鍛冶師ですが何か!

泣き虫黒鬼

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鍛冶武者修行に出ますが何か!(海竜街編)

第弐百四拾話 工房に行ってビックリしたのですがニャにか!

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「クソォ! 忌々しい海賊上がりの成り上がり者がぁ!! おい、酒はまだかぁ!さっさと持って来い!!」

海洋貿易によって財を成すレヴィアタン街、そんな街の商人達が家族や恋人との一時に安らぎを求め足を向ける一軒の飲食店内に響き渡る罵声に周囲の者達も顔を顰めたものの、その罵声を発する者が何者かを確認すると、後難を恐れ口を閉ざし早々に食事を切り上げ店を後にする。
店の者達は申し訳なさそうに店を去るお客に何度の頭を下げ見送るものの、罵声の主に対して咎める者は居なかった。
そんな男の元に店員が要求された酒を用意し急いで届けようとするのを、如何にも御大尽然とした風貌の男性が呼び止めると店員に変わり酒を持って男の元へと近づいて行った。

「お待たせをいたしましたミハエル様。どうぞお注ぎいたしましょう。」

そう告げると男が干した杯に並々と酒を注いだ。男は注がれた酒に顔を寄せて口から迎えに行くと美味そうに酒を一気に干し、そこでようやく酒を注いだ人物へ目を向けるとそれまで不機嫌そうだった顔が一瞬にして笑顔になり、

「待っていたぞ、ティブロン!」

そう言って立ち上がると両手を広げて抱擁した。そんなミハエルにティブロンは笑顔を返しながらも一歩下がると、深々と頭を下げてから

「先ほどは何か声を上げておられたようですが、店の者が何か粗相をいたしましたでしょうか?」

と尋ねる。もちろん、店の者には何も非は無い事が分かっていての事だが。だが、殊勝な態度を見せるティブロンにミハエルは先ほどまでの態度が嘘のように鷹揚に構え、

「いやなに、大した事では無い。それよりも、計画は順調なのだろうな? この所、老い耄れモーヴィが何やら動き回っている様だが・・・」

再び注がれた酒を口には運びながら尋ねて来た。そんなミハエルにティブロンは柔和な笑顔を浮かべ

「はい、勿論にございます。計画は順調に推移しておりまもなく良き一報をお届けできるかと。」

「そうか♪それは重畳、これで海賊上がりのレヴィアタン家を引き摺り落とし我がリヴァイアサン家が本来のあるべき地位に還る一歩が踏み出せるのだな。よし!祝杯を挙げようではないか、ティブロンよ。我らの輝かしい前途を祝して!」

「はっ! ご相伴させていただきます。」

そう答えると背後に控える店員から自分の杯を受け取るとミハエルに恭しく掲げて見せた。ミハエルはご機嫌でティブロンが持ってきた酒を掲げた杯に注ぎ、自分の杯をも満たすと酒の入った杯を高々と掲げて満面の笑みで飲み干してゆく。
その姿を笑顔で見つめ自分が持つ杯を口につけて飲むふりをしながら、ミハエルを見つめる目は恐ろしい程に冷たく冷めていた・・・


首領ドン。何も首領自らが、あんな奴の相手をされなくても・・・」

杯を重ねご機嫌になって店を去るミハイルの姿が見えなくなるまで見送りの為に深々と頭を下げ続けるティブロンに声を掛けて来たのは、飲食店を任されている魚人族の女店主だった。
女店主が掛けた声にようやく頭を上げたティブロンは、声を掛けて来た彼女の方を振り向くとそれまで浮かべていた好々爺然とした表情から、海賊の首領としての素顔を覗かせ、女店主に語り掛けた。

「なぁに、この計画が成功するまでのほんの短い間だけの事だ。それまで精々喜ばせて、儂の手の上で踊っていてもらわなければな。もっとも、事が成就した暁には、レヴィアタン家共々消えて貰うことになるがね。」

