グローリー・リーグ -宇宙サッカー奮闘記-

山中カエル

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第一章 さらば地球

17 いざ、宇宙へ!

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 目的の場所に到着した。どうやら指定の建物の中で挨拶を済ませるらしい。なんか密会みたいでドキドキするな。いや、みたいというか実際そうなのか。これで会う相手が恋人なら最強だったのだがそこは家族と親友という安定の俺クオリティ。

 しかしここで悲しい報せを聞かされる。

 「春樹様はまだ来られておりません。もう時間もあまり無いので恐らくお会いすることはできないかと」

 春樹は俺の親友だ。最後に話をしたかったが状況が状況。来られなくても仕方ない。と、自分に言い聞かせる。

 とはいえ母さんはここにいるらしい。久しぶりに家族に会えるということで俺の気分もかなり高揚してきた。UFOが現れた時から張り詰めっぱなしだったからな、少しの間でいいから心を休ませたい。そして気持ちよく別れを告げたい。胸を張って地球に帰って来られるように。

 目的の部屋に案内される。ドアを開くと……

 「龍也!」

 「……母さん」

 母さんだ。何故だろう、母さんを見るだけで疲れも緊張も吹っ飛んだ。不思議と安心感に包まれる。これが家族の温かさなのか。

 「大丈夫だった? 大変だったね。怪我してない?」

 「大丈夫だよ、母さんこそ元気だった? って言っても数日会ってないだけだけど」

 「母さんは全然元気だよ。
 ……龍也、ほんとに行くんだね?」

 「あぁ、行くよ。……ごめん」

 「何を謝ることがあるんだい。立派な事じゃないか。母さんは龍也みたいな子どもを持って誇りに思うよ。……頑張っておいで……!」

 笑顔でそう返す母さんだったが心なしか声が震えていた。
 本当はどんな心情なのか想像できる。だけどそれでも笑顔で送り出してくれる母さんを尊重したい。

 「ありがとう……! じゃあ行ってくる。絶対に地球を救うから応援頼むよ」

 「うん。あ、龍也」

 部屋を出ようとする俺を母さんが呼び止める。

 「?」

 「春樹くんのことだけど……」

 「ああ、それなら聞いた。来られないらしいね」

 「母さんと同じ飛行機でここまで来るつもりだったんだけど、まだやることがあるって日本に残っちゃったのよね。1本後の飛行機で行きますとは言ってたんだけど……」

 「そうなのか。でも時間もあまりないらしいし会えるかは微妙だな……」

 「でも春樹くんなら何としてでも会いに来ると思う。あの子、宇宙人に襲われたあとすぐ日本に戻ってきて、私に龍也が頑張ってるんで応援しましょうって言いに来たのよ。
 龍也、いい友達を持ったわね」

 春樹がそこまで。本当にいい友達、いや親友だ。

 そんな話をしているとドアが開き
 「突然失礼します。マスコミが私たちの居場所を嗅ぎつけたようです。UFOが見られると色々と面倒になるのですぐにでも出発したいのですが大丈夫ですか?」
 と告げられる。

 マスコミか……。
 確かに今見つかると色々と話を聞かれてオグレスに戻るのが遅れる可能性があるな。それにチームメイトに余計な負担をかけさせたくない。
 春樹を待ちたい気持ちはあるが俺1人のわがままでみんなに迷惑かけるわけにもいかないもんな。

 「はい、大丈夫です。
 今すぐ戻ります」

 「ありがとうございます。では外へ」

 部屋を出ようとする俺を母さんが呼び止める。

 「龍也、ほんとにいいの?」

 「ああ、春樹とは帰ってからたくさん話すよ。
 母さんも、また帰ったらたくさん話そう」

 「うん、いってらっしゃい」

 「いってきます」

 手を振って見送る母さんに別れを告げ、俺は部屋を後にする。

 ***

 「やあみんな、揃っているね?
 こんな慌ただしい出発ですまない。
 そしてこんな状況だが少しだけ話をさせてほしい」

 マスコミがもうかなり近くまで迫ってきている。
 しかしそんな中トール会長が俺たちの前で話を始める。

 「改めて、本当に申し訳ない。
 まだ成人もしていない君たちにこんな過酷な使命を与えてしまって、一大人として情けない限りだよ。
 だから1つ言葉を送ろうと思う」

 「サッカーを楽しんでくれ」

 「多分今、不安だったり責任だったりを感じてる人もたくさんいると思う。だけどそんなの全く感じる必要なんてない!
 正直に言うよ、もし君たちが負けてもなんら責任を感じる必要はない!
 だってそうだろ? 君たちがいなかったらあのロボットチームで大会に参加してた。初対面でちぐはぐだった君たちですら勝てたロボットチームでだ。そんなのすぐ負けてたに決まってる。
 つまり君たちが試合に出てる、その事実だけで充分仕事は果たしてるんだよ。
 結果なんて二の次で楽しんできてほしい」

