「そう言っていただけるとは・・・ここは鍛冶師殿の意を汲みこれ以上の謝罪の言葉は控えさせていただく事に致します。ですが最後に一つだけご報告が。入ってきなさい!」

ファレナの声に合わせて支配人室の横に設けられたもう一つの扉が開き姿を見せたのは・・・

「フィーン殿?如何したのですかその様な格好で?」

思わず声を上げた真安が口にした様に、以前リンドブルム街で着ていたような漢服では無く、普段街で働く街民も(アプロも)着ている詰襟のある中華服カンフージャケットを着たフィーンが緊張した表情で背筋を伸ばして立っていた。

「鍛冶師殿。レヴィアタン街に滞在されている間の身の回りの世話や小間使いに何かと人手が必要な事があろうかと思います。その際にこの者をお使いください、この者には自らが犯した恥知らずな行為の罰として鍛冶師殿御一行にお仕えするように言いつけてあります。
フィーン!何を愚図愚図しているのですか? 貴女はお仕えする御方を前にしてご挨拶さえできないのですか!!」

ファレナの叱責に、フィーンは雷に打たれたようにビクリと体を震わせた後、青褪めた顔を俺達の方に向けて、

「鍛冶師・津田驍廣様とその御一行様、不束者ではございますがレヴィアタン街に滞在のあいだ誠心誠意努めさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。」

そう言うと、従者が主人に対する礼をするように深々と頭を下げた。その姿に、ファレナは満足そうに頷き、ポリティスも本心は分からないがファレナに追従するように笑顔を浮かべていた。そんなレヴィアタン街主従(領主とギルド支配人)を見て真安は、

「これはまた厄介な事にならねばいいのだが・・・」

と困ったように表情を曇らせ、俺の後ろでやり取りの一部始終を見ていた紫慧とアルディリアは、宿敵が目の前に現れたかのように厳しい眼差しをフィーンに向け、アプロとリリスはそんな紫慧とアルディリアの反応を面白そうに見つめ一人ルークスは紫慧とアルディリアを宥めようとしてくれていた。
そんな周囲の反応に俺は、呆れながらフィーンからファレナに視線を移すと、そこにはリリスやヒルダと同じような・・否、一層年季の入った悪戯娘特有の笑みを浮かべた表情があり、思わず大きなため息が毀れてしまった。


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

極道恋事情

BL / 連載中 24h.ポイント:1,927pt お気に入り:778

異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:78pt お気に入り:2,849

悪役令嬢は双子の淫魔と攻略対象者に溺愛される

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,924pt お気に入り:3,025

愚者の狂想曲☆

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:311

【完結】出戻り令嬢の奮闘と一途な再婚

恋愛 / 完結 24h.ポイント:447pt お気に入り:146

魔物のお嫁さん

BL / 完結 24h.ポイント:697pt お気に入り:750

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。