初めてみた者は恐ろしさのあまり硬直してしまうようなゾッとするティブロンの笑顔。しかし、女店主はその笑顔に満面の笑みを返した。

「『ほんの短い間だけ』・・という事はついに♪」

「あぁ、カンディルが人魚族を連れて来たら早々に事を起こす。お前も手抜かりの無い様にな。ん?どうした。上手く運んでいないのか?」

笑顔の女店主にティブロンが念押しをすると、女店主はそれまで浮かべていた笑顔を消し、悔しげに眉間に皺を寄せる。その表情に問い掛けるティブロンに対し女店主は唇を噛み締めると、

「それが、街の武具や防具を作っている若い職人連中は押さえたんですが、拵え師の御大が首を縦に振ってくれなくて。しかも、最近になってリンドブルグ街から来たって言う若い奴がウロチョロしていて人知れず御大と接触する事も難しく・・・」

「口説き落とす事が出来難しいと。不味いな、奔安見ほんあみの御大は街の職人たちに一目置かれる存在。そんな御大がコチラの手の内に入らないとなると・・・」

暫しの長考の後、ティブロンが向けた鋭い眼光に女店主は生唾をゴクリと飲み込み、震えながら頷いた・・・




モーヴィ提督と共に海に出た僕たち驍廣一行は、標的としていた海賊船を見つけ激しい海戦の末に海賊船を静める事に成功したのニャ。
でも、沈み行く海賊船から最後に飛び移ろうとした驍廣さんの肩に何処からか飛来した矢が突き刺さり、バランスを崩した驍廣さんはそのまま海の中に姿を消してしまったのニャ。
多くの海賊を捕縛したモーヴィ提督は自らが指揮していた船を捕らえた海賊と共にファレナ様に託し、ご自身は僚艦に移乗し驍廣さんの探索にそのまま海に残ったのですニャ。
勿論、僕もそのまま探索にと考えたのですが、モーヴィ提督と共に僚艦に移乗しようとする僕をアルディリアさんが呼び止めたのニャ。そして、

「アプロ君。君はファレナ様と一緒にレヴィアタン街に戻るのだ。」

と言って来たのですニャ。僕はそんなアルディリアさんに、

「どうしてニャ? 僕も驍廣さんを見つけるお手伝いをしたいニャ!」

と少し怒りながら言ったのニャが、アルディリアさんはそんな僕の肩に手を置いて

「アプロ君の気持ちはありがたい。だが、探索といってもこの海域を流れる海流の流れを頼りに船で探すしか方法が無い。それには、海に熟知しているモーヴィ提督や海兵の皆さんに任せるしかない。ワタシ達やアプロ君が居ても邪魔になるだけ。
それよりも、アプロ君はレヴィアタン街に戻りカルル殿の大師匠の元に行き拵え師としての腕を磨いていて欲しい。」

諭すように告げて来た。でも僕は納得が出来ず

「なら、アルディリアさんや紫慧さんはなんで残るんニャ?僕と同じで探索の役には立たないって言うなら、一緒にレヴィアタン街に戻ればいいのニャ!
なのに僕だけ帰れなんて・・・おかしいニャ!!」

思わず大声を上げてしまったニャ。そんな僕にアルディリアさんは、少し困ったような顔をしていると、

「アプロ君。驍廣が海に落ちたくらいで何をそんなに焦ってるの?あの驍廣がだよ。どこかの島にでも流れ着いて、またなんかやらかしてるに決まってるよ。
ボクとアリアはそんな暴走する驍廣をモーヴィさんの手を煩わせない様に止めるために同行するの!
それに、驍廣が見つかってレヴィアタン街に戻ったら直ぐにモーヴィさんとファレナ様の武具を鍛える事になるんだよ。その時までにアプロ君にはレヴィアタン街に居る大師匠さんの下で更に拵え師としての腕を磨いておいて欲しんだ。
アルバート様の天竜偃月刀の拵えはカルルさん流行ってくれたけど、同じ領主様のファレナ様への武具の拵えをするのはアプロ君しかいないんだよ。」