 「フィロは面白いやつだろ? Twinkle Starのライブは楽しんでくれたかい? 宇宙では地球では想像もできないようなサッカーができる。サッカーを愛する者としてこの貴重な経験を全力で楽しんできてほしい!
 私は、君たちの結果がどうなろうと、帰ってきた時には全国民がありがとう、お疲れ様と言えるような世界にしておくと誓うよ」

 「だから、どんな時もサッカーを楽しむ気持ちを忘れないでくれ……!」

 こうしてトール会長の話は終わる。

 正直最初に茶番だと聞いた時、トール会長への信頼の大半を失った。地球を救うためなら俺たちの気持ちなんて考えていない人だと。

 しかし今ならわかる。あの茶番は宇宙人に勝てるチームを作るために必須だった。これはサッカー協会会長、地球を守るものとしての義務。

 しかし今、トール会長、いや、サッカー協会会長ではない1人の大人、トール・クロニクとしての本心が見えた気がする。
 俺たちを大切に思う気持ちが。

 ありがとうございますトールさん。おかげでかなり気持ちが楽になりました。

 話を聞き終えると、みんなが1人ずつUFOに乗り込んでいく。
 マスコミももう近くに来ているだろう。俺も乗り込もうと後ろを振り向いたその時

 「龍也!!!」

 聞き慣れた声が辺りに響く。声の方を向くと、そこにいたのは春樹だった。

 「……春樹!」

 「龍也、ごめん、遅くなった。
 これ渡したくてさ」

 春樹は俺の近くへ寄り、あるものを渡す。

 「これは、お守り……?」

 「そう、覚えてるか? 俺たちが小学生の頃、7-0から逆転した伝説の試合。
 あの試合の前に未来の神社で買ったお守りだ。
 懐かしいな。あの試合、俺はオウンゴールした時点で完全に心が折れてた。そんな俺に喝を入れてくれたのがお前だ。あの言葉が無かったら俺はプロになれてなかったと思う。それどころか今でも後悔していただろう。
 思えばあの時からずっとお前に助けられっぱなしだったな。改めて言うよ、本当にありがとう」

 「すみません、そろそろ出発するので……」
 歯切れの悪い声が俺たちにかけられる。

 「あ、急いでるのか。呼び止めて悪かったな。
 まあそんな感じだ。大丈夫。そのお守りがあればお前は絶対に負けない。
 ちなみにこっちは未来用な。未来も宇宙に行くって聞いた時は驚いたけど、冷静に考えると凄く未来らしいな。しっかり助けてもらえよ!」

 「なんで俺が助けてもらう前提なんだよ……」

 「だってお前昔から未来に助けられてばっかだったじゃん。情けないほど助けてもらえ!
 あ、あとこれ、ミサンガ。将人に渡しといてくれ。
 俺はあいつとはあんまり仲良くなかったけど一応仲間だったしな。マネージャーの遥香の手作りだ。あいつも喜ぶだろ」

 「俺お前のそういう気が利くとこほんと尊敬するよ」

 「なんだよそれー」

 いや、本当だぜ春樹。お前のそういう所に俺も何度も助けられた。

 「じゃあ」

 俺は春樹と強く握手をする。

 「ああ、頑張れよ……!」

 こうして親友との最後の挨拶を終えて俺はUFOに乗り込む。
 さらば地球。次に会うのは全てを救ったときだ。

 これからは宇宙人との戦いが待っている。
 でももう怖くない。
 トールさん、春樹、母さん。みんなの言葉を胸にしまい俺は進む。
 さあ! 宇宙! サッカーを楽しむぞ……!

 ***

 「…………。
 龍也も行ってしまったよ。
 あなた、もしまだ生きているのなら……どうかあの子を守ってあげてください……!」

 残された母にできることは、ただ祈ることだけだった。
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