そう言われて僕は、ブルブルと体が震えた。親父様カルルと同じように御領主様の武具の拵えを手掛ける。一人前と認めて貰っているとはいえ、親父殿の腕と比べたらまだまだの自分がそんな大役を任される。その事に僕は怯えてしまったのニャ・・・

「・・イッタタタタ! アルディリアさん痛いニャ!!」

突然、それまで優しく肩に置かれていただけのアルディリアさんの手に力が込められ、僕の肩を強く掴んで来たのニャ。思わず悲鳴を上げて抗議の声を上げてアルディリアさんの方に視線を向けると、そこには少し怒ったような怜悧な目で僕を睨み付けるアルディリアさんが

「アプロ! 今更弱気になってどうする。驍に自分の武具の拵えをお前を信頼して任せると言ったのだ。その信頼を裏切るつもりか?自分の力量に不安があるのは仕方がないが、不安があるならその不安を払拭する努力をしないでどうする!しかも、レヴィアタン街にはその伝手があるのだぞ。領主だろうが、提督だろうが関係ない。お前は鍛冶師の信頼に応えれば良いんだ。もし、努力を怠り無様な姿を見せた時には、驍の専属職員として二度とお前には驍の拵えを整えさせることを許さないからな。
分かったか!分かったらさっさとレヴィアタン街に戻って腕を磨け!!」

怒鳴り付けられてしまい、僕はファレナ様と一緒にレヴィアタン街に戻ったのニャ。


街に戻った僕はその足で真安さんの元に赴き、レヴィアタン街で工房を開く大師匠の元に行きたいと告げると、真安さんは驚きながらもそのままの姿では失礼になるのでは?と僕を諌めてくれた。
なぜなら、僕の服は帆船の甲板に舞い上がった海水に濡れていた上に、乾いている部分には海水の塩で白くなっていたのだから。
僕は真安さんの助言に従い、獣王国商館の風呂場で身を清め、服を着替えると真安さんは大師匠の工房を知っていると言うフィーンさんに案内をさせて僕と一緒について来てくれた。

「こちらがレヴィアタン街で長年工房を開く、奔安見光月さまの工房になります。
光月さまはレヴィアタン街に住む多くの職人達から慕われ『御大』と呼ばれる御仁です。大変お優しく、面倒見の良い御仁ですが無礼な振る舞いはくれぐれもお慎み下さいませ。」

そう言うとフィーンさんは軽く扉を叩いてから

「光月さま、フィーンです。失礼をいたします。」

と声を掛けると工房の中から

「フィーンの嬢ちゃんかニャ?扉はいつでも空いているから入ってくると良いニャ!」

と妖猫人族特有の語尾の声が返って来た。その声にフィーンさんはニコリを笑みを作ると、僕と真安さんを招くように扉を開いた。
僕は親父様の大師匠だという方に会うという事もあって少し緊張しながら扉をくぐると、リンドブルム街の我が家とよく似た内装が目に飛び込み、続いてその工房の中で忙しそうに動き回る多くの職人たちの中、一人大きな体でどっしりと構えて黙々と手を動かしている妖猫人族のお爺ちゃんの姿に目が留まった。
そんな僕の視線に気付いたのか、その妖猫人族のお爺ちゃんは僕たちの居る扉の方へと視線を向けると、最初は怪訝な表情をしていたが何かに気付いたのか、目を大きく見開くと共に口角を上げて

「もしや、お前はアプロか? アプロじゃな! アプロ~!!」

と歓声を上げて僕に抱き着いて来た。突然の事に僕はされるがままに光月さんの大きなお腹に乗せられて持ち上げられて目を白黒させていると真安さんが、

「光月殿! そのようにいきなり抱き上げられアプロ君が驚いておりますぞ。初めてお孫様に会われて嬉しいのは分かりますが、少しは抑えなされ。」

と、止めてくれたんだけど。えっ?お孫様??え~?!